映画レビュー1098 『ザ・ライダー』
ネトフリ終了間際シリーズでーす。
この映画は結構必見だぞ的な話を目にする機会がよくあったので、消える前にと急いで観ました。
ちなみにこのレビューを書いている(鑑賞日はもっと前です)前日に今年のアカデミー賞が発表になったんですが、そこで作品賞・監督賞・主演女優賞の3部門を受賞した作品「ノマドランド」の監督が撮った前作(長編2作目)がこの映画になります。
ザ・ライダー
クロエ・ジャオ
クロエ・ジャオ
ブレイディ・ジャンドロー
ティム・ジャンドロー
リリー・ジャンドロー
レイン・スコット
キャット・クリフォード
ネイサン・ハルパーン
2018年3月21日 フランス
104分
アメリカ
Netflix(PS4・TV)
馬と人のすべて。
- 思うように生活できなくなってしまった環境の変化に相対していくカウボーイ
- 同様に怪我をした親友で兄貴分との交流もとても考えさせられる
- 馬の美しさ、儚さが色濃く漂う名作
- 撮影方法が非常に独特
あらすじ
またも大変申し訳無い話なんですが、この日も少々集中力を欠いた鑑賞になってしまいまして…しかし結果としてこれは「退屈」とか「地味」とか(そう感じる面はあっても)言ってお茶を濁すわけにはいかない、非常に力強い説得力を持った映画だったので、これはちょっともったいない観方をしてしまったと猛省しております。Oculusで観るんだった…。
主人公のブレイディはカウボーイ兼馬の調教師として生活している青年です。まだかなり若そうですが、この映画が始まる前の段階で頭部に大怪我を負ってしまい、後遺症に悩まされながらロデオへ復帰する未練が断ち切れない状況で生活しています。
経済的にもあまり芳しくないようで、同居している父親ともいろいろありつつ、今後の自らの人生について立ち止まったり進んだりしながら考える…そんなお話です。(だいぶアバウト)
一番近いのはアレかもしれない
あらすじのアバウトさからもわかる通り、非常に説明の難しい映画なんですよね。決して物語性が薄いというわけではないんですが、ドキュメンタリータッチでじわりじわりと地味に話が進んでいくので、わかりやすく“引き”になるストーリーではないというか。
とにかくじっくりしっかりと画面と向き合いながら、最低限のセリフと表情をしっかり脳内で噛み砕いてその語ろうとしていることを咀嚼していく必要があり、それ故「集中できませんでしたー」なんて言いながら観ていいような甘っちょろい映画ではありません。観客にも映画への向き合い方をかなり要求する映画だと思います。
ちなみにこの映画はかなり独特な…初めて観たタイプの作りになっていて、「ドキュメンタリーっぽいけどドキュメンタリーじゃない」「かと言ってモキュメンタリーでもないしフィクションでもない」という…非常に不思議な映画です。
たまに見かける「無名の俳優を使ったリアルっぽさがウリのモキュメンタリー」っぽく見えるんですがそういうものでもなく、出ている人たちは実際に映画と同様の暮らしをしていて、起こっている出来事も事実だとか。つまり血縁関係もそのまま事実なんでしょう。
かと言ってドキュメンタリーではなく演技はしているそうです。演技に見えないぐらいに自然なのもすごいんですが。
じゃあその演技は台本に則って行われているかと言うと上記の通り出来事はすべて事実らしいのでそういうわけでもなく、映画で語られる出来事や彼を取り巻く環境、そしてその心情はすべて本物ということになります。とは言え脚本は一応あるとか。どういうこと…!
今自分が暮らしている環境そのままでカメラを回すから、それを状況に応じてそれっぽいセリフを口にしてね、みたいな感じでしょうか。いやすごい。限りなくドキュメンタリーに近いフィクション、もしくは意図的に極力境界線を曖昧にしたドキュメンタリーとフィクションのハイブリッド映画、とでも言えばいいでしょうか。
…とここまで書いていて思ったんですが…作品の方向性としては対極に位置するものの、おそらく僕が今まで観てきた中で最も“手法”が近い作品、それは大真面目に「水曜どうでしょう」ではないかと思います。いやマジで。
「ザ・ライダーは水曜どうでしょうに近似」説。
あの番組も、目的(旅行先であったりやることであったり)の企画を決めてはいるものの、台本も無ければ出来事や環境はすべて事実、ですがじゃあ彼らが素の状態で出演しているのかと言うとそうではなく、やはり出演者として面白くしようと考えて“セリフ”を吐いたり行動したりしているわけですよ。おそらく素の旅行であれば取らないであろう行動を取り、4人それぞれのそういった意図がぶつかり合って他にない面白さを生み出している、と。
この映画もそのシリアス版というか…いやそれもよくわからないんですが。ただあの番組と基本となる手法は一緒なんじゃないかと思うんですよね。だからこそ妙な説得力と生々しさが感じられるような。
いやすごい映画だと思います。これは。
馬のすべてが詰まっている
やはり主人公がカウボーイということもあり、物語上とても重要なのが馬なんですが…この馬の扱いがまたたまりませんでしたね…。
馬は言うまでもなく綺麗で、目がつぶらでかわいく表情も豊かで賢い動物だと思うんですが、その感覚を余すところ無く捉えていて、それ故にいろんな感情を呼び起こしてくれます。
また(例によってネタバレ的に詳細は書けませんが)起こる出来事も馬という動物の何たるかを強く感じさせる内容になっていて、これが言われた通り「撮影していたら偶然に起こった出来事」なのであれば…よく出来すぎていると言うか、ある種の運命のようなものを感じざるを得ません。
さすがに「映画のためにこうした」とも思えないので、長く追っていった先に起きた出来事が“それ”だったんだろうと思うんですが、それも含めてこの撮影方法と被写体の選択の凄みのようなものを感じました。
奇しくも今は「ウマ娘プリティーダービー」が大人気ですからね。競馬だけでなく、こういうものからリアル馬に接点を持つことも良いのではないでしょうか。
非常に実直で地味な映画なのでかなり環境を選ぶとは思いますが、きっちり鑑賞すればそれに応えてくれるだけの素晴らしい映画でもあるのでぜひ一度観て頂ければと思います。
この映画を観れば「ノマドランド」も良いんだろうな、と期待が膨らむのもやむを得ませんね。一発で監督の作風のすごさがわかる映画だと思います。
このシーンがイイ!
これはねぇ…銃声のシーンがすべてですよねぇ…。そのシーンの意味するところはもちろん、そこに至る心情まですべてが刺さりました。
ココが○
やっぱり他にない雰囲気、生々しさみたいなものがあると思うんですよ。基本的になんてこと無い話が展開していくだけなんですが、それでもなんとなく観ちゃう、惹かれちゃうのはこの撮影方法にも理由があるんじゃないか…と。
あとはもう…景観の捉え方が絶妙。「マジックアワーとはこのことか」と息を呑むぐらいに素晴らしい映像でした。
ココが×
僕がそうであったように、家で観ると集中力を欠きがちな映画ではあると思います。最終的にすごい映画だなと思っても、どうしても道中退屈すると他に気が向きがちなもので…今観る前の自分に言えるなら「最初からしっかり観ろよ」と言ってやりたい。最近こんなのばっかり。
MVA
撮影方法が撮影方法なだけに演技とはなんぞや、という話にもなってきますが…無難にこの人、かな。
ブレイディ・ジャンドロー(ブレイディ・ブラックバーン役)
主人公のカウボーイ。
役名と本名が違いますが、お父さん役も妹役も本名が同じ名字だったのでやっぱり実際も家族のようです。
非常に寡黙で朴訥とした真面目な青年なんですが、熱いものを秘めている雰囲気が素晴らしく、まさにこの映画を体現した人物だと思います。
でも実際はもっと陽気なそうで、その辺りでもしっかり“演技”していた、ということなんでしょう。ものすごく自然だったけど。そこがまたすごい。