映画レビュー0622 『マジカル・ガール』
近々祝日があるので、久しぶりにTSUTAYAに行って4本ほど借りてきました。
実は少し前にもTSUTAYAに行ったんですが、その時はなんか引っかかるものがなくて何も借りずに帰ったことがあって地味に結構なショックを受けていたんですが、今回はむしろ「ウホッ、観たい映画山ほどあるじゃねーか」と浮かれるぐらいで。年末にまた借りよう、と思いつつ、厳選した4本をこれからレビュー致しますです。はい。
※諸事情によりアップが年末になったのはご了承ください
ということでまずは1本目。どっかで知って気になってた映画なんですが、どこで情報を得たのかは記憶にございません。今回の中では割と賭けに近い位置付けのチョイスだったということで、最初に観てみました。
マジカル・ガール
誰が一番悪いのか。誰が幸せになれたのか…。
♪ドゥルルンドゥルルル デッ デデッ デデッ デデッ デデデデッデー
唐突に流れる、まさかの長山洋子デビュー曲「春はSA-RA SA-RA」に衝撃を受けました、スペイン映画。ほんとにまんま流れるんですよ。アニソン的アイドル歌謡って言うんでしょうか。日本の歌が。
その違和感で一気に惹き込まれる…かもしれないこの映画、正直「世界」とか小タイトル的に出てきた時は、前に観た「さよなら、人類」を思い出して嫌な予感がありました。芸術寄りの、あんまり話の中身がない映画なんじゃないかな、と。そういうのダメなので。
ところがどっこい、これは…いやはやすごい映画でしたね。かなりやられました。半信半疑で観始めたのも良かったのかもしれませんが、期待のはるか上を行くデキに、久々に「良い映画観た!」と大満足です。
ただし、明るい映画ではないです。
「病気の娘のためにがんばるお父さん」とか書くと感動モノっぽいですが、全然そんな綺麗な話ではなく、むしろ綺麗ではないが故にリアルで、リアルであるからこそ怖くて生々しいという。運命のいたずらで予想もしない方向に話が進み、結果的にあの人がああなってアッー!
ああもう…これ以上言えない! ネタバレ回避が難しい映画でございます。
以下、いつものようにふんわりとしたレビューにする予定ですが、興味がある人は読まずに観た方がいいかもしれない。事前情報は無い方がいい類の映画でしょう。
差し障りのない程度に書けば、「春はSA-RA SA-RA」はこの映画に出てくる架空のアニメ「魔法少女ユキコ」のテーマ曲という設定だそうで、そのアニメが好きで好きで自分のHNも「ユキコ」にしちゃった白血病の少女がアリシアです。何せ自分の夢に「13歳を迎える」と書いちゃうほどに悲しい境遇の彼女のため、お父さんは出来る限りのことをしてあげようと、彼女の欲しがる「ユキコ」の衣装を買ってあげよう、と思うわけですが…。
んで、ですね。自分の性格的なものもあるんですが、かなりテンション高くスピード感あふれる展開の映画を除けば、やっぱり大体先を読みながら観ちゃうんですよね。これはもうクセで。この映画は結構間もたっぷり取って、セリフも最小限で構成されているので、とにかく観ている側はぐるぐるグルグル頭を回転させながら観るわけです。こうなるのかな、これこうなったら嫌だな…と。
でもそれはほとんど外して進みます。
あ、そういう選択肢取るのね。
あ、それ受け入れちゃうのね。
僕は性格上、かなりのネガティブ野郎なので、雰囲気も暗めなこの映画だけに、悪い方悪い方を予測しながら観ていました。そして大体の予想は外れました。
が、物語はさらに悪い方に行っていました。たぶん。
予想が甘いんでしょうか。監督(兼脚本)が悪い人なんでしょうか。
わかりません。
わかりませんが、「予想の斜め上を行く」割に、嘘くさくない。これがすごいな、と。
最初は白血病の少女アリシアとその父ルイスを中心に描かれ、次は急に知らない男女、美人妻バルバラとその夫アルフレードが登場して、「あれ、これもしや時系列不親切系?」と不安になったんですが、そういうこともなく。時系列的には多少前後はするものの、基本的には順を追っている話です。ややこしそうに見えましたが、実際は全然ややこしくなくて、後々ちゃんとつながります。話自体はかなり単純…というか、理解しやすいものだと思います。難解な芸術寄りっぽい雰囲気でありながら、実はそうでもないという。グッド。
ただ、多くは語りません。かなり観客に解釈や想像を求める映画です。
そもそも、なぜアリシアにお母さんがいないのか、ルイスと別れたのか、それとも死んだのか、その辺普通だったらサラリと触れられそうなものもバッサリカットされています。
この二人に限らず、「過去に何があったのか」の類はほとんど描かれません。だからと言って不親切という感じもなく、結構しっかりと想像を膨らませ得るシーンも挟んでくれて、とてもとてもセンスの良い映画だと思います。
ボカァね、好きだね。こういうの。
何度も何度も書いていますが、「過激なものを見せて惹き付ける」手法が大嫌いなので、この映画のこの見せ方、考えさせる感じ、すごく好きでした。めちゃくちゃハマった。「ブラック・スワン」に「オンリー・ゴッド」、クソ食らえ、と。
観終わった後は、話の内容としてもそんなに好きなわけでもなかったので「ううむ…面白かったけど…」という感じだったんですが、しかしまあ後に残る残る。寝る前ベッドで悶々と、ひたすら“描かれていない”世界を考えてました。
この話、誰が一番悪いやつだったんだろうか…。
誰も悪くないかもしれないし、誰もが悪いかもしれないし。
で、結果誰が幸せになれたんだろうか。
誰もが不幸な気もするし、誰もが幸せだったのかもしれないし。
最初に書いた通り明るい話ではないんですが、解釈によってはいい話でもある。とても懐の広いお話でした。そして、それを想像させる絶妙な情報量の操作にとてつもないセンスを感じます。
素晴らしいですね。
年に一回、出会えるかどうかのレベルにある映画です。
聞けば監督は劇場公開となる長編としては初作品だそうで、それを自ら脚本兼ねつつこの完成度で作り上げたという。こりゃー今後楽しみな監督さんとして覚えておかないといけないでしょう。カルロス・ベルムト監督。部分的に日本かぶれしている内容からもわかる通り、なんでもかなりの日本好きだそうで、来日しては新宿ゴールデン街で飲むとか。イイ。なんて素敵な監督さんなんだ。
相変わらず大して中身のないレビューですが、まあ内容を知っちゃうと興を削ぐのは間違いないのでお許しを。それなりに気合いがいるというか…気軽に観られるタイプの映画ではないですが、ただ内容的には難しくないし、何よりよく出来た素晴らしい映画なので、映画が好きだと自負する方々にはぜひ観て頂きたいところ。ただし、くどいですが明るい話ではないので、そこだけはご注意を。
多分、この映画は「この映画の話だけで1日飲める」類の映画だと思います。すごく話に花が咲くと思う。暗い花が。
こういう映画を観られて非常に幸せです。
このシーンがイイ!
これねー、わからない人はわからないかもしれませんが…ダミアンが「本の匂いを嗅ぐ」シーン。アレでいろいろ伝わるんですよね。めっちゃ良いシーンだと思います。
僕も昔、一緒に働いていた女子に「あずみ」をまとめ借りしたことがあって、その時、彼女の匂いがする「あずみ」にちょっと興奮したというか…意識したことがあって。別にその子のことが好きだったわけではないんですが。
なんとなく、異性の香りがする本が家にあることにすごく非日常を感じて、いろいろと感情を動かされまして。あのシーンでそのことをハッと思い出しましたね。どエライシーンですよ。あれ。天才か。
あとあれ。トカゲの部屋の手紙。
ちゃんと前フリも効いていて、観客を信頼して放り込んでくるあの感じ。素晴らしいの一言。
ココが○
カットの構図から小道具、セリフの一つ一つと、あらゆる面でスキがないです。すごく計算され尽くしたモロモロがすごい。多分、僕なんてその2割も理解してないと思います。それでもガツンとやられちゃったぐらい、すごくすごく良く出来てるんですよ。
これはもう名作と言っていいのではないでしょうか。
ココが×
話としてはどうしても好き嫌いがわかれる内容だと思います。僕も話として好きかと言われれば、好きじゃないんですよね。でも映画として抜群によく出来てるんですよ。ただ、そういう話なので、人を選ぶ面は少なからずあるかな、と思います。
MVA
みなさん無表情だったので、グッと来るだの何だの、って感じでもないんですが、まあでもこの映画はこの人ですよねぇ。
バルバラ・レニー(バルバラ役)
美人妻。ほんとに美人。
この人は本当に美人じゃないとまったく話が違ってくるので、よくぞこんなぴったりな人がいたな、と驚くレベル。英語ができればいろんな映画に使われそうな気がするけど…どうなんでしょうか。