映画レビュー1214 『リトル・ジョー』

今回もJAIHOデース。

なんとなくただならぬ雰囲気を感じて観ることにしました。なんか怪しげな映画にベン・ウィショー出てるといい映画なんじゃないかと思っちゃう説。

リトル・ジョー

Little Joe
監督
脚本

ジェシカ・ハウスナー

出演

エミリー・ビーチャム
ベン・ウィショー
ケリー・フォックス
キット・コナー
デヴィッド・ウィルモット

音楽

伊藤貞司

公開

2019年11月1日 オーストリア

上映時間

105分

製作国

イギリス・オーストリア・ドイツ

視聴環境

JAIHO(Fire TV Stick・TV)

リトル・ジョー

幸せとは一体…!

8.0
「嗅ぐと幸せになる香り」を放つ新種の花を開発するが…
  • 植物研究者が新たな花を開発、コンテストへの出品を目指す
  • しかし花粉を吸入した人たちの様子が何やらおかしい…?
  • 綺麗な映像が不気味さを増すSFスリラー
  • 劇伴のクセが強すぎる

あらすじ

結果すごく好きなタイプのお話だったんですが、劇伴のクセが強すぎてそっちばっかり引っかかってしまう部分もあり、総じてちょっと惜しい気のする一本でした。惜しい。惜しくて惜しい。

とあるバイオ企業の研究所に勤めるアリス(エミリー・ビーチャム)はシングルマザーで、息子のジョーと二人暮らし。

今開発中の新種の花はその一人息子・ジョーから名前をとった「リトル・ジョー」と言う花で、「その香りを嗅ぐと幸せになる」花だそうです。

ある日、同じ研究所に勤めるベラ(ケリー・フォックス)の愛犬ベロがいなくなる事件があり、アリスとともにリトル・ジョーの開発を進めているクリス(ベン・ウィショー)がリトル・ジョーの栽培室で発見。しかし戻ってきたベロは賢くてきちんと言うことを聞く犬ではなくなっておりました。

彼女はベロが変わった理由はリトル・ジョーの花粉が原因だと糾弾しますが、「優秀だったものの精神を病んで休職していた」ベラの言うことは誰も聞こうとせず、粛々と開発が進められるリトル・ジョー。

しかしアリスは徐々に周りの人たちへの違和感を覚え始め、リトル・ジョーにも疑問を感じ始めるんですが…あとはご覧ください。

痛くもグロくもないのに怖い雰囲気が最高

軽く補足すると、リトル・ジョーは自己繁殖能力を意図的に排除した不稔性の“一代限り”の植物であり、その不自然な生態故に花粉によって何らかの影響を人間に与えているのではないか…というのがベラの主張。

その真偽は観ていただくとしても、そういう「植物にとって普通ではない品種改良によって意図しない影響力を持つに至る」新種、という設定がもうありそうでゾクゾクしますね。たまりません。

一応はSFスリラーなんですが、なんならちょっとホラーっぽくもあるぐらい不気味な映画でした。

ただ基本的な効能は「幸せになる」だけあって、当然ながら死とは無縁だしグロさもありません。

愛犬の悲しい話は出てきますがシーンとしては描かれないし、全編通して痛さもグロさも無縁、でもなんだか怖いという…この感覚が非常に好みでした。精神的な怖さ。幸せになるはずなのに怖い、その描き方がとても良い。

映像も綺麗すぎるぐらいに綺麗で、綺麗すぎるが故に不気味さを抱かせるのが素晴らしい。一歩間違うとアーティスティックになりすぎて中身が薄くなりそうですが、きっちり物語も“強い”ので「見た目は全然怖くないのに怖い」ホラー感を抱かせる良いスリラーだと思います。画作りのイメージ的には「エクス・マキナ」に近い気がしました。

…と、ここまで来ると大傑作の予感なんですが、しかしまーそこに強烈な水を差してくれるのが劇伴です。

真偽不明ですがなんでも監督が好きだとかで日本人の伊藤貞司が音楽担当になっていて、これがまあ早い話が雅楽なんですね。

オープニングとかは結構バチッと決まってキャッチーだなと思いましたが、劇中ずっと雅楽が繰り返されるとさすがに違和感の方が強くてすごくもったいない気がしました。結納かな? みたいな。

劇中は不安さを助長するためかモスキート音のような耳障りのよくない音が繰り返されたり、ワンワンワンワン犬の鳴き声が入ってきたり、まー観客を映像から引き離してくれるんですよね。違和感しかなかった。

ただこれは日本人だからこそなのかもしれないし、海外の人が観てどうかはわかりません。わかりませんが、ちょっと奇をてらいすぎていると思いました。僕は。

ですが一応書いておくと、さっき調べて知ったことなんですが(そもそも知らないのが申し訳ない限り)この伊藤さん、1982年に亡くなっているんですよね。

つまり通常の映画のようにオファーがあってこの映画に合わせて曲を作ったわけではなく、既存の曲から監督なり他のスタッフなりがチョイスして当てているわけです。

なので劇伴に対して賛否両論あるその責任は監督の方に行くのが道理なので、ある意味評価としてはわかりやすいと言うか、良くも悪くも監督のせいなので文句言うのも許されるのかな、みたいな気はします。

もちろん基本的にどの映画でもその責任は監督が負うものだとは思いますが、この件については作曲者に文句言うのも違うよね、と言うのは理解しておきたいところだな、と。

それを踏まえた上で言えば、やっぱり内容がすごく面白いだけにもうちょっとオーソドックスな形の劇伴にした方が一般的にも受けただろうし、有り体に言ってしまえば「冒険が失敗した」ことで全体的な評価を下げたのではないかなと思います。少なくとも僕としてはそうでしたね。なのでそこがすごく惜しい。

観て考えて欲しい内容

内容的にはネタバレを避けつつ語るのが難しいタイプの映画なだけにあんまりアレコレ書けないんですが、テーマ自体もすごく深いし、実際にこういうことが起こってもおかしくなさそうな諸々が盛り込まれているので本当に物語自体は(興味深いと言う意味で)面白いと思いますね。

この辺細かいことはネタバレ項に書こうかなと思うので、ネタバレを気にしない人や鑑賞した人はぜひ見てくれよな!

ネタバ・レー

「嗅ぐと幸せになる香り」そのものは実現しているものの、その効果は「リトル・ジョーを(過剰なまでに)優先して守る」効果とバーターだよ、というお話。

別にハッピーになるわけだし花を守ろうとするだけなら差し引きプラスじゃね? と短絡的に思う部分もありつつ、一方で「その人個人の考えではない脳の変化」を植物から受けた上での“幸せ”は果たして本当に幸せなのか? という疑問もあり、答えのない堂々巡りを繰り広げることになる価値観の提示は大好物でした。

映画なのでわかりやすく変化を描いている面はあるでしょうが、実際リトル・ジョーの影響を受けた人たちは、いくつかの証言にもあったようにもう別人にしか思えないぐらいに変わってしまっているので、“幸せ”だったとしても「その人はかつて“その人”だった人と同じ人だと見なせるのか」という問題もあり、これを良しとするかは人によってだいぶ分かれそうな気がしますが、僕は個人の生理的にもこれは許容できないものだと思います。映画の描写的にもそう思わせるように作っていると感じました。

百歩譲って許容できると思えるのはこれが「幸せ」だからなわけで、その作用が別のものであれば当然もっと拒否反応も強いはずです。正反対の作用であればとんでもない驚異にもなり得ます。

リトル・ジョーの及ぼす効果の原因が“作者”にすらわかっていない以上、それこそコロナウイルスのように突然変異で別の効果が現れたりする未来も考えられるし、そこまで含めて考えると本当に怖いし気味の悪い話だと思いますね。そこがたまらないんですが。

もちろんその効果が不変であったとしても、やはり脳に影響を及ぼす以上そのまま放置するのは危険すぎると思うんですが、果たして世間一般のご意見はどうなんでしょうか。

これは観たことがある人とじっくり語ってみたいテーマだなぁ。映画以上に話が膨らみそうな気がします。なのでそういう映画は良い映画、と思いますね。好みの上で。

このシーンがイイ!

後半、息子のジョーと友達の女の子がアリスにネタバレみたいなトークをするんですが、そこで「えーそんな簡単な話なの?」とガッカリしてたらメタな感じで否定してくるシーンになっていて、そこはなんかしてやられた感がありましたね。より始末が悪い感じがして。

ココが○

不稔性の植物が自己を守るために「人に守らせようとする」メカニズムってめちゃくちゃ面白い設定じゃないですか? なんかありそうだし、胡散臭さも薄いし。

またリトル・ジョーのデザインがいい感じに不気味なんですよね。綺麗なんだけど怪しい感じがして。それは撮り方もあるんでしょうが。

ココが×

なんと言っても劇伴。普通バージョンも観たいよ…。

あとはオチがパキッとしていないのでそこはお好みかな、と。ヌルリと終わっていきます。が、そうじゃないとつまらなくなるだろうなとは思う。

MVA

みなさん良かったんですが…やっぱりこの人かなー。

エミリー・ビーチャム(アリス役)

主人公の植物研究者。

最初マッシュルームカットにしたメラニー・ロランかな? と思ったんですが違いました。顔つき結構似てる気がするんだけど…。

役的に孤軍奮闘を強いられる人物なので、その葛藤っぷりがとても良かったと思います。ただの美人がやってます、って感じじゃないのがまたいい。

あとはやっぱりベン・ウィショーもさすが良かったですね。この人本当にこの手の怪しい話に向いてる気がする。

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