映画レビュー0482 『めがね』

諸事情により邦画を消化しております。邦画が3本続くのはうちのブログとしては初めてじゃないかなぁ。そんなことに興味ないですよね、はい。

荻上監督の前作「かもめ食堂」同様、小林聡美ともたいまさこが主演、またもや室井滋は出てこないのか! とやっぱり猫が好きファン的には思うわけですが、出てきません。

めがね

Glasses
監督
脚本
音楽
金子隆博
主題歌
「めがね」
大貫妙子
公開
2007年9月22日 日本
上映時間
106分
製作国
日本
視聴環境
BSプレミアム録画(TV)

めがね

ある春の日、とある島に、ひとりの女性・タエコがやってくる。島の人たちはマイペースでとてもゆるゆる。そのゆるすぎる日々に我慢できなくなったタエコは、泊まっていた民宿・ハマダを出ていこうとするが、なんだかんだで結局戻ってきてしまい…。

何度「いいなぁ~」と言ったことか!

9.0

もうね、「原付日本列島制覇」でのミスターのように言いましたよ。何度も。「いいなァ~ こんなのないなァ~」って。

沖縄のような南国(鹿児島の与論島らしいです)で、ひたすらゆるく暮らす人々と、外からやってきた人とのアレコレ。

主人公・タエコはあまり理由を語りませんが、日常のしがらみから開放されたいような感じで島にやってきます。でもその割にゆるすぎる生活に若干の苛立ちも見せる辺り、あまりきちんと下調べをして来たわけでは無さそう。メガネ着用。

タエコの泊まる宿「ハマダ」の主人・ユージは、“よそ者”のタエコにも大らかに料理を振る舞いながら、ただただゆるい生活を楽しんでいる様子。メガネ着用。

高校教師のハルナはいつもハマダで朝ごはんを食べては遅刻する、いつ仕事をしているのかが謎の女性。時にドライバー担当。メガネ着用。

そしてこの時期だけフラッとやってきては住民にかき氷を振る舞い、毎朝謎の「メルシー体操」を住民たちと踊る謎のにこやかおばさん・サクラ。朝起きたら枕元にいる、とか結構ホラー。メガネ着用。

最後に、タエコを追って島にやってきた優男・ヨモギ。ビール大好き。もちろん、メガネ着用。

このメガネ5人が、ある一定期間共に過ごし、特に何をするでもなく、何かを尋ねても突っ込みすぎず、徐々にゆるい関係を築き上げていくというお話。んー、なんとも説明が難しい。

「まだ日本にもこんな場所ってあるんだろうか」と思うような、永遠に同じ日が続くんじゃないかと思わせる、ゆるやかで優しい島。「いい海老をもらったんで」とか「かき氷のお礼に演奏を」とか、ちょっと説明臭く言えば「貨幣価値の外に価値があるコミュニティ」のお話です。昔ながらの物々交換だったり、顔が見える関係性だからこその生活。

間違いなく「失われた日本の良さ」を感じさせてくれる映画で、懐かしさを感じつつ、自分もここに行きたいなぁと思うけど、でもきっとこの場所は存在しないという寂しさも感じる、絶妙なさじ加減の素敵な映画でした。正直に言えば、今までの人生で観た邦画の中で一番良かった。

ホントになんてこと無い物語なんですけどね。主人公のタエコも最後まで何者なのかわからないし、普段何をしているのかもわからないし、目的もわからないし。他の登場人物もそう。

背景はまったく語られないし、ちょっとその辺に触れても答えが出る前にゆるやかに時間が過ぎていっちゃう。でも、それがいい。すごく心地いい。

責任だとか、競争だとか、理由だとか、イマドキの日本人ががんじがらめになっている要素、全部ない。この島の生活に羨ましさを感じない人はすごく残念だと思う。もちろん、すぐ飽きるかもしれないけれど、でもある意味では理想の生活を描いた映画だと思います。

前作「かもめ食堂」でも感じましたが、やっぱりこの荻上監督は、今の「何が何でも経済優先」な日本に対して少し思うところがあるんだと思います。それを声高に叫ばずに、「こういうのもあるでしょ?」って優しく見せる、そのスタイルがすごくいい。

「昔はもっと良かったよね」的なノスタルジーに訴えるわけでもなく、現在の時間軸でこういう話を作り上げるセンスは素晴らしい。

どこかフランス映画のような印象でした。優しい、優しい、一般人の映画。

少しテクニックの話をすれば、演技(演出)も当然ながらものすごく自然体で、まったく力が入っていません。まさに前回ご紹介した「ホワイトアウト」の対極に位置する映画と言っていいでしょう。

セリフも語りすぎず、観客の想像力に委ねる部分も多いですが、かと言ってそれが難解なわけでもなく、日本人らしい“間”で理解できるイメージ。

ここでしか通用しない価値観の作り方もすごくうまくて、「自転車の後ろ乗ったでしょ」だけで笑える。自然体なのにすごく計算されつくされた、でもまったく鼻につかないスゴイ脚本。んー、今更ながら荻上監督、タダモノじゃないぜ。

こういう映画なので当然ながら役者陣も素晴らしく、細かな表情やセリフの間が抜群にうまい。何気ないシーンばっかりなんですが、例えば小林聡美が目覚めるシーンとか、本当に寝てたんじゃないの、ってぐらい自然。自分が求めていた演技、セリフってこういうのだよなぁ、としみじみ思いました。嘘くささがまったくありません。いやはや、みなさん芸達者。

きっと、細かい物語の内容はすぐ忘れる気がします。後味がさらっとした、優しい甘さのお菓子のような映画でした。「和三盆を奢ったな、士郎(雄山談)」みたいな。

でもそれもまたいいんですよね。忘れてもいい。「なんかすごく雰囲気のいい、心地いい映画だったな」だけ残ればいいと思います。

アレコレ細かく解説して「ここの意味はこうだからお金じゃなくてウンタラカンタラ」みたいな語りは似合いません。うっすらと、「こういう生活したいな」っていう価値観だけ持って帰れば十分でしょう。観た後はほんの少し人に優しくなれる…かもしれない、そんな映画です。

素晴らしかった。ごちそうさまでした。

このシーンがイイ!

これはもう、画面の向こうから自転車でやってくるサクラでしょう。

なんなんでしょうね、もたいさん。自転車乗ってるだけで面白いんですよ。ニヤニヤクスクス来ちゃうという。すごいわ。どうでしょうファンにおけるミスターに近い“華”がある。

ココが○

上に書いた以外で言えば、犬ですよ犬! ハマダで飼ってる犬、コージ。多分柴犬。当然のように超かわいいし、いいところで登場するし。あの存在感、バカにできません。

あとはなんといっても風景。この風景に惹かれない人っているんでしょうか。加えて控えめながらコミカルな雰囲気もうまく作り上げていた劇伴もすごく良かったです。

ココが×

僕としてはほとんど無いですが、ただある意味ではなかなか振り切ってる映画でもあるので、ダメな人はダメな部類の映画だと思います。

あんまり「あれってどういう意味?」とか考えないで、ただただぼんやり眺める感じで、まさに観客もゆる~く観るのが正解でしょう。

MVA

ンマー、これは悩みましたね。(当時)40代前半ながら、まだまだかわいらしい小林聡美。やっぱいいよなー、この人。

市川実日子は初めて観ましたが、これまたいい。メガネも似合ってる。ある意味一番緩急をつけてくれた人のような気がします。

一番悩んだのは、ハマダの主人ユージ役の光石研。なんと調べたら続けて観た「おっぱいバレー」「ホワイトアウト」どっちにも出てたとか! 気付かなかった! 裏表のない、優しい雰囲気の嫌味のないダンディさがいいなぁと思い、この人にしようかと思いましたが…! 結局は。

もたいまさこ(サクラ役)

ズルい。ズルいですよやっぱりこの人。

鍋の前に立ってるだけで面白いんだもの。笑っちゃう笑っちゃう。最後のシーンも笑っちゃったし。すごい存在感。

本当に不思議な女優さんですねぇ…。いやー、この人に勝てる人っているんだろうか。換えが効かないという意味では海外のトップスターとも比肩する存在感がありますね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です