映画レビュー1458 『合衆国最後の日』

何観るべぇかな…とポチポチしていたところに妙に目立った古い映画。ちと観てみるべぇと鑑賞です。

合衆国最後の日

Twilight’s Last Gleaming
監督
脚本

ロナルド・M・コーエン
エドワード・ヒューブッシュ

原作

『Viper Three』
ウォルター・ウェイジャー

出演

バート・ランカスター
リチャード・ウィドマーク
チャールズ・ダーニング
ジョセフ・コットン
ポール・ウィンフィールド
バート・ヤング
ジェラルド・S・オラフリン

音楽
公開

1977年2月9日 アメリカ

上映時間

146分

製作国

アメリカ・西ドイツ

視聴環境

Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

合衆国最後の日

権力について考えさせられる一本。

8.0
ある文書の開示を求め、元軍人が核ミサイル基地を乗っ取る
  • 元軍人によって核ミサイル基地が占拠され、一気に危機が高まる
  • 対応に忙殺される大統領だが、本当の権力者は別にいる
  • 今の時代にもつながる権力構造について嫌でも考えざるを得ない
  • 突っ込みどころも多いので思考実験として観るのが吉(基地だけに)

あらすじ

なかなか面白かったんですが、しかし気になる点もそこそこあって結果まあまあ、といったところ。

ベトナム戦争集結から数年後、アメリカのとあるミサイル基地に4人の男が侵入。首尾よく制御権を獲得し、アメリカ政府に接触してきます。
その要望は、身代金と逃亡用の大統領専用機(エアフォースワン)、そして指定した国家安全保障会議の議事録を公表しろというもの。
中でも議事録公表については政府にとっていろいろとまずいことが想像されますが、大統領自身はその議事録について知らされておらず、会議は紛糾しまして…あとはご覧ください。

権力構造のリアリティ

危機に直面した大統領とそのスタッフたちがどう対応するのかを描いた危機管理サスペンス、ってところでしょうか。他の作品で言うと「未知への飛行」とか「博士の異常な愛情」とかあの辺に近いですね。
問題となる核ミサイル基地の警備が、時代を考慮したとしてもザルもザルな上にその他の危機管理も雑すぎるのでさすがにリアリティという意味ではややケチがつくかなと思いますが、仮に「こういった事態が起きたとしたら」みたいな思考実験的には十分楽しめる映画だと思います。
バート・ランカスター演じる主人公は基地を占拠したテロリストのリーダーであり、元軍人(つまりは身内)。そのカウンターパートとして元同僚だったリチャード・ウィドマーク演じる空軍大将とチャールズ・ダーニング演じる大統領がいるよ、と。
空軍大将は結局大統領へのつなぎなので中間管理職みたいなもので、やっぱり重要なのは大統領なんですが…問題の議事録をまったく知らなかったり、それでも権威として“使われる”側に置かれざるを得ない立場だったりとその扱いが妙に生々しくて面白い。
対外的には当然「最高権力者」なんですが、実際に権力を握っているのは他にいて、おまけにそれが特定の個人ならまだわかりやすいというか対処もしやすいと思うんですがそうではない…というのが今も変わらず面白く、また悩ましいところです。
まー本当に政治の世界だろうが企業だろうがよく見る光景ですが、「みんなでウマウマしてるこの状態を維持したいんだからわかってるだろ?」みたいな圧力があるわけですよ。
実際に命令を出すのも序列的にトップなのも間違いなく大統領ではあるものの、決定権はそこにないという。
お飾り、っていうのともまた違うんですよね。実際一番偉いんだけど、所詮大統領も共同体の一部なので独断で動くことはできない、みたいな。
これが5対5で割れてるのであれば大統領の決断でそっちに、というは間違いなくあると思います。なんなら4対6とか3対7の少数派でも(民衆の支持のような後ろ盾がありつつ)大統領によってそっちに行くのも考えられます。
でも0対10をひっくり返すほどの力はない、と。それは独裁者ではないので当然ですが、しかしそこに善悪の問題が絡んできても結局跳ね返されてしまう程度の権力なんだよ、という辺りが生々しい。
その辺の権力描き方が非常にお上手で、そこが面白い映画だなと思いましたね。
もっとも次期大統領のようなタイプだと独断でいろいろやっちゃってそれはそれで面倒なことになりそうですが…。
この映画の大統領はさすが昔の映画らしく、(次期大統領とは違い)等身大ではあるものの非常に真面目で実直な人物なんですが、それ故にコマにされてしまう悲しさも持っていて、そこがすごく良かったですね。人間社会…! って感じで。

アメリカン・ニューシネマっぽさ

ネタバレになるので詳細は書けませんが、オチの内容も好きですね。
時代的にちょっとアメリカン・ニューシネマを彷彿とさせるような雰囲気もあって好みでした。
これを観てつくづく思いましたが、やっぱり「こいつが悪い!」で一人指名して溜飲を下げられるならこんなに楽な話はなくて、世の中そんなに単純じゃないよね…とちょっと嫌な気持ちにさせられる、その感じが良かったです。
古いだけに地味さも目立ってしまう映画ではありますが、社会派サスペンスが好きであれば観てみるといいかもしれません。

このシーンがイイ!

大統領の側近的なオルーク(軍服着ていたので補佐官ではない)に説得されるシーンが良かったですね。めっちゃ皮肉というか、大統領のポジションが見える感じで。

ココが○

最高権力者の「映画的」ではない本当のポジションがわかるような映画という意味でなかなか珍しい面白さがあります。今の時代こそ逆に観るべき作品かも。

ココが×

大統領サイドの政治的な話が面白いだけに、逆に主人公サイドがちょっと弱くて残念。もう少し主人公側にドラマが欲しかったですね。

MVA

上記側近のオルークさんも良かったんですがこの人かな。

チャールズ・ダーニング(スティーブンス合衆国大統領役)

泣く子も黙るアメリカ合衆国大統領。しかし実際は難しい立場の人物。
真面目だし決して無能ではないし言いなりでもない、至って真っ当な人物なのに流れに抗えない悲しさがすごく良い。チャールズ・ダーニングも熱演していてとても良かったです。

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