映画レビュー0649 『ROOM237』
“怪作”として話題になっていたのももう(日本では)3年前、ですか…。そりゃあ歳も取るわ。
ひじょーに観たかったこちらの映画なんですが、やっぱり内容的にマニアックなので観る機会もなかったところ、これまたNetflixにあったので喜び勇んで観た次第です。
ROOM237
陰謀論的面白さは酒の肴にもってこい。
僕の中で最初に観た時はイマイチだったものの、後々「あの映画やっぱすごかったな」と記憶に残る映画の二大巨頭が「ブレードランナー」そして「シャイニング」なんですね。知らなーよ、って話でしょうけどそうなんです。
その一つ、「シャイニング」に込められているという“謎”を、シャイニング及びキューブリック監督マニアの5人が解き明かす…というドキュメンタリー映画。
一応「ドキュメンタリー映画」とは言っていますが、字面のイメージ通りの、事実を追っていくようないわゆる「普通のドキュメンタリー映画」という感じではなく、なんて言うんですかね…飲み屋で「シャイニングはこういう意味があるんだよすげーだろ?」って話を延々と聞かされる感じの、良い意味で「ドキュメンタリー映画って言うほど高尚じゃないバカな映画」という印象。
こういう例えを出しちゃう時点でオッサン度合いがバレる悲しみに包まれつつも例えるなら、あの一時期大流行した「磯野家の謎」のシャイニング版、という感じ。そう、「シャイニング家の謎 in the MOVIE」です。言わば。
語られている内容は、ナルホドそれっぽいというようなものから、いかにもあり得ない妄想っぽいものまで多種多様。
例えば(この逸話自体は有名らしいですが)原作(スティーブン・キング版)では主人公一家の乗る車は赤いワーゲンだったのが、映画(キューブリック版)では黄色いワーゲンに変更になっていて、劇中で赤いワーゲンは事故に遭っている描写があり、あれはキューブリックが「キングのアイデアは使わないぜ」と宣戦布告した意味がある、とか。なるほどありそう。他には、壁に貼られているスキーヤーのポスターが実はミノタウロスなんだ、とか。これは眼科行きましょう。今すぐ行きましょう。
そんなまさに玉石混淆な“謎”の数々を、「シャイニング」を始め著作権上問題にならないのか不安になるレベルであらゆるキューブリック映画のカットを挟みながら語り進める映画になっています。ちなみにオープニングで「ぬ!? この映画トム・クルーズ出てくるの!?」と一人驚いていたんですが「アイズ・ワイド・シャット」の映像でした。まだ観てないのでね。すみませんね。
この映画でマニアたちが語る大前提としては、「キューブリックは無駄なものを一切映さない」「キューブリックに編集ミスなどあり得ない」「キューブリックは色々なものをメタファーとして盛り込む監督だ」というようなもので、大部分が「考え過ぎ」、ちょっと行き過ぎちゃって頭おかしいんじゃないのと言いたくなるようなご意見でしたが、それはおそらく本人たちもわかって面白がって言っているものなんだろうと思います。
それこそ昔流行った心霊写真のような、よく見ると人間の顔に見えなくもないけど普通の石だよね? みたいな眉唾ものの説を大真面目に語る、そのこと自体がネタとして面白い映画というか。それこそよくある陰謀論のように、「エリア51には宇宙人がいるんだぜ」みたいな話をネタとして消化して楽しむ、そういうスタンスで観る分にはとても面白い映画だと思います。
この映画で例示されるモロモロをキューブリックご本人がどういう意図で配したのかは今となってはわかりませんが、僕としてはこれらの“モノ自体に意味はない”ものの、こういう極端な捉え方をするマニアたちに良いネタを提供してやろう、ぐらいの遊び心があったんじゃないかなぁと妄想したりするわけですが、そういうキューブリック自身の考え方にも思いを馳せる…という意味でも面白かったですね。もちろん、「うわー、うっかりしてた! 椅子消えてんじゃん!!」もあり得ないことではないと思いますが、その辺りはキューブリックご本人が故人となってしまった以上、知る由もありません。
映画の性質上、当然ながら「シャイニング」の印象的なシーンが何度も繰り返し登場するんですが、やっぱり改めて観るとそのどれもが強烈だった記憶も楽しいというか…「そうそう、このシーンねー!」みたいな、懐かしのテレビ番組を振り返る番組を観る、みたいな楽しさも映画らしくない新鮮な感じで面白かったですね。
「仕事ばかりで遊ばない」出るか出るか?…出たー!! みたいな。最高です。
ちなみに、鑑賞後にちらっと検索をかけたところ「キューブリックを使って金儲けを企む許されないカルト映画だ!」みたいな大変生真面目な日本人キューブリックマニアの方のブログも目に入りました。まあ仰ることは正論だしとても良くわかるんですが、ただ…なんというか受け手に遊び心がないのがもったいないな、と。好きだからこそ頭に来ちゃうんでしょうし、それもまたよくわかるので仕方がないとも思いますが、逆に言えば僕のようなキューブリックマニアでもない一般人としては「シャイニング」を観た経験を活かしてより楽しめるこういうサブカル的ネタ映画というのはとても新鮮で面白かったぞ、というのは書いておきたいと思います。
噂では、イギリスを始め世界各地にはシャーロック・ホームズのマニアたち、いわゆる“シャーロキアン”の方々が集って語り合うサロンみたいなものがあるらしいんですが、きっとこの映画みたいなノリなんじゃないかな、と思うんですよ。本当っぽい話からネタっぽいものまで、タネを見つけてはワイワイ語って楽しむ、そのこと自体が娯楽になるという。これはまさにそういう世界を疑似体験する映画だと思うんですよね。
そういう意味で、確かにキワモノではあるもののとても楽しませてもらえたので大満足でした。なかなか普通のドキュメンタリーではここまで集中して楽しめるものは少ないだけに、余計に儲けものというか。「シャイニング」を観て何か引っかかった人は観てみるといいかもしれません。
ありきたりな感想だけど「シャイニング」自体、もう一回しっかり観たくなったなー。
このシーンがイイ!
映画が映画なので、該当するシーンは無いかなと。良かったのは全部シャイニングのシーンです。当然ながら。
ココが○
通常再生と逆再生を重ねる話とか、まあよく思いつくよねと思います。こういうのは真偽はどうでもよくて、「こういう説があるよ」っていうのを見せて、それが面白ければもうそこで完結、でいいと思うんですよ。これほどまでそういう楽しみを消費させてくれる映画もないな、と言う意味で貴重な映画だし、それだけの度量を持つ「シャイニング」という映画の凄さもまた改めて感じましたね。
「ブレードランナー」版も作って欲しい。
ココが×
他人の褌で金儲けしているのは事実なので、そこに対する批判はあって然るべしでしょう。
また、当たり前ですが「シャイニング」を観ていないとまったく意味のない映画なので、楽しむためには都合4時間程度は必要という、ある意味ではハードルの高い映画ではあります。
MVA
これまたこういう映画だし、キューブリック映画のシーンから流用される人たち以外に登場する人物がいないので、該当者無しということで。
あえて言うなら当然、ジャック・ニコルソンでしょう。やっぱシャイニングでのあの人、すげーわ。映画自体では奥さんもすごかったけど、端的に切り取って見せる分にはやっぱりジャック・ニコルソンが強烈。もはや顔芸の域。