映画レビュー0312 『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』
この映画も公開時に観に行きたかったんですが、近場でやっていなかったのでやむなくスルー。仕方がないとは言え、まぁ埼玉みたいな田舎だとこの手の社会派映画はなかなかやりませんなー。
スーパー・チューズデー ~正義を売った日~
サスペンスフルな政治の裏側。
何度か書いていますが僕は政治ネタが大好物なので、実にリアリティのある生々しい展開は純粋に楽しめました。ただ政治に興味のない人が同じように楽しめるのかというと微妙な気もするし、そもそもテーマがアメリカ大統領選挙なので、日本人としてはイマイチピンと来ない、っていうのもまた無理は無いのかな、という気もします。ただ、この手のアンダーグラウンドの話は、当然ながら日本でもある話なわけで、要は戦いの舞台が違うだけで、政治とその周りの話についてはだいぶ似たものを見出だせるとも思います、と書いておいてまずはご説明。
まずアメリカの大統領選挙の仕組みの部分になりますが、アメリカは共和党と民主党の二大政党制になっていて、それぞれが大統領候補を選出、その後二党の候補どちらが勝つかを争って勝ったほうが大統領になるわけですが、この映画のタイトルにもある「スーパー・チューズデー」というのは、その「党候補を選出」する上で最重要とされる日のことで、この日の予備選挙に勝てば党候補としてかなり有利になる、という日本語で言えば「天王山」のような意味合いの日、ということになります。逆に言えば、この映画の舞台は直接大統領になる勝負ではなく、「どちらが民主党の大統領候補になるか」でしのぎを削るお話です。
ただ、この映画の舞台では「共和党候補は大した人物がいない」設定のようなので、事実上この民主党候補選出の選挙が大統領を決める選挙になるようなイメージです。そんな選挙戦を、有力候補・モリスの若きブレーンであるライアン・ゴズリング演じるスティーヴンを主人公に、情報戦、女性問題、忠誠心と裏切り…と言った選挙活動お決まりの要素で展開する政治サスペンス映画といった感じ。
そう、まず観た感想としては、かなりサスペンス色が強い映画だな、と思いました。当然、物騒な話もグロい殺しの場面も出ては来ませんが、ダーティーなイメージ戦略だったり、ポストを要求する有力議員であったり、「理想を語れば大統領になれる」わけではない、リアルでジリジリとしたストーリー展開はなかなか緊張感もあって、特にとある事件をきっかけにそれぞれのポジションが揺らいでいく後半の展開はなかなか惹きつけられました。それぞれ主要人物の思惑がありつつ、結局どういう人間が最終的に得をするのか…なかなか興味深い内容ですねぇ。リアル!
ただ、“リアル”とは言いつつも、やはり自国の選挙戦を描いているせいもあるんでしょうが、あからさまに重く厳しい、「本当にリアル」な世界を描いているわけでもなく、その辺りはうまく娯楽としてまとめている気がします。
僕としてはもっとゴリゴリと、救いようのない酷い話を観たかったと思いますが、でもそれをやっちゃうとかなり人を選ぶと思うので、映画としてそれなりの対象に向けた作りとしては、バランスがいい内容でしょう。
それと、個人的に最近ポール・ジアマッティが気になる存在だったんですが、味方の選挙参謀がフィリップ・シーモア・ホフマン、ライバルの選挙参謀がそのポール・ジアマッティというキャスティングの時点でもうすでにかなりグッと来て惹きつけられた、という側面もありました。地味ながらキラリと光る配役もポイントです。
僕はジョージ・クルーニーは社会派監督としてもかなりいい線いっていると思うんですが、その期待に恥じない、堂々たる「社会派娯楽サスペンス」とでも言うべき内容に仕上がっていて、ただクルーニーファンだから、っていう人は別として、内容に少しでも興味を抱けるようなら観て損はないと思います。
なかなかですよ、なかなか。
しかし…結局やっぱり男は女がきっかけで堕ちていくんですよねぇ…。考えさせられます。
そんな機会も無いですが。
このシーンがイイ!
特にコレがビシッと来たぜ! っていうのもなかったんですが、やっぱりラストシーンの余韻はさすがだな、という感じで。良かったです。
ココが○
日本では、選挙っていうのはテーマとしてあまり大衆向けとも言えないと思いますが、でもやっぱり「権力闘争」っていうのはそれこそ歴史物としても定番であるように、人間性がドバっと出てきて面白いんですよね。
上にも書いたように、なにせリアルに描きすぎるといろいろ問題が出てきて、それこそ圧力なんかがコンニチハしてきそうなテーマだと思いますが、その辺りうま~くフィクションとして娯楽的に作り上げているバランス感覚がいいですね。
ココが×
まずこれもまた、邦題がイマイチ。ややネタバレ気味になってるんでね…。
それともう一つ、やっぱりもっとコアなところを観たかったと思います。それ故に少し突き抜けなかったかな、と。ただそれは僕が「政治ネタ好き」だからこそ、一つ奥を期待してしまった面もあると思うので、一般的には間違った選択ではないと思います。
MVA
ジョージ・クルーニーは監督も兼ねていただけにそこまで出番も多くなく、演説のうまさに「さすがだなー」と思った程度。ただ役どころとしてはすごく似合ってましたね。
ポール・ジアマッティもそんなに出番が多くなかったのが残念。フィリップ・シーモア・ホフマンは相変わらず味があってよかったですが、でもやっぱりこの映画はこの人なんでしょう。
ライアン・ゴズリング(スティーヴン・マイヤーズ役)
結構いい男なんですが、調べたら「ラースと、その彼女」のラース役だったんですね。当然ですが全然イメージ違いました。デキる男っぽくて。
この人もいわゆる「目の光を失う」感じが良かったですね。ちょーっとやり過ぎな気もしましたが、まあでもしっかり演じていたと思います。