映画レビュー0886 『エヴァの告白』
ネトフリ終了間際よりチョイスした一本。
エヴァの告白
ジェームズ・グレイ
リチャード・メネッロ
マリオン・コティヤール
ホアキン・フェニックス
ジェレミー・レナー
エレーナ・ソロヴェイ
ダグマーラ・ドミンスク
マヤ・ワンパブスキー
アンジェラ・サラフィアン
イリア・ヴォロック
クリストファー・スペルマン
2013年11月27日 フランス
120分
アメリカ・フランス
Netflix(PS3・TV)

地味だし暗いし辛い話だけど、濃厚に愛憎が詰まったなかなかの人間ドラマ。
- 妹を救うため、選択肢もなく売春婦に身をやつしてしまう移民女性
- 彼女を引き取った男と、彼と因縁のある男が共に彼女に惹かれる
- 全体的に抑圧された雰囲気の中、終始暗く地味
- 当て書きらしい主演二人の演技力が素晴らしい
あらすじ
舞台は確か1912年だったような気がしますが…Wikipediaでは1921年ってなってますね。まあその辺の20世紀初頭のアメリカ(ニューヨーク)でのお話です。
物語冒頭、主人公のエヴァ(マリオン・コティヤール)と妹のマグダはポーランドから移民として叔母夫婦を頼りアメリカにやってくるんですが、マグダは肺炎だかなんだかを患っているらしく入国早々に隔離され、エヴァも船上でのいざこざ(後に内容が明かされます)が原因の“素行不良”として本国送還という無情な裁定を食らってお先真っ暗のところ、偶然通りかかった一人の男に助けを求めてなんとかエヴァのみ入国します。
彼女は助けてもらった男・ブルーノ(ホアキン・フェニックス)が用意した部屋に寝泊まりすることとなり、彼に仕事も斡旋してもらってパブのようなところで働き始めるんですが、幸か不幸か美人すぎるが故に男からの引き合いが強く、売春斡旋も仕事としていたブルーノは「買わせてくれ」という街の有力者からの依頼に逆らうことも出来ず、結局エヴァも不本意ながら他の女性同様、売春婦としての生活を強いられます。
彼女にとっては病気で隔離されてしまった妹を救い出すことが最重要事項なんですが、それには莫大なお金が必要。であれば…と現実に適応し、売春婦としてお金を稼ぎながらなんとか妹を救うための資金を作り出そうと毎日死んだ目で働き続けていたところ、偶然一人のマジシャンと知り合うんですが…あとは観てちょーだい系です。
生きるためには選択肢がないエヴァ
僕の中では割と悪女役のイメージが強いマリオン・コティヤールなんですが、この映画ではもう終始薄幸が付きまとっているような物悲しい女性を抑圧された演技で熱演しております。
普通に叔母夫婦に迎えに来てもらって幸せなアメリカ生活が待っている…と思っていたのも最初だけ、到着早々に「入国できない」とシビアな判断を食らった上にかけがえのない存在である妹とは強制的に引き離され、運良く拾ってもらえたと思ったのも束の間、その雇い主の男に売春を強要される形となって辛い毎日。
彼女はポーランドからやってきたんですが、当時は(時代的に前後してそうですが詳細は不明)ポーランドも戦争中かつポーランド人は迫害される状況にあったようで、もはや国外に逃げるしか選択肢がなかったようです。
そんな「アメリカに来るしか選択肢がない」状況の中、本国送還の直前で外へ連れ出してくれるブルーノに頼るしか選択肢がなく、コネも金も無い状況では仕事もブルーノ経由でしか選択肢がなく、妹を助けるためのお金を稼ぐには体を売るしか選択肢がなく…ととにかく終始選択肢がない。
“弱者”として生きていくにはこうするしかない、という辛い道を歩まされ続けるエヴァの姿は観ていてとてもしんどいものがありました。「そうするしかない」とわかっているだけに余計に。
その“選択肢がない”日々は、目に見える暴力や迫害が無くてもなかなかに壮絶だし、観ている方としても希望を持ちにくい状況でとにかく重いお話です。それに輪をかけるように感情を表に出さず、死んだ目で生きていくマリオン・コティヤールの姿のおかげでより暗い気持ちに。
ブルーノはブルーノで辛い
一方彼女を拾い、雇ったブルーノなんですが…エヴァからは最初に救ってくれたことへの感謝はおろか、あからさまに嫌われていて、最初から好意を持っていたらしい様子からもなかなか気の毒な面はありました。
彼女がキツく当たるほどひどい男でもないんですよね。むしろ(好意故ではあるものの)住む場所も仕事も斡旋してくれているし、結果的に売春せざるを得ない状況に追い込む側ではあるものの、最初はそうさせまいとする言動もあったし、悪い男ではないんですよ。でもエヴァは最初っからすげない。
ブルーノにしてもエヴァにしても、もう一個人ではどうしようもない環境の力みたいなものが強烈な時代に生きている物語なので、「どっちの気持ちもわかるしもうちょっとお互いが暮らしやすい状況になればいいのに」と思うんだけど二人にはどうしようもないよな、というのも理解できるという…その外因の部分からして暗いし辛い、っていうお話でしたよ。
生きていくことだけでも過酷、そんな環境の辛さ。これはなかなか考えさせられるものがありました。
“もう一人の男”がエヴァを救い出してくれるのか
とは言えなんとか危ういバランスで生活を続ける二人のもとに現れるのが、ジェレミー・レナー演じるオーランド。
彼はマジシャンなんですが、偶然エヴァの妹・マグダが隔離されていた島に慰問のショーのために訪れていたところ、同じくマグダを探そうと現場にいたエヴァと知り合うことになり、彼もまたエヴァの美貌に惹かれていくわけです。
ところがブルーノとオーランドは過去に一悶着あったらしく、さらに自分が狙っている女性に近付こうとしているので当然ながらブルーノは面白くない。
そんなわけで「妹を救い出して今の生活から抜け出したい」エヴァを巡って「今の場所で安定を提供する」ブルーノと「別世界に連れ出そうとする」オーランドの三角関係が始まるんですが、男二人に不穏な空気が流れているだけにこれまた観ていて不安だし暗いしでしんどい。
暗くて笑いもないけれど
その後いろいろありつつエンディング、これまたとても暗くてですね。全編通して笑いゼロで明るく笑顔になれる部分が皆無のお話なんですが、それだけにしみじみ胸に残る複雑な感情を植え付けてくれる映画ではありました。
決して面白い話ではないし、前向きになれるような映画でもないんですが…ただなんとなく、「生きるのに精一杯」だからこそ繕わずに行動を続ける登場人物たちにはほんの少し羨ましさもあったりして、なかなか深いお話だと思います。
自分が今まさにそうだから思うんですが、やっぱり「浸かったままでは何も変わらないけど居心地は悪くなく、出る勇気も出ない」みたいなぬるま湯の生活って一番ダメだと思うんですよね。そこまで温かいわけじゃないんだけど出ると寒いから出られない、みたいな。
もうこの映画の登場人物たちは浸かっていられるぬるま湯すら無いんですよ。ぬるま湯でもいいから探さないと、って行動しないと生きていけないわけです。それ故に人生に(良し悪しありますが)変化が出るし、望むと望まざるとに関わらず少しずつ居場所も変わって行かざるを得ない。
そうして向かった先が良いか悪いかはその時にならないとわかりませんが、微妙に下り坂を降りていっているような自らの現状を振り返ると、「大変な環境だけどそれでも…」とほんの少し憧れのような何かが自分の中に芽生えた気がしました。
“生きるのに必死”なぐらいに過酷な状況は誰も望まないと思いますが、しかしそういう状況にいないと突破できない何かもあるんでしょう。
そんな自分の現状との差にいろいろ思いを馳せたくなる映画かもしれません。
このシーンがイイ!
エヴァがブルーノに対して、「あんたは嫌い。だけど自分はもっと嫌い」的なことを言うシーン。あそこはグッと来たなー。
あとはラストシーン。鏡の使い方が印象的。
ココが○
レビューを書いていて気付きましたが、もう本当に各人選択肢がない状況なんですよ。それだけ追い詰められている話っていうのはなかなか濃厚で良く出来ているんじゃないかなと思います。
ココが×
とにかく地味だし暗いし辛い。観るにはある程度タイミングを選ぶ必要があるかもしれません。
あと「エヴァの告白」って邦題が結構ひどい。彼女が何かを言ったことでセンセーショナルに何かが動いたりはしません。
とは言え原題も「移民」だし、それはそれでどうなのって気もする。
MVA
鑑賞後に知ったんですが、エヴァとブルーノはそれぞれマリオン・コティヤールとホアキン・フェニックスに当て書きしたんだとか。
でもどっちも僕の中でのイメージとはちょっと違う役だったんですよね。マリオン・コティヤールは完全に薄幸の美女だし、ホアキン・フェニックスもいつものエキセントリックさは皆無だし。それでも実際ぴったりだったからさすがなんですけどね。
まあ順当にこの二人のどっちか、なんだと思いますが…悩んだ末、こっちにします。
ホアキン・フェニックス(ブルーノ・ワイス役)
エヴァを引き取り、仕事を斡旋した男。
良い意味で彼らしくない普通で小物感のある男で、ある意味ではもったいない使い方にも見えるんですが…でも完全に“それっぽい”名演技。いややっぱりすごいこの人。
今まで観た中で最も普通で最もダメな人間だった気がするけど、そのリアルさがとても映画に合っていました。素晴らしい。
対するマリオン・コティヤールも本当にさすがで、化粧っ気のない移民だけど「目を引く美人」っぷりもそれっぽければ、愛想がなく死んだ目で生きていく姿もそのまま「追い込まれていく移民」にしか見えない。
なんでも役に合わせてドイツ語訛りのあるポーランド語までマスターしたとか…。この人もまた役者すぎる。すごい。


