映画レビュー0507 『ダンサー・イン・ザ・ダーク』

ドッグヴィル」をオススメしてくれた方に「ドッグヴィル面白かったよ」と伝えたところ、じゃあこっちも観ろよと同じ監督のこの映画を薦められました。

タイトルだけは知っていたのでいつか観ようとは思っていたんですが、こんな映画だとはつゆ知らず…。

ダンサー・イン・ザ・ダーク

Dancer in the Dark
監督
脚本
音楽
ビョーク
公開
2000年9月8日 デンマーク
上映時間
140分
製作国
デンマーク・ドイツ
視聴環境
TSUTAYAレンタル(DVD・TV)

ダンサー・イン・ザ・ダーク

アメリカのある町。チェコから移民としてアメリカにやって来て息子と暮らしているセルマは、ミュージカルが生きがいで、自身も舞台に立とうと稽古に励んでいた。だが彼女は先天性の病気でいずれ失明する運命にあり、日に日に視力が衰えていく中、それでも工場勤務や内職でお金を稼ぎ、舞台の夢を追いながらも、同じ病気を持つ息子の治療のためにと貯金していたのだが…。

号泣必死の超名作、でももう一回観るのはキツイ。

9.5

移民、母子家庭、弱視からの失明、そして貧困。もーね、そりゃこんだけ揃っていれば暗くもなりますよ。実に実に暗く、重い映画でした。

ものすごく良かったし、映画ファンなら間違いなく観るべき映画の一本だと思いますが、「もう一回観るか?」と聞かれれば、ちょっと悩む。かなりしんどい映画です。

後半はもうボロ泣きしました。終始辛いし、泣ける。久々にかなりしっかり泣いた映画でしたね…。ネタバレ回避が非常に難しい映画だと思いますが、一応それなりに気をつけつつ、ふわっとした感想を。

チェコからの移民である主人公・セルマは、愛する息子のジーンと二人暮らし。彼女は先天的な病気のために失明することがわかっていて、息子も同じ運命にあることから、彼に手術をさせようとその費用をコツコツと貯める毎日。

ああ、駄目だこれ以上書くとネタバレになってしまう…!

まあ、そういうお話です。全然わからないけど。

登場人物の紹介もなく、もちろんナレーションもなく、手持ちカメラを使った映像とBGMもほとんどない演出は、ものすごくドキュメンタリーっぽい、オープニングから不思議な印象の映画でした。

その雰囲気から、最後まで観ても「これ実話だったりしないのか…」と不安になるぐらい、非常にリアルな映画でした。怖いぐらいリアル。セルマを演じる主演のビョークの演技が生々しかった、っていうのもあると思います。

ビョークっつったらアーティスト、ってイメージ(あくまで名前を知っている、程度の知識ですが)しか無いので、こんなドハマりする演技が出来るとはこれまた驚きました。

一応ジャンルとしてはミュージカルになるんですが、ミュージカルシーンは本当に数回出てくる程度で、基本はドキュメンタリー風の人間ドラマです。なので、ミュージカル嫌いだ、って人も安心して観られる…んですが、そんなことより“重さ”の方が人を選ぶ映画だと思います。

逆に言えば、「ミュージカル好きだから!」ってキラキラした目で観るとゲボが出ますね。ゲボが。なのでミュージカル方面を期待する方にはあまりオススメしません。

いやー、これは観る時期とか人生経験とかで、かなり共鳴しちゃって果てしなくどんよりしちゃう人もいると思いますね。「もうしばらく映画はいいわ…」とか。あり得ます。

ただ、それだけ刺さる=それだけ名作、ってことなんでしょう。ものすごい映画だと思います。

序盤は周辺事情もよくわからないし、なんとなくフワフワした感じで少し退屈しながら観ていたんですが、次第にあからさまに嫌な予感を持たざるを得ないようないや~な演出が見えてくるんですよ。あざとすぎない、でも嫌な感じが。

この辺がまたうまくもあるんですが、もう後半はそういう不安感で一気に引きつけられ、なんというか…怖いもの見たさ…でもないんだけど、救われて欲しい一心で最後まで引き込まれました。うーん、すごかった。

ネット上でも賛否両論で、その辺りからもすごさが伺えます。

ただ芸術的な映画とかにありがちな、わかる人とわからない人の対立、とかじゃないんですよ。詳細は別として、大まかな部分はみんなわかるんです。わかった上で、割れるんですよ。これはまたある種珍しい現象な気がしますが、それ故、いわゆる「問題作」と言って差し支えないんでしょう。

そうそう、ミュージカルシーンについてですが、これはさすがある意味“本職”なだけあって、また主人公の置かれた状況とのギャップを際立たせる意味でも、なんでしょうが、すごくイキイキキラキラと歌い、踊るビョークが素晴らしかったです。

音楽的には少し前衛的な印象で、他のミュージカル映画のような“ノリやすさ”みたいなものは(物語が暗いことも手伝って)無かったんですが、この「暗い物語に挟まる妄想の明るいミュージカル」っていうのがですね。対比としてすごく効いてくるんですよね。

それがまたすごいな、と。

全然意味わかんないんですけどね。普通に観てると。なんでここでそんなミュージカルシーンやねん、と。ただ、セルマの心情的には、こういう妄想に逃れないと自我が崩壊してしまう、それぐらいの状況下にあった、ということなんでしょう。

僕としては、最初はせっかくドキュメンタリーっぽい演出でリアルな映画だったのに、いきなりミュージカルシーンで創作っぽくなっちゃってもったいないなーと思っていたんですが、最後の方になってくるともう物語が辛すぎて、ミュージカルシーンが無かったら観ていられなかったんじゃないか、っていう気がするんですよね。ミュージカルシーンが中和してくれていたというか。ミュージカルシーンを無くして普通の映画にしていたら途中で観るのをやめる人がもっと増えてたんじゃないかな、って気がして。それもまたすごいテクニックだなぁ、と驚きました。

やっぱりネタバレ回避を考えるとどうしても浅いことしか書けなくて申し訳ないんですが、気になる方はネットでちょろっと検索すれば、大体はどんな映画かがわかると思います。僕としては、映画好きなら一度は観て欲しいと思いますが、ただ、誰にでもオススメできる映画ではないです。

ちなみにあのデラックスなマツコさんが「人生に影響を与えた1本」としてオススメしていましたが、やっぱりオススメするにも躊躇するような雰囲気がありましたね。

気軽に「観ろよ!」って言えない映画なんですが、映画としてのレベルは最高峰のものだと思います。ものすごく、やられました。

このシーンがイイ!

ジェフがセルマに「愛してる」って言うシーン。ここが一番泣いた。

ココが○

ここまで感情に刺さる映画っていうのは10年に1本クラスだと思うので、その時点でもう問答無用で名作だと思います。感覚的には「ニュー・シネマ・パラダイス」以来の号泣でした。観終わった後も、しばし呆然。

ココが×

だがしかし! やっぱりどこをどう取っても暗いので…。だから満点でもいいぐらいの映画なんですが、9.5点にしました。ただ映画としてはたまらない名作なんですよ。

そんな物語のしんどさと映画としての良さの間で悩み、悩みすぎて頭が左右に割れ、ニコチャン大王のようになりそうな映画です。

MVA

助演陣もすごく良かったんですが、もうこの映画は問答無用でこの人しかあり得ない感じ。

ビョーク(セルマ役)

真っ直ぐで純粋、だけど身勝手な主人公。

特段綺麗だったりかわいかったり、ってわけでもないんですが、なんとなく親しみやすくて惹きつける魅力のあるルックスも役にピッタリ。しかし何より演技がなぁ…。こんな自然ですごい演技が出来るミュージシャンっていたんですね…。

ミュージシャンの演技というと「列車に乗った男」のジョニー・アリディを思い出したんですが、ちょっとこの映画のビョークは質が違うというか、主人公と同化しすぎてて怖いぐらいでしたね。リアルに彼女を見かけても泣きそうなぐらいハマってました。

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