映画レビュー0609 『寒い国から帰ったスパイ』

BS録画より。あのジョン・ル・カレ原作の映画です。しかし本編とは関係ないんですが、なんで原作と微妙にタイトル変えたんでしょうね。

ちなみに先日書きました通り、「われらが背きし者」はこの映画よりも後に観ているため、このレビューを書いた時は鑑賞作の中に含まれておりませんのであしからず。

寒い国から帰ったスパイ

The Spy Who Came in from the Cold
監督
マーティン・リット
脚本
ガイ・トロスパー
原作
『寒い国から帰ってきたスパイ』
出演
リチャード・バートン
音楽
ソル・カプラン
公開
1965年12月16日 アメリカ
上映時間
112分
製作国
イギリス
視聴環境
BSプレミアム録画(TV)

寒い国から帰ったスパイ

東西冷戦真っ只中、その最前線とも言えるベルリンにおいて、イギリス秘密情報部「ケンブリッジ・サーカス」の支部を仕切るアレック・リーマス。ある日、西側のスパイであるリーメックが亡命直前に射殺される事件が起き、その責任を取ってアレックはサーカスをクビになってしまう。しかしこれは、クビとなったアレックが東ドイツの諜報機関から接触を受け、彼らに情報提供をする形で内部崩壊を狙う作戦の一環だったのだが…。

さすがのジョン・ル・カレ原作映画。

8.0

ジョン・ル・カレ原作と言えば、やっぱり「裏切りのサーカス」でしょう。この邦題もどうなんだ、という気がしますがそれはさておいて、東西冷戦下での地味ながらもリアルなスパイ像に痺れるオッサンが続出した名作です。

さらにあのフィリップ・シーモア・ホフマンの最後の主演作となった「誰よりも狙われた男」。こちらもまた激渋スパイ映画の名作としてしみじみと腹に響く名作でございました。

そんな彼の原作映画としては最初の作品になるようです。1965年公開、モノクロのこの映画。古い映画だけに、最近の名作である上記2作ほど面白くはないんだろうなぁ…と不安に観始めましたが、なんのなんのやっぱり原作がしっかりしている分、古くてもしっかり楽しめる素晴らしい作品でした。

舞台は東西冷戦の頃。この映画の公開時期からすればほぼリアルタイムだと思うので、当時はかなり生々しいリアリティがあったと思われます。舞台はベルリン。そう、あの壁があった、東西陣営の境界線です。その冷戦最前線でイギリス秘密情報部の支部の責任者を務めるアレック・リーマスが、東側諜報機関の中心人物であるムントを失脚させるために込み入った作戦を打ち、その作戦の帰結、そして本当の狙いは…というお話です。

裏切りのサーカス」でも登場した、コントロール(サーカス指揮官)やスマイリーと言った面々も登場し、「おっ」となること請け合い。もちろん、ゲイリー・オールドマンとは全然似ていないオッサンでしたが。

序盤、作戦としてアレックがサーカスをクビになり、求職を経て東側のコンタクト、そして作戦実行となっていくわけですが、この「クビになったよ」辺りの描写がかなり薄いので、序盤は少し丁寧さに欠けるかな…という気はしましたが、とは言え古い映画だけに良い意味で込み入っておらず、登場人物も少なめで理解しやすいスパイ映画だと思います。

ストーリーとしてはやはりジョン・ル・カレの物語らしく、淡々と派手さのないスパイの世界が描かれますが、しかしなにせ主人公が二重スパイということもあって、淡々としつつも程よい緊張感があるのがグッド。

最終的にこの作戦の全貌が明らかになるにつれ、「なるほどなぁ~」と感心させられる作り、そしてそこだけにとどまらないエンディングの叙情的な結末はやはり素晴らしく、今観ても色あせない名作と言っていいんじゃないでしょうか。

僕が観た他の2作に比べると、あちらはサスペンスフルで駆け引きの面白さが光っていましたが、こちらはもっと人間臭い、ドラマの色合いが濃い映画だと思います。

その要素を担う重要なパーツとして恋愛要素が含まれてきますが、それも叙情的にしたいがために放り込まれたわけではなく、作戦上も大きな意味があった辺り、とても作りが上手い映画(=物語)だと思います。

ご多分に漏れず、とても地味でアクションのないスパイ映画ではありますが、その分しみじみと名作感が漂う良い映画なので、ジョン・ル・カレ原作映画に惹かれた方には迷わずおすすめしたいところ。

面白かったです。

このシーンがイイ!

バスのシーンはすごく印象的なカットでしたねぇ~。撮り方が面白かったし、なんか不安を煽る感じが良かった。

ココが○

やっぱり作戦自体がすごくしっかり練られていて、“実際にありそう”なのがいいんですよね。娯楽スパイ映画も最高ですが、それとは違った味わいでこういうリアルスパイ映画も最高です。

ココが×

エンディングはやや物語感が強いので、僕が観たジョン・ル・カレ原作映画の中ではもっとも大衆向きというか、響く人の多い作品のような気がしますが、その分こういう傾向を嫌う人がいてもおかしくないような気はしました。上に挙げた2作+この映画の3作の中では「最も俗物っぽい」とでも言いましょうか。それはそれでよかったんですが、とは言えそうではない2作の方がより好きかな、という印象。

MVA

知っている役者さんはほとんどいませんでしたが、ヒロインが「ライムライト」のヒロインと知ってビックリ。全然違う気がしましたね。それなりに歳を取ったから、でしょうか。でも控えめながら綺麗な人でしたね。彼女も良かったですが、まあ順当にこの人かな。

リチャード・バートン(アレック・リーマス役)

主人公。

飲んだくれて暴れて、ほんとにダメな人っぽいけど実はちゃんとしたスパイ。でも実際飲んだくれっぽいし、そんなにめちゃくちゃ優秀な感じでもない。その辺りの人物像もまたリアルだったし、演じるこの方も強く、渋く、かっこよかったです。弱みを感じる辺りがまたよかったかな、と。

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