映画レビュー0965『未来を花束にして』
この映画は確か…朝のニュースかなんかで紹介してるのを観て、観たいと思ってたんですよね。
例によってネトフリで終わりが来たので観たよ系です。
未来を花束にして
サラ・ガヴロン
アビ・モーガン
キャリー・マリガン
ヘレナ・ボナム=カーター
ベン・ウィショー
ブレンダン・グリーソン
アンヌ=マリー・ダフ
ロモーラ・ガライ
フィンバー・リンチ
メリル・ストリープ
2015年10月12日 イギリス
106分
イギリス
Netflix(PS4・TV)
価値のある話なのは間違いないものの、盛り上がりに欠ける
- 偏見や家族の反発にも負けず、権利を求め時代を作った人たち
- 背景にあった過酷な環境も“見せすぎない”ことで観やすいものに
- 今も(別の形で)残る差別にも通じる普遍的な内容
- ただ映画としては今ひとつ盛り上がりに欠ける印象
あらすじ
ほげーっと「これ観ようと思ってたんだよね」と観始めたら意外とキャストが豪華でラッキー、みたいな映画でしたがもうちょっと盛り上がりたかったな〜と若干の消化不良み。でも間違いなく良い映画でしたよ。
舞台は1912年、イギリス。
まだ女性には参政権が与えられていない時代、その権利を得るための活動が広がり始めていた頃。
夫のサニー(ベン・ウィショー)と一人息子のジョージと3人で暮らす平凡な主婦のモード(キャリー・マリガン)が主人公です。
彼女は洗濯屋的なところ(今の言葉でなんて言うんだろ…アナログクリーニング工場かな)で働いていて、もう見るからに肉体労働で過酷な環境なんですよ。
ただそれがその当時はごくごく一般的な女性の生活だったんでしょう、特に疑問を感じることもなく、至って普通にその生活に適応している雰囲気。
一方世間では徐々に過激な手段も採り入れつつ女性参政権を得るための運動が活発化してきていて、モードも身近にその運動を目の当たりにしているんですが、特に興味もなくなんなら「最近何か物騒なことが多いわね…」ぐらいに感じてるっぽいです。本人に聞いたわけではないので憶測です。
ある日、お世話になった(おそらくご近所さんの)薬剤師の奥さん(ヘレナ・ボナム=カーター)がその活動の運動員だったために警察からマークされていたんですが、当時最新鋭の“監視アイテム”として登場したカメラによって偶然その薬局から出てきたところを撮られてしまったモードも「運動の仲間」と目されることに。
また同僚のヴァイオレットから集会への参加を誘われ、断れないタイプっぽいモードはそれに参加、そしてその後成り行きで「女性の現状ヒアリング調査」的な公聴会に出て今の職場の扱いについて証言させられたことも加わって、彼女は徐々に運動への関与を深めていくことになります。
世間はまだまだ「女性の権利」に不寛容な時代、運動自体への理解も乏しく疎まれる時代だったために夫のサニーからも冷たく扱われ、次第に“後には戻れない”状況に至っていくモードですが…果たして運動はどのように帰結するのか、あとはご覧くださいまし。
地味な映画に光るキャスト
映画自体はやっぱりというかそれなりに地味な映画なので、その分と言うわけでもないんでしょうが…実力派の良い面々をキャスティングしている映画というのがまずポイント。
まず久々に観たキャリー・マリガンが主人公でですね、彼女が演じていると知らない状態でボケーッと「この人なんかで観たことあるよなぁ…」と観ていたんですが、途中ではたと気付きました。あの「バツイチ子持ちも悪くないね(ヨダレ)」と世の一部の男性(おれ)を骨抜きにしてくれた「ドライヴ」のヒロインじゃん!
もうそこそこ良いお歳のハズなのに「今24歳です」とか全然違和感無いのすげーな、というどうでもいい感想から始めましょう。かわいいぜキャリー・マリガン。
彼女のダンナを演じるのが今をときめくベン・ウィショーさんですが、いつもの気弱な好青年感を封印して嫁に厳しい“ステレオタイプな亭主”像っぽい役柄を演じています。
まあ早い話がヘタレですよ。奥さん個人の意志とは関係なく、自分の望む“嫁像”を求め、世間体を気にするヘタレ旦那。
ただこれは特段変わった人間というわけでもなく、当時の男性の価値観はこれが普通だったんだろうし、今でも奥さんに「他者としての人格」を許容しないヘタレ旦那なんて山ほどいるので、簡単に言えば「つまらない男と結婚したね」って感じでしょうか。
彼女が世話になった薬剤師の奥さんを演じるのはイギリス人女優の筆頭的存在と言っていいでしょうヘレナ・ボナム=カーターで、彼女はその頭の良さから“運動”の要になる人物です。彼女との出会いがモードにとってかなり大きなものであったのは間違いありません。
またその運動の象徴的存在としてトップにいるのが、ほんのちょっとだけ出てくる大女優メリル・ストリープという布陣。いやもう納得感すごい。そりゃこの人はメリル・ストリープだわ、みたいな。
ただその運動が徐々に過激な方向に向かっていったこともあって警察はより厳しく取り締まるようになってきていて、その現場の責任者的な存在がブレンダン・グリーソン演じるアーサー警部。これがねー、またなかなか渋くて良いんですわ。
という感じになかなかいいメンバーを取り揃え、実話ベースの女性参政権運動を描きます。
現代社会にもつながる差別意識
これ、たかだか100年程度前の話なんですよね。当たり前ですが1人の人間がこの頃から今に至るまで生きててもおかしくない程度の期間なんですよ。
でも「100年でこんなに違うか!」ってびっくりするぐらいに前時代的な人権感覚なのがまず驚きました。びっくりして驚きましたよ。かぶりまくりです。
この頃は当然のように「女性の方が精神が安定してないから参政権なんて無理」みたいな論調が一般的な感覚なんですよ。今でもそういうこと言う人いるけどさ。でもそれがマジョリティとなるとやっぱり隔世の感があるなぁと。
被選挙権ですらないですからね。参政権ですから。で、そのベースにあるのは差別意識なので…結局「前時代的な人権感覚に驚きつつ今でも珍しくない差別意識が垣間見える」辺りにこの話の妙というか、価値があるんじゃないかなと。
「女性に参政権なんてとんでもない」っていうのはまあこの時代であれば仕方がないというか、今ほど人権が浸透していないことを考えれば無理もない世論なんだろうと思うんですが、一方でその理由がまったく根拠のない差別にあるので、「それって今でも同じような問題いっぱい無くね?」と悲しくなる部分もまた往々にしてあるわけです。
むしろこの頃よりも成熟した社会であるはずの現在においてもまだ変わらない差別意識が残っている、というのは…大げさですが「人間の浅はかさ」みたいな部分に嫌気が差す思いはありました。全然そういう話ではないんだけど、そういうものを想像させる現代社会の劣化ぶりに思いを至らせずにはいられなかったですね。
そもそも今可視化されている差別は置いといたとしても、この頃のように今常識だと思って世間に通用していることが実は大変な差別だった、みたいなこともおそらく残ってるんじゃないかと思うので、今まったく気付いていなくてもその未熟さが後世になって改めてわかることもきっとあるんでしょう。
そう考えると、やはり個人の努力ではどうにもならないものに対しては、どんなものであれ常に謙虚にフラットに捉えるべきなんだという教訓も得られたような気がします。
「乳輪でかいのがちょっと残念だよね」とか安易に言っちゃダメだな、とか。それが好きな人もいるから難しいところなんですが。(問題のある例え)
もうちょっと盛り上がりが欲しい
そんなわけで、ただ「男だから」「時代が違うから」で関係ない話ではないので、今この話を知って学ぶべきことがある良い映画…であることは間違いないんですが、とは言え残念ながら映画としてはもう一つ盛り上がりに欠けるのは否めません。
特に終わらせ方が…事実のままなんでしょうが、そこに決着を置くならそれに向かってもうちょっと見せ方があったんじゃないのかなという不完全燃焼感もあったし、あまりグワッと盛り上がることもなく淡々と終わっていった感じがとても残念。良い映画なんだけどなぁ。
全体的に地味だし、もっと主人公が運動に入り込んでいく心情を丁寧に見せて欲しかった気がして、ところどころ惜しい映画ではあると思います。
ただ知る価値のある物語であるのは確かだし、キャスティングも良いので一度観てみるのはいいんじゃないでしょうか、という差し障りのない感じで終了です。よろしくどーぞ。
このシーンがイイ!
これはねー、「お母さんを探してね」のところですよ…。ここはちょっと泣いちゃったなぁ…。
ココが○
歴史を知る意味でも価値があるし、描かれる内容が決して「昔だから」ではないところにも価値がある点。ここすごく大事だと思います。
ココが×
くどいようですがやっぱりもう少し盛り上げて欲しかったかなぁ。ラストの出来事がアレなんだったらそれに向けて感情を高めるような作りにできたと思うんだけど…少々もったいない終わり方だった気がしますね。
MVA
例のごとく皆さんとても良くて、いつもと違うベン・ウィショーだったりキャリー・マリガンのかわいくも健気で強い女性像だったりいろいろ良かったんですが、今回はこの人に。
ブレンダン・グリーソン(アーサー・スティード警部役)
一応主人公のモードからすれば“敵”に当たるポジションではありますが、どこか現状への疑問も持ちつつ自身の役割を全うしようとする真摯な姿がとてもブイシー。
例によってなかなかの体型なんですが、でもかっこいいんだよなぁ。まだまだ息子には負けんぞ、といい味出してました。