映画レビュー1164 『マージン・コール』
JAIHOより。ちょっと面白そうだなぐらいの感じで鑑賞です。
マージン・コール
ネイサン・ラーソン
2011年10月21日 アメリカ
109分
アメリカ
JAIHO(Fire TV Stick・TV)

経済サスペンスとして文句なしに面白い。
- いわゆる「リーマン・ショック」を局地的に描いた経済サスペンス
- 徐々に大物が出てくる見せ方のうまさに惹き込まれる
- 特に序盤はサラリーマン的に胃が痛くなることウケアイ
- 通好みの豪華キャストも◎
あらすじ
明確に「リーマン・ショックの話だよ」等のご説明はありませんが、描写的にその話っぽいです。なんでも「リーマン・ブラザーズそのものがモデル」との噂もありますが実際どうなのかは不明です。
とある投資銀行で大量解雇が発生。リスク管理部門の責任者エリック(スタンリー・トゥッチ)も解雇対象となり、残された若手のピーター(ザカリー・クイント)にやり残した仕事を引き継がせ、「用心しろ」と一言残して会社を去ります。
ピーターが言われた通りにエリックの残したデータを分析したところ、会社が抱える不動産担保証券(いわゆるサブプライムローン商品)の価格変動率が想定を超え、端的に言えば「会社の総資産を上回る赤字」を抱える可能性が高くなっていることが判明。
早ければ翌日にもリスクが顕在化してしまう危険があったため、「(解雇されずに)生き残りやったぜ飲み会」に繰り出していたエリックの上司であるウィル(ポール・ベタニー)を呼び戻し、「マジでヤバいです」と説明。するとマジでヤバいことに気付いたウィルは、帰宅済みだったさらにその上司にあたるサム(ケヴィン・スペイシー)を会社に呼び戻します。
こうしてどんどん上に情報を上げながら“会社存亡の危機”に対応するべく、徹夜で事態の収拾を図る面々。一体この会社はどうなるんでしょうか。
あまり経済の知識がなくても楽しめる
この手の経済映画は知識がないと楽しめ無さそうな気もしますが、根っこのところは「会社組織」のお話でもあるのできっとそんなに知識は必要ないと思われます。実際自分もなんとなくの大枠しか理解していないと思いますがめちゃくちゃ面白かったです。
ちなみにタイトルの「マージン・コール」とは、簡単に言えば「口座の資金額が所持している(金融商品の)ポジション保有に必要な最低金額を下回る=破産状態」と言う感じでしょうか。元々はFX(外国為替証拠金取引)用語だと思いますが、まんまこの映画の舞台となる会社の状況を指し示す言葉になっています。
同じリーマン・ショックを題材とした経済映画としては「マネー・ショート」が思い浮かびますが、ややこしい上に誰に向けて作っているのかよくわからない気取った群像劇のあの映画よりも状況がフォーカスされている分誰にでも理解しやすく、また局地的な話なので登場人物たちの心情もよりリアルに伝わってくる作りになっていて、「リーマン・ショックを舞台にした経済サスペンスとして面白い」と言う以上に「一組織の危急存亡を描いたサスペンスとして面白い」印象で、それ故比較的誰でも楽しめるのではないかな、と。その危機の味付けとしてリーマン・ショックがあり、それによってリアリティを増している映画だと思います。
ただのトラブル対応話なのに面白い
物語は夜遅くに発覚した危機に端を発し、これはヤバいとドンドン組織の上の方に話が上がっていって対策を練る、ただそれだけと言えばそれだけの話なんですが、これがまあ緊張感もあって素晴らしく惹き込まれました。
特に投資銀行なんて(勝手な想像で)上に行けば行くほど実務とは遠く、普段も何をやってるのかわからない人たちで構成されているような気がしますが、そう言う人たちが「夜中にも関わらず出勤せざるを得ない」、そのただ事ではない状況がサラリーマン的に胃が痛くなること間違いありません。真夜中にスーツに着替えて出社してくる時点でただ事じゃねーな、みたいな。
深夜のトラブル対応、しかも現場でもみ消せないやつ。すぐに上を呼んで対応策を練らなければ会社がヤバい状況。他人事だからワクワクして観ていられますが、これが自分事だったらもう文字通り「生きた心地がしない」ぐらいにキツい状況だと思います。ましてや事態は後の「リーマン・ショック」になることはわかっているわけで、「地獄はこれから」とばかりにしんどい組織人たちを観ていくのは…こう言ったら良くないと思いつつも面白いんですよね、やっぱり。とんでもないことが起こるんだな、ってわかってると。
「面白い」という表現が合っているかはわかりませんが、例えば「ユナイテッド93」もそうであるように、その後起こることを知っているからこそ心に刺さりやすくなるものってあると思うので、この話もまたその類だと思います。
あとから振り返ると大半のシーンが1対1の会話でしかないし、その会話の主が場面場面で変わっていくだけで絵面も地味なんですよ。なんですが…それがものすごく面白いし、金融の仕組みの危うさだったり、それによってお金を儲ける人たちの人間性であったり、そもそも組織人としての振る舞い方であったり、そこにそう言った諸々を見出して面白さを感じるのがなかなか他にない体験でした。こんな地味な映画なのにすぐさまもう一回観たかったぐらい。
キャスティングも見どころ
役者陣がなかなか通好みだったのもイイ。
今やいろいろありすぎて人間的にはかなり問題があると思われるケヴィン・スペイシーですが、やっぱり役者としては相当な技量があるなと痛感しました。その彼とアメリカデビュー作となる「L.A.コンフィデンシャル」で共演したサイモン・ベイカーが彼の上司として登場するのも胸アツ。
最初にさっさとクビになるのはスタンリー・トゥッチで贅沢だし、その上にいるのはデミ・ムーアだし、舞台を回すのはポール・ベタニーだし、ジェレミー・アイアンズも出てくるしで非常に渋く、また実力派揃いの良いキャスティングでした。
そんなわけで社会派サスペンスが好きな人には断然オススメ。僕は好きなのでハマッタよ、というお話です。
さり気なくサムのエピソードに犬が絡んでくるのもズルい…。そこも含めてものすごく良かったです。
このシーンがイイ!
玄関前でウィルとエリックが会話するシーンが好きでした。関係性が伺える感じ。
ココが○
基本的には一晩の話なので、それだけスピード感もあるし、深夜対応故の緊張感も感じられてその辺りも好きでした。
夜中に会社に呼び戻される、それがどれだけ嫌かつ重大な事態なのか…サラリーマンなら推して知るべしですよ。
ココが×
やっぱり経済のお話なので完全に知識ゼロだとしんどいかもしれません。わかるわからない以前に興味が持てない…とかあるのかも。
ただそれよりも組織の話が主になってくるだけに、もしかしたらフリーランスとか自営業の人の方が感情移入できなくてつまらない、とかもあるかもしれないですね。
MVA
キャスティングが良かっただけに悩ましいところですが…やっぱりこの人かなぁ。
ケヴィン・スペイシー(サム・ロジャース役)
一応は主人公になるのかな。投資部門のお偉いさん。おそらく現場のトップみたいな感じでしょう。
おそらく彼よりも上にいる人たちは基本現場に出てこず、莫大な報酬だけもらってるムナクソ野郎と言って良いと思います。それだけに(かなり偉い人なんですが)中間管理職よろしく現場と経営陣との板挟みにあいつつも自分の理念は通す、かなりのやり手っぽい役柄が流石にお上手でした。個人的な悩みの部分もじっくり見せつつ。
あとはやっぱりポール・ベタニーがいいですね。この人の“脇役職人”っぷりも好きです。優秀そうだけど“重さ”が足りない感じが職位にも現れている感じがお見事。