映画レビュー0689 『秋刀魚の味』
もう完全に愚痴なんですけどね、自分のブログなんで書きますけども。
同僚に第二子が生まれたんですね。めでたいぞと。納得ですよ。我ながら納得。お祝いせにゃいかんぞ、ということで同僚と5000円ずつ出して商品券あげましょうと。納得ですよこれは。彼のほうが給料多いんですけども。まあ社長の息子っつーことでね。お偉いさんだしぐうの音も出ませんよ。それは良いとしましょうよ。
でもね、彼のほうが完全にリア充じゃないですか。若くて、そこそこイケメンで収入も多く、嫁さんがかわいいんですよ。むかつくことに。おまけに看護師だし。ナースプレイも自由自在ですよ。こっちなんてちんこ取れそうですからね。もう。使って無くて。壊死しそうで。縫合プレイですむしろ。生まれ出たいぞ、ってやつらは大量にいるんですが、いつも虚空に飛んでいくだけですよ。ティッシュでキャッチされて無駄死にっていう。
まあ、子どもは宝ですから、お祝い自体はいいんです。納得ですよ。くどいですが納得です。でもね、なんで常に不幸な方からリア充の方にお金が行くの? って思うわけ。キャッシュバックないの? って。たまには不幸な方に包んでくれてもいいじゃないですか。不幸なんだから。「出産できないお悔やみ」とか包んでくれてもいいじゃないですか。たまに。大した額じゃなくていいんですよ。気持ちで。
「不結婚祝い」とかさ。祝いじゃおかしいから「不結婚香典」でもいいですよ。「今年もご結婚できずにご愁傷様でした」って。毎年じゃアレだから4年に1回とかでもいいですよ。不幸オリンピックでさ。お金もらえるなら不吉でもなんでも良いですよ。半笑いで渡されても我慢しますよ。実際人生お通夜モードだしね?
もうちょっと不リア充な人たちに対する優しさがあっていいんじゃないの、と思うわけです。世の中に。商品券にピンクチラシでも混ぜといてやろうかちくしょう!!
ということで愚痴タイムも終わり、本日はこちら。これまた古い邦画で奇しくも「ニッポン無責任時代」と同じ年の映画ですが、BS録画のフリしてNetflixで観ました。配信終了間際だったんでね…!
秋刀魚の味
淡々ゆるゆる昭和の“結婚”悲喜こもごも。
お恥ずかしながら初小津映画だったんですが、小津監督はこの映画が遺作だそうです。小津監督が一貫して描いてきたらしい、妻に先立たれた初老の父親と婚期を迎えた娘のお話。
主人公である父親役は笠智衆、娘役に当時21歳の岩下志麻。もうね、岩下志麻がまじでビビるほどの超美人で。瀬戸内少年野球団の時にエロスがすげーな、と思ったのは覚えているんですが、若い頃はこんなに綺麗だったのか…! と。ちょっと今の女優さんとはオーラが全然違う雰囲気があり、そりゃあ大女優と言われるのも納得です。
内容としてはほんとーーーーにフツーの日常を淡々と、でもちょっと軽妙に見せる形のドラマで、別に特に事件が起きるわけでもなく、ただ「そろそろ路子ちゃんもお嫁に」なんて言われてお父さんも本人もその気はない…ものの次第に周りのいろいろを見ていくうちに考えも変わって、的なお話です。主に周平の家での会話、結婚して団地住まいの長男夫婦の話、周平の親友と同級生とかつての恩師との飲み会、その後行きつけとなるバーのお話…辺りの何気ないやり取りがいろいろつながって物語を組み立てます。
ちなみにバーのママは周平が「妻の若い頃に雰囲気が似ている」と感じ、お気に入りのお店になっていくんですが、そのママの役が岸田今日子でこれまた超若い。そりゃ昔の映画なんだから若いのが当たり前なんだけど、でも岸田今日子が若い頃も初めて観ました。この人は綺麗とかかわいいとかはあんまり無かったんですが、ただなんかエロかった。なんか。「きっと夜は激しいでしょ?」って感じ。完全なるオッサンの発言です。
で、団地に住む周平の長男がですね、「中井貴一に似てるなーーーーーでも年代的に違うしなーーーー」とモヤモヤしながら観ていたんですが、この方が佐田啓二だったとは…! 名前だけは知っていたんですが、中井貴一のお父さんだそうです。そりゃ似てるわけだ。
映画としては…小津映画の特徴なんでしょうが、かなり独特な雰囲気がありまして、例えば登場人物はほぼ正面からカメラ目線で語る、っていうのを徹底しているんですよ。「喋ります!」っていう。
「俺、喋ります!」「次は私、喋るわ!」って感じで堂々とカメラに向かってセリフを言う、という。カメラも固定で動きがまったくないので、なんとなく舞台っぽい感じがありました。舞台観たこと無いんだけど。
そのセリフ自体も独特でですね…結構しっかり間を取って、「大丈夫なんだよ。大丈夫なんだ」「いらないわよ。いらない」みたいに繰り返すセリフが多く、丁寧というか不思議というか。最初はなーんか気になってしょうがなかったんですが、慣れてくると妙な味がある気がして、その雰囲気がまた良かったですね。
ホントに取り立てて何があったとか書くこともないような日常の映画なんですが、ただ風景も価値観も人々も立ち居振る舞いも、全部がいわゆる「ザ・昭和」な内容なので、それが懐かしくもあるし珍しくも感じられるしで、逆に今観るからこそ新鮮な面が見えて面白いんじゃないかな、と思いました。リアルタイムで観ていたらもっとつまらなく感じていたかもしれません。
でもあれかな、僕が好きなイギリス映画のように、リアルタイムで観ていても「市井の人々の普通の日々」を描いているだけでたまらない何かがあったかもしれませんね。
その独特な雰囲気は贅沢な間の取り方にも感じられるんですが、とは言え飽きるような間延びした感じでもないし、本当に今まで観たことのない感覚が面白い映画でした。ゆるやかな日常の話なんだけど、無駄なシーンはまったくなかった気がする。穏やかな外見ではあるもののすごく筋肉質な映画というか。草野仁みたいな。というわかりにくい例え。
ということで映画としては妙な魅力のある映画で味わい深く面白かったんですが、ただ根本に流れる価値観が今とはかなり違うもので、場合によってはとんでもないセクハラだ! とか結婚観が保守的過ぎる、とかいろいろ気になる部分はあると思うので、特に女性が観る場合はそれなりに心構えをアジャストする必要がある気がします。
この映画で語られる価値観が良い悪いは関係なくて(実際当時は当たり前だっただけにそういう描き方はしていないです)、「そういう時代があったんだね」と過去のものとして流す、なんならファンタジーとして観るぐらいの心構えの方がいいかもしれません。
僕自身この映画の結婚観は同意できないものですが、ただ心情としてはすごくよくわかったし、そこがまた良かったとも思います。まあ、これは自分が男だからっていうのが大きいのかなとも思いますが。逆に今の女性が観てどう思うのかも気になるところ。
女子的には今とはまったく違うこの時代の一般的な価値観を観て引っかかるよりも、ここまでオープンではないにせよいつの時代も「娘を嫁にやる父とはこういうもの」的に、自分のお父さんをちょっと身近に感じる材料として観る感覚で良いのかもしれませんね。
確実に言えるのは、そういう「昭和の古い結婚観」を語らせているのが笠智衆である、というのが良いんだろうな、ということ。これがジャック・ニコルソンだったら反発がすごい気がする。謎の人選だけども。あの笠智衆の飄々とした優しい佇まいで言われたらなんでも許せそうな気がします。
そう、結局は「何を言ったか」よりも「誰が言ったか」が大事、という今も変わらない答えで突然の終わり。
このシーンがイイ!
散々酒を勧められては断らずに飲み続けるひょうたんの姿が最高。ほんと笑っちゃう。
あとは軍艦マーチに乗せてポーズを取らされる笠智衆がかわいすぎる。ひょうたんを演じる東野英治郎含め、かわいい爺さん好き必見です。
ココが○
劇伴がほぼ1曲の使い回しだったと思いますが、ほのぼのとした優しさを醸し出してて良かったですね。結構間が贅沢なだけに、曲が無かったら不穏な空気になってそうなシーンもあったんですよ。音楽の力大きい。
長男の奥さんが結構鬼嫁感出すシーンもあって震えたんですが、そこもかわしてむくれるかわいさがまた昭和っぽくていいのかな、と。
ココが×
終盤の展開が急すぎて、「そこを描きたいわけじゃない」のはわかるものの、もう少し丁寧さが欲しかったとは思いました。
まあ、この映画はあくまで父の物語であって、娘は“他人”なんでしょうね。
MVA
笠智衆は演技が抜群にウマイとかそういう感じは無いんですが、ただもう佇まいが唯一無二ですね。ほんとにこの人は。癒し系っぷりが半端無い。前も書いた気がしますが、僕が生まれる前に他界した祖父が笠智衆に似ていたそうで、今になってなおさら会ってみたかったなと思います。
そんな笠智衆も、シャキシャキ超美人な岩下志麻もとても良かったんですが、この映画はこの人かな〜。
東野英治郎(佐久間清太郎“ひょうたん”役)
周平のかつての恩師で、お酒大好き。でも弱い。
「かつての恩師」だけどものすごく腰が低いんですよ。ものすごく丁寧な物腰で。で、酒を勧められると「いや、そうですかこれはこれは」って飲んじゃう、っていう。かわいい。この人の佇まいがかなり軽さを加えていて、観やすくなっていたと思います。なんならもっと出てこい、と。