映画レビュー1128 『なぜ君は総理大臣になれないのか』
僕は割と政治への興味が強い方なのでツイッターでもその手の情報がよく回ってくるんですが、公開当時から結構話題になっていて非常に観たかった映画です。
まさかネトフリに来るとは思ってもみなかったんですが、これはラッキーとばかりに鑑賞しました。
なぜ君は総理大臣になれないのか
大島新
小川淳也
2020年6月13日 日本
119分
日本
Netflix(PS4・TV)
遠い存在の政治家個人を追う内容の価値は非常に高いが…。
- 民主党系・現立憲民主党議員の小川淳也を17年間撮ったドキュメンタリー
- なんとなく大枠でしか知らなかった選挙の実際がリアルに見られる
- 人柄がよくわかり、現在の日本における政治の問題についても考えさせられる良作
- しかし政治に興味がない人が観て面白いかは微妙なところ
あらすじ
上に書いた通り、僕としてはとても面白かったんですが、ただその面白さを感じる部分は政治に対する興味であったりそこに紐付く周辺知識に基づいていたりすると思うので、まったくのサラで観て「面白い! 政治に興味が出てきた!」となるかは微妙なところかな、と。まあもっともドキュメンタリーなんてどんな内容であれそんなものなのかもしれません。
この映画で取り上げられる小川淳也という方は香川1区選出の衆議院議員で、現在は立憲民主党所属の50歳。映画とは関係ないですが新型コロナにも感染したとニュースになってましたね。今は無事復帰されたようで何よりです。
大島監督が彼に初めて会ったのは18年前の小川さんが32歳当時、民主党からの初立候補時。そして初対面の時点ですでにカメラを回し始め、このときの素材から去年までの17年間で撮り貯めた映像をつないでドキュメンタリーにしたのがこの映画になります。
ご存知の通り、その間に民主党政権の誕生があり、それがコケて安倍政権が誕生し、また希望の党結党後のいざこざまでいろいろあったこれまでの政治状況を、決して大物ではない…むしろ常に当落危うい末端の一議員として政治家を勤めてきた彼の姿を通して観ていくような内容になっています。
人としての良さ
やっぱり一人の人物を追ったドキュメンタリーなので、その題材である小川淳也という人がどんな人物なのかが映画としては最重要だと思いますが、まずこの人がものすごく良い“題材”なのがめちゃくちゃ大きいと思いますね。映画としても、また政治家という職業にとっても。
もちろんカメラを回している以上、そこに映る彼の姿をすべて真実と見なすのは危険という大前提がありつつも、とは言えカメラ前でうまく良いように見せてやろうと思っているようには見えない実直な人物像には素直に応援したい気持ちが生まれました。きっとこの映画を観た人の大多数はそうなるんじゃないかなと思います。
そもそも僕は安倍政権から続く現与党の酷さは筆舌に尽くしがたいものがあると思っている人間なので、野党側に甘い立ち位置であることは否定しません。ただ同時に、彼のスタンスすべてを肯定するほど意見が合致してもいません。特に彼は(希望の党のいざこざが終わるまでは)「前原誠司の右腕」という時点でついていく相手を間違えていると思います。なのでとても全面的に支持する気持ちにはなれません。
なれませんが…しかしもう大前提として人間的な魅力が現在の権力を握っている政治家と比にならないぐらいに高いんですよ。真面目で、志も高く、ユーモアもあり、そして何より人間臭い。
「それカメラ前で言っていいの?」と思っちゃうようなことも口に出しちゃう。全力で悩んでる姿もさらけ出す。きっとこれを見れば「こんな政治家いたのか!」と思ってしまうのではないでしょうか。と言うか僕がそうでした。
簡単に言えば、今の権力者は利害抜きに付き合いたいと思える人物ってほぼいない偉そうなクソジジイだらけだと思うんですが、小川さんは普通に友達付き合いするのも良いなと思えるぐらいに普通で身近に感じられる人物なんですよね。
政治にそんなものはいらない…のかもしれませんが、しかし利害だけで神輿に乗せられる人物と、人付き合いの中から推されて上に行く人物と、どちらに国の舵取りをして欲しいかと考えれば、その答えはわかりきっていると思うんですよね。
綺麗事っぽいですが、「任せる政治」ではなく「有権者と手を取り合う政治」のヒントがこの人にはあるように思います。
監督が初めて会ったときから“引っかかって”映像を撮り貯めて来たのがすごくよくわかる。この人は大物になるかも知れないし、なって欲しいと思える人物と言うのが編集を経た映像越しにでもよくわかる、このある種のカリスマ性はなかなかお目にかかれるものではなく、それだけに映画として非常に良い題材であると思うわけです。
ご家族の貢献も見どころ
同時に、彼の選挙区は今話題の“ワニ大臣”の地元でもあります。
片や家賃5万円もしない小さなマンションで暮らす庶民派、片や四国を牛耳る新聞社の一族。この構図もまたドキュメンタリー的には美味しい。
そしてなんと言ってもイケメンなんですよね。小川さん。普通に絵になる。
最初の映像の頃こそまだ「青年」と言った感じでなんならあどけなさを感じるぐらいのルックスでしたが、その後歳を取っても若いままで線も細く、スラッとしていてかっこいい。顔もいい顔になってきていて、仮にスポットライトを浴びる立場にいれば(例えば野党党首や幹事長等)おそらく結構な人気が出て選挙にも有利になるのではないかなーと思います。
もちろん政治に見た目は関係ありません。ありませんが、「世の中的にも関係がないのか」と言われればそれは違うでしょう。見た目が良いほうが絶対に有利です。そう言う判断軸で見る人たちが少なからずいるから。
某小泉大臣なんて中身空っぽなのがバレまくってネットのおもちゃになっていますが、それでもまだご年配には絶大な人気を誇るでしょう。それもルックスの功績が大きいはずです。
小川さんはもっとしっかりと中身があるし、表に出て評価に耐えうるだけの見識とルックスを持ち合わせているだけに、このまま末席に置いて腐らせておくのは非常にもったいないと思うんですが…まあご本人も劇中で仰っている通り、党内政治のうまくなさもあるんでしょう。またこれも劇中で語られる通り、「小選挙区で勝っていない」のも大きい。
なんで香川1区の有権者は利権まみれかつ無能なワニ大臣に入れるのかな〜と他所の選挙区の人間としては信じがたい気分ですが、しかし人柄が見えず所属党やバックボーン(新聞社一族)でなんとなく入れちゃう有権者の政治レベルの低さもまた日本らしいところではあるので、これを正そうとするのであればそれこそ教育から始めたりと話も長くなるし難しいところです。
ただ僕としては、自分が選挙権を持つ選挙区にここまで応援したくなる人材がいるのは羨ましいの一言で、それこそ香川1区の有権者は全員この映画を観るべきだと思いますね。特にすれ違いざまに暴言吐いた爺とかね。
これを観て、改めて自分には政治家は無理だなと思いましたよ。家族への負担も大きいし、すれ違いざまにあんなクソみたいな暴言を吐かれたらメンタルが持たないと思う。自分だったら普通に喧嘩しちゃうだろうし。それをしっかり受け止める小川さんも本当に偉いんですが。ツイッターでちょっと否定されただけで誰彼構わず即ブロックするどこぞのキッズ大臣はこれを観て恥じるべき。(2021年9月現在、彼が次の総理大臣最有力っぽくて相変わらず自民党と民衆のレベルの低さに失笑ものですが)
またご家族の貢献もすごく見どころになっていて、ご両親と奥さんと娘さんたちの声もリアルな政治家の姿を伝える貴重な資料になっているのもポイントです。
…といろいろ書くことはあるんですが、あんまり長いのもアレなのでこの辺で終わりましょう。書くことが尽きないのはなかなか珍しいんですが、それだけ思うところが多く、また面白い映画だったと思って頂ければ。
間もなく行われる次回の総選挙、香川1区の結果には俄然注目です。
このシーンがイイ!
最初の頃に言っていた、「51対49で勝ったとき、いかに49の意を汲み取れるかが政治」と言う発言。この一文だけでも政治家に相応しい人物だと思います。特に今は51のことしか考えていない人たちが政権を担っているだけに余計に。
あのシーンは本当に印象的でした。
ココが○
本人だけでなく、ご家族の(自然な形の)インタビューが入っているのもすごく大きいと思いますね。特に娘さん2人は小さい頃から大人になった後まで映像が残っているので、長年取材の強さを感じます。
それと触れておきたいのはタイトル。ものすごく良いタイトルですねこれ。キャッチーで興味を引くのはもちろん、この言葉に込められた文字通り彼に対する叱咤の意味合いと、この国の政治の現状に対する疑問も浮かぶ意味。本当に良いタイトルだなと思います。
ココが×
もうどっぷり選挙、政治の話なので、やっぱりそこに興味を抱けないと少々厳しいかなとは思います。逆に言えばそのテーマに興味が持てるなら面白いのは間違いないでしょう。ネトウヨが観てどうかは知りませんが。
MVA
まあほぼこの人しかいないので…。
小川淳也(本人)
やっぱりタイトルがタイトルなので、今仮にこの人が総理大臣になったら…と想像してしまうんですが、そうすると少し世の中が明るくなるんじゃないかなと思いますね。
まだ若く、精悍で見栄えがよく、自分の言葉で話せる実直な総理大臣。G7とかに送り出しても恥ずかしくなさそう。
本当に頑張って欲しいし、今後はずっと注目していきたいと思います。ただ彼が自分自身ではめた“枷”もあるだけに…いつまで政治家を続けるのかも気になるところ。