映画レビュー0346 『少年と自転車』
割と評判が良さげなこちらの作品。完全にイメージは「運動靴と赤い金魚」的なちょっとホッコリ少年映画なのかと思ってましたが…!
少年と自転車
強烈に地味。だけど味はある。
まあ本当にとにかく地味でですね。音楽がかかったシーンを全部つないでもおそらく2分と無かったんじゃないか、というぐらいドキュメンタリーかのように少年を追った映画です。が、内容はいかにもヨーロッパの映画らしい雰囲気のあるもので、好き嫌いは別れるでしょうが、実直な作りはハリウッドにない魅力のあるものではないかと思います。
主人公の少年・シリルは、早い話が父に捨てられ、それを理解していないがために父に会おうと奔走するのが序盤戦。やがて父と会い、捨てられたことを理解したところから物語がゆっくりと動き始め…というお話。(短い概要)
最終的に言いたいこと、落とし所というのは理解できるし、話としても悪くないまとまりがあったように思います。が、僕はあまり好きではありませんでした。
まず、特に序盤ですが、とにかく主人公のシリルがかわいくない。真っ先に「父、帰る」を思い出しましたね。半ば偶然に出会った女性に強引に里親になってもらったような展開ですが、その女性がなぜか無償の愛を与えてくれます。なのに、シリルはその気持ちに応えないどころか、会話すらまともにしません。
それがあっての物語なのもわかるので、そこについて文句を言うのも間違ってるとは思うんですが、でも…かたくなで生意気でかわいくないんですよね。
母親の存在は語られませんでしたが、まあ父に捨てられるぐらいなので不幸な生い立ちなわけで、そういう家庭に育つとこうなっちゃう…という話なのかもしれませんが、それにしても…ちょっと気が滅入るほど嫌な子供で、「やー、こんなの観ちゃうと子供なんて育てられる自信ないわー」と「心配しなくても一生子供できねーよ」と突っ込まれそうな心配すら抱きました。
その上、里親のサマンサ以外はあまりいい人間が登場しないというか、ちょっとリアルにクセのある人たちが軸になって物語が回るので、ある種リアリティはあるものの、やっぱりあまり気持ちのいい感じではないな、と。
や、「クセのある」って言うほど変わり者ってわけでもないんですけどね。なんて言うのかなー。相性の悪さみたいなものでしょうか。自分の。あんまりこういう人たちが淡々と進める話自体好きじゃないというか。それを言ったら元も子もねーよ、って話なんですが、まあ所詮個人ブログ、好みで評価してんだからいいだろボケ、と。
ええ、荒れますよ今年は。!
ただ、まあそういう前フリあっての結末なので、通して観ればそれなりに味わいのある映画だったな、と思います。
そこに至るまでがちょっと感情移入できない、あまり好きになれない映画だったのが残念だな、と。当たり前ですがそれをぶち破るほどの劇的エンディング、ってわけでもないので、序盤の“ノラなさ”がそのまま残っちゃったような。そんな感想。
でもですね。こういう地味ながら一般人のリアルな世界を描く映画って、まあやっぱりアメリカ映画にはなかなかないわけですよ。これもまたヨーロッパらしい映画だし、たまに観るにはいいんじゃないかと。まさに箸休め的な映画でした。個人的に。
時間も短めなので、少しお試し的に観てもいいような気がします。あとは個人個人の好みの問題だよ、と。
このシーンがイイ!
これはやっぱり、二人で自転車に乗ってるシーンでしょうね。実際ここしかない、ってところだと思います。
ココが○
地味は地味ですが真面目に作っている感じはビシビシ伝わってくるので、まさにハリウッド映画は食傷気味的な人にはうってつけな気がします。こういうところから「へぇー、ヨーロッパの映画ってこんな感じなんだ」って思って入っていく人、少なくない気がします。まあ、導入にするにはいささか渋すぎますが…。
ココが×
登場人物への感情移入度という意味では、かなり低い映画だと思います。主人公のシリルにしてもそうですが、里親のサマンサにしても、「なんでそこまで愛せるの?」っていう疑問が。そうしてこその“親”なんでしょうが、実際の親ではないだけに、少しその愛情の深さにも観ている側との温度差があったような気がします。
MVA
少年も憎たらしくてよかったですが、まあ順当に選ぶならこの人でしょう。
セシル・ドゥ・フランス(サマンサ役)
愛情深い里親の女性。
まあ、長く出てる人でしっかり演技をしてたのはこの人ぐらいというか、他にあんまり出てなかった、っていうのもあります。俳優さん的にも地味な映画ではありました。