映画レビュー0721 『パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間』
今回もNetflix終了直前の映画です。
これもねー、観たかったんですよ。世間的には地味な映画だとは思うんですが。他にも何本か観たかった映画が同時に配信終了という憂き目にあったんですが、悩んだ末この1本を選びました。
パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間
ケネディ大統領暗殺事件に興味があるなら。
僕が初めて「JFK」を観たのは多分16〜7歳ぐらいの時だったと思うんですが、それ以来このケネディ大統領暗殺事件というのは結構大きな興味の対象になっていて、それ故自動的にこの「事件の周辺にいた人たち」を描いた映画には公開時から興味がありました。ただ、「真実の4日間」というタイトルから感じる真犯人や事件の真相に迫るような要素はまったくなく、あくまで事件周辺の細部を描いた映画、という内容になっていて(とは言えこのタイトルも嘘というわけではないですが)、犯人や陰謀という“事件そのもの”に重きを置いた「JFK」とは違う視点の、事件をより立体的に、リアルな出来事として現代の人たちに理解させるような映画と言う感じでしょうか。方法としては群像劇のような形を取っています。
主要人物として描かれるのは、まずあの有名な「ザプルーダー・フィルム」を撮影したエイブラハム・ザプルーダー。そして弟であるリー・ハーヴェイ・オズワルドが事件の実行犯として逮捕されたことを知る兄、ロバート・オズワルドと二人の母マーガレット・オズワルド、かつてオズワルドを監視対象として追っていたFBI捜査官ジェームズ・ホスティとその上司、さらに当日大統領の警護にあたっていたシークレットサービスの面々と治療に当たった病院の医者と看護師…と言った人々です。
一応タイトルである「パークランド」は、事件後に大統領が担ぎ込まれ、さらに後日撃たれたオズワルドも担ぎ込まれた病院の名前なので、数奇な運命を引き寄せた場所としての主役がこの病院ということなのかもしれません。ちなみにこの映画では描かれていませんが、オズワルドを撃ったジャック・ルビーも後年このパークランド病院で亡くなったそうなので、このケネディ大統領暗殺事件に登場する重要人物3人がすべてこの病院で生涯を閉じた、というのはなかなか不思議な感じがしますね。最もこの事件の舞台となったダラスにおける大きな病院がここぐらいだったのかもしれませんが…。
あまりあらすじを補足するようなこともないんですが、大雑把に言ってしまえば、今までは事件として、大統領が射殺されオズワルドが逮捕されるも射殺され果たして真相は…的にある種「事件そのものがあらすじ」に組み込まれることが多かった誰もが知っている大きな事件を、改めて当事者たちを通して当日(から4日間)の様子を詳細に組み立て直した映画、というところでしょうか。
例えばケネディ大統領は、もう撃たれた時点で即死間違い無しだったんだろうと僕は思っていたんですが、でもやはり実際は病院に担ぎ込まれ、必死の治療と蘇生処置が施されていたというような話であったり、事件の一部始終を撮影していた「ザプルーダー・フィルム」の存在は知っていても、それを撮影した当人がどういう状況で、事件からどういう影響を受けたのかまでは知らなかったし、犯人としてのオズワルドという名前は知っていても、当然ながらその彼にも残された家族がいて、どういう人たちだったのかということまでは知らないわけです。
その辺の「ケネディ大統領暗殺事件」のディテールの部分を補完する物語として、事件をより理解する手助けになる映画と言っていいでしょう。
群像劇の形を取ってはいますが、やはり事件そのものが大変なものだし、とにかくすべてが時間との戦いになるため、全体的にサスペンスフルで緊張感がある上に90分ちょっとの映画ということで、とてもスピーディであっという間に見せきるという意味で面白い映画ではありました。当然ながら無駄な色恋や人間関係を描く必要がない話なので、ビシっと一本芯が通ったシリアスで良い映画だと思います。
ただ…当然ですがテーマがテーマなだけに、この「ケネディ大統領暗殺事件」そのものに興味が無いとほぼ観る価値のない映画でもあるとは思います。なにせ最初に書いた通り、新事実や事件の真相に触れるような内容は一切無い、ただ単純にその日以降の関係者たちの数日間を描いただけのお話なので、ある意味では番外編というか、ドキュメンタリーの一部をかいつまんで観るだけみたいなものです。なので、ある意味ではターゲットがはっきりした珍しい映画と言えるかもしれません。
ただしそれは日本(というか他国)に限った話であって、やはり当のアメリカ人たちにとっては、この事件の衝撃や意味の重さはまったく違ってくるんでしょう。実際に今同じことが起こっても同じような反応にはならないだろうなと思いながら観ていましたが、やはり「ケネディ大統領」という若く人気のあった伝説的な大統領だからこその衝撃でもあるし、あらゆる意味で「歴史の一部」となった大きな大きな事件であるからこそ映画として成立する、不謹慎ながらそこにドラマ性を見出だせる「事件としての破壊力」みたいなものがあったんだろうと思います。逆に言えば、こういう普通の人々の群像劇でもサスペンスとして成立してしまうぐらいに衝撃的な事件だったということでしょう。
ここまで読んでそれでも興味が持てるなら、観て損はしない映画だと思います。そうでないなら観なくても構わない映画でしょう。僕はそれなりに楽しめましたが、かと言って他の人にオススメしたいとも思わない、という感じ。
このシーンがイイ!
メガネの反射から見る「ザプルーダー・フィルム」はやっぱり印象的。でも結局一度もきちんと流さなかったのはちょっと不思議でしたね。そこが主眼ではなかった、ってことでしょうか。
ココが○
上に書いたこととやや矛盾はするんですが、単純に「大統領暗殺事件に出くわした人々」というだけでもう面白いというか、やっぱり事件が大きすぎるが故にそれに触れることを余儀なくされた人々の動揺っていうのは惹きつけるものがあります。
ココが×
事件の特性上、どうしても真犯人とか陰謀とかそっちの話が垣間見える内容に期待しちゃった面はありました。結局情報としては答えが変わらない詳細の部分でしか無いので、知ったところで勉強になる…みたいな面は無いです。
それと逮捕後にオズワルドが兄と接見する場面が出てきますが、あそこで事件について不自然なほど語らないオズワルドに少し違和感がありました。実際は「はめられた」とか「身代わりにさせられた」とか言っていたらしいんですが、この映画では事件についてまったく語らないので、やはり今でもはっきりしない真相に「触れるのも間違えるのもどっちも恐れて」曖昧な表現にしたのかな、という気がします。あそこで結構モヤモヤしました。
MVA
役者陣はなかなか通好みの良い配役が多く、演技という意味ではとても楽しめる映画だと思います。とは言えやっぱり…ご贔屓ですがこの人かなー。
ポール・ジアマッティ(エイブラハム・ザプルーダー役)
そもそもこの映画を観たい! と思ったきっかけが「ザプルーダー・フィルムのザプルーダー役をポール・ジアマッティがやる」という点だったんですが、その期待に応えてくれる味のある演技に大満足。。
ちなみに「24」のチェイス役でおなじみのジェームズ・バッジ・デールがオズワルドの兄をやっていて、これまた「24」のシークレットサービスでおなじみのグレン・モーシャワーがこの映画でもシークレットサービスをやっていて、この二人が共演するシーンがあった、っていうのが「24」ファンとしては一番嬉しいシーンだったかもしれません。