映画レビュー0913 『スミス都へ行く』
これは直接オススメされたわけではないんですが、一番好みが合うと思っている方が絶賛していたので借りてみました。今からちょうど80年前の映画ですね。
スミス都へ行く
『ミネソタから来た紳士』
ルイス・R・フォスター
ジェームズ・ステュアート
ジーン・アーサー
クロード・レインズ
エドワード・アーノルド
ガイ・キビー
トーマス・ミッチェル
ハリー・ケリー
1939年10月19日 アメリカ
129分
アメリカ
TSUTAYAレンタル(DVD・TV)

キャプラに美徳を描かせたら間違いない説。
- 死亡した上院議員の代わりに担ぎ出された純粋な青年が汚職に巻き込まれる
- 腐敗した政治と理想とのギャップで苦しむ主人公と、彼に感化される人たち
- 王道でまっすぐなストーリーながら今でも古くならない価値観はさすがのキャプラ節
- 古い映画ながらテンポもよく観やすい
あらすじ
絶賛していた方が大号泣したと言っていたので、僕もタオルを用意して待ち構えるぐらいにハードルが上がっちゃってたもんで「正直そこまででは」と思いはしましたが、ただそれでも良い映画には間違いないです。
同じフランク・キャプラの「素晴らしき哉、人生!」もそうですが、やっぱりこういう映画で価値観のベースを育てられる国っていうのは強いよなぁと改めてしみじみ思いました。が、80年も前に描かれた価値観が今でも正しいのは良いことと思いつつ、事態はそれよりも悪化してきているようにしか思えない現在の世界を見るとなかなか辛いものがあるのも確かです。
舞台はある上院議員の死去からスタート。彼を選出した州では「次期大統領候補」と噂されるほどの実力者・ペイン上院議員と、彼のいわゆるパトロンで地元新聞社の社長ジム・テイラー、そしてホッパー州知事の3人で後継問題を相談し、紆余曲折の結果、子どもたちに人気のボーイスカウトリーダー、ジェフ・スミスを担ぎ出すことに決めます。
なんでもこの3人は地元にダムを建設し、その事業絡みで一儲けを企んでいて、その根回しにあたっているのがペイン上院議員であり、裏で糸を引いているのがテイラーなわけです。ここでこの計画に異を唱える人物が選出されると非常にまずいため、いわゆる“傀儡”としての人選を進めた結果、何もわかっていない政治の素人であり、かつ扱いやすそうな上に民衆からの反対も無さそうなスミスを担ぎ出すことにしたぞと。いわゆるアレですね、懐かしの「神輿は軽くてパーがいい」ってやつですよ。(微妙に違うけど)
しかしスミスは彼らが思うほどにバカではなく、また彼らが思うほどに軽くもない、理想と芯を持った青年だったためにコトは簡単に進まないわけです…。
二人の議員の対照性が深い
いわゆる「リアルな政治の世界」に飛び込んだ、まだ理想を捨てていない一人の青年が権力に戦いを挑むお話なんですが、その新人議員と“次期大統領候補”である師とも言える議員とのつながり(スミスの父はペイン議員の親友だった)も相まって、なかなか立ち位置のあぶり出し方がエグいお話でした。もちろんいい意味で。
かつては彼と同じく理想に燃えていたはずのペイン議員もすっかり政治の世界に染まりきってしまい、正論で進もうとするスミスを見ているのが辛いんでしょう。
そんなこともあってか、「自分たちの計画を邪魔する立ち位置に進んでいく」スミスに対し、それでもそこまで無碍にできない若干の悩みを漂わせるペイン議員の姿もまたとても印象的で、「スミスにかつての自分」を見たのか、そしてそのまま「今の自分」への道を歩ませようとする自らへの逡巡もおそらくはあるんでしょう、心情を察するといろいろと深いお話だと思います。
美徳が“感染”する良さ
スミスは立派な美徳を抱いてはいるものの、やはり政治としてはド素人なので秘書のサンダースにいろいろとレクチャーを受けながら議員としての“やり方”を学んでいくんですが、この秘書がまた最高なんですよ。まさか80年前の映画の字幕で「マジやってらんない」的な表現を目にするとは思ってもいませんでしたね。
ある意味で彼女もスレちゃった現実的な人なんですが、しかしやはりまっすぐなスミスに“感化”されて徐々に背中を押す重要な存在になっていくわけです。それがまた良い。
こう言った出来事を、以前社会学者の宮台真司先生が「感染する」と表現していましたが、まさに彼女はスミスに“感染”し、そのことによって舞台が回り始めるのはやっぱり気持ちがいい。
おそらくは「こういうことがあってほしい」と願いながらもなかなかない現代社会に対するカウンターのような、胸がすくような思いを味あわせてくれるから良いんでしょう。そこがまたキャプラの映画らしい良さなんだろうと思います。(80年前の映画に現代社会へのカウンターを見ること自体の悲しさもあるわけですが)
そしてそれはそのまま観客に対しても作用するはずで、だからこそこの手の映画に小さい頃から親しめる環境があるアメリカはやっぱりなんだかんだすごいんじゃないかと改めて思いました。今の大統領はトランプだけども。
読めるかもしれないけどそれでも良い
ぶっちゃけ話の展開としては読める映画ではあるんですが、ただやっぱりそれでもそうであって欲しいと思えるストーリーを真正面から逃げずに描いてくれる気持ちよさってあると思うんですよ。
このまっすぐ逃げずに正面突破できっちり良い価値観を描く、キャプラの手腕は本当にお見事だと思います。
また時代もあるんでしょうね。今の時代だとこれほどまっすぐな話は描けないかもしれない。
しかしそんな時代だからこそより活きる価値観のような気がするし、改めて今も変わらないどころか悪化してきているように見える現在だからこそより輝きを増す普遍性というのは…名作の条件なのかもしれないと改めて思うわけです。
「太陽は光り輝く」もそうでしたが、古い映画に描かれる価値観こそ、時代が進めば進むほど大切にしなければいけない価値観なのかもしれません。前面に押し出す必要はないと思いますが、「忘れんじゃねぇよ」と言う意志だけは引き継いでいくべきなのかなと。
このシーンがイイ!
やっぱり…ピークはラストでしょうね。
でも細かい部分でも良いシーンがちょくちょくあったと思います。それもまた「まっすぐさ」故でしょう。
ココが○
古い映画にもかかわらず、今も腐らない普遍的な価値観を、観やすいテンポでわかりやすく提示してくれる点はなかなか貴重だと思います。
それだけある意味ではベタだし軽く見られがちな内容かもしれませんが、逆にこれを見てそう感じるようでは少し悲しいとも思いますね。
それなりに分別のつく年齢になったら、教育的な意味も込みで子どもと一緒に観るのも良いでしょう。
ココが×
特に無いかな…。意外性を求めなければ、誰が観ても何かしら感じるところがある話だと思います。
特に今の政治状況がひどすぎるので、羨ましさで複雑な気持ちになると思いますよ。
MVA
ジェームズ・ステュアートはこの映画辺りから大スターへの道を歩んだようで、確かに今まで観てきた中でもだいぶ若く、頼りなさげな雰囲気が役にぴったりでした。法案提出するときの情けない雰囲気はどことなくおヒューに似ててそこもまた良し。
ただ彼が良いのはいつもの通りだし、ここはやっぱりこの人を推したいなと。
ハリー・ケリー(上院議長役)
見れば誰もが「彼は良い」って言うでしょう。
ちょっといたずらっぽく笑いつつ、公平に機会を与え、どちらに味方するでもなく「真っ当な議事運営」を進めるまさに議長の鏡。素敵でしたね〜。


