映画レビュー1348 『テトリス』

これ、もうめちゃくちゃ観たかった映画なんですがApple TV+オリジナルということで「今さら新しい配信増やせるかよバカヤロウ!」と思っていたところ、先日買い替えたMacにApple TV+3か月お試し権がついてきたのでこれ幸いと加入しました。

当然いの一番に観たのがこの映画です。

※なおなんか落ち着かなかったのでやっぱり2カラムに戻しました

テトリス

Tetris
監督
脚本

ノア・ピンク

出演

タロン・エジャトン
ニキータ・エフレーモフ
ソフィア・レべデヴァ
アンソニー・ボイル
ベン・マイルズ
山村賢
イーゴリ・グラブゾフ
オレグ・シュテファンコ
文音
ロジャー・アラム
トビー・ジョーンズ

音楽
公開

2023年3月31日 各国

上映時間

118分

製作国

イギリス・アメリカ

視聴環境

Apple TV+(Fire TV Stick・TV)

テトリス

時代が作り出した唯一無二のサクセスストーリー。

9.5
テトリスの“ソ連外販売権”を巡る熾烈な争い
  • ソ連特有の問題もあってややこしくなった「テトリス」の全世界販売権を巡ってしのぎを削る面々
  • そこに“新ハード”が加わることで争いがより加速する
  • ソ連末期の混乱も手伝ってさらにややこしい事態に
  • あらゆるタイミングが噛み合った奇跡のようなサクセスストーリー

あらすじ

モロ世代なのでその辺の楽しみはありつつも普通のサクセスストーリーなんでしょと思って観たらこれが想像以上に良く出来ていて、この手のサクセスストーリーとしては出色の出来と言っていいと思います。めちゃくちゃ面白かったです。

ラスベガスのCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で囲碁のゲームを売り込もうと頑張るも鳴かず飛ばずのゲーム開発会社「BPS」社長のヘンク・B・ロジャース(タロン・エジャトン)は、自社の売り子が他社のゲームにうつつを抜かしているところを咎めに行ったところ「面白いからやってみて!」と勧められ初めて「テトリス」をプレイ。

すっかり心を奪われた彼は、日本での販売権を購入して任天堂へゲリラ売り込みをかけ、強引に山内社長(伊川東吾)に許諾をもらってファミコン版テトリスの販売を開始します。

その後任天堂が開発していた“新ハード(ゲームボーイ)”を紹介された彼は、これでテトリスを出せば必ず売れると確信し、携帯版テトリスの販売権を得ようと再度権利を持つミラーソフト社と交渉に当たりますが、ご存知の通りテトリスはソ連で作られたゲームであるが故に権利関係が不明瞭であり、それによって様々なトラブルに見舞われることになります。

もはや直接交渉するしか無いと判断したロジャースはソ連へ向かいますが…果たして!

ミラクルソフトがミラクルなタイミングで

もはや説明不要の“落ちものパズル”の元祖、「テトリス」。

“落ちものパズル”とジャンルを限定しなくても、ゲームの歴史においては「スーパーマリオ」辺りと並んで最重要ソフトの一つと言っていいでしょう。世界的なブームを巻き起こしたという意味で「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」でも足元にも及ばず、映画で言えば「バック・トゥ・ザ・フューチャー」みたいなものですよ。それぐらい偉大なゲームです。

僕も中学時代から死ぬほどやりまして、対戦ソフトでは最も強いゲームだと自負しております。正直他のゲームは上手かったとしても大概中の下〜中の上ぐらいで天井が来て大した腕前にはならないんですが、テトリスだけはいまだに自信がある、上の下ぐらいには位置しているだろうと考えているゲームなので思い入れも強いです。いつでも対戦募集中。

この映画でメインとなる話は「携帯版テトリスの権利を巡る争い」、つまりゲームボーイの発売に伴ってのアレコレが中心になってくるんですが、それまでにソ連外においてはすでにアーケードではSEGA版のテトリスが、そしてファミコンでは(主人公率いる)BPSが発売にこぎ着けていて、じゃあ携帯版も…と思ったらそもそもSEGA版の権利すらちょっと怪しいぞという話になってきて、直接確認しに行ったら向こう(ソ連)は任天堂すら知らないしそもそもハードの定義すら怪しい…みたいな話になってだいぶ混沌としてきます。ちなみに余談ですが僕はファミコン版の存在を知りませんでした。(コンシューマー版テトリスはゲームボーイが最初だと思ってました)

この権利関係の話が複雑なのでわかりづらい部分があるんですが、まず最初にソ連から権利を買ったのがトビジョ演じるロバート・スタインで、彼が“メディア王マクスウェル親子”の会社であるミラーソフト社に権利を再販し、そのミラーソフト社から日本での販売権を買ったのが主人公のロジャース、という形が最初。

この場合の「日本での販売権」はシェア的にはだいぶ小さいのでは…と感じるところですがこれはおそらくイコールで(当時のコンシューマー覇者である)任天堂での販売権と考えても良さそうなので、実は今となってはかなり大きな権利だと思われます。なお本人はアーケードも込みの権利と考えていたようですが、ややこしいことにそういう契約ではなかったようです。

さらにロバート・スタインはソ連との契約が「全ハード」と認識していたようなんですが、向こうはPC版限定と考えていたようでここからだいぶ話がこじれていき、それによって逆に言えば他の人間が介入する余地が出来た形になってロジャースやマクスウェル親子が権利獲得に奔走することになります。

この辺本当にややこしくて、ハード別(PC/アーケード/コンシューマー据え置き/コンシューマー携帯)にさらに地域(日本とそれ以外? の全世界)が絡み合って来てよくわかりません。正直(映画を)作ってる側もそこまで厳密に描いていないので「まあ細かいことはようわからんけどややこしいんやな」ぐらいに考えておけばいいでしょう。きっと。

重要なのは、そうやって細かく分かれた権利でも手にしようとする人(企業)が入り乱れるぐらいにテトリスが“特別なゲーム”だった、という点ではないでしょうか。普通のゲームだったら多分ここまでの争奪戦にはなっていなくて、一括で販売権を売って終了、じゃないかと思うんですよね。

この映画のスタート時点でもすでに(アーケード版の人気等で)兆候は現れているので「完全なる賭け」ではないものの、それでも後世から眺めるほどに歴史的なゲームになるなんてこの映画に登場する当時の人々は知る由もないだけに、彼らの先見の明もまた大したものだなと思わざるを得ません。とは言え「一回プレイすればその凄さがよくわかる」ゲームデザインの秀逸さが何より素晴らしかったんでしょうね。

昔はよく「テトリスは西側諸国の生産性を落とすためのソ連の罠」説が流れていたぐらいですが、劇中では逆に「官僚が仕事をしなくなった」と本国での過熱ぶりもちょっと触れられていてそこも非常に面白いところです。

また最初期の“[ ]”でブロックを描くテトリスも登場して、テトリス好きとしてはこの辺りも非常に興味深く観られました。

この手のサクセスストーリーとしてはやっぱり(後世に与えた影響の大きさも含めて)「AIR/エア」他を思い出すんですが、ただこの映画の特徴としてはやっぱり“ソ連末期の混沌とした時代”が絡んでくるのが大きくて、おそロシアなんてもんじゃないんですよ。もう。

なので「サクセスストーリーの映画」というよりポリティカルサスペンスじゃねーか、みたいな緊張感がすごい。「クーリエ」以上にクーリエだな、みたいな。

どこもかしこも監視されている(冷戦時代を描いた映画でよく見る)ようなソ連内部に加え、もう崩壊直前なので共産主義なんてどうでもええわと利己的に動く人間も絡んできてかなりカオスなんですよね。ソ連が権利を持っている時点でカオスなんですがそこに崩壊直前の混乱も加わって輪をかけてカオスになるという。そこがものすごく大きい。

僕としても観ていた序盤こそ(売れるかわからない賭けという意味で)「AIRっぽいな」と思っていたものの、次第に「あ、もうこれアルゴの方が近いね!?」みたいな。とても「ゲームの販売権をゲットしてお金持ちになろう☆」みたいな呑気な映画じゃないんですよね。もう文字通り命がけでビジネスマンが体制に挑んでいる形になっていて、そこが他のこの手の映画とは一線を画していると思います。

まとめると、

  • 共産主義のソ連で開発されたゲームが
  • 歴史的な金字塔となる“新ジャンル”のもので
  • エポックメイキングな携帯型ハードであるゲームボーイの販売時期と
  • ソ連崩壊直前のタイミングが重なる

という、もはや二度と現れないであろうミラクルソフトに二度と起こらないであろうミラクルタイミングが重なった話になっているのでそれはもう唯一無二の面白さになるでしょう、という話ですよ。

このタイミングで「テトリス」が世に出てきたのは運命のようなものを感じずにはいられません。何せ今でもやることはほぼ変わらないのに新作が出てくるぐらいのお化けソフトですからね…。

僕もさすがに「このプレイ死ぬまでと思いながらやっていて気付けば夜が明けていた」10代のようなハマり方はしませんが、今やってもやっぱり面白いしついつい連戦してしまう魅力があって、本当にオンリーワンのゲームだなと思います。

そういった実感も込みで、このゲームがこのタイミングで世に出て“狂想曲”を巻き起こしたというのは…やっぱり映画の題材としても相当に面白いのは間違いないでしょう。

期待を遥かに越える出来

正直なところ、テトリスそのものへの個人的な思い入れもあって若干評価は甘いような気もするし、家族の話は結構蛇足だなとか思うところもあるんですが、ただやっぱりこの手の映画としてはなかなか無い緊張感にちょっとグッと来るポイントもあって、舞台設定の良さに加えて(おそらくは大半が脚色なんでしょう)話の上手さもなかなかだし、これはもうかなりの良作と言わざるを得ません。

「テトリスの話だから観たい」ぐらいに思っていたのが実際は期待を遥かに越える話になっていてものすごく楽しみました。こう言ったらなんですがApple TV+なんてマニアックな配信限定にするのはもったいなさすぎる…。

これを観るためだけに加入しろとはさすがに言えませんが、それでも1か月ぐらいなら入って観るのはアリなのでは…と思うぐらいによく出来た映画だと思います。超おすすめ。

このシーンがイイ!

後半は緊張感溢れるシーンも多くどこも良かったんですがあんまり書くと興を削ぐのでその辺は置いといて、チョイ役でしたが山内“組長”が出てくるシーンがそれっぽくて最高でした。印象的にはすごく似てる。

ココが○

ゲームの強さ、時代含めた環境の強さが合わさったらそりゃあすごい話になるよね、と納得。あらゆる意味で今はもう出てこない話でしょう。

ココが×

すごく気になったのが字幕。聴覚障害者用のような字幕になっていて、常に話者の名前が表示されるし「電話を切る音」とか環境音まで字幕が入るので結構気が散りました。なんでこうなったんだろ…。

(その後いろいろ設定を確認したところ通常に戻せました。最初は聴覚障害者向けの設定になっているようです)

MVA

タロンくんは結構ディカプリオっぽい役者感が出てきていいですね。今後も楽しみ。

他にもいっぱいいい人いましたが、今作はこの人にします。

ソフィア・レべデヴァ(サーシャ役)

たまたま通訳として主人公に付き合うことになった女性。

僕がぬるい見方をしていたので彼女の役回りが結構思っていたのと変わっていって意外と大きな存在になったのが良かったなと。

あと開発者のパジトノフを演じたニキータ・エフレーモフも良かったです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です