映画レビュー0681 『ブラック・レイン』
今日もBS録画から。日本人にはかなり有名なタイトルだと思いますが、実際のところどんな話かは知らないので観たいぞ、と思ってました。
ちなみに前回映画「テレマークの要塞」の主人公カーク・ダグラスの息子であるマイケル・ダグラスが主人公ですが、ダグラスつながりはたまたまです。
ブラック・レイン
日本が舞台の真っ当なハリウッド映画。
多分世間一般的にもそうだと思うんですが、「ブラック・レイン」と言うとどうしても「松田優作の遺作」というイメージが強く、実際のところどんな話なのか、そもそも面白いのか、とかそういう情報ってなかなか入ってこないんですよね。その上「ハリウッドが作った日本が舞台の映画」というのはどっちかというと(間違った日本観含め)イロモノ的な印象が強いし、日本が舞台で日本人が出ている=評価が高くなりがちな面もあると思うので、こりゃ1回自分の目で確かめないとな、と。
で、改めて調べたら監督がリドリー・スコットだったので、こりゃー普通に面白いんじゃないのか、と観てみたわけですが、実際普通に面白かったよ、というお話です。
オープニングの舞台はニューヨーク。
バイクで若い兄ちゃんを懲らしめるオッサン(マイケル・ダグラス)という、およそ日本的な要素のないスタートですが、彼が昼食中に松田優作演じるヤクザ・佐藤の殺人を目の当たりにし、逮捕することで結果的に日本行きの切符をゲット、犯人引き渡しで業務完了、気分転換にエビバデサムライ・スシ・ゲイシャ、と遊び呆けようかと思いきや渡した相手がニセ刑事ということでやむなく日本に留まり、再度佐藤を逮捕するぞ、という物語になっております。
もともと激しやすいタイプの性格らしき人物が主人公とは言え、普通に考えればなぜに他国のヤクザをそこまで執拗に追う必要があるのか…という問題がありそうな感じもしますが、その辺はうまく段階を踏んで因縁めいたストーリーに仕立て上げてくる辺りなかなかの試合巧者ぶり。
マイケル・ダグラス的に比較的見慣れた雰囲気のキャラ・ニックと、その相棒でややヤンキーっぽさがありつつも明るく人懐っこい良い奴のアンディ・ガルシア演じるチャーリー、そして日本で彼らのサポート(と言う名の監視)役としてあてがわれる高倉健演じる松本警部補と、松田優作が演じるチンピラ上がりの若手実力派ヤクザ・佐藤という4人が主な登場人物になっています。
僕はてっきり松田優作がゴリゴリ前面に押し出された映画なのかと思っていたのですが全然そんなことはなく、あくまで主人公はマイケル・ダグラス演じるニック。そしてその彼をサポートし、やがて同僚のような関係になっていく健さん演じる松本警部補がもう一人の主人公、という感じ。
そう、日本側の主役はあくまでも健さんで、松田優作は脇役というか敵役です。ちなみにヒロイン的な役割であのスピルバーグの奥さんであるケイト・キャプショーが出ています。魔宮の伝説以外で初めてミタ…気がしていましたが「理由」に出ていました覚えてない。ちょっと印象的な美人、って感じでなかなか良かったです。
さて舞台は大阪ということで、実際問題僕は行ったことがないのであまり軽率なことは言えませんが、ただ日本にもちゃんとコーディネーターがいたということもあって、この時代のハリウッド映画にありがちな「間違った日本像」はあまり見受けられず、日本人としても割と安心して観られる「日本が舞台の映画」として他に例がないぐらいの良作ではないでしょうか。
ちなみに日本人は基本的に日本語ですが、健さんはポジション的なものもあってほぼ英語です。が、これが(日本人が言うのもなんですが)べらぼうにウマイ。今まで聞いた日本人役者の中でもトップクラスにうまい気がしました。うまいというか、自然というか。
思えば健さんにしても松田優作にしても、映画一本丸々観るのは初めてだったんですが、まさか健さんがこんなに英語がうまいとはつゆ知らず、正直かなり驚きました。そんな面も手伝って、めっちゃかっこよかった。マイケル・ダグラスより全然かっこよかったです。
他にヤクザを演じているメンバーもなかなか趣があってですね。まず機内に登場するニセ刑事がガッツさんですよ。ガッツ石松。まさかブラック・レインに出てたとは。他にもまんますぎる安岡力也がいたり、若手(?)時代の國村隼がいたり、島木譲二がいたり。内田裕也も出ています。気付かなかったけど。そして佐藤の元親分で対立しているヤクザの大物が若山富三郎。懐かしい。勝新のお兄ちゃんですね。
そんなわけで一部「日本語おかしくね?」的な日系人キャストもいましたが、概ね日本人も納得のメンバーで固められ、聞こえてくる日本語に違和感が(あまり)無かったのも良かったな、と。なんで日本を舞台にした映画を作ろうと思ったのか理由のほどはよくわかりませんが、カネ目当てでいい加減に作ったような印象はまるでなく、全体的に真っ当で安心して観られる作りだったのがとても良かったです。
変な話、日本が舞台だったり日本人が主役級だったりする映画というのはなぜか日本の描写に違和感がある印象が強いので、そういう面をクリアして、健さん始め日本人キャストもうまく使いながら普通に楽しめる「ハリウッド映画」を作った、っていうのはなかなか珍しい気もするし、なんだか不思議な感じではありましたね。
肝心の物語自体も、言ってみれば“刑事モノの2時間ドラマ”的な内容ではあるんですが、うまく人物の魅力を消化しながら関係性の変化を経て結末まで一気に見せてくれる巧みさや、例えば序盤の“闘牛士”的なチャーリーであったり、暴走族の描写であったりと、いろいろとしっかり伏線とその回収も仕込まれていて、ううむさすがリドリー・スコット、きっちり仕上げてきましたねという印象。今観てもまったく問題のない、古くなっていない映画だと思います。
逆に僕のように変な先入観で観ようとしない人もいると思うので、そういう人には「ご安心なさい?」と叶恭子ボイスで優しく声をかけてあげたいところです。
面白かったよ!
このシーンがイイ!
アンディ・ガルシアが歌う場面は熱かったですねぇ〜。健さんの珍しい演技が見られるのも○。それとやっぱりリドリーつながりで「ブレードランナー」を彷彿とさせるうどん食の場面も外せません。
あとは剣道のシーンが良かったな。ササッと竹刀で首を取りに行く健さんのかっこよさたるや。
ココが○
本来は当たり前の話なんですが、やっぱり「日本と日本人を違和感なく」物語に活かしているのは貴重だと思うんですよ。
もちろん全部が全部ちゃんとしていたわけではないですが、でも観ていて余計なことに目が行っちゃって気が散るようなストレスは無かったので、それだけでも日本舞台のハリウッド映画としては上々でしょう。
ココが×
特にこれと言っては無いんですが、あえて言うなら…ニックの本国での不正の話、扱いの割にそんなに重要じゃない気がしました。
というか、あの程度内容に食い込んでくるなら、エンディングででもチラッと触れるべきじゃないのかな、と。使いたいのはわかるんですけどね。ただ別に無くても良くね? 的な気持ちもありました。
MVA
すげーすげーと話題だった松田優作の演技ですが、確かに強烈ではあったもののやや大げさな気はしました。時代的なものもあるとは思います。でもこの映画は絶対この人だと思うなー。
高倉健(松本正博警部補役)
ハリウッド映画でマイケル・ダグラス相手に一歩も引かないどころか上を行くかっこよさと存在感ですよ。
もちろん日本人としての贔屓目もあるんだろうとは思いますが、でも…かっこよかったなぁ。自然でシュッとしてて。もっと堅い感じなのかな、と思っていたんですが、柔らかい雰囲気もあったのがすごく良かった。さすが名実ともに大スターなだけありますね。
ちなみに我が母は結婚前の某百貨店勤務時代にご本人を何度も見かけたそうですが、「本人見てマジでかっこよかったのは健さんと他2人ぐらいだった」と言っていました。余談。