映画レビュー0432『鑑定士と顔のない依頼人』

ニュー・シネマ・パラダイス」でお馴染み、ジュゼッペ・トルナトーレ監督最新作。おまけに音楽はエンニオ・モリコーネ。(まだ現役だったんですね)

こりゃー観に行かねばなるまい、と初の浦和パルコ内にあるユナイテッド・シネマに行って参りました。小さめのスクリーンながらおそらく空席なしの文字通り満席。

あんまり話題になっていない映画っぽいんですが、やっぱり映画ファンとしては気になる作品なんでしょう。

鑑定士と顔のない依頼人

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監督
脚本
ジュゼッペ・トルナトーレ
音楽
公開
2013年1月1日 イタリア
上映時間
124分
製作国
イタリア

鑑定士と顔のない依頼人

美術品鑑定の権威であり著名なオークショニアでもあるヴァージル。ある日、彼の元に親の遺産を鑑定して欲しいという女性から依頼の電話が入る。なかなか姿を見せない依頼人に怒り心頭のヴァージルだったが、壁越しのやり取りを通し、徐々に彼女に興味を持ち始め、少しずつ親しくなっていくのだが…。

面白かったんだけど…!

9.0

おそらく今までレビューしてきた中でも1、2を争うほどネタバレ回避の難しい映画ですね、これ…。何を書いても(感情的な面も含めて)ネタバレにつながるので、すんごいがんじがらめでですね…。書きにくいことこの上無いです。が、一応自分に架しているルールなので、ふわっとしたレビューでもご容赦ください。

概要補足。

主人公のヴァージルさん、どこかで見た話では63歳という設定で、まあもう老人の域に達しつつある方ですが、その分名声もお金も手に入れていて、偏屈ながら成功者として認められている存在です。電話を直で持つのが嫌で常に何かにくるみながら持っていたりするような、やや潔癖症の傾向アリ。

女性も苦手らしく、今だ独身、おまけになんとDTですDT。彼の楽しみは、ドナルド・サザーランド演じる相棒である画家・ビリーと結託し、オークションを操作して手に入れた女性の肖像画を自宅の隠し画廊で眺めること。三次元は苦手だけど二次元は好きだぜ、みたいな。歳のいった金持ちヲタク的なところでしょうか。

対する謎めいた「顔のない依頼人」クレア。彼女がなかなかヴァージルの前に姿を現さないのは、どうやら「広場恐怖症」という病気らしく、なんと15歳の時から約12年、外出したことがないということで。

DTヲタクに広場恐怖症の女性、「お互い似たもの同士ね」なんて言いながら次第に惹かれ合っていく二人。

でも恋愛経験に乏しいヴァージルは自分一人でどうにかすることもできず、すがった相手は彼女の家で見つけた「オートマタ」の修理を依頼しているプレイボーイ・ロバート。ヴァージルは彼の助言を得ながらクレアにのめり込んでいき、やがて…!!

おっとこれ以上は書けないぜ。

さて。

序盤、タイトルにもある通り、なかなか顔を見せないクレアとのやり取りはテンポもカメラワークも素晴らしく、さすが名監督。惹きつけてくれます。やっぱり「どこが」とは言えないんですが、どことなくヨーロッパの香り漂う作りのような雰囲気のようなものが感じられるような感じられないようなで、絵作りに力があるなぁとすっかりのめり込みながら観ていました。

緩急の織り交ぜ方もお見事で、程々の緊張感を保ちつつ、たまに煽ったりたまに進んだりの見せ方はお上手。いくつかの要素を絡めつつラストに向けて収斂していく作りはいかにも「サスペンスを観てるぞー!」という満足感を満たしてくれるものでした。

登場人物はかなり少ないですが、それぞれが物語上かなり重要な役割を担っているので、まったく無駄のない人の使い方もお見事。恋愛サスペンスとでも言うべき大人の娯楽ですねこれは。

おまけに主人公が老年のヲタ(風)DTというなんともニッチな、でもそれなりに劣等感を抱いて生きている男たちには共感せざるを得ない面を持った人物なのがイイ。ロバートのようなプレイボーイヤリティン野郎は爆笑して終わりかもしれませんが、僕のような不遇の毎日を過ごす男性諸氏は自ずと「ヴァージルがんばれ」と背中を押しつつ観ちゃうこと間違いありません。「がんばれ、そしてクレアの裸を俺たちにも見せろ!!」と。

これ、一昔前なら「んな話ないわ」となりそうなんですが、今の時代、こういうDT爺さんはあり得ない話でもない妙なリアリティがあるし、激引きこもり女子というのもいてもおかしくない感じがして、携帯だったりネットだったり、本筋とはあまり関係ないものの舞台背景として信憑性のある内容になっているのが興味深いところ。家から一歩も出なくても仕事(作家)ができます、っていうのも、今だったら「無い話じゃないよなー」って感じだし。

ところどころ、「うわーベタだなー」っていう伏線もあったりするんですが、実はそれも最後まで観ると確信犯的にベタでやっているんだろうと思わされる内容になっていて、矛盾が無いとは言いませんが全体的にはさすがよく出来た物語だと思います。

ただ、一番引っかかったのはいわゆるエピローグとなる部分の長さ。この物語がどういう物語だったのかを理解させるシーンが入ったあと、後日談的にそこそこシーンが続くんですが、あれはもうちょっとカットして短めにまとめて欲しかったなーという気が。印象的には、序盤はかなり無駄なく締まっていて、中盤少し間延びしてきて、最後にダラーッと延びた感じ。

なんでそう感じたのかと言うと、それこそこの映画の物語に対する印象に左右される部分なので完全にネタバレ故書けないわけですが、もうちょっと…短くして欲しかったな、と…。なんでか、は観ればわかります。たぶん。

あー。すごく書きたいことあるけど、書けない…。

観たことある人と直でいろいろ話してみたくなる映画ですね。いろいろ思うところがあり、劇場を後にするときの自分の精神状態を考えると、やっぱり映画ってすごいな、影響でかいなと思った次第です。

ネタバレのある管理人

この映画を観てからもう3年が経ち、二度目の鑑賞もまだしていないんですが、なぜか最近ちょっとまた思い出していろいろレビューを漁ったりしていました。

僕はずっとこの物語は

  • 裏切り発覚→廃人→ヴァージルの脳内妄想(もしくは廃人前の待っていた頃の描写) ※この場合は終盤の時間の順序が逆になる

でエンド、という流れだと思っていて、それがまた酷な話だなーと思ってたんですが、世の中的には監督が「ハッピーエンドだ」と言っていたこともあって、

  • 裏切り発覚→廃人→復活して待ち始めてエンド

つまり物語も現実も時間の流れは順番通りだと思ってる人が多いみたいで、それはちょっと希望的観測過ぎませんかね? とか思ってたんですが、ただそう思いつつレビューを読み漁る中で、「手紙が届くシーンが鍵」というのがあって、なるほどそれは考えとして見落としてたかも、と思ったんですよね。

手紙が届くシーン=ヴァージルが廃人化して昔の秘書に施設まで手紙を持ってきてもらっているシーンですが、あの手紙の中に偽クレアからの手紙があって、「待ってるわようふふ」みたいな内容で復活してエンディングじゃないか、と。

僕はあのシーンは単純に「廃人化しちゃった哀れさを強調する」ために以前の使用人との立ち位置の違いを見せつける意地の悪いシーンだとしか思ってなかったんですが、言われてみれば「手紙で復活説」の方がこのシーンを差し込む意味がありそうだし、筋としても無理がないのかもしれない、と思ったんですよね。

その後会えたのかどうか…は当然描かれないのでわかりませんが、こういう話であれば「ハッピーエンドだ」っていうのもわからないでもないな、と。

自分の解釈ではどう考えてもハッピーエンドではないし、強引に解釈するなら「本当の愛を知れただけハッピーだろ」っていう、今でも忘れられない(と言いつつ細かいニュアンスは忘れているという)「ミスティック・リバー」での(確か)ケヴィン・ベーコンの「本気で愛することが出来ただけでも幸せだ」的なセリフにつながる考え方なんだろうと思ってました。

でもそうではなくて、単純に希望のあるハッピーエンドなんじゃないか、という説。なるほど。

さらにこれのオプションで「手紙を出しておいて行かずに遠くからヴァージルの哀れな姿を見てバカにする連中」という極悪展開もありえますが、その辺はさすがにわかりません。あと呼び出しておいて画板の角で殴る、とか。(御礼参り説)

やっぱりこれはもう一回観るべきかなー。

なんとなく、この映画をバッドエンドと観るかハッピーエンドと観るかは、その人の性格、ネガティブ/ポジティブに多分に影響されそうな気はします。超の付くネガティブ野郎としては…やっぱりハッピーエンドには取りにくい話だったんだよなぁ。

このシーンがイイ!

んー、これはやっぱり、ネタバレになるシーンというか。おそらく一番のキモのシーンであり、一番気合いを入れて撮ったシーンでしょう。

ココが○

このご時世、完全オリジナルサスペンスで脚本&監督を手がける、この事自体がもうすごい。

振り返ると物語のヒントになっていたシーンは結構思い出せるし、ご都合主義ではないきちんとしたストーリーのサスペンスとして、好き嫌いは別としてよく出来た映画なのは間違いないと思います。

もう一回観たい気はする。ちゃんといろいろ確認したい。

ココが×

その好き嫌いという意味で言えば、残念ながら僕はあまり好きな話ではありません。

この手の話はどちらかと言うと好きな方なんですが、多分今の個人的な状況も手伝って、好きになれなかったのかな…。

MVA

さすがどの人も重要な役割を担っていただけあってすごく良かったですね。

依頼人クレア役のシルヴィア・フークス、かわいかったなー。あれで引っ張って引っ張ってマギー・ジレンホールとか出てきたら席を立たざるを得ないですからね。ナイスキャスティング。ヤリティンボーイのジム・スタージェスも良かったんですが、やっぱりこの人の味わい深い演技に尽きる気がします。

ジェフリー・ラッシュ(ヴァージル・オールドマン役)

序盤の威圧感あふれる大物感、中盤の恋に絡め取られていく姿、そしてラストの…と完璧でした。

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