映画レビュー1355 『ザ・バンカー』

限定加入中のAppleTV+より。面白いと聞いて観てみました。

ザ・バンカー

The Banker
監督
脚本

ジョージ・ノルフィ
ニコラス・レヴィ
デヴィッド・ルイス・スミス
スタン・ヤンガー

原案

デヴィッド・ルイス・スミス
スタン・ヤンガー
ブラッド・ケイン

出演

サミュエル・L・ジャクソン
アンソニー・マッキー
ニコラス・ホルト
ニア・ロング
スコット・ダニエル・ジョンソン
テイラー・ブラック
コルム・ミーニイ

音楽

H・スコット・サリーナス

公開

2020年3月20日 各国

上映時間

120分

製作国

アメリカ

視聴環境

Apple TV+(Fire TV Stick・TV)

ザ・バンカー

三者三様のキャラクターが魅せる。

8.5
不動産会社を起こしたい黒人男性、しかし当時まだ黒人経営は前例がなく…
  • 差別色濃い時代のアメリカで、不動産会社を起こそうとする黒人男性の実話系
  • しかし当時黒人による不動産会社経営は前例がなく、やりたくてもやれない状況
  • そこで「表に出られないなら裏から操ろう」と白人の頭弱め男子を担ぐ
  • 主演3人のキャラの違い、演技の良さが光る

あらすじ

実話系社会派ながらエンタメっぽい面白さもあり、「どこかで観たような映画」ではあるんですが良く出来ていて面白かったです。

幼少期より白人のビジネスの場を覗き見ては学んでいたバーナード・ギャレット(アンソニー・マッキー)は、やがて不動産会社を経営する目標を立てますが、「黒人による不動産会社経営」の前例もない差別色濃い時代故に人々からは相手にされません。

しかしある時目をつけた物件を持っていた不動産経営者のパトリック・バーカー(コルム・ミーニイ)と交渉した際、その度胸と知識を気に入った彼から共同経営を持ちかけられ、徐々に稼ぎを上げていきます。

バーカーも白人ではあったもののアイルランド系であるが故に差別の当事者意識を持っていて、それ故にバーナードをパートナーとしたんですが、ある日急に彼は帰らぬ人となってしまい、半々だった契約もバーカーの未亡人によって反故にされ、結局僅かな資金しか残りませんでした。

それでもギャレットはもう一度再起を図ろうと、妻の知己で資産家のジョー・モリス(サミュエル・L・ジャクソン)に協力を仰ぎます。

しかしどちらも黒人故、このままではうまくいかない…ということでバーナードの弟の友人で白人のマット・スタイナー(ニコラス・ホルト)に白羽の矢を立て、徹底的に上流階級のマナーや不動産関係の知識を叩き込み、表向きは彼の会社にし自分たちは運転手等の雑用係として振る舞い、実際は裏で実権を握る形で会社を起こし、めでたくビジネスは成功に。

うまく行ったことでバーナードは地元を救おうと次なる計画を立てますが、しかしそうそううまく行かず…あとはご覧ください。

主演3人が良い

不動産業界における黒人起業のパイオニアを描いた成功譚であり社会派ドラマ、って感じでしょうか。きっとどの業界においてもこういう人がいたんでしょうね。

ご存知の通り、なにせ「黒人なんてせいぜいブルーカラー」と思われていた時代に、パリッとスーツを着てすべて暗算で不動産に係る計算も即座に回答してみせる極めて優秀な人物が、差別的慣習を乗り越えて社会的な成功を掴もうとする話は単純に面白い上に勉強にもなるので大好物でした。

正々堂々と勝負に出てもそもそも勝負の土俵に上げてもらえないような時代であるが故に、表に立てる白人(マット)を作って裏から事を成し遂げるというのは、聞いただけではちょっとあくどいような印象もあるんですが、実際のところは(映画上では、なので実際どうだったかはわかりませんが)兄貴分のようにマットを親切に導き、とても良い関係性を築いていたのが印象的。

この手の話は大概使われている方、つまりマットが裏切ってダメになっていくのがベタなパターンですが、この話はそこも少し変わっていていい塩梅な見どころになっているのもポイントでしょう。もちろんそこがどうなのかはネタバレになるので書きません。

ただ例によってこういった成功譚は「成功しきって終わり」はあまりなく、やはりラブコメでジャケットの2人がどんなに喧嘩しようが結ばれるのと同じで、上昇→絶頂→転落の組み合わせが描かれるのはもう周知の事実です。

この映画も例によってそういう映画ではあるんですが、そこについても「黒人差別社会」を由来にした社会派的な展開になっているので納得感もあるし、あまりベタさを感じさせないのも良いところ。

裏稼業的なやつだと大体お察し案件ですが、それとはちょっと違ったほろ苦さを感じさせるストーリーはしみじみ考えさせる味わい深さもあって良いですね。

またこの映画は主要キャラの3人がそれぞれタイプの違うキャラクターになっていて、そのバランスの良さも物語に効いている気がしました。

アンソニー・マッキー演じる主人公のバーナードはいかにも優秀の切れ者で、歩いてる姿だけでも「こいつ…デキる…!」と思わせる佇まい。そしてかなりの堅物クソ真面目。正直アンソニー・マッキーがこんなシャキッとした役似合うと思いませんでした。危機対応能力も高く、ピンチに対する彼を見るだけでもワクワクするような魅力があります。

相棒となる“出資者”的な存在のジョー・モリスを演じるのはおなじみサミュエル・L・ジャクソン。彼らしい軽快な演技の裏には「全部お見通し」感が漂っており、堅物で正攻法を信条とするバーナードとは好対照の“寝技師”的なキャラクター。まずこの2人のバランスが素晴らしいので、そりゃあビジネスも上手く行くはず…という納得感がすごい。

そしてその2人が担ぎ上げる“ハリボテ担当白人”マットを演じるのがニコラス・ホルト。彼がまためちゃくちゃいい。こう言っちゃあなんだけどバカっぽいのがすごくいいんですよ。かわいい。

とは言えどうしようもないバカではなく、知識もなく計算も出来ないけど「教えられたことは忠実に実行する」能力があり、ある意味ではまさに適任の人物です。

何より黒人差別が当たり前の時代に、言い方が適切かはわかりませんが「黒人に言われるままに動く立場に甘んじる」ことができる時点で一つの才能だったのではないかなと思います。良い意味でのプライドのなさ。

もちろんお金だったり彼女(後の妻)へのアピールだったり下心も当然あれど、それでもやっぱりこの時代に黒人2人の下でこれだけ素直に仕事ができる人物というのはなかなかの好人物だったのではないでしょうか。

誰が観ても楽しめる系

後半の展開は一気に社会派感を増してくる点もあり、一つの映画で二度美味しい的な楽しみもあります。

AppleTV+は「テトリス」といい「オン・ザ・ロック」といいコレといい、なかなか質の高い映画を作っているだけにもうちょっと数が多いといいなぁと思うんですが、逆に数を増やすと質も下がるんでしょうね、きっと。

今後時間が経つに連れて数も増えるんだろうし、数年待って加入するのは全然ありかもしれません。

おそらく誰が観ても一定程度楽しめる良作だと思うので、もし加入した際にはぜひ。

このシーンがイイ!

ニコラス・ホルトが丸暗記して数字をスラスラ出すところ、好きですね。いいドヤ顔。

ココが○

ベタな展開のようでいてアメリカの社会構造に繋がっている作りが良かった。こういう先人たちがいっぱいいて今の時代が作られているんでしょう。

ココが×

ちょっと主人公が優秀に描かれすぎているような気がしないでもないんですがまあ実際のところがわからないのでもなんとも言えません。もうちょっと人間味がほしいような気はしたんですが、そういう人だったと言われれば何も言えません。

MVA

3人とも本当にすごく良かったんですが…1人選ぶならこの人かなぁ。

ニコラス・ホルト(マット・スタイナー役)

ハリボテ担当白人。いいやつ。

ちょっとバカっぽい抜けた感じ、でも真面目で素直な感じがイメージにぴったり。ニコラス・ホルトもいい役者になったよねと「アバウト・ア・ボーイ」から観ている人間としてはしみじみ思います。

それと早々に退場したものの個人的に「出てるといい映画」判定役者の1人であるコルム・ミーニイも確かなお仕事っぷりが良かった。

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