映画レビュー1084 『セブン・シスターズ』
例によってネトフリ終了間際シリーズに戻ります。初耳のタイトルでしたが、評判が良さげなので選んだこちら。
セブン・シスターズ
トミー・ウィルコラ
マックス・ボトキン
ケリー・ウィリアムソン
ノオミ・ラパス
グレン・クローズ
ウィレム・デフォー
マーワン・ケンザリ
クリスティアン・ルーベック
ポール・スヴェーレ・ハーゲン
クリスティアン・ヴィーベ
2017年8月18日 イギリス・アメリカ
123分
イギリス・アメリカ・フランス・ベルギー
Netflix(PS4・TV)

設定の強さ故に思い切れる良SF。
- “一人っ子政策”下の近未来、禁じられた7人姉妹が1人を演じていた日常が破綻
- 月曜担当が失踪したことで窮地に陥る姉妹、生き残りのために調査を開始するも…
- 設定の良さ、強さを活かした思い切りの良さで引っ張る構成はSFらしい面白さ
- 一人7役ノオミ・ラパスゴイスー
あらすじ
SF好きなら設定からしていかにも興味を惹かれるこちらの映画、その想像通りに面白く、最後がちょっとありきたりだったのがもったいないかなーとは思いますがなかなかの良作でございました。
近未来、例によって過剰に増えてしまった人口故に地球がピンチ的な例のアレのため、人口抑制策としていわゆる“一人っ子政策”的な、2人以上の子どもを持つことが許されない社会となっております。
2人目以降の子どもが発覚した場合、あまり(と判定される基準は不明)の子たちは即座に連行、いわゆるひとつの“コールドスリープ”によって強制的に眠りにつかされ、過剰人口問題(資源問題)が解決した未来に目覚める…という施策が取られております。究極の先送り術。
まあだったら避妊して2人以上子ども作らなければよくね、と思うところですがこの世界では遺伝子組換え作物の影響によって多生児が増加するという“副作用”に悩まされており、望んでいないのに双子三つ子当たり前みたいな状況になっているようです。
そしてこの映画の主人公であるセットマン家にはめでたく7つ子が爆誕してしまうわけですよ。その事態に直面した、7つ子たちの祖父であるテレンス(ウィレム・デフォー)は「見た目そっくりの7人なんだから各曜日で担当分けて1人を演じればいいじゃない」と一計を案じ、かくして「1人7役」ならぬ「7人1役」で生き延びていくことに決めます。ただ演じるノオミ・ラパスは1人7役です。パラドックス…!
彼女たちはテレンスのトレーニングにより厳格に「7人1役」の人生を歩み続け、ときに一人が怪我をしたら全員同じ怪我を負わされる過酷なまでの連帯責任のもと、30歳になるまで周囲にバレずに無事に生活しておりました。
しかしある日、「昇進を決める最も重要な会議」に出向いた“月曜”が何の連絡もよこさないまま帰宅せず、火曜日に。
残された6人は「何かあったのかもしれない」と思いつつ、かと言ってずっと家で待つわけにもいかない…ということで前日と同じように、今度は“火曜”が出勤のため外出。普通にやり過ごせたと思いきや、「同行を願えますか」と見知らぬ人間に捕まってしまう火曜。
ついに2人が音信不通、果たして彼女たちの運命やいかに…!
設定が良いからどうやっても面白い
役名は英語のまま「マンデー」とかでいいと思うんですが、「月曜」「火曜」という漢字で表示しちゃう思い切りの良さがむしろ清々しい。「金曜ー!」とか叫ぶの笑っちゃう。
さて、そんな設定からして面白い、いかにもSFらしい物語でございます。ちなみに親についてはなぜか詳細は触れられず、母親が彼女たち7つ子を産んだ直後に亡くなった話がちらっとあった気はしますが、父親は不明のまま親代わりにお祖父ちゃん(ウィレムさん)が彼女たちを育てた、という設定になっております。
お祖父ちゃんはたまに過去シーンで登場はするものの“現在”では他界しているようで(これも直接的な描写はありません)、要は現代においては彼女たち「7人だけでなんとかしないといけない」という状況です。おそらくはそうするため(自由に動ける味方を作らないため)に親は登場させず、お祖父ちゃんが育ての親という設定にしたんでしょうね。親だと普通に生きててもおかしくない歳だし、ってことで。
やっぱりSFは突拍子もない設定でも無理がないというか、「まあそういう話だしね」と丸呑みできちゃうのが強いし、その設定を活かして大胆に展開する序盤〜中盤の流れはかなり好きでした。単純に今まで観たことがない話だし、その新鮮さで先も読めないしで面白い。
終盤の展開はちょっと“いかにも”な展開で、道中と反して読みやすかったのが残念ではありますが、しかしその設定の斬新さ、そして1人で7役を演じきったノオミ・ラパスのすごさだけでも観る価値アリでしょう。
この映画はSFはSFでもアクション寄りのSFなんですが、場合によってはノオミ・ラパスとノオミ・ラパスがくんずほぐれつだったりもするだけにアクションとしてもなかなか見どころが多く、話も絵面も強い意欲的な作品ではないかなと思います。
アメリカの定番SFというよりは、「プリデスティネーション」みたいなちょっと角度を変えた別の国が作った洋SFですよ感が感じられてそこもまた好き。
また設定上当然ではありますが「各曜日担当1人が外に出て、残りの6人は(人目に触れないように)家で過ごす」毎日なので、いくら情報をシェアしていてもどうしても“漏れ”が出てくるわけですよ。その辺りが顔を出したときのハラハラ感もなかなかで、もう単純に設定の良さがそのまま面白さにつながっている、実にSFらしい良い設定だと思います。
彼女たちは外に出るときは「カレン・セットマン」という1人の人格なので、当然ながら見た目も同じようにウィッグをつけて外に出るんですが、家にいるときはそれぞれ見た目も違えば性格も違うし、その違いによって「同じ7人」でも個性を感じられるようになっているのも面白い。
ただ食べるのが好きだったり嫌いだったり、トレーニングが好きだったりそうでもなかったりで体型に違いが出ないのはどうなのとは思うけど。自分が混ざってたら完全に一人だけブヨブヨですけど。日曜担当でお願いしまーす。
広くオススメできるSF
当然ながらあまり興を削がないように詳しくは書きませんが、彼女たちは一人の失踪を契機にこの世界の構造と裏の部分に触れていくことになり、大きなものに巻き込まれていくことになるわけです。そのスリラー的な要素も(既視感があるとは言え)面白いし、スリルありアクションありおっぱいありの非常にバランスの取れた良いSFだと思います。
最後だけもう少し裏切りが欲しかったなとは思いますが、設定が強すぎて“出オチ”感のある話でもないし、「めちゃくちゃ良いわけではないけど誰が観てもそれなりに楽しめるSFらしいSF」として割と広くオススメできる映画ではないでしょうか。
何よりそこまでメジャーではない作品だと思うので、「SFで何か面白い映画を」と聞かれたときに答えやすいのも地味に良ポイント。どうでも良いポイントですが。
そこはかとなく漂うディストピア感も好きだし、一言で言うなら「思わぬ拾いもの」と言ったところでしょうか。
このシーンがイイ!
あんまり詳細書けませんが…雨の日の屋上のシーンかなぁ。
あそこで「なるほどそう思い切るのか!」と目からウロコ。設定の強さを感じたシーン。
ココが○
SFらしい設定を活かした物語という点でしょう。「やっぱりSF好きだな〜」と改めて。こんな話SF以外あり得ないですからね。
ココが×
終盤の展開。ここだけは「まあそうなるよね」という感じで…もっと裏切ってほしかったような気はしますが、これは単なる贅沢です。
MVA
いつものようにウィレムさんも良いですが、やっぱりこの映画はこの人しかいないでしょう。
ノオミ・ラパス(カレン・セットマン役)
7人1役を演じる1人7役。すごい。
見た目で違いを作ってわかりやすくしている面もあったとは言え、それぞれ性格も違うし雰囲気も違って見えるしそれがやり取りしてるしで単純にスゴイ。お見事です。
あと思わせぶりで早々に退場する男、どっかで見た顔だな〜と思ったら特捜部Qの「Pからのメッセージ」で悪役を演じていた人でした。ああーあの! この人なんか怪しい男役似合うな、やっぱり。