映画レビュー1026 『アメリカン・ソルジャー』
この週2本目もネトフリ配信終了の中からいつものようにチョイス。
この映画はタイトルも知らなかったんですが、なかなか評判が良さそうだったので観てみましたよと。最近ちょっと気になるマイルズ・テラー主演作です。
アメリカン・ソルジャー
『帰還兵はなぜ自殺するのか』
デイヴィッド・フィンケル
2017年10月27日 アメリカ
108分
アメリカ
Netflix(PS4・TV)

システムから見る帰還兵の実際。
- イラクでの任務を終え、アメリカに帰還した兵士たちそれぞれの帰還後の生活
- いわゆるPTSDの問題と同時に、それを解決するはずの社会側のシステムの問題も描く
- より等身大感の強い“帰還兵”の問題はリアリティもあり、実情を知ることができる良い物語
- しかしそんなことよりヘイリー・ベネットがエロカワすぎる
あらすじ
日本では劇場未公開、確かに内容的にも日本とは少し遠いものでもあるし、スタッフ・キャストともに(世間一般に知られていて売りになるような)ビッグネームはいないためにそれもまたやむを得ないかなと思う面はありましたが、しかしとても実直な良い映画でした。
主人公のアダム(マイルズ・テラー)とトーソロ、ビリーの3人はイラクでの15か月間の従軍生活を終え、アメリカに帰国。同じ班で任務にあたっていた3人は親友同士として、帰還後も折に触れて集まっては飲み交わす間柄です。
アダムは妻サスキア(ヘイリー・ベネット)と2人の子どもと一緒に暮らし、一見幸せそうですがイラク従軍時の経験がトラウマとして残っていて、妻から見ても帰還前とは少し様子が違うようです。
トーソロも同様に従軍時のある経験が“起床時も”悪夢のようにフラッシュバックし、また兵役中の怪我による記憶障害もあって帰還後の生活適応に苦しんでいます。
ビリーは「帰ったら結婚するんだ」とおなじみのフラグを立てつつ帰宅すると家具も一切無い上に婚約者の姿も見当たらず、いかにも不穏な雰囲気。
そんな状況でなかなか帰還後の生活に適応できずに悩む彼らは、公的な援助を求めて手配を進めるも、行政は手一杯でどこもかしこも“帰還兵の”順番待ち状態。
助けを求めてもやってくるのはいつになるのかわからず、その間もずっと苦しみ続ける帰還兵たち。彼らは今後、どのような人生を歩むことになるんでしょうか…。
社会システムの惨状を思い知らされる
原作である「帰還兵はなぜ自殺するのか」はノンフィクション作品で、この映画もその原作本を元にしているため、基本は実話を元にした映画になっているようです。
実際にエンドロールで主要登場人物ご本人の写真が出てきたりもするので、ご多分に漏れず脚色はそれなりにあるんでしょうが、大きな出来事としては概ね事実を描いているものと思われます。
何せ原作本のタイトルがタイトルなので書いちゃいますが、「帰還兵の自殺」が重要なテーマの一つなのは疑いようがなく、よって実際に自殺する人も出てきます。要は「なぜ彼らはそこまで追い込まれるのか」をより本人たちに近い部分の描写で見せていく内容の映画と言う感じでしょうか。
同様の帰還兵の問題を描いた映画としてはやはり「アメリカン・スナイパー」が外せないと思いますが、個人にフォーカスしていたあの映画と違い、こちらは部隊仲間数人を描いているのでより多面的に帰還兵の実際を見ることができる印象で、(映画としての良し悪しは別として)あの映画よりももっとリアルな現状を知ることが出来たように感じました。
また帰還兵の再就職に伴う金銭的な問題とメンタルケアのシステムについても物語に織り込まれているので、これだけ大変な思いをする帰還兵たち(それこそ本のタイトルにされてしまうぐらいに自殺者を生んでいる現状)が多い中で、いかにアメリカの社会システムが回っていないのかを如実に思い知らされる内容なのがなかなか救いがたい重さをはらんでいて、勉強になった反面観ている方もつらい、絶望的な状況であることを知ることにもなります。
そこがこの映画の秀逸なところでもあり、同時にアメリカの病理の一端を知ることにもつながるというのがなんとも皮肉な話ですね。
社会派映画好きにはぜひ
もう本当に単純に「戦争は誰も幸せにしないな」と感想を抱く映画でもあるんですが、ただ実戦の場で生き死にを賭けさせられる時点で「戦争よくない」と思うさらにその先に、生きて帰ったところでその後も大変だ…という戦争の不幸生産装置っぷりを思う存分知らされるのもこの映画の有益な面と言って良いでしょう。
また途中でいかにも現場をわかっていないお偉方が数人登場しますが、上がこれだと変わりようがないしんどさは想像を絶するものがあり、いかに下の方の人たちが割を食っているのか、それ以上にそもそも上がこうだから戦争は無くならないんだろうなという絶望的な構造を知ることにもなり、思っていた以上にアメリカは大変だし病んできているんだなと思わされます。
直接的なつながりは無いだろうと思いつつ、でもやっぱりこれだけ疲弊してきちゃうと単純に(深く考えずに)変化を期待してトランプを大統領に選んじゃうような下地が出来てきたのかなと言う気もするし、「アメリカの国力が落ちている」その言説への説得力を持たせる一要素を見せてもらったような気がします。それぐらいにシステムがひどい。
もっともじゃあ日本は良いのかと言われれば、主体的に戦争をしないだけでシステム自体のひどさはさして変わらない気もするし、今はどの国もこうして疲弊してきているのも確かなんでしょう。
そうやっていろいろ考えていくとなかなか今の時代どこもしんどいよね、という悲しい結論に至らざるを得ず、なんだかんだ自分とは無関係に見える帰国兵の人たちも自分の住む世界とつながっているんだな、と実感するわけです。そしてつながっているからこそつらいし、悲しくもあるなと。
そこまで自分のもとに手繰り寄せることができるかどうかは観る人次第だとは思いますが、そんな考えの一助になるような「社会の劣化をリアルに感じられる」話だと思うので、社会派映画好きであればぜひ一度観ていただきたいところです。
このシーンがイイ!
詳しくは書けませんが…アダムが夜一人で運転席に座ってアレコレするシーンがですね、もう素晴らしい演技で。マイルズ・テラーすごいなと。
それとアダムがある人に会いに行くシーンもすごくよかった。そこに救いがあって。
ココが○
ここまで帰還兵の実際に触れた話はなかなか珍しいと思います。どうしても軍人はどこか本心が見えない描写が多いと思うんですが、やっぱり裏では上官の陰口も叩くし、「英雄」と呼ばれるような人でも強い悩みを抱えているんだなというのがよくわかって。
ココが×
ご多分に漏れず地味ではあります。
どうしても日本人からは遠い題材でもあるので、興味を持てるかどうかはその人によるかなと。
MVA
気持ちとしては完全にヘイリー・ベネットにあげたいんですけどね。もう初登場シーンから「ヘイリー・ベネットじゃね!?」と鼻息荒く見てしまい、それ以降彼女が出てくるともう彼女しか見てないしそこはかとないエロスが漂ってるしで相変わらずたまんねーなと。
しかし演技的には泣く泣くこちらの方にせざるを得ません。
マイルズ・テラー(アダム・シューマン役)
主人公。
上の「いいシーン」に書いたシーンもそうですが、まあやっぱり演技が抜群にうまいですよこの人。この映画を入れて今まで3本しか観ていませんが、どれもやっぱり演技がすごく印象的で、もう早々に演技派としての確固たる地位を確立しちゃっているような印象。素晴らしいですね。


