映画レビュー0188 『運動靴と赤い金魚』
一週間ぶりのこんばんは。
先週行った「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は己の見通しの甘さゆえ、まさかの満席で観られませんでした。ショック。腹いせにスクリーン切り裂いてきましたよ。ええ。!
[2017年追記]
今作の公開日についてですが、本来であれば映画祭は除外し、一般的な劇場公開日を入れるようにしているんですが、今回は移転時にかなり調べましたが厳密な公開日がわからなかったため、便宜的に当作品が初公開されたと思われる1997年のファジル国際映画祭スタートの日付を採用しています。
運動靴と赤い金魚
豊かさってなんだろう?
僕にとっては初めてのイラン映画になります。イラン映画というとなかなかイメージは沸きませんが、この映画と「友だちのうちはどこ?」の二つは、割と映画好きには知られたタイトルではないでしょうか。
さて。まずオープニングで、慣れた手つきで妹の靴を修理しているシーンが出てきます。ここがまずもう日本人的にはビックリというか、違和感のあるシーンでしょう。かなりボロボロの靴を修理してまで履く、その生活水準というのは現代の一般的な日本人とは縁遠いもので、いきなりオープニングから国や文化、価値観の違いを見せつけられ、なぜかちょっと後ろめたいようなものを感じながらの観賞スタート。
んで、まー観ていけばわかるんですが、とにかくこの主人公家族は貧しい。ただ、貧しいとは言っても生活に極端に窮するレベルではなくて、いわゆる低所得層とでも言うんでしょうか。ただ日本のそれとはもちろん生活レベルが全然違います。
タイトルからも、またオープニングからもわかる通り、この映画の大きなフックは「運動靴」なわけで、ずーっと兄妹で一足の靴を交互に使い、それが常にストーリーの中心にあるわけですが、この「靴が買えないシチュエーションから物語が展開する」という前提がまずもう考えずにはいられないテーマというか、ハッとさせられましたね。
「靴も買えなくてかわいそうに」なんて上から目線で言うのは簡単ですよ。「靴のためにそんな一生懸命になるなんてねぇ」とか醒めるのも簡単ですよ。でも、前に「スラムドッグ$ミリオネア」の時もちょろっと書きましたが、果たしてこういう生活をしている人たちよりも日本人の方が“満たされている”のかと言われれば、それはまたちょっと怪しいんじゃないかな、と思うわけです。
ちょっとウルサイレビューになりますが、日本は先進国でありながら、いわゆる「幸福度調査」みたいなもので80位ぐらいだったかな? から上に行ったことが無いらしいんですよね。逆に言えば、日本より全然所得が低いのに、心はハッピーな国がたくさんあるわけです。
この映画の舞台であり、作った国である「イラン」も、所得としては日本よりも全然低いのはこの映画を観ても(一部上流階級的な人たちも出てきますが)一目瞭然なわけですが、でも目の輝きは全然違うんですよね。
作り物で比較するなよ、っていうのも至極真っ当な話ですが、でもこういう日常を切り取った話ってやっぱりその国の実情が伺えるものだと思うので、今の日本でこういう話(モノを運動靴から3DSやらなんやらに変えたとしても)をこれだけ一生懸命にがんばる子供を描けるか、もっと言えば描いた上に成立するのか、と言ったらそれは間違いなくノーだと思うわけです。くノ一じゃないですよ。間違いなくNOです。
日本はもっともっと社会全体が冷めてるし、いろんなシステムが見えすぎていて、こういう純度の高い人間ドラマというか、より本能に近い愛情の表現ってもう出来ない国になっちゃってる気がするんですよ。こういう映画を観ちゃうと。
わかりやすく言えば、「いやこんなイイ子いないでしょ」ってなっちゃうと思うんですよね。日本だと。
とにかくこの兄妹の、たまに喧嘩はするものの、お互いを思う純粋な優しさ、純粋な「子供らしさ」っていうのは、すごく懐かしいし羨ましくて、微笑ましいんだけどちょっと(日本人として)切なくなるような、すごく複雑な余韻を抱く映画でした。
もっとも、これは僕自身の日本社会に対する諦めみたいな面が多大に影響しているのも間違いは無いので、観る人によって印象が変わる映画でもあると思います。ただ、これを観て「国違うからよくわかんない」とか「靴程度で大げさwww」とかすごく浅い部分でバッサリ切っちゃうような人は、人としてとても悲しいんじゃないかと個人的には思います。
今の日本に住んで、日本の現状をいろいろ考えた上で観たときに、これほど考えさせられる映画もなかなか無いと思いますよ。自分が見ているフィールドによって、幸せの感じ方が変わってくる、目線をどこに持っていくのか、その認識の大事さを改めて感じました。
、と。このシーンがイイ!
やっぱりオープニングがある意味衝撃的というか、「日本人の価値観で観ると間違えるよ」というメッセージになっていた気がして、掴みとしてはすごくいいシーンだったと思います。
ココが○
ちょっと本レビューの方で内容にあんまり触れてないので補足しますが、すごく地味な日常の話ではあるものの、その登場人物たちの価値観や日常を考えていくと、すごく味わい深いストーリー展開になっていて、じわじわ染み入る良さがあります。
商業臭のしない部分でもすごくイイ。陳腐な言い方ですが、ちょっとだけ「心が洗われる」ような映画かな、と。
ココが×
特にこれと言ってはないかな?
1シーンだけ、「指導者バンザイ」的なシーンがあってそこに違和感は感じたりしましたが、それもまたイランの実情なんでしょう。
MVA
これはもう、かなり序盤から決めてました。
バハレ・セッデキ(ザーラ役)
妹役の女の子。
中東の子はあんまりなじみがないんですが、もう序盤のすぐ泣きそうになる表情からしてすごくかわいい!
お兄ちゃんの方もそうでしたが、「純度100%の子供!」っていう感じがすごくよくて。「アイ・アム・サム」でのダコタ・ファニングとは正反対に位置するイメージ。あれはあれですごくよかったんですけどね。演技としては。
ただこっちは演技どうこうじゃなくて、もう子供そのものな感じが映画にすごくマッチしていたと思います。