映画レビュー1351 『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』

今回は久々ウォッチパーティより。最近変な映画ばっかり選ばれている中、久しぶりにちゃんとした映画っぽくて楽しみにしていました。

ちなみに前回ウォッチパーティは「クレイジーなオーストラリア人」というタイトルからしてひどい映画だったんですが、なんと驚くべきことに初の「Amazonの設定ですら日本語字幕が存在しない英語音声のみ」の作品だったため、評価不能としてレビューは書きませんでした。

いやまあ内容は大体わかったんだけどね…。くだらなくてね…。でもわざわざ書くにはちょっとな、ってことで初の掲載不可作品となりました。

アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド

Ich bin dein Mensch
監督

マリア・シュラーダー

脚本

ヤン・ションバーグ
マリア・シュラーダー

原作

エマ・ブラスラフスキー

出演

マレン・エッゲルト
ダン・スティーヴンス
ザンドラ・ヒュラー
ハンス・レーヴ
ウォルフガング・ヒュプシュ
アニカ・マイアー
ファリルー・セック
ユルゲン・タラッハ
ヘンリエッテ・リヒター=ロール
モニカ・オシェック

音楽

トビアス・ワグナー

公開

2021年7月1日 ドイツ

上映時間

105分

製作国

ドイツ

視聴環境

Amazonプライム・ビデオ ウォッチパーティ(ウルトラワイドモニター)

アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド

“敵対”ではないAIの別角度からの脅威に考えさせられる。

8.0
資金を稼ぐためイケメンAIアンドロイドを“試用”する
  • さして興味もないもののお金のために「ナンパロイド」と共同生活
  • 9割がオチるであろうイケテクもそれに興味がない主人公はむしろ嫌気が差していくが…
  • 一風変わったAIの(違った意味での)“脅威”を描いた意欲作
  • 独り身の寂しい人間はいろいろ刺さってつらい

あらすじ

ヨーロッパの映画らしく、あまりわかりやすくはっきりとした展開がある映画ではないんですが、まあしみじみといろいろ考えちゃっていい映画だなと思います。

ベルリンで考古学関係の研究をしている学者・アルマ(マレン・エッゲルト)は、その研究資金を稼ぐため、ある企業が実施する“完璧な恋人になる高性能AIアンドロイド”と生活する極秘実験に参加することに。

初対面ではちょっとしたエラーが出るご愛嬌がありつつも、そのアンドロイド“トム”(ダン・スティーヴンス)を家にお持ち帰ったアルマ。

早速甘々な口説き文句に完璧な雰囲気の演出と胸焼けしそうなイケメントムですが、そもそも「お金のための実験参加」としか考えていないアルマはそういう「いかにも」な所作も気に入らず、「やめて」と一蹴。

しかし当然何日もともに暮らしていればいろいろありまして、なんだかんだ少しずつ距離が縮まっていくわけですが…あとはご覧ください。

楽な存在でいいのか問題

今作のAIアンドロイドは言わば「恋愛専門アンドロイド」みたいなもので、劇中では倫理的に絶対アウトそうな爺さん×幼女アンドロイドみたいな組み合わせもチラッと映ったりしてなかなか業が深いもの。

要は「あなたの理想を叶えるアンドロイド」的なやつで、設定そのもの自体はあまり珍しくないと思いますが、ただそれを日常に落とし込んできっちりリアルに恋愛ものとして描き、また社会的な目線も持った映画としてはなかなか他にない面白いものがありました。

おそらくポイントとしては主人公のアルマが「お金のために参加しているだけ」という、「パートナーを求めてアンドロイドが来た」わけではない辺りが絶妙な設定なんだろうと思います。それ故に最初は嫌々だし出来すぎてるが故に気持ちが悪かったりもするし、また絶妙に心を理解していない機械っぽさもあったりしてそのギャップがおかしいやら気持ち悪いやらでいろいろ味わい深い。

何をやっても完璧で、大半の女性ならオチるであろうナンパ技術を駆使しながらも、「帰ってくるまで待ってて」と言われると「別に(機械的に)大丈夫なので」とずぶ濡れの雨の中パジャマのまま立ち尽くして待ってたりする配慮の無さ。そこに人間的な違和感が挟まるところまでは気が回らない、杓子定規な感じがいかにも“プログラム”であることを感じさせて非常にお上手です。

演じるダン・スティーヴンスは初めて観たんですが、ものすごく綺麗でアンドロイドっぽい適役な上に絶妙に「生身の人間じゃないよ」という奇妙な雰囲気も醸し出していて、演じているのは人間なのにしっかり“不気味の谷”を感じさせるような演技と演出がお見事でした。「アンドロイドって言ってるけど人間にメイクしただけだよね!?」ってなった「アーカイヴ」の逆パターンだわこれ。

非常に印象深かったのが、「なんでも言う通りにするしできる」「こっちの機嫌は絶対に損ねない(衝突しない)」AIの基本的な行動原理が、恋愛においては逆に作用する、“つまらなく”することを描いていた点。「喧嘩するほど仲がいい」というわけでもないんでしょうが、まるっきり思い通りでこっちを忖度するだけの存在というのは楽かもしれないけど惹かれない…というのは人間の真理かもしれないなぁと思いましたね…。

最初はすごく楽だし幸せな気はするんですが、多分「暖簾に腕押し」な感じというか、あまりにも従順すぎるとそれはそれで“対等の立場にならない”のが恋愛としては致命的なんだろうと思うんですよ。

人間「駆け引きはしんどい」と言いつつやっぱり駆け引き的なことがしたいんでしょうね、きっと。そうじゃないとつまらないんでしょう。

主従関係としては完璧なので、「欲望を満たす」だけであればきっとかなり優秀なツールになり得るんでしょうが、恋愛はそれだけじゃないしそれを超えるからこそ達成感とか喜びも大きくなる…みたいな。

この前「Outer Wilds」のときにも書きましたが、やっぱり駆け引きその他「それ自体」はストレスでも、それを乗り越えたからこそ得られる高まりみたいなものが無いと何事も面白みを感じられない面があって、まさにこの映画のアンドロイドで「すぐにできる」諸々は「ヘリで頂上に降り立つ登山」と同じようなものなんでしょう。

そう考えるとやっぱりこの「恋愛AIアンドロイド」はそれで良いのか考えてしまうと同時に、「安易に望むものが手に入る」メリットも無視できないほど大きいし、果たして自分が選択できる状況にあったらどうするだろうかとしきりに考えてしまいました。

当然アンドロイドだから老化もしない、なんなら(この映画でそういう話は出てきませんでしたが)見た目だって当然変えられるだろうし、費用を無視すれば自分好みにカスタマイズしていくことは永遠にできそうだし、その魅力に抗えるのかと言うとなかなかそれも難しそう。

もちろん生身の人間相手が良いのは間違いないんですが、自分が「選ばれない」ことを考えると、「(好きなように)選べる」というメリットはかなり大きいわけで、それ故に自分ならこれに飛びついちゃう気もするし、じゃあそんな自分で良いのかとぐるぐる考えちゃうしで本当になかなかしんどい問いを突きつけられる映画だなと思いました。映画そのものはちょっとシニカルなコメディに近いぐらいで重い映画ではないんですけどね…。一応ジャンルはSFにしましたが、ラブコメとするのが最もしっくり来るかもしれません。

ちょっと映画の本筋から話は逸れますが、僕はこれを観ていてまったく同じような「アンドロイド犬」だったらどうなるかな…とこれまたすごく考えちゃって切なくなっちゃったんですよね。

見た目も自然で、性格もある程度自分の記憶とすり合わせてプログラムできる、そして何よりずっと一緒に暮らせる…アイボのようなメカメカしいものではない、本物っぽいアンドロイド犬。

今そんなものが出てきたら絶対欲しくなるよな…と考えると、やっぱり人間のアンドロイドでも欲しくなるんだろうなと思うし、「人間の方がウンタラカンタラ」言いつつ楽な方を選びそう、そんなお前でいいのかよ!? と自分を引っ叩いてやりたくなったウォチパでしたよ。ええ。

どうしてもAIについて考えてしまう設定の良さ

物語の着地点についてはあんまり思うところもなく、どちらかと言うとこの設定と作りの良さにひたすら考えさせられる内容の映画だったな、と思います。

なにせ「AIの反乱」みたいな話は(面白いのも多いけど)見飽きた感もあるだけに、「指示に忠実だけど“そうじゃない”AI」みたいな設定はなるほどなぁとこれまた近い将来に有り得そうな気がしてすごく面白かったです。

この映画はあくまで極私的な恋愛SFでしたが、このアンドロイドがもっと大きく世間に広がると「最終的には人間がいなくなりました」みたいなディストピア系にも容易に転じるだけに、こっちの角度からでも人間って滅びやすいよねという話にもなりかねなくて、となるとやっぱりAIは結局滅びの入り口になるのでは!? と若干陰謀論めいた方向に思考が及んだりもしました。AIは優秀すぎる(上に学習スピードが速すぎる)が故に、欲望に弱い人間には荷が重いのは間違いない気が…。

この映画自体はそんな悲劇的なお話ではないんですが、いろんな角度でAIを見て行くとやっぱりちょっと怖いよね、と少し保守的な意見で自分でも嫌になるんですがそこまで人間を信じられない思いもまた強くしましたとさ。

まあ「AI恋人が増えると人類が滅びる」はもしかしたら「同性愛が増えると人類が滅びる」ぐらいにバカバカしいお題目の可能性もあるし、実際どうなるかなんてわからないんですけどね。ただ上の方で資産家の美男美女が固まって人類を維持しつつ、我々下層の人間はAIで欲求を満たす人生になる…みたいな未来は容易に想像できます。超コワイ。

もっともAIにリーチできる層はハナから金持ちだけになる可能性も多いにあるので、となると我々下層の人間は“何もできない”のが真実かもしれない…。あとは動画で凌ぐだけ…! って今と変わらんやん。

余談ですがこの前ちらっと見た、chatGPTの音声出力のリアルさにも戦慄したんですよね。これ悪い人間が利用したら絶対騙される人出てくるよな、ってぐらいにものすごくリアルで。

まさに「her」の世界ももう目の前で、そんな諸々を考えているともうあっという間にAIがすべてを駆逐しそうな気がしてやっぱり怖い。マジで仕事無くなりそう。

このシーンがイイ!

終盤なので詳細は伏せますが、トムが一人歩いて行くのをマンションの上から眺めるシーンはまあいろいろ思うところがありましたね。いいシーンでした。

ココが○

設定の良さは言うまでもないんですが、単純に撮影場所も映像もすごく綺麗だったし劇伴もヨーロッパっぽくて素敵で、やっぱりちょっとアメリカ映画とは違う魅力があるのが良かったなと。

ココが×

これまたヨーロッパ映画っぽくはあるんですが、割と淡々としていてグイグイ惹きつける系ではないだけに好みは分かれそう。大人の映画だなーと思います。

MVA

主人公を演じたマレン・エッゲルトが絶妙に妙齢女性というか、魅力的すぎずかと言って魅力がないわけでもない雰囲気がすごく役に似合っていてよかったですね。

とは言えやっぱりこの映画はこの人でしょう。

ダン・スティーヴンス(トム役)

“恋愛完璧アンドロイド”。

ものすごく整ってるし細マッチョだしで適役すぎる。自分がこの役をやったらもう体型に人間味ありすぎてまったく違う映画になっていたでしょう。

ところどころ「あ、アンドロイドっぽい」って思わせる演技が非常にお上手でした。お見事。

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