映画レビュー1290 『クーリエ:最高機密の運び屋』
この日も特にJAIHOで(終了間際の)観たい映画がなかったので、ボケッとアマプラのラインナップから探して面白そうだなと思ったこちらの映画をチョイス。チョーイス!(NHK教育感)
クーリエ:最高機密の運び屋
ドミニク・クック
トム・オコナー
ベネディクト・カンバーバッチ
メラーブ・ニニッゼ
レイチェル・ブロズナハン
ジェシー・バックリー
アンガス・ライト
ジェリコ・イヴァネク
キリル・ピロゴフ
2021年5月17日 イギリス
112分
イギリス・アメリカ
Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)
とても良いが、既視感も。
- キューバ危機の裏側で、ソ連のスパイと西側スパイをつないだ実在の“運び屋”
- 一般人がスパイとなる等身大の物語はスリリングさも上々、一味違ったスパイ映画に
- しかしところどころお決まりのパターンが見え隠れする限界も
- 例によって“美味しい時代”のお話なので周辺含め知識が広がる楽しみもあり
あらすじ
この手の話は大好物なので予想通りに面白かったんですが、ただアマプラの評価が高すぎて「ちょっと甘くない?」という気も。「友情にSOS」と評価逆でも良いんじゃねって気がしますが…。
東西冷戦時代、ソ連でそれなりの地位についていると思われる…いわゆる“高官”の一人がアメリカからやって来た大学生観光客に1通の手紙を渡し、「大使館に持ち込んでくれ」と依頼します。
手紙を入手したCIAはMI6に協力を仰ぎ、手紙をよこしたGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)のオレグ大佐(メラーブ・ニニッゼ)を情報源として利用することを決めます。
オレグ大佐はGRU幹部ですが同時に通商担当の高官でもあるようで、その地位を利用して商売人を送り込めばパイプが作れる…と睨んだ西側スパイ(CIAとMI6)サイドは東欧で工作機械の販路を開拓していたビジネスマン、グレヴィル・ウィン(ベネディクト・カンバーバッチ)に「ソ連での販路開拓のフリをした面通し」を依頼。
当初は断ったものの説得されたウィンは緊張の面持ちでモスクワへ向かい、無事オレグ大佐と面識を得て情報のやり取りを開始。
幾度となく“商談”のフリをして「運び屋」を続けるウィンですが、当然そのまま順調に「やり取りを終えました」では映画にならないわけでね…!
二人の運命や、いかに。
面白いものの不満も
言うまでもなく「スパイモノにとってもっとも美味しい時代」の東西冷戦時代、実在したスパイのお話なのでそりゃー面白いに決まってるべや、と観ましたが期待通りに面白く、とは言え「面白い」なんて呑気に楽しんでて良いのかという若干の罪悪感も抱きます。
何せあの“キューバ危機”の裏側で活動していたスパイの話なので、さして詳しくない僕でも「まかり間違ったら第三次世界大戦になる」状況というのはなかなかヒリつくものがありました。唇が乾いたぜ…みたいな。
もちろん第三次世界大戦にならなかったのはご存知の民なので何らかの成功を収めたんだろうなと思いつつ、とは言え少々予想とは違う方に展開する部分もあってなかなか引き込まれましたね。さすが現実を元にしているだけに甘々にはならない感じがあって。
タイトル的に「一般人(ビジネスマン)のスパイ活動」を中心に据えているように見える…というか実際そうなんですが、ただ裏テーマ的には「ウィンとオレグ大佐の関係性」も込められていて、若干「ブリッジ・オブ・スパイ」っぽさも感じました。あの映画も主人公は一般人(弁護士)だったし。
オレグ大佐も地味ながら非常に実直そうなキャラクターで(この辺りもブリッジ・オブ・スパイっぽい)、観客が彼をどう思うかが非常に大事な映画なだけにその辺りの作りもそつがなく、総じて「ちゃんとやればちゃんと良くなる」映画をちゃんとやった、といった印象。
エンドロールの“おまけ”もいかにもこの手の映画らしいもので良かったし、主人公の奥さんが泣かせるのもそれっぽい。
おそらく「これを言いたかったんだろうな」と感じさせるメインとなるシーンもグッと来るし良く出来てる…んですが、まあその辺全部“裏切らない”のも確か。
やっぱり確認しなくても(カンバーバッチ主演じゃなかったとしても)イギリス・アメリカの映画だなとわかるぐらいに定型化した物語に見えてしまうのも事実で、もう少し冒険してくれても良かったような気はします。どんな冒険かはわからないんですけど。
なんとなく「どこかで観た光景」に感じられてしまう分、初めて観る映画なのに新鮮味に欠ける面がどうしてもあって、良い映画だし面白いんだけど上限を感じる映画、というか。
フリ(伏線)とかもすごくわかりやすいので、やっぱりちょっとこの手の映画に慣れていると意外性がもう一つなのが…良い映画だっただけにもったいないなと。
もっともあんまりいじってしまうと今度は「いい素材を台無しにした」みたいなことにもなりかねないので、その辺りのさじ加減は非常に難しいとは思います。
ただアマプラの評価の高さ故にもう少し突き抜けた凄みみたいなものがあるのかとハードルが上がってしまった面もあり、勝手に期待しておいて申し訳ないんですが若干「またこのパターンか」と思ってしまう残念さもあったというのが正直なところ。
最近この手の史実系シリアス路線だと韓国映画の出来の良さにしびれっぱなしなので、どこが違うのか言語化出来ないのがもどかしいんですが、やっぱり欧米映画のこの手のものはお決まり感が拭えないのは否めません。
現実が危険なほど面白くなるジレンマ
…と少々不満も書きましたが総じて良く出来た良い映画であることは間違いありません。これを観てあんまり「クソだな!」と言う人はいないでしょう。
やっぱり「現実を元にした映画」の美味しいところは歴史の一部をより詳しく知ることで現実の見え方が変わってくる面だと思うし、急にきな臭さを増してきた昨今の世界情勢を考えると「昔の話だから」と一蹴できなくなってきているところにつらさもありつつ、同時にこの映画としては「旨味」も出てくるんでしょう。危機感が高まってくればくるほどより面白く感じられる罪深いジャンルというか。
果たして自分がカンバーバッチ演じる主人公と同じ立場で“素人スパイ”を依頼されたとき、どうするのかなぁとしみじみ考えてしまう面はありました。
結局お金欲しいから即受けするも能力不足で即捕まる未来しか見えませんけども。そしてすぐベラベラ喋りますわ。秘密を。
このシーンがイイ!
監視に気付くシーン、大好物ですね。その前の「監視に気付くように」セットアップする部分も含めて大好物。自分が旅に出たら意味もなく真似したい。
あとラジオの音量を上げて会話するシーン、「コロニア」にもありましたが好きです。あれも意味もなく真似したい。「盗聴されてるかもしれないから」って盗聴されても構わない会話しかしない、みたいな。
ココが○
この手の映画のご多分に漏れず、歴史の裏側で何があったのかがわかると当時のことが立体的に理解できるので、歴史好きであればそこだけでも観る価値があると思います。
あとはお決まりのパターンが目についたとは言え、全体的には抑えめで実直な作りなのも◎。
ココが×
上に書いた通り、観る側がある程度慣れてくるといろいろこなれた感じが見えてきてしまうのが残念。
特に一番のピークのシーンは本当に「このセリフを言わせたい」感がすごく見えすぎてしまって残念感が勝りました。
すごく良いシーンだっただけに余計にもったいないし、あそこはおそらく脚色だろうと思うので、もう少しそこの見せ方、言わせ方に工夫が欲しかったですね。
MVA
相変わらず(?)カンバーバッチはしんどそうなシーンが多い気がする。それも上手いのでさすがなんですが。
しかし…これまたこの手の映画ではこの人だよね、と選ぶ側もマンネリ化したチョイスですがこちらの方に。
メラーブ・ニニッゼ(オレグ・ペンコフスキー役)
ソ連のスパイ。
調べたらモデルとなったご本人は今の僕とほぼ同じぐらいの歳で亡くなったそうなので、モデルからするとだいぶ歳を取っている感はありますが…しかしいかにも「影の主人公」的な存在感が良かったですね。優秀そうな雰囲気もあって。
ちなみにこのお方は役どころは覚えていませんが「ブリッジ・オブ・スパイ」にも出ていたようです。それとあの「懺悔」にもね…!
懺悔の衝撃は今でも忘れられませんが…もう一回観たい。寝ちゃってごめん。こっちも懺悔、みたいなね。
ね。