映画レビュー1313 『NOPE/ノープ』
今回は別の方主催のウォッチパーティにお邪魔して来ました。多分自分では選ばない映画だと思います。
NOPE/ノープ
ジョーダン・ピール
ダニエル・カルーヤ
キキ・パーマー
スティーヴン・ユァン
ブランドン・ペレア
マイケル・ウィンコット
キース・デイヴィッド
2022年7月22日 アメリカ
130分
アメリカ
Amazonプライム・ビデオ ウォッチパーティ(iMac)
斬新な設定と舞台は他にない面白さも、不満あり。
- 父の死や馬の失踪が相次ぎ、原因を探るべくカメラを設置
- 録画を調べた結果「決して移動しない雲」が怪しいと睨む
- “アレ”を新しい存在に捉え直した意欲的なホラー
- ただ個人的に煽られすぎたためにアラが目立つ結果に
あらすじ
非常に面白かったんですが、誘ってくれたウォッチパーティ主催者の「史上最高の映画だよ!」という(半分冗談でしょうが)煽り文句のせいで「そこまで言うほどかぁ??」とノリ切れず、逆にアラ探しをしてしまって不満が残る結果となりました。デカすぎる煽り、良くない。
親子で牧場を営み、撮影のために馬を調教して貸し出していたヘイウッド家ですが、ある日家長の父オーティス・ヘイウッド・シニア(キース・デイヴィッド)が突如空から大量に降ってきたコインに頭を打ち抜かれて死亡。息子のOJ(ダニエル・カルーヤ)とその妹エメラルド(キキ・パーマー)があとを継ぎます。
しかし仕事はうまく行かず、やむなく馬を売って糊口を凌ぐ日々ですが、そんな中に馬が失踪する事件が発生。
原因は雲の上にいる円形の“何か”ではないかと考えたOJは、近くの量販店で固定カメラを購入、その時対応した店員のエンジェル(ブランドン・ペレア)に手伝ってもらいながら2か所に設置し、映像を分析。
オカルト大好きなエンジェルが率先して映像を確認したところ、「撮影中決して移動しない雲」があることを突き止めます。
ということでその正体を探るべく奔走する3人ですが…どうなるでしょうか。
新鮮だけど不満も多い
一応問題の“アレ”の正体については結構引っ張るので書こうか迷うところなんですが、ただ触れないと何も書けないので書いちゃいますけども…まあUFO的なものなんですよ。問題のアレが。そこをわかってても面白い(実際僕も事前に知ってました)とは思うのでそんなに問題はないと思います。
要はUFOを“再定義”したホラー映画という感じで、SFではなくホラーに寄せているのも新しいし、その再定義そのものも非常に興味深くて(これはさすがにどんなものかは伏せておきます)、めちゃくちゃ古いテーマを今の時代に合う形で引っ張ってきた作りは純粋にすごいなと感心しました。言ってみれば「ネッシーが地球外生物だった」みたいな斬新な設定というか。例えが正しいかは怪しいところですけども。
UFOの設定が先なのか、はたまたホラー映画ありきでUFOをそこに当てはめたのかはわかりませんが、いずれにしても今まで観たことのない内容になっていて、こと「使い古されたアイテムを新鮮に見せる」という意味では相当な傑作であると思います。
舞台がアメリカの田舎の、だだっ広い牧場というのも良い。ロケーションがむちゃくちゃ良いんですよ。そこにUFOが映える的な。バエですよバエ。UBO(未確認バエ物体)です。
ちなみに劇中でも言っていますが、最近のアメリカではUFOではなく「UAP(未確認空中現象)」と言うそうです。
またUFOと言うと高速で飛んでいてなかなか見えないとかたまにしか飛来しないみたいなイメージがあるところを、「雲に隠れている=常にそこにいる」というのもなんだか新鮮でした。その設定一つを取っても今までの「UFO観」みたいなものを覆す意欲的なものを感じますね。
最も「新しい!」と思ったところは物語の肝の部分になってくるのでここでは書きませんが、そうやってあらゆる面で一般的なUFOのイメージを覆そうとする設定の妙とホラーというジャンルが上手く噛み合っていて、なるほどこれは確かに傑作なのかもしれない、と思います。
ただ「史上最高」は言いすぎだしそれによって自分の評価が下がったのは結構もらい事故的なしんどさもありましたが。
一方で振り返るといくつか気になる点もあり、「そう言えばアレなんだったの?」みたいな疑問も雑音として残りました。
これも具体的に書くとちょっと観るときの邪魔になりそうなのでここでは触れませんが、まあ問題ない程度に書くとするなら…ちょっと主人公補正強すぎる話だな、というのは書いておきたいところ。
補正というかチートというか…主人公(たち)は他のモブキャラなら速攻やられているはずのシチュエーションでも生き残っちゃうので、それはそれで映画として仕方がない面があるのもわかりますが、ただそうするといろいろ用意した設定が破綻しちゃうんですよね。
つまり主人公たちが打開策として考えたものが主人公補正によって否定される、という矛盾がありまして…その一点で言えばもう創作として下の下だと思うんですよ。
具体的に書くとネタバレになるので抽象的になってしまって申し訳ないんですが、主人公の想定した問題がその通りなのであれば主人公はやられちゃうはずなんですよね。
逆に言えば、その想定が合っているのであればもうちょっと主人公たちの立ち居振る舞いは慎重にならざるを得ないはずなんですが、映画の見せ場優先で(特にクライマックスにおいて)カッコつけちゃう感じが強く出ていて、おまけに向こうも合わせてくれちゃうもんだからクライマックスなのにどんどん冷めていっちゃう面がありました。
すごくカッコいいし見せ場足らしめている良いシーンなのに、それまでの前提度外視で対決シーンを見せようとしすぎるがために逆効果になっている気がして、そこが本当に惜しい映画だなと思います。
例えるなら主人公が「さっさとやらないとやられる敵」と相対しているのになぜかいろいろ語っちゃう感じ。そしてなぜか敵もそのお喋りに付き合ってくれちゃう、っていう。「96時間/リベンジ」でリーアム・ニーソンの電話を待ってくれるテロリストかよ、みたいな。
ゴルゴ13でもよく余裕こいて喋ってたせいで殺されちゃうやつ、出てくるんですよね。ゴルゴに「優位に立ったのなら喋ってないで引き金を引くことだ…」ってよく言われてるんですけど。
でもこの主人公は殺されません。なぜなら主人公だから。
っていうのが見えてきちゃうのが良くないというお話です。
なんか終盤になってから極端にヒロイックになってくるんですよね。見せ方が。それ故に今まで積み上げてきた設定が全部スルーされちゃって、それはどうなの? と思うわけですよ。
カッコつけたいのもわかる、見せ場なのもわかる、でもそこを自重してやることだけやっていく形にすればもっとスマートに感じたんですけどね…。まあそれは好みの問題なのかな…。
面白いのは間違いないもののモヤモヤ
そんなわけでいろいろ不満も書きましたが、これは僕が天の邪鬼だからというのも大きい気がするし、普通に観る分にはかなり楽しめる人も多いと思います。
なにせ最初に書いた通り僕は今回最大級のハードルを置かれてしまったので、それさえ無ければもっと評価していたような気もするし…もしかしたらウォッチパーティじゃない方が良かったのかもしれません。でもそうしたら多分自分では選んでいないので観ることもできないというジレンマ。
もう一回観ようかな、という気もしないし…なんだか語るのが難しい映画になっちゃったなぁというのもちょっと残念。
まあでも大前提としてはすごく良くできた面白い映画だと思います。中盤までのホラー感は特に良かった。
そこから終盤で一気にジャンルが変わっちゃったのが嫌だったのかもしれないなぁ…。
でも考えたら「インビンシブル」も似たような形だったし、単純に自分の好き嫌いなのかな…。
うーん…でもあのラストシーン、カッコいいけどカッコつけすぎてて余計冷めちゃったんだよなぁ…モヤモヤ…。
このシーンがイイ!
家が血だらけになるシーンがすごく良かったですね。気味悪いしいろいろ察せられるし。
ココが○
設定の面白さとそれを活かしたホラーは本当に新鮮でした。
あと単純に画が良い。映像や見せ方がすごく良い。
ココが×
詳しくはネタバレ項に書いたのでそちらに譲ります。
ただ箸にも棒にもかからないクソ映画だから文句を言っているわけではない、というのは改めて強調しておきたいと思います。
むしろ逆にすごく良かっただけになんでこうなんだよ、と好きだからこそ文句を言いたくなる感覚です。美味いのに量が少ないんだよ俺はハムスターじゃねえ、って文句言いたくなるような感じ。
MVA
皆さんそれぞれいろいろ見せ場がありましたが、この人かなぁ。
ブランドン・ペレア(エンジェル・トレス役)
ショップ店員なのになぜか主人公兄弟と行動をともにする準主役。
彼がいたおかげで緩急ができた部分があったと思うし、イケメンなんだけど憎めない頭の悪さがすごく好きでした。
余談ですがちょい役で「オーシャンズ」シリーズのリビングストン(エディ・ジェイミソン)が出てて妙に嬉しかったです。オーシャンズ以外で観たの初めてな気がする…。