映画レビュー1320 『アメリカン・バーニング』

あんまり暗い映画を観る気分ではなかったんですが、ユアン・マクレガーの初監督作品ということでどんな映画を撮るのかなと興味本位で観ました。

アメリカン・バーニング

American Pastoral
監督
脚本
原作

『American Pastoral』
フィリップ・ロス

出演

ユアン・マクレガー
ジェニファー・コネリー
ダコタ・ファニング
ピーター・リーガート
ルパート・エヴァンス
ヴァロリー・カリー
デヴィッド・ストラザーン

音楽
公開

2016年10月21日 アメリカ

上映時間

108分

製作国

アメリカ・香港

視聴環境

JAIHO(Fire TV Stick・TV)

アメリカン・バーニング

平坦でしんどい、ただ観客のメンタルを削ってくる映画。

6.0
成功を約束された”学生スターが変わり者の娘によって人生を破壊されていく
  • 「どう考えても勝ち組」の人物が娘のせいで歯車を狂わされる
  • 終始地味で暗く、笑いもない
  • 作りは悪くないもののピークに欠け、ただただ気が沈む
  • 監督よりも脚本に問題があるような気がしないでもない

あらすじ

なんと言えばいいのか…これまたなんとも語るに難しい映画でしたね…取り立ててどうこう言うところが無いというか…。

学生時代は(確か)アメフトのスター選手として地元では超有名人だったシーモア・レヴォフ(ユアン・マクレガー)。

卒業後は父親の反対も振り切って当時の恋人だったドーン(ジェニファー・コネリー)と結婚し、さらに父の跡をついだ会社も順調に育ち、順風満帆かのように思われました。

シーモアとドーンは一人娘のメレディス(ダコタ・ファニング)を授かりますが、彼女は賢いながらも少し変わったところがあり、また吃音症に悩まされてもいました。

ある日、まだ幼いメレディスがテレビで焼身自殺する僧侶の映像に衝撃を受ける出来事があり、その影響か彼女は強硬な“反体制”の価値観を持って育ってしまい、両親を悩ませます。

それでも一人娘として放っておけないシーモアでしたが、やがてどんどんエスカレートしていく娘がとある事件を境に姿を消してしまい、その事件の容疑者としてFBIに追われるまでの事態に。

それでも娘を諦めきれないシーモアは、憑かれたように娘を探し求めますが…さてどうなるんでしょうねもうほっとけばいいのにね…!

メリハリに欠け、終始暗くしんどい

あらすじでは端折ってますが、この映画は一応ですね、「シーモアの同郷で彼の弟と同級生だった作家が、晩年同窓会でシーモアの弟と再会し、ずっと“勝ち組の人生を歩んでいただろう”と思っていたシーモアの死と彼の半生を聞く」ところから始まります。そこをスタートに、回想の形でシーモアの人生を振り返りますよと。

ぶっちゃけ回想の形を取らなくてもよくない? と思いつつ観ていたんですが、最後まで観ればこの形にしたのは納得。それでも取ってつけたような「現在」描写も含めて全体的にイマイチ感は拭えませんでした。ただその作家がデヴィッド・ストラザーンなのは渋すぎて最高です。

オープニングは彼(作家)が同窓会に行こうか躊躇する車中から始まるんですが、最初に画面に登場した人物がデヴィッド・ストラザーンの時点で「おっ、これは期待できそうやで!」と期待値が上がるぐらいにはたまらなかったんですがちょっとしか出てこなかったよ、っていうね。まあしょうがないんですけどね。

ちょっとしか出てこないとは言えそれなりに重要な役でもあるし、良い配役だと思います。

そんなオープニングからもわかる通り、全体的には「勝ち組だと思っていた人が知らないうちに不幸になっていた」的なお話でですね。

誰もが「あいつは今頃幸せになってるだろうな」と思うような人(逆もまた然り)っていると思うんですが、しかし学生時代に輝いていた姿しか見ていなくてもその後の人生は当然預かり知らず、その預かり知らないところでとんでもないことが起こってましたよ的な人生訓を含んだ物語…ではあるんですが、そこは多分本題ではありません。

そこが本題ではないんですが、余韻としてはそういう部分が強く感じられました。それが良いか悪いかは別として。

じゃあ何が本題やねん、となると、それとも若干かぶるんですがやっぱり「どんなに優秀な人物でも人生は思い通りにいかない」「家族のことは家族にしかわからない」辺りになるんでしょうか。よくわかりません。

よくわからないのはそれだけボヤケているとも言えるわけで、その辺を考えるとやっぱり「何を訴えたい映画なのか」がわかりづらい映画だなとは思いました。

全体的に控え目で真面目な作りなのは好感が持てるんですが、反面その「控え目な感じ」が一貫して続くのでメリハリに欠け、おまけにちょっとした小粋なジョークもコメディリリーフもまったく無く、ひたすら暗い家族崩壊の話を延々と追っていく形になるので、まあしんどいし飽きてきます。ちょっと観客としては惹きつけられるものがなさすぎるんですよね。

どうしても暗い映画となると「ダンサー・イン・ザ・ダーク」と比べたくなるんですが、あっちはミュージカルシーンとのギャップも良かったし、何より不幸具合が飛び抜けてて「怖いもの見たさ」が勝ったと思うんですよ。

対してこっちも不幸なのは間違いないものの、その不幸自体が「怖いもの見たさ」を喚起するようなものでもないし、まあ地味なんですよねやっぱり。

途中出てきたチャンネー(死語)が若干エロスを見せつけてきた辺りだけは(いろんな意味で)盛り上がったんですが、彼女は彼女でさほど重要なキャラクターでもないし、なんだか全体にぼんやりしているなぁとぼんやりしながら思いました。

なんなんでしょうね、本当に映画として…画作りも悪くないと思うし、トーンも“それっぽく”て悪くないし、話自体も言いたいことはわかるのに、パッとしない。「パッとしない」としか言いようがないんですよ。

「ここがクソだ!」と言えれば全然いいんですが、そういう感じでもなくて。

私事ですが数年前に「ココカラケア」というカルピスが出している睡眠補助サプリを定期購買していたことがあるんですが、まーまったくピンとこなくて飲んでるときも飲んでないときも何一つ起床感が変わらなかったんですが、あんな感じですね。

飲んでも飲まなくても一緒、観ても観なくても一緒、みたいな。(ちなみに詐欺だと言いたいわけではなくココカラケアが効く人もいるようなので体質の問題かと思われます)

さすがに初監督作品なんだから何かしら意欲的にやってくれるのかなぁと期待していたんですが、ものすごく丁寧に、冒険せずに作り上げた印象で、そこもなんとなくユアン・マクレガーっぽい感じがして面白いんだけど映画自体はそんなに面白くないよ、っていうね。

Wikipediaを読んだ感じでは、最初から監督兼主演ではなく主演としてキャスティングされた後に監督が降板し、それによってお鉢が回ってきた形のようなので、こう言うのもアレですが…こんな地味な映画ではなくもうちょっと遊べそうな映画からスタートすればその後の監督業も多少は変わってきたかもしれないのに…とちょっと気の毒な気もします。

ただ「誰も他にいないから…」って引き受けちゃったんだとすればそれはそれでまたちょっとユアンっぽい気がして面白いけど映画自体は(略)

ちなみにこれは今から7年前の映画ですが、2023年現在その後監督はやっていない模様。

まだ撤収と判断するには早いですが、これが今ひとつ“パッとしなかった”から改めて俳優業に専念しようとしたのか、はたまた俳優業自体が忙しくてそれどころではないのかわかりませんが、筋は悪くなさそうなだけにつくづくもったいないし、ちゃんと評価するためにももう一本もっと違ったタイプの映画を撮ってみてほしいなと思います。

その辺り諸々考慮すれば、やっぱりなんだかんだで脚本(もしくは原作)が良くないんじゃねーのという結論です。

ある意味でユアンっぽい気がする

僕は最近、映画監督に限らずアーティスト(ミュージシャンとか)はキャリア初期の方がいい作品が多い傾向が強いと思っているんですが、その感覚も含めて期待を込めて観たところなんとも地味で参ったな、というお話です。

でも上記の(勝手な)想像を込みで考えれば、なんともユアンっぽい初監督作品だなとも思うわけですよ。人が良さそうな監督作品だな、って。

物語自体は暗いし気が滅入るんですが、そんな映画を「しょうがない僕がやるよ」的に引き受けたように見えて“らしい”というか。

いやそんなこと誰も一言も言ってないんですけどね。めっちゃノリノリでやったのかもしれないし。なんなら前任者の椅子に画鋲バラまいてやめさせた可能性だってあるし。本当に勝手な想像です。

でもユアンってなーんか貧乏くじ引かされそうなタイプじゃないですか?

この映画を観てその思いをより一層強くするに至ったわけです。

いかにイケメンでしっかりキャリアを築いているユアン・マクレガーでさえ、貧乏くじを引かされることもある…そんな教訓がこの映画の最大の教訓だったのかもしれません。

サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ……。(もはや当ブログ開設当初以上に淀川長治が通じない時代であることに気付かずに意気揚々とサヨナラを連呼する男)

このシーンがイイ!

あんまり「ここいいシーンだなぁ」と思うようなシーンが出てこない映画なので難しいんですが…。

奥さんがキッチンでアレしてたところかなぁ。あそこで逆上したら台無しだな、と思ってたけど静かに流れて「そういう人だよね」ってなんかすごく納得しちゃって。

ココが○

真面目にちゃんと作ってるのは間違いないです。そこしか評価する場所がないのも悲しいんですが…。

ココが×

いくらなんでも抑揚がなさすぎるかなぁと。やっぱり終始暗いだけに「えっ、これどうなるの」みたいな惹きつけるものがないとしんどい。ひたすら賽の河原で石積んでる感じ。

MVA

割と誰でもいいっちゃいいんですが、この人かな。

ジェニファー・コネリー(ドーン・ドワイヤー・レヴォフ役)

主人公の奥さん。

物語を通して一番変わった人のような気がするんですが、その辺しっかり演じていたと思います。

しっかり美人だし、でも不安定だし、いろいろ考えさせるタイプの人で。

結局シーモアはスタートの結婚が失敗だったんだろうか…いや人のせいにするのもよくないんですが。

ただこれを観て、ほんの少し「ゴーン・ガール」みというか、「独り身も悪くないのかもね」と悲しい笑顔を浮かべたのも事実です。

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