映画レビュー0635 『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』

さぁさぁ今年初の劇場鑑賞のご紹介タイムがやってまいりましたよぉー。チョイスしたのはコチラの映画。

一部方面では絶賛されていたので、期待を胸に久しぶりのイオン浦和美園にてレイトショー鑑賞でございます。

アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場

Eye in the Sky
監督
ギャヴィン・フッド
脚本
ガイ・ヒバート
音楽
ポール・ヘプカー
マーク・キリアン
公開
2016年4月1日 アメリカ
上映時間
102分
製作国
イギリス

アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場

英米合同のテロリスト捕獲作戦中、小型ドローンからの映像により、テロリストたちが今まさに自爆テロを準備していることが判明。「捕獲をやめて爆撃し、殺害すべきだ」と作戦目的変更を議論し、ついに決行かというその時、ターゲット近くの路上で少女がパンを売り始め…。

めちゃ面白いけど娯楽寄り。

9.0

予告編を観て「ミサイル撃ち込んだら少女が死んじゃうけどどうしよう」で2時間やるのかよ偽善乙、的な印象を持ちつつ観に行ったんですが、もちろんそこまで善悪云々に偏った話ではなくてですね、国ごとのしがらみやら法律やら、万国共通「責任取りたくない症候群」のせめぎ合いやら、軍事・政治両面のサスペンスっぽくありつつも、実は人間風刺なんじゃないかという気もするし、いろいろと多方面から「判断を迫られる人間たち」についての観察劇としてとても良く出来ていて、「わしゃ軍とか関係ないしー」というような立場の違いでハナホジってりゃいいよ、というような単純なものではなく、むしろ「ああ会社とかでもこういう人いるよね」と身近に投影できる意味で、ほんのり「十二人の怒れる男」に近い印象がありました。

ほんのりと、ね。そこまで似ているわけではないですが、「立場が(常に)人を変えるわけではない」というような、人間性についての描写という意味で、少しあの映画に近いものがあるな、という感じ。ちなみに、ご存知昨年他界されてしまいましたスネイプ先生でおなじみ、アラン・リックマンの遺作になります。

ちょっと細かい部分で相違があるかもしれませんが、その辺はウヤムヤにして頂いて以下ご説明。

物語のターゲットは、実在するイスラム過激組織「アル・シャバブ」の重要人物2人。(3人だったかも)

ターゲットは各人が英米どちらかの国の国籍を持っていて、合同作戦を展開する英米両国としては、基本的には彼らを「捕獲」したい。つまり逮捕して自国で裁判にかけたい。で、彼らが同じ建物に入ったことが確認され、これほど機が整ったことはない、このチャンスを逃したくない、と作戦に従事する軍人たちは色めき立ちます。

そんな中、超小型ドローン(コガネムシみたいな虫状のもの。これがもう新鮮でスゴイ)で室内を探ったところ、今まさに自爆テロの準備をしていた…ということで事態が急変、軍部は「テロの前に殺害するべきだ」と訴えるも、法的にはどうなのか、(イギリスが判断するので)アメリカは了承するのか、そもそも(テロリストたちが会合している現場である)友好国内への爆撃は戦争行為じゃないのか…などなどいろんな方向で喧々諤々、そして判断は上へ上へと伝達され、時間もないのにいつになったら実行出来るんじゃボケ! と現場指揮官のヘレン・ミレンがイライラ…というようなお話です。

少し説明が前後しますが、この「英米合同作戦」は(多分)今のネット社会らしい、非常に広範囲なシフトが組まれた作戦になっていて、まず指示を出す司令部はイギリス国内の会議室。場所は忘れましたが、多分ウェストミンスター宮殿内とかじゃないでしょうか。日本で言う官邸みたいなところ。ここにいるのが、国防相であるイギリス軍のベンソン中将。アラン・リックマンです。そしてその傍らで政治判断をする、つまり政治的な責任を負う立場の閣外大臣やその他大臣が待機。

で、そこで出た結論をベンソン中将が現場指揮官であるパウエル大佐に指示。この人がヘレン・ミレン。彼女は軍作戦司令部みたいな薄暗い場所で働いています。ここには作戦の被害状況をシミュレーションする人や、法的問題を精査する担当の人などが待機。

んで、じゃあいざ決行しましょうかね、となった時にパウエル大佐がその指示を伝達する実行部隊は遠くアメリカのネバダにいて、ここでは(攻撃用)ドローンを操作する人、その補佐としてミサイル発射担当の人が待機。顔アップが綾瀬はるか似のフィービー・フォックスが舞台に華を添えます。

さらにハワイには顔認証担当の技官がいて、カメラに写ったテロリストたちが本当にその人なのかどうかを照合します。そして現場のソマリアにも協力軍が待機。さらにさらにそのソマリアの最前線、最もテロリストに近い場所で小型ドローンを操って映像を送る男が、例の「キャプテン・フィリップス」で海賊のリーダーを演じたバーカッド・アブディという陣容。

長々と書きましたが、これだけいろんな人達が各所で関わる一大作戦なわけですよ。場所だけでも、イギリス国内の会議室、軍司令部、ネバダの基地、ハワイの基地、ソマリアの基地、そして現場と6か所ですからね。

そこで各々が思うところあり、意見を具申しては突っぱねられ、また相談され、挙句の果てに「外相の判断が必要だ」と今度は出張中の外相に連絡、さらにアメリカの国防長官にも許可を取らねば…とミサイルたらい回しの刑。

全編に渡って至ってシリアスな映画なんですが、もうさすがに途中で笑いましたね。何も進まねーな、と。そして既視感がすごい。

そう、あの「シン・ゴジラ」の世界…つまり日本の意思決定とさして変わらないんですよ。責任を取りたくない人たち、特に“手を汚す”ことのない人たちの判断を忌避する態度、そして最終的にスイッチを押すことになる軍人の逡巡、いろいろな思いが交錯してまー進まない。

で、それが面白い、という。

そりゃーゴリゴリ判断するカリスマがいてドカーンで終わり、だったらお話にならないので当然なんですが、ドローンで現場の状況を確認、即座に被害状況のシミュレーションが出て、その結果法的にあーだこーだ、とまさに今の時代らしい戦争を描いていて非常に興奮しました。

その最先端の戦争という技術的な側面の面白さに、判断できない人間という永遠の課題が合わさって、技術に人間が追いついていないような意味合いも見えてくるし、まさに今この時代だからこそ出来る、今この時代だからこそ“美味しい”映画と言えるんじゃないでしょうか。

ただ、不満がないわけでは無いです。一つ思ったのは、社会派のようでいて娯楽映画の色が強い部分。

テーマ的にものすごく考えられそうな映画なんじゃないかと思ったんですが、実際はそうでもなくてですね。結局ウダウダと「やるのかやらないのか」をひたすら緊張感たっぷりに見せてくれる“だけ”の映画なので、感慨深い何かをお持ち帰りして「やっぱり今の世の中間違ってる…!」とか熱く思いを胸に秘めるような映画ではないというか。まあ、それが悪いというわけでもないんですよね。それだけ観やすく面白くなっているのは間違いないので。

ただ、社会派っぽい雰囲気でありつつ、実態は「軍事サスペンス風娯楽映画」なので、少しギャップがあったのが肩透かし感というか。

例のアレですよ。おなじみの。焼肉食べに行ったらうどん屋だった、みたいな。美味しいうどんだったけどこの焼肉腹どうしてくれんねん、みたいな。

とまあ細かいことを言いつつも、映画としてはひじょーーーーによく出来ていると思います。何せ軍服着たヘレン・ミレンが主役というビジュアル的にとても地味なので、日本では到底ヒットしなさそうですが、しかし骨のある映画を観たい向きには素直にオススメできます。んで上に書いた通り、戦争映画や社会派映画好きというよりは、少し硬派な娯楽映画好きにオススメしたい。きっとこれからの時代、当分こういう「社会派っぽい娯楽映画」の良作が増えるんじゃないかという気がします。

新年一発目の劇場鑑賞として大満足のチョイスでした。

このシーンがイイ!

アメリカ国防長官が出て来るシーンでしょうか。「まーた中国推しかよ」と思って観ていましたが、実はアレ「中国推しのアメリカ」を揶揄したシーンのような気がして。言い放つ言葉もまさにアメリカ人っぽい感じで、「イギリスは人間的に悩むのにアメリカって…」みたいな、すごく見えづらいんだけど根っこの方ではバカにしてるぜ的な軽い風刺も感じられました。

ホント、イギリスってアメリカの風刺が好きですよね。そんなイギリスが好きです。

ココが○

これは○×両面で、なんですが、テーマの割に非常に観やすい、よく出来た娯楽映画になっていた点。ある意味ではプロパガンダっぽくもあるんですが、当然そういう匂いはだいぶ感じられないようにしてあるし、かなり巧妙に娯楽に寄せている点が「一般向けとして」良い点ではないでしょうか。

ココが×

同じく、娯楽映画に「なってしまった」点。いいんですけどね。面白いから。

ただ、これがノンフィクションなら話はまた違ったと思うんですが、フィクションとして観ると…やっぱり話がいかにもおあつらえ向きだし、なんだかんだ言って「偽善乙」感もあるわけで。もう一歩、深いところが観たかったかな、と。

MVA

コブラ(会議室)にいたオバちゃんがいろんな意味ですごく良かったんですが、でもラストシーンでやっぱりこの人にしよう、と。

アラン・リックマン(フランク・ベンソン中将役)

劇中の軍トップで、政治と板挟みになる、ある意味中間管理職なお人。

この人の佇まいとあの声はやっぱり貴重だよなぁ、としみじみ。69歳で他界は若すぎますよね…。改めて、ご冥福をお祈りします。

でも最後に良い映画を残してくれて、それはそれでとても良い終わりだったのかもしれないな、と思います。

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