映画レビュー0682 『ブルージャスミン』

本日はネトフリより。結構評判を聞くので観たかったんですが、ウディ・アレン監督の作品とは知りませんでしたよ、というどうでもいい情報からスタートです。

ブルージャスミン

Blue Jasmine
監督
脚本
公開
2013年7月22日 アメリカ
上映時間
98分
製作国
アメリカ
視聴環境
Netflix(PS3・TV)

ブルージャスミン

ヴィトンのスーツケースを抱え、ファーストクラスでサンフランシスコに降り立った女性・ジャスミン。セレブ生活を満喫していた彼女だったが、夫は詐欺罪で捕まってしまい、現在彼女は一文無し。やむなく血のつながっていない妹の家に転がり込み、再起を誓って一人働き始めるが…。

面白いんだけど結構しんどい。

8.5

ウディ・アレン監督の作品を観るのは3作目(他に「マッチポイント」「マジック・イン・ムーンライト」)なんですが、現状一番面白かったですね。文句なしに楽しめました。

が、楽しめたものの…話が進めば進むほど結構キツイ話だなぁとしんどくなってくる面もあって、なかなか意地の悪いストーリーだとは思います。劇伴でかなり軽さを(意図的に?)演出している分、気楽に観られる部分はあるんですが、でも実際に劇中の登場人物たちの気持ちを考えているとなかなか気楽でいられないお話なので、楽しいんだけど胃がちょっと痛くなるような、不思議な雰囲気の映画でした。

ちょっと「ヤング≒アダルト」に似ているかもしれない。それだけリアリティがあって、いろいろ考えちゃう切なさがありました。

ケイト・ブランシェット演じる主役のジャスミンは、アレック・ボールドウィン演じる(これがまたいやらしいほど似合ってる)実業家で大金持ちの夫・ハルと幸せに暮らし、まさにセレブ丸出しの超富豪生活を満喫していたものの、物語開始の時点ではどうやらそのハルは詐欺罪で捕まったとのことで生活が一変してしまい、なんと一文無しに。あえなくサンフランシスコに暮らす唯一の家族である妹のジンジャーの元に身を寄せ、なんとか再びいい生活ができるように再起を誓うところから物語はスタート。

と書くとなかなか健気な感じはありますが、あらすじに書いたようにジャスミンは実際は一文無しのくせに飛行機はファーストクラス、さらにスーツケースはヴィトンで着るものも(おそらく)ブランドモノの綺麗なドレスで…とちょっと現状にそぐわない身なりの御仁。アレですね。いわゆる生活の質が落とせないタイプ。

まあそれも仕方ないでしょう、時々差し込まれる「セレブ時代のシーン」を見ればそりゃあこんな生活してたらなかなかワレワレ一般市民のような生活にしなさいよ、と言われてもできるできない以前にそういう生活を理解できない、どうすれば良いのかわからないこともあるんでしょう。完全にプライドが邪魔しています。妹に対しても愛情はあるものの、やはり人として下に見ていることが端々から伺え、「早くこんな生活から抜け出してまたいい生活に戻りたい」という欲求が強く見えるお方です。

物語は現在と過去を行き来しながら展開されます。セレブから没落した現在に、かつてセレブだった頃の姿を振り返る過去。過去のシーンは基本的に夫が登場するのでわかりやすいんですが、この夫とジャスミンの関係性が徐々に変化していき、「ジャスミンがセレブ生活を手放すきっかけになった夫の逮捕はなぜ起きたのか」を徐々に解明していくという…ややサスペンス風な展開の妙もあり、その徐々に明らかになる過去のお話が現在に投影されていく作りがお見事でした。

現在では妹とその彼氏がジャスミンに深く関わってくるんですが、容姿も性格もまるで違う妹が、ジャスミンには受け入れがたいいかにもDQNっぽい彼氏とイチャコラしたり喧嘩したりして、ジャスミンと対照的な人生を歩んでいく姿もなかなか考えさせられるものがあり、より味わいのあるお話にしていたと思います。

彼氏と一緒に暮らすために早くジャスミンには出ていって欲しい妹と、同じく早く出ていってもっとまともな生活をしたいジャスミン。しかしなかなかうまくいかない現状に、ジャスミンの残酷な“リアル”が浮かび上がるわけです。キビシー!

劇中、ジャスミンの年齢は明かされませんが、(実子ではないものの)息子の存在と演じているケイト・ブランシェットの年齢から考えておそらく40代前半から後半辺りでしょう。しかしジャスミンは大学在学中にハルと結婚してまともな社会人経験も無くいきなりセレブになってしまったため、急に世間に放り出されてもなかなか適応が難しいわけです。

散々金を持て余して好きに生きてきたほぼ職業経験のない40代女性がいきなり一人で働き始める、このハードモードたるや想像にがたくないわけで、この辺がまた残酷。いくら超イージーモードで生きてきたとは言え、いきなりのハードモードはちょっと気の毒。

果たしてジャスミンはハードモードに適応して“人生クリア”なるのか。とても面白かったです。

ネタバレという名の電車

個人的な話で大変申し訳無いんですが、最近もうピーター・サースガードがツボなもので、今回なんて特に出てくると思ってなかったところに結構時間が経ってからのドヤ顔でドン! でもう笑っちゃって笑っちゃって。

「出た~サースガード!」って思わず言いました。独り言です。はい。これからも頑張って欲しいあの二流感。(褒めてます)

ストーリーが古典的な名作である「欲望という名の電車」に似ている、と一部ではざわついたらしいですが、確かにちょっと情報を見たところ結構似ています。

大筋はほぼ同じっぽいので、好意的に解釈すれば現代におけるリメイクみたいな感じでしょうか。それぐらい似ています。

それはそれとして、果たしてウディ・アレン監督はこの映画で何を言いたかったのか、ちょっと気になるお話ではありました。

ジャスミンが蔑む存在である妹カップルは幸せになり、当人は掴みかけた幸せを手放してしまう…なんとも酷なお話ですが、かと言って彼女に対して100%「ザマァ」とも思えないし、因果応報にしてもちょっと気の毒な気がした…のはちょっと優しすぎるのかなー。

妹カップルにしてもジャスミンにしても、一概に良いやつ悪いやつとは言い切れない複雑さが人間で、誰もが単純に好き嫌いの二択で割り切れるほど単純じゃないよ、というお話なのかもしれません。

ジャスミンのその後がすごく気になるけど…。彼女ならもう一度奮起して頑張る…と思いたい。

このシーンがイイ!

最終盤ですが、ジャスミンが帰宅した時の焦燥した感じ、すごかったですね。あそこがやっぱり一番女優魂を感じたというか…。スゴイ。

ココが○

超印象論ですが、なんとなく「底辺から這い上がる」「頂点から没落する」お話はよく観ますが、こういう「没落した人の日常」ってあんまり観る機会がない気がするので、そこがまず新鮮でよかったなと。

あとはこれまた印象論ですが、ウディ・アレン監督の映画って大体短いっぽいんですよね。ほとんど90分〜100分ぐらいに収まる映画が多いっぽくて。これがとても素晴らしいと思います。短くて面白い映画っていうのはやっぱりセンスがあるし、現代人に優しい。

もちろん長くて面白い映画もたくさんありますが、そういう映画はもう一度観ようと思ってもなかなか腰が重くなるし、やっぱり短くて面白いに越したことはないと思うんですよ。高くてウマイのは当たり前、安くてウマイのが尊い理論と一緒で。

少し前に話題になったネットの無料マンガでその辺も触れている良い作品があったので、勝手にご紹介しておきます。

[映画大好きポンポさん]

映画好きとしてたまらないイッキ見を誘う作品でした。こちらもオススメ。

ココが×

短くていいと言いつつですね、エンディングまで観たら…もうちょい観たかったなぁとも思いました。もう少し、この後のジャスミンがどうだったのか観たかったな、と。まあそれだけ感情移入させられたということなんでしょう。

MVA

みなさんなかなか芸達者で良かったですね。

アレック・ボールドウィンがもう似合いすぎてて、久々にただの噛ませ犬的じゃない重要な良い役だったと思います。妹役のサリー・ホーキンスもすごく良かったんですが、でもやっぱりこの人が一番かなぁ。

ケイト・ブランシェット(ジャネット・“ジャスミン”・フランシス役)

セレブ感、落ちぶれ感、隠しきれない美人感にくたびれたオバサン感、全部完璧。さすがでした。

そりゃーアカデミー賞主演女優賞始め各賞総ナメなのも納得です。めちゃくちゃ良かった。

あとすごくパソコン教えてあげたくなった。断られそうだけども。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です