映画レビュー1427 『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』

今回もアマプラ終了間際だったような気がしないでもないわけですが、ずっと観たかった一本でもあります。

SHE SAID/シー・セッド その名を暴け

She Said
監督
脚本

レベッカ・レンキェヴィッチ

原作

『その名を暴け ―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―』
ミーガン・トゥーイー
ジョディ・カンター

出演

キャリー・マリガン
ゾーイ・カザン
パトリシア・クラークソン
アンドレ・ブラウアー
フランク・ウッド
ケイリー・マックエイル
アンジェラ・ヨー
サマンサ・モートン
ジェニファー・イーリー
ピーター・フリードマン
アシュレイ・ジャッド

音楽
公開

2022年11月18日 アメリカ

上映時間

135分

製作国

アメリカ

視聴環境

Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

SHE SAID/シー・セッド その名を暴け

一個人の問題ではない。

9.0
ハーヴェイ・ワインスタインの性犯罪を追うニューヨーク・タイムズの女性記者2人
  • MeToo運動のきっかけとなったワインスタインの犯罪を追ったジャーナリスト
  • 当然の抵抗と同時に声を上げられない被害者たちによって調査は難航
  • 問題は社会構造そのものにある
  • 社会派映画の傑作

あらすじ

予想はしていましたがめちゃくちゃ良かったですね。考えさせられるポイントも多く、素直に社会派映画の傑作だと思います。

ニューヨーク・タイムズの記者ジョディ(ゾーイ・カザン)は、ハリウッドの有力プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタイン(マイク・ヒューストン)が日常的にセクハラや性暴力を行っているという情報を得て、上司のレベッカ(パトリシア・クラークソン)に記事化のための取材を始めるよう言われます。
しかし被害者たちは一様に口を閉ざし、取材は難航。そこで突破口を開くために以前トランプ大統領のセクハラ告発記事を書いていた同僚記者のミーガン(キャリー・マリガン)に助力を求め、2人で取材を開始します。
変わらず口を閉ざす被害者たちですが、オフレコで語る人も出始める中、その動きに気付いたワインスタイン側からは圧力がかかり始めますが…あとはご覧くださいませ。

自分は“そうならない”と言い切れるのか

映画冒頭はミーガンが取材していたトランプ大統領のセクハラ疑惑から始まるんですが、このときに「トランプ本人から直接電話がかかってきた」形で会話するシーンの電話の相手がマジでトランプに似すぎてて笑いました。出たがりのトランプだからワンチャン本人じゃねえのか!? と思ったんですがさすがにそんなことはなく、トランプのモノマネで有名な俳優さんが演じているそうです。マジで似すぎてて違いがまったくわからなかった…すごい。
そんな前座を経ての本編。もはや映画ファンにとっては「知っているけどあまり触れたくない」話題の筆頭とも言っていいワインスタイン事件を追う記者2人の姿を中心に事件を描きます。
少し前の映画を観ると結構な確率でワインスタイン・カンパニーのロゴが出てくるので、もうそれだけで結構こっちは滅入ってくるんですがその周辺情報についてはやはりそんなに知らないので、改めてどういう話だったのかを理解する上でも良い映画だと思います。
内容的には新聞記者がメインのジャーナリズムが基本になるので、かなり「スポットライト」に近い印象。そしてあれと同じく傑作です。やっぱりこの手の「ジャーナリズムが社会的役割を果たす」話は何回観ても良いものがあります。それは裏を返せば(日本では)「役割を果たしていない」姿ばかり目にしている反動なのかもしれず、それはそれでまたいろいろ思うところもあるわけですが…。
主人公2人はそれぞれ女性で、そしてどちらもいわゆるワーママ。育児をしながら記事にするべく奔走する姿は「ただ記者の仕事を追う」ものとはやはり少し印象も違っていて、より過酷さを感じると同時により(2人からの)被害者たちへの感情移入も加わっているような気がして、その仕事をバックアップするような夫2人も合わせてまたいろいろ考えさせられます。
夫の存在は本当に脇役でしかなかったんですが、それでも理解があってサポートしてくれる姿はやっぱり共働きの正しいあり方のようなものを感じさせるし、アメリカの都会(ニューヨーク)のさらに知識階級というヒエラルキーで言えばかなり上の方と思われる家庭なのでそのままアメリカすべての姿とは言いづらい側面はありつつ、それでもやっぱりこういう形になっていくべきなんだろうなという家庭の姿も考えさせられました。自分には縁遠い世界ではあるんですけど。

本題のワインスタインの事件については、まあやっぱりクズが権力持つとどうしようもねーなというありきたりの感想を抱くと同時に、果たして「自分がワインスタインの立場だったらこうならなかった保証はあるのか?」とこれまたものすごく考えさせられる部分がありました。
現状の自分は権力もなく女性との接点もないので「ひでえ男だな」と他人事のように言えますが、仮に自分が(社会に出てすぐ)それなりの地位を手にし、映画という巨大産業のいろいろをある程度自由に差配できる立場になっていたとしたら、自分の中の性欲に負けずに紳士的な人間でいられたのか…は率直に言ってわかりません。そうなっていたかもしれないしなっていなかったかもしれない。
今その頃に戻って入れ替われるのであれば「絶対にならない」と言い切れますが、経験も乏しくまだ若い頃に絶大な権力を手にしてもワインスタインのようにならなかったのかと聞かれると本当にわからないんですよ。そうならないと言い切れる自信がない。
しかも時代的にもまだ現代ほどこの手の犯罪に厳しくもない時代だっただけに軽く考えたとしてもおかしくはなく、そういった諸々を考えるとこのワインスタインのような環境に身を置かずに済んだことにむしろ安堵した、というのが正直なところです。
これはまさにハンナ・アーレントがアイヒマンを「凡庸な悪」と断じた視点と根っこでつながっていて、要は「凡庸なスケベ」だとこうなりかねない気がするんですよね。きちんと自らを律することができる人間でないと。「スーパー・チューズデー」における大統領候補のやらかしも似たような面があるでしょう。

っていうか男なんて基本的に凡庸なスケベがほとんどだと思うので、裏を返せばワインスタインのような環境にいたらこうならない保証なんてほとんどの男にはないと思います。
同時にこの映画でも大きな要素として出てきますが、やっぱりワインスタイン個人の問題はもちろんありつつ、それと同じかそれ以上に「このことがまかり通ってしまう」「隠蔽する体制が業界として成立している」といった周辺事情、社会環境の問題も大きくあり、これは思っていた以上に傷口の大きな問題なんだなと改めて感じました。
劇中で声を荒げてワインスタインを擁護する人たちも出てくるんですが、彼らもワインスタインという権力のおかげで甘い汁を吸ってきているためにその現状維持を目指すべくポジションに沿った動きをしているだけで、おそらくはあまり悪いとも思っていないはずです。そのことがまた非常に打ちひしがれるというか、暗澹たる気持ちにさせられるお話でもありました。

そろそろ男性権力社会はやめませんか

もう一つ、ここ数年ずっと感じていることですが、やっぱりもう長年「男ばかりが権力者」であったことの弊害がすごく出てきている気がしていて、いい加減そろそろ男女比を同じぐらいにするか、理想を言えば7:3ぐらいで女性に権力を持たせる社会にしていかないと本当にこの手の話は無くならないし社会制度も硬直化したままなんじゃないかなと思うんですよね。特に日本は男性であると同時に高齢でもある、要は爺が権力握りすぎて本当に終わってると思います。特に政治。
さすがに生物的に女性の方が優れているとまでは言いませんが、ただ男性優位社会過ぎて実力以上のポジションを得ることで問題を起こす権力者が多い、みたいなことはあるだろうし、さらに有り体に言ってしまえば「性欲に負けやすい」のも間違いなく男性の方が多いと思うので、やっぱりある程度女性優位な社会を作らないと監視の目も厳しくならないという問題は変わらないように思います。
そういった諸々をひっくるめてカマラ・ハリスには本当に頑張ってほしいし、トランプなんかに負けないでほしい。
実は個人的にカマラ・ハリスは前回の大統領選の時点でも注目していたんですが、いよいよアメリカでも女性大統領が誕生すれば、ほんの少しだったとしても日本でも風向きが変わり始めるかもしれない、とささやかな期待を持っております。(かと言って高市早苗は勘弁なんだけど)
だいぶ話が逸れましたが、とは言え逸れた話も完全に無関係ということでもなく、それだけ広範な社会について考えさせられる非常に大きなお話だと思います。
「一人のモンスターの問題でしょ」で済ませるのは思慮が浅いか見て見ぬふりかでしかなく、実はもっと根の深い社会の問題を広く感じさせる現代人にとって非常に大きな意味を持つ映画でしょう。
余談ですが僕の母は嵐ファンで、年々いわゆるジャニオタの傾向が強くなっているジャニー喜多川擁護者なんですが、この映画を観ても同じように考えるのか一度観せて意見を聞いてみたいと思っています。
まったく同じ構造だと思うんですけどね。擁護目線でそのことに気付けるかどうかはまた別ではありますが…。

このシーンがイイ!

割と話の上ではどうでもいいシーンなんですが、2人の服装が被り気味で「姉妹!?」ってなってるシーンがかわいくて好きでした。ほっこり。

ココが○

上記の通り、今の社会についていろいろ考えさせられるポイントが非常に多いので、たかだか2時間ちょっとですがかなり濃厚で有益な時間をもらえると思います。本当に必見。

ココが×

映画としては特に無いかも。

MVA

お姉さん風味を出してるキャリー・マリガン、実はゾーイ・カザンより年下でびっくり。
どっちも素晴らしかったし悩むところですが…うーんこっち!

キャリー・マリガン(ミーガン・トゥーイー役)

主人公の1人。おそらく先輩。
ゆるふわかわいい系女子だったキャリー・マリガンもすっかりベテランの貫禄で結構驚いた(最初キャリー・マリガンと気付かなかった)んですが、役にピッタリの強さと弱さを併せ持った等身大の女性像が素晴らしかったですね。
ゾーイ・カザンも若手記者っぽい真っ直ぐさが感じられてすごく良かったです。どちらも本当にお見事でした。

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