映画レビュー0862 『さらば冬のかもめ』
今回はネトフリ終了も特に無く、前回ちょっと消化不良だったこともあって余計に古い映画を観たいぞ、ということでこちらを。
さらば冬のかもめ

終わりの見えている旅ほど切ないものはない。
- 微罪で捕まった若い兵士に良い思いをさせてやろうとする兄貴分たちのお話
- 刹那的に遊び回りつつもタイムリミットが迫る中、微妙な感情が伺える味わい深さ
- 納得が行かないことがあっても生きていかなければいけない人生のほろ苦さ
いわゆるアメリカン・ニューシネマの一つらしいんですが、なるほど確かにこれはアメリカン・ニューシネマだねみたいな。(そのまま)
好きだわー、こういう映画。僕含め、この時代の映画が好きな人にはたまらない1本でしょう。
主人公はノーフォーク海軍基地に勤務する下士官のバダスキー。最も脂の乗り切った時期と言って良いでしょう、30代後半のジャック・ニコルソンが演じます。もう髪は寂しくなってきていますが意外なほどキリッとしたいい男。
彼は同じ基地に勤務する(おそらく)同階級のマルホールとともに上官に呼び出され、罪を犯し海軍を除名させられた新兵・メドウズの護送を命じられます。
彼の罪は僅か40ドルの窃盗(しかも未遂)だったんですが、様々なしがらみ故に除名及び懲役8年という重い刑を言い渡され、バダスキーとマルホールに刑務所まで送り届けられることになります。
普通に行けば2日程度で着く行程のようですが、上官から言い渡された期限は1週間。おまけに1週間分の日当もちゃんと出るぞってことでさっさと済ませて残りの期日で遊んで帰ろうと画策する二人ですが、まだ二十歳にも満たないメドウズに対する厳しい処分と彼の行く末に同情し、「人生の楽しみを教えてやる」とばかりに色んな所に連れ出して交流を深めていきます。
まだ酒の味すら知らないメドウズに飲ませて一緒に酔っ払ってバカ笑いしたり、母親に挨拶させようと実家まで連れて行ったり、いろいろしつつも迫るタイムリミット。
「理不尽な刑期」と誰もが思いつつ、良き友として日々を過ごす3人。果たしてどんな終わりが待ち構えているのか…! あとは観てねということで。
主人公は海軍兵士なんですが、内容としてはロードムービーかなということでジャンルはロードムービーにしました。
要は3人で限られた期間を過ごしながら終わりを迎えるお話で、雰囲気的には「ファンダンゴ」っぽさもあってたまりませんね。
他にも「ミッドナイト・ガイズ」「エンド・オブ・ザ・ワールド」辺りにも通じる、限られた残り時間から来るなんとも言えない切なさがあって。こういう話好きだなぁ。
「ファンダンゴ」でもモラトリアム云々は書きましたが、結局この3人は「海軍刑務所に到着するまで」のモラトリアムを過ごしているんですよね。各々タイムリミットは理解していて、そこでもう不可逆的な環境に身を置かれることはわかってるわけですよ。
たかが40ドル、しかも未遂なのに除名に加えて懲役8年、いくらなんでも重過ぎるしなんとかならないのか…と思いながらも彼を護送する二人は所詮下士官、どうしようもないわけです。
もちろんバダスキーやマルホール自身にその責はないこともよくわかりつつ、でも「海軍兵士として」申し訳ない気持ちも彼らにはあったんだと思います。その気持ちは海軍兵士としてのプライドの裏返しでもあるんじゃないでしょうか。「こんな重い処罰ですまん、助けられないがその分着くまでに良い経験をしてくれ」という思い。
これがねー。たまらないですよね。彼らに罪はないんだけど、でもちょっと罪滅ぼしっぽい雰囲気もあるんですよ。
「こんなこともしたことないまま刑務所入ってどうする」という兄貴分的なお節介が中心だとは思うんですが、その裏にある罪滅ぼし的な情の部分がすごく好きで、わかるなぁとしみじみ思いつつ観ました。
罪滅ぼし、って言うとちょっと違うかも知れないですね。でも…多分「俺らにはどうしようもできない」ことに対する罪の意識はあったと思うんですよ。自分たちの力不足を呪う気持ちが。
それを表面上は感じさせずにできる限りメドウズのためを思って行動する、その熱い親分肌的なバダスキーの姿は胸に響くものがありました。
コレ、当たり前ですが「護送任務=刑務所入り」という背景がなければもうホントどうでもいい話だと思うんですよね。海軍の先輩後輩が「酒の味を教えてやるよ」とかいろいろ先輩面して「あー楽しかった」で終わり、って。
やっぱり若くして微罪で刑務所に入れられる、そこにタイムリミットが設定されていることで彼らの心情が浮かび上がる作り、いかにもアメリカン・ニューシネマっぽい「個人ではどうにもならない無力感」も含めてたまらない。
70年代の映画らしく割とのんびりとしたペースで進むし、特に大きな事件も無く小さなエピソードの積み重ねで最後まで持っていくので退屈感は否めないとも思いますが、でもやっぱり登場人物各々の思いを想像しながら観ていくと、人生そのものを感じるようなほろ苦さにグッとくる面がありました。
この頃の映画が好きな人には間違いなく必見の1作だと思います。いやー、アメリカン・ニューシネマいいわ〜。
このシーンがイイ!
興を削がないようにぼかして書きますが、終盤近くにメドウズが勘違い発言するところ。詳細はネタバレ項に書きましたが、あそこでのバダスキーの返しが好きすぎる。ああいう返しができる男になりたい。
ココが○
やっぱり「終わりが見えた旅」という設定がすべてなんだと思います。我ながら本当にこの設定に弱い。
ココが×
どうしても地味で進みが遅い印象はあると思います。この時代の映画はそう見えるものが多いししょうがないことでしょう。
あと本編とは関係ないですが、ジャケットのインパクト強すぎ。上半身裸のジャック・ニコルソンのみですよ!?
MVA
後年からは想像できない朴訥とした雰囲気のランディ・クエイドも良かったんですが、でもやっぱりこの人しかいないでしょうねぇ…。
ジャック・ニコルソン(ビリー・バダスキー役)
やや血の気が多いガサツなタイプっぽいですが、その実優しく親分肌の下士官。
この役はこの時期のこの人を置いて他に適役がいなさそう。やっぱりちょっと他にいないタイプなんですよね。だからこそ大俳優なんですが。
なんと言うか、間の部分で思考を伺わせる演技が抜群。それだけフリが上手、ってことなのかな…。さすがの演技でした。


