映画レビュー0889 『40歳の童貞男』
この映画はずっと観たくて、実は少し前にネトフリ終了が来たんですが他を優先した結果観られず、悔しい思いをしていたところまた追加になってまた終わる、と。
ネトフリは結構気付いたら復活していることが多いので、こうして終了間際で紹介していてもまた探してみると意外とあったりするので諦めないで!(真矢)
40歳の童貞男
テーマの割に品がなさすぎない観やすさが◎。
- ひょんなことなら童貞がバレ、同僚に急かされながら“男”になれるか
- 周りからの相次ぐ斡旋に気になる女性に歳の行った女性店長にと機会はたくさん
- 主題の割に主人公は普通の人なのでコメディに寄りすぎていないのが◎
- 下ネタすぎず奇抜すぎず、良い意味で普通のラブコメ
あらすじ
なかなか下ネタ感の強いタイトル(しかも邦題がやっちゃった系かと思いきや直訳なので原題もそのまま)なので、かなり下品な映画じゃないかと思われ気味ですが至ってそんなことはなく、なんなら良質なラブコメとしてその辺のラブコメよりも断然オススメできる良作でした。
映画とは関係のない話ではありますが、最近では「人は自分に都合のいいように記憶を改ざんすることがある」説が有力なそうで、僕もれっきとした経験者だぜと胸を張っていながらあんまり長いことやってないのであれは妄想だったんじゃないか、と脂汗が滲んでくるなかなか他人事ではないお話です。きっと。
主人公はスティーヴ・カレル演じるアンディ。家電量販店的なお店の在庫管理みたいなお仕事(ふわっとした説明)をしている模様。性格的にはとても真面目で、同僚からは自分の世界に籠りがち…と見られているようであまりみんな仲良くもないんですが、ある日ポーカーをやりたいけどメンツが足りない、じゃあ仕方ないしアンディ誘ってみるか、ってことで誘ったら「できるよ」ってことで集まってポーカーをやりますよと。
一通り遊んだ後、中高生かよ的な猥談が始まり、アンディもそれっぽく同調していたんですが…彼は何を隠そう童貞君なので話にリアリティが無く、見事に同僚たちから「さてはお前童貞か!?」と看破されるに至ります。
翌日出勤すると彼の童貞は店中に広まっていてアンディ憤慨、「もうこんな店辞めてやる!!」といきり立ったところに前日共にポーカーをしていた同僚のデビッド(ポール・ラッド)が言うわけです。「女は良いぞ、手伝ってやるから早く童貞卒業しようぜ」と。
その他同じく一緒にポーカーしたキャル(セス・ローゲン)、ジェイ(ロマニー・マルコ)の3人も「今日の夜ちょっとした集まりがあるんだけど行かないか?」的に彼を引っ張り回し、「ベロベロに酔っ払った女を狙え」だの何だのいろいろひどいアドバイスを繰り出しながら悪友的友情を育みつつ、果たしてアンディは童貞を卒業できるのか、そして彼が“ピンときた”女性と親しくなることができるのか…というようなお話です。
童貞卒業よりもそのための人間関係が中心だから良い
まず主人公のアンディなんですが、確かに見た目はスティーヴ・カレルだからオッサン感はあるし「童貞です」と言われるとなかなかパンチの効いた年齢感はあるものの、とは言えなんだかんだ言ってイイ男だし、何より性格的にものすごく内向的とかそういうこともなく良くも悪くも普通の良い人なので、まあぶっちゃけ童貞卒業なんてその気になれば難しい話じゃないでしょうというキャラクター。
元々あまり自分から外に行くタイプではない(趣味がフィギュアというところにその辺のイメージが込められてるっぽい)だけに、同僚からは「つまらないやつ」と思われていたんですが、「実は童貞だった」ことがフックとなって(やり方の良し悪しは置いといて)なんとか世話してやろうとする同僚三人と徐々に仲良くなっていく友情物語の側面があるのがまずすごく良かったですね。
「なんだそうなのか、じゃあなんとかしてやろうぜ」と関係性を深めていくうちに「なんだアンディって面白いしいいヤツじゃねぇか」みたいな周りの評価が上がっていく感じ、「人間の価値はチンコじゃないんだぜ」と言っているような構成が良いんですよ。考え過ぎかもしれませんが。
いい歳こいて本当に高校生に戻ったかのように「童貞卒業」を重大なミッションとして(楽しみながら)戦略を練る感じ、男あるある的なとても良くできた友情を描いていると思います。
つまらないプライドは捨てようというメッセージ(?)
僕の話ではないんですが、かつてフリーペーパーを作る会社に勤めていた頃、取材で知り合ったかわいい子とどうしても仲良くなりたい、って言う同僚に先輩男子がこぞってアレコレレクチャーしていたことがあって、最終的に彼はめでたくその子と一戦交える(彼氏がいたらしいので多分1回だけ浮気した感じ)に至ったんですが、その話をしみじみと思い出しましたね…。
僕はそれを傍から眺めていて、羨ましいのと同時に「自分にはその欲望を周りに話す、良い意味でのプライドのなさがない」つまり無駄にプライドが高すぎてそんなこともアウトプットできないよな…と思っていました。
この映画でもきっと、自分がアンディの立場だったら例え童貞だったとしても死ぬほど否定したんじゃないかと思います。で、その否定っぷりに「もう良いよ興味ねぇし」って周りも離れていったんじゃないかな、とか。
そう、だからアンディは(不本意ではあったとは言え)それなりに器が大きく、つまらないプライドを持ってなかったからこそ、同僚からも愛されるようになり、徐々にうまく人生が回っていくようになったんだろうと思うんですよね。
そこがタイトルの品の無さとは裏腹に、すごく示唆に富んだ深さのある物語だと思うんですよ。
余計なプライドは本当に意味がないし、その過去を踏まえて自分が変わったかと言われると微妙な気もするし…とこの映画を観ながらまた少し自分を考え直す必要性を感じるぐらいには、軽いようでいて持ち帰る意味のある良い映画だと思います。
「遅れてきた青春」映画
またアンディが惹かれる女性はキャサリン・キーナー演じるトリシュさんなんですが、彼女はアンディと同世代なんですよね。そこがすごく良い。
やっぱりこれで若い子狙いだったらちょっと違うじゃないですか。日本の歳の行った童貞界隈はそういう話ばっかり転がってる気はしますけど。「40代童貞です。相手も初めてが良いです」みたいな。現実見ろよ案件。いや本当にそう言ってる人がいるのかは知りませんが、どうしてもネットではそういう話が目につくので。
そうじゃない、もっと言えば子持ちでもある人を(自然と)好きになるっていうのがすごく良いんですよ。ベタな価値観だとは思いますが、でもやっぱりその方が観てる方も応援できるじゃないですか。
他に割と重要なキャラクターとして、まだ出たての頃のエリザベス・バンクスがちょっと面白いタイプの女性として登場するんですが、彼女がヒロインだったらまただいぶ違った物語になっていたと思います。
落ち着いた同年代の女性に恋をして、その前に童貞を捨てるべき(経験を積むべき)なのかそれとも本当に好きな人と初めてを迎えるべきなのか、その辺の青春っぽいテーマが込められているのもまた良くて。
そう、だからある意味では「遅れてきた青春」映画なのかもしれないですね。それがわかっているから周りも冷やかさずに温かいのもとても良い。
周りが温かいという意味では「マイ・インターン」でも似たようなものを感じた場面がありましたが、もしかしたらアメリカは(映画の上では)性的に温かい視点が根付いた社会なのかもしれません。
同僚の三者三様ぶりも見どころ
手伝ってくれる同僚3人にしてもそれぞれちょっとした問題を抱えていて、アンディの手伝いをしながら彼らもまたアンディに助けてもらう部分があり、相互に関係を構築していく辺りも秀逸。
女性の場合はどうなのかさっぱりですが、男の友情という意味では非常にリアルで羨ましく感じるような良い関係を描いているので、女性が「男の友情を見る」という意味でも良い映画だと思います。
女性を軽く見がちな部分とかもある意味でリアルだし、嫌悪感を抱く面もあるでしょうがそこも含めて「男あるある」っぽさが強い、なかなかよくできた脚本だと思います。
そして何より、その辺を至ってライトに観やすいラブコメに仕立てているのが素晴らしい。編集したAVをプレゼントするくだりとか最高。
タイトルがタイトルなので借りるのも躊躇しそうなキワモノ感がありますが、実際は誰にでもオススメできる良作だと思います。気軽にオススメできる一本。
このシーンがイイ!
一番笑えたのは胸毛を剃るシーンかなー。あんなサロンある!? 日本人っぽかったのがまた笑えるけど。
ところどころ日本推しがありましたよね。誕生日祝いのシーンとか。
ココが○
テーマの割に下に行きすぎず観やすい点と、実は男の友情が中心になっている点。とても良い脚本だと思います。
ココが×
特に無いかなぁ。すごく観やすいし過度に童貞その他をバカにするような内容でもないし、いやなかなか良い映画だと思いますよ。
MVA
ポール・ラッドがなんかむっちりしててかわいかったですね。今はもうアラフィフですが今の方がかっこいいよなぁ。僕も歳を取ることを嫌がってる場合じゃないですね…!(一緒にすんな)
ということで結局無難に。
スティーヴ・カレル(アンディ役)
相変わらずお上手。ほんと「そういう人」にしか見えないもんなー。
脚本も関わってるみたいだし、半分はこの人の映画と言って良いんじゃないでしょうか。
コメディ畑出身らしいコメディ適性もさすがだし、まあ本当にこの人は芸達者ですよね。この人も「出てるだけでなんかその映画を期待しちゃう」人かもしれない。