映画レビュー0608 『日本のいちばん長い日』

シン・ゴジラ評を見て回った中でチラホラ目にしたのが「日本のいちばん長い日の影響を感じる」というお話でした。

やっぱりあれだけ面白かった映画に影響を与えたとなると…観てみたくなるのが人情というものです。ちょうどBSプレミアムでやっていたので観てみました。

ちなみに、個人的に邦画のモノクロ映画を観るのは初めて。モノクロなので当然ですが、2015年版ではなく1967年版のものです。

日本のいちばん長い日

Japan’s Longest Day
監督
岡本喜八
脚本
原作
『日本のいちばん長い日』
大宅壮一
出演
加山雄三
黒沢年男
佐藤允
中丸忠雄
音楽
公開
1967年8月3日 日本
上映時間
157分
製作国
日本

日本のいちばん長い日

1945年8月15日、第二次世界大戦での日本の敗戦を意味するポツダム宣言の受け入れと、天皇による「玉音放送」が流れるまでの“日本のいちばん長い日”。

テーマ云々以前に、映画として面白い。

8.0

今更アレコレ語る必要もないとは思いますが、あの終戦の日に日本中枢で起こっていた出来事を追った、ノンフィクション映画。

そりゃー当然、多少の脚色もあるんだろうとは推測しますが、とは言え何分ものすごくデリケートな内容でもあるし、概ね史実に則った内容なんだろうと思います。

監督は岡本喜八。もう故人ですが、シン・ゴジラでは事件の発端のキーマンとして写真で登場していた「教授」です。そういう扱いからも、シン・ゴジラの庵野総監督が岡本監督をリスペクトしていたことは間違いないでしょうし、それ故にこの映画からの影響もまた当然のことなんでしょう。

オープニングから一気に引き込まれるニュース調の映像の作りはまさにシン・ゴジラと同じ印象で、最初のシーンでもう「なるほどこれは確かに影響受けてそう」とわかる雰囲気。なので、シン・ゴジラが面白かった人はそのままストレートにこの映画にも入り込めるんじゃないかと思いますが、あちらは虚構、こちらは現実…ということで、娯楽的な度合いはだいぶ薄まります。

しかしその分、「あの日、日本で何が起こっていたのか」を知るための教材としてこの上ない映画であることも間違いありません。

「教材」なんて言うと文字通りお勉強っぽくて聞こえが悪いかもしれませんが、しかしこれほど(語弊がある言い方かもしれないことを承知で書きますが)「楽しく学べる」ものもなかなかないのも事実で、イデオロギー的な意味ではなく、純粋に日本人として一度は観ておいた方がいいんじゃないか、と思います。

…ってなことは散々あちこちで言われているとは思うので、不謹慎だと怒られようとも少し違った言い方をしたいんですが、映画好きとして普通に観て、もちろん感覚的に気になる部分が多少あったのも事実なんですが、約50年も前の、しかもモノクロの邦画であるにも関わらず、テンポよく適度な緊張感を持ってサスペンスフルに展開する“物語”は単純に今観ても面白く、素直にオススメできる映画だと言えます。

どうもテーマがテーマなだけに、なんというか…こう…日本人として正座してきっちりその目に焼き付けろや、みたいな、好奇心から観るのは憚られるような“構え”のある映画だと思うんですよ。それこそ特にイデオロギーに染まった人たちからすれば。天皇陛下や陸軍の面々に疑問を呈した時点で斬り殺されるんじゃねーか、みたいな。カジュアルな感覚で語っちゃいけない映画、みたいな雰囲気があるというか。

そういう、ある種「語るのがめんどくさい」デリケートな内容の映画なんですが、しかし中身はしっかり「エンターテイメント」として成立している、っていうのがすごいな、と。

僕なんてもうダラダラ、テーブルに片足乗っけながら観てましたからね。もうその姿勢からしてお前はダメだ、と怒られることは間違いないと思いますが、そんな感じで観てても面白かったよ、っていうのが…なんというか僕なりの褒め言葉になるかな、と。

別に日本人がどうだの日本がどうだの、っていう大上段に構えた見方をしなくても、歴史を知るという意味でも知的好奇心をそそられる作りで面白かったし、「陸軍の一部に不穏な動きがどーたらこーたら」という一文で知ってても、実際にどういう動きがあって、本人たちはどういう思いで動いていたのか、という部分がこれほどまで真に迫る形で伝わってくるものは他にないな、と感銘を受けました。

そう、史実としては誰もが知っている話ではあると思うんですよ。ポツダム宣言の受け入れを決めて、それに抗おうとする人たちもいたけど、玉音放送で終戦が訪れた、っていう。ただ、そういう外形からは伝わらない詳細の部分、「顔の見える8月15日」とでも言いましょうか。

そういうリアルな終戦の日、というのはなかなか僕ぐらいの世代から下の人たちには無いと思うので、そういう意味でもやっぱり観て良かったと思うし、何より面白かったから良かったな、と思うわけです。

2時間半を超える長い映画ではありますが、その長さが気になるような冗長な映画ではないし、終始緊張感のある、しかも“知っている日”の出来事を描いているので、そりゃ面白いよね、と。

もうね、この映画を「面白い」なんて言っただけでも一部の向きには怒られるとは思うんですよ。不謹慎だ、とか。ただ映画好きとしてその映画を語るとき、「面白い」っていうのは一番純粋な褒め言葉ですからね。

終戦の日に起きた出来事云々関係なく、つまらなかったらつまらない、ってはっきり言いますが、この映画は単純に映画としてよく出来ていたし、むしろいろんな方面に気を使って、腫れ物を触るような慎重な作りを必要とされそうなテーマをこれだけ「面白く」作った岡本監督というのはすごい人だな、と思うわけです。

その辺の「各方面に配慮しなければいけない」という意味でも似ていると思いますが、その他でも、役者陣の多さと豪華さ、そして割と近い範囲での組織ごとの群像劇的な展開の仕方も「シン・ゴジラ」と重なるし、確かにこれは起源の一つと言うのも納得です。

ちょっと今から観ると難しい面があるのも事実ですが、「終戦の日を描いた映画」という“重み”からは感じられないほどに良い意味で観やすい映画だと思うので、「シン・ゴジラ」マニアの方々含め、興味のある人はぜひ観てみて欲しいところです。

いやホント、面白かったですよ。

このシーンがイイ!

阿南大臣が啖呵を切る場面はどれもかっこよくてですね…。「阿南の屍を越えて行け!」とかですかね。痺れましたね。

ココが○

よく「激動のなんたら」と言われますが、その意味がわかるというか。ああ、まさにこれが激動の一日だったんだな、という動きがよくわかる内容。ヒリヒリと時を刻み、まさにその後の日本を決する様々な動きには、結果を知っていようとも目が離せません。

ココが×

これは仕方のないことなんですが、一番強く感じたのは言葉がわかりづらいこと。同じ日本語ではあるものの、やはり今となっては古めかしい、堅苦しい言葉遣いが多いので、かなり脳内変換が必要とされる言葉が多いです。言葉としてもう馴染みのない言葉も多いし、その上、映画自体が古いために音声自体も今ほどクリアではないので、セリフのすべてを理解しようとするのはかなり辛いものがあります。疲れます。特にラストの某人物が叫びながら走り回っているシーンなんてほぼ理解不能。仕方がないとは言え、母国の映画でありながらセリフが理解し難いのはちょっと悲しい。

それと、(BS放送だったからか)冒頭にもお断りが出てきたんですが、映像的に少しエグい内容が散見されます。原爆で亡くなった親子の写真とか、首を切り落とされた人の描写とか。ただ、これは“映画あるある”ですが、モノクロだからだいぶ和らいでいて観やすくなっているのも事実です。これがカラーだったらちょっと辛かったかも。それなりにしんどい場面はありました。

MVA

僕は古い日本の役者さんについてはさして詳しくないんですが、それでもそれなりに「おお、あの人が」と思うような人たちが結構出ていて、そういう意味でも力の入った映画だったんだろうと思います。

やっぱり一番目を引いたのは、阿南陸軍大臣を演じる三船敏郎でしょう。三船敏郎を観るのは「グラン・プリ」以来2度目なんですが、全然印象が違いました。こっちは軍人役なだけに、芯が太くてビシっとしていてカッコイイ。渋いオッサンになったのね…と思ったら「グラン・プリ」と同じ年の公開という。すげぇ。どっしり感がまるで違いました。ある意味この人が主役だと思うんですが、しかし僕はこちらの方を選びたいと思います。

笠智衆(内閣総理大臣・鈴木貫太郎男爵役)

笠智衆、僕の記憶ではかなりのお爺ちゃんでしか無いんですが、それよりも若干若い、物腰柔らかながら強さも併せ持っている雰囲気が素晴らしい。

今の政治家には無い雰囲気を醸し出していて、さすが“日本のいちばん長い日”を捌いた人物だな、と思わせる説得力がありました。いいなぁ、笠智衆。

他にも、三船敏郎とは切っても切れない志村喬や、若かりし頃の加山雄三や黒沢年男他、様々な人が出ていますが、中でも強烈だったのは天本英世。もう叫んでるときなんて何言ってるのかサッパリわかりませんでしたが、でもなんか勢いだけは伝わった。すごかった。

ある種の狂気を描くという意味では、最も適役だったのかもしれません。

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