映画レビュー0256 『ハリーとトント』

たまがわ」推薦作品ということでずっと気になっていたこの映画。レンタル復帰ということで、早速借りてみました。

ハリーとトント

Harry and Tonto
監督
ポール・マザースキー
脚本
ジョシュ・グリーンフェルド
ポール・マザースキー
音楽
公開
1974年8月12日 アメリカ
上映時間
115分
製作国
アメリカ
視聴環境
TSUTAYA DISCASレンタル(DVD・TV)

ハリーとトント

長年住み慣れたニューヨークのアパートが取り壊しになり、やむなく家を追われたハリーは、愛猫のトントと共に、娘の住むシカゴへ旅に出る。

語りすぎない大人の味わい。

8.5

最近思うんですが、「デュー・デート」みたいなコメディ的なのは別として、ロードムービーって本当に減りましたよね。それともたまたま最近のは観てないだけでしょうか。今回この映画を観て、やっぱり僕はロードムービー好きだなぁと再認識したんですが、もうやり尽くしちゃったんでしょうか…。非常に残念です。

…と本題とは関係ない話なので戻します。

自宅を追われたハリーは、一旦息子の家に身を寄せるものの、やっぱり家族とイマイチ折り合わない感じで旅に出ます。飛行機ですっ飛ぶはずが、空港でトントを調べようとされたことに腹を立て、やむなく車で向かうことに。あとはいかにもロードムービー的に、出会いと別れを繰り返し、特に目的地も決めずに旅を続けるハリーとトントの物語。

さて、僕がやっぱりロードムービーっていいなと思ったのは、この時代の映画だからこそ、という部分もあるでしょうが、やっぱりどことなくおおらかで、優しい雰囲気がいいんですよね。ところどころの出会いで束の間の友情を育んで、急ぎすぎず、騙されても笑い飛ばして、新しい街にワクワクする感じ。

途中、ちょっとしたことで留置場に放り込まれるんですが、そこもひとつの出会いになる素敵さ。それに加えて、ハリーは爺さんなので、あまり多くを語りません。どこか達観しているようでもあるし、醒めているようでもあるし、でもお茶目な心根もしっかり持ってるし、すばらしい「お爺ちゃん」。

人によってはもっと感情をあらわにして欲しいと思うようなシーンもありましたが、あの淡々とした感じが、“悟っている”なんて引いた感じではなくて…なんて言うのかな。出来事を受け入れる器みたいなものが感じられて、いいなこの人、と。同じような印象は、介護施設でのシーンでも感じました。すべてを理解して、受け入れる優しさ。そういうものがハリーからにじみ出ていて、すごく素敵だなぁとしみじみ。

そう、優しいんですよね。その優しさ、優しい時代がいいな、と。

どうやら僕はロードムービーが好きらしいので、例えば車を運転してる時にヒッチハイクなんて出くわしたら、やっぱりこういう映画を思い出して、ちょっと乗せようかななんて考えると思うんですが、でも今は物騒だし、乗せたら途中でグサッみたいな想像もしちゃって、きっと結局乗せないような気がするんですよね。素直に乗せてあげられない悲しさ。

その現実とのギャップが、何か遠い、懐かしい日々を思い出すような感傷を呼び起こすイメージ。そこがロードムービーの、この映画の良さであり、自分自身が何かを失ってしまった悲しさのような気がしました。憧れるけど届かない、夢のような旅がロードムービーなのかもしれません。

最後になりましたが、トント。

本当にさり気ない登場ばっかりで、彼(彼女?)がメインのシーンはほとんどありませんが、でも存在感、空気の作り方は抜群。僕は完全なる犬派なので、猫派の人たちと比べたら抱く思いはまた違うんだと思いますが、それでもやっぱり、いろいろ感じることはありました。

特にラストは、僕自身似たような経験があったので、やっぱり泣かずには観られなかったな、と…。

派手さもない、穏やかな映画ですが、しんみりじっくり、優しい気持ちになれる映画です。

このシーンがイイ!

いいシーンもいろいろありましたが、ひとつ挙げるなら介護施設でのダンスのシーン。すーごい良かった。そこに行ったこと自体、素敵な展開。

あとはやっぱり、ラストのアノ走るシーンでしょうか。あれはねぇ…泣いちゃうよね…。

ココが○

上に書いてない部分で言えば、音楽。

非常に古い、70年代っぽいちょっとコミカルな印象すらある音楽が差し込まれたりしましたが、その雰囲気が抜群にいい。古く感じるのがいい、というか…。きっとこれは主人公がお爺さんだから、っていうのもあるんでしょうね。古さがいい、古くていい、という映画全体のイメージを膨らませていて、味わい深さにつながってるような気がします。

ココが×

ご多分にもれず地味な映画ではあるので、きっと若い頃に観たらわからなかっただろうなぁというのは思いました。歳とともに良くなる映画、悪くなる映画がある、っていうのがまた映画の良さでもあるんですが。

そんなわけで、30代未満にはオススメしません。なんとなく。

MVA

トントに差し上げたい気持ちが強いですが、一応対象は人間というローカルルールもあるっぽい(他人事)ので、

アート・カーニー(ハリー役)

でしょう、やっぱり。

元々コメディアンだったみたいですが、そういう雰囲気がちょっと感じられるようなコミカルさが味わいになっていてすごく良かった。

初主演だったらしいですが、大体歳をとって初主演、って外さないですよね。やっぱり。わかってキャスティングしてるんだろうし、本人の意欲もあるだろうし。

この辺も同じ爺さん主役のロードムービー「ストレイト・ストーリー」と似た感じがしますが、どっちの爺さんも素晴らしかったです。

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