映画レビュー0711 『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』

レンタル6本目、大トリでございますよ。

これが一番観たくてTSU●AYAに行ったのです。あの「キンキーブーツ」の監督が手がけるイギリス映画でございます。

ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出

A Royal Night Out
監督
脚本
トレヴァー・デ・シルヴァ
ケヴィン・フッド
音楽
ポール・イングリッシュビー
公開
2015年5月8日 イギリス
上映時間
97分
製作国
イギリス
視聴環境
TSUTAYAレンタル(ブルーレイ・TV)

ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出

第二次世界大戦が終結、その日のイギリスは戦勝記念日として誰もがお祝いムードで大騒ぎしていた。戦勝スピーチの準備に忙しい英国王・ジョージ6世の二人の娘、エリザベス王女とマーガレット王女は、「この日ぐらい外出して臣民たちと勝利を分かち合いたい」と両親に懇願、なんとか外出を許されるも、監視役に将校が二人着いてくることになってしまう。アテが外れた二人だったが、彼らが目を離した隙にマーガレットがフラフラと外へ出ていってしまい…。

他の映画との絡みも含めて楽しい。爽やか成長恋愛映画。

8.0

あの「キンキーブーツ」の監督が作った、っていう時点でハードルが上がりまくりなわけですが、あそこまでグッと来るほどではないものの、これまた誰にでもオススメできる観やすくてとても良い映画でした。

主人公はエリザベス王女、今もご存命の現・エリザベス女王となるお方です。となると彼女を描いた映画「クィーン」と同一人物、あのかなり前を舞台にしたフィクションということになります。

さらにこの“戦勝”は例のダンケルク撤退戦を生き残った兵士たちがいたからこそ…という事実もあるので、「ダンケルク」の少し後の物語ということにもなります。

そして劇中でエリザベス王女の父・ジョージ6世が戦勝を記念したスピーチを行いますが、ジョージ6世と言えば…そう、「英国王のスピーチ」のお方です。あの映画で描かれたのは(確か)開戦のスピーチなので、この辺の(僕が観た)映画を時系列で並べると、英国王のスピーチダンケルク→今作→(だいぶ時間が空いて)クィーン、という感じになるんですが、この辺の背景を頭に入れておくとまたひじょーに味わいが違うような気がしましたね。

特に「英国王のスピーチ」とは同じファミリーを中心にしていて時期的にも近いし、スピーチ自体が対を成しているということもあって、この映画を観る前に観ておいた方が良いのは間違いないでしょう。欲を言えば今回もジョージ6世役をコリン・ファースがやってくれれば…評価的にも興行収入的にもかなり伸びたような気がしますが、まあそこまでの予算もなかったんでしょう。無念ナリ。

ということで概要。

生まれてからこの方自由に外を出歩けない、なんとも窮屈な生活を送るエリザベスとマーガレットの二人の王女。一応、史実通りの設定であると仮定した場合、この映画でのエリザベスは19歳、マーガレットは14歳(数カ月後に15歳)となります。わけぇ。

「人生の一番いい時期をこんな陰気な宮殿で過ごしたくない!」と早くも荒ぶるマーガレットは、姉エリザベスとともに戦勝記念日という特別な日を利用して外出しようと目論みます。当然ながらいい顔をしないご両親(国王と王女)でしたが、日頃から真面目なエリザベスの説得に折れ、外出を許します。

さながら一日外出券を利用するハンチョウと貸した王女二人、お着きの黒服ならぬ将校二人にガッカリしつつも、“初めてのリアルロンドン”にワクワクしながら到着したリッツ・ロンドンでは貴族たちのお出迎えを喰らい、「結局王女として窮屈な夜を過ごすことになるのか…」と落胆する間もなくマーガレットがフラフラと一人行動へ。そんな彼女を心配したエリザベスもまた部屋を出てマーガレットを探しにフラフラ。これをたまたまお着きの将校が見逃してしまったためにさあ大変、王女二人のお忍び冒険ナイトが幕を開ける…!

この後のお二人の歴史も考慮しての設定なんでしょうが、まず妹のマーガレット王女がですね。「お姉様がいるし私は王位承継者じゃないから」的な雰囲気が存分に感じられる自由人的な振る舞いを発揮して、もうこの十代前半という若さながら堂の入った(?)自由奔放っぷりでエリザベスを翻弄します。言わばトラブルメーカー。観ているときは18ぐらいの話なのかなと思っていたんですが、(史実通りなら)なんと14ですからね。お酒もグイグイ系で。

彼女は姉・エリザベスの気持ちにお構いなく好き勝手にフラフラし、エリザベスはその彼女を見つけようと知り合った男兵士とともに彼女の足跡をたどるという、ちょっとしたアドベンチャー風味の恋愛映画になっています。

基本的にはこの二人のシーンを軸に、たまに両親と護衛の兵士が挟まる感じ。やっぱりなんと言っても主役のエリザベスは「王位継承者である王女」というだけあってまず気品が素晴らしくて、おそらく英語もかなり綺麗なブリティッシュ・イングリッシュなんでしょう、丁寧に語り姿勢良く動き回る“お嬢様感”が惚れ惚れしましたね。翻訳もそれっぽく、丁寧な言い回しで。最初は「あんまりタイプじゃないなー」と思っていましたが、観ていると段々かわいく見えてくる不思議。凛としていてかっこよく、また適度に若さ故の弱さが垣間見える雰囲気が完璧でした。

今もなおご存命かつ大変な人気を誇る女王様の若かりし頃の姿なだけに、やはりそれなりに丁寧に、批判の無いように気をつけてキャラクターを作っているのではないでしょうか。こんなかわいくてしっかりした王女とか出来すぎだろと思うんですが、まあ実際そういう部分はあったのかもしれません。

国王との最初の約束では日付を超えた1時までというものだったんですが、そんなわけでトラブルに巻き込まれたマーガレットのおかげで帰還は延び延び、ご両親はもちろん気が気でないし、護衛を仰せつかった兵士二人も見失っただけに生きた心地がしない状態。エリザベスが最初に知り合って頼りにした兵士もちょっとしたワケアリでトラブルの種にもなるし、なかなか一筋縄ではいかない“一夜だけの外出”は果たしてどういう結末を迎えるのか…!

と適当な感じで煽っていますがそんなすごいことが起こるわけでもありません。

ただそこが良いんですよね。

この手のお話ではお決まりではありますが、連れ立って歩く兵士は下流階級出身で、上流階級どころかヒエラルキーのどトップに属する王女様との意見の相違なんかも描かれ、そういった現実に触れることでエリザベスの成長につながるという…その辺がまたいいスパイスになっています。

人一倍責任感も強く、また聡明で強さも持っている王女様が、いかにその後の名君としての地位を築く成長を“一日で”得たのか…恋愛映画ではありますが、どちらかと言うとそういった成長物語としての意味合いの方が強いのかもしれません。だからこそベタ甘な恋愛映画よりも爽やかで、ほっこり幸せになれる雰囲気のある映画に仕上がっていて誰にでもオススメできるぞ、と。

日本の皇室の方々もこんな感じで息苦しかったりもするんでしょうね。基本的には明るく爽やかな物語なんですが、裏テーマとまでは言わないものの…そういう階級差の裏側にある「王室だから楽なわけでもないんだぞ」というような、王室ならではの苦悩も少しだけ覗かせているところもまた深みを与えていて良かったように思います。

気楽に観られる系の映画は、割とヒャッハードッカーンゲラゲラゲラー! みたいな映画が多い気がしますが、こういう優しく爽やかでほっこりしつつもちょっとしたほろ苦さもある、といういろんな感情を突っついてくれるのはなかなか珍しい気もするので、なおさらオススメしたいところです。

ということでオススメだ!(そのまま)

ネタバレ・ナイト

「このシーンがイイ」の2つ、観ればわかるとは思いますが一応ネタバレ項として詳しく書きます。

1つ目は、チェルシー兵舎でジャックが捕らえられ、王女が身分を明かすシーン。これはもうね、日本人には水戸黄門の血が流れておりますのでね。お偉いさんが身分を明かすシーンは本能的に惹かれると言っていいでしょう。(言い過ぎ)

2つ目はやっぱり、ラストのお別れのシーン。「他言無用だぞ」のセリフと表情、最高でした。が、シーンの見せ方自体がちょっと気になったのも事実で。

僕はてっきりキスシーンは見せないのかなと思ってたんですよね。やっぱりフィクションとは言え今もご存命の女王様が一兵士とキスしたよ、っていうのはなかなか見せづらい面もあるのかなと思ったりもして。そういう配慮を除いたとしても「キスしたっぽいけどしたかどうかは完全に見せない」っていうのも演出としてはすごく良いんじゃないか、と思いながら観ていたんですよ。

結果的には「終わり際を写す」という形だったので、ちょっと中途半端な気はしました。見せるんだったらもっとガツンと見せちゃっても良いような気もするし。どうせ観客は期待しているわけですから。その前のオンボロ車で宮殿まで送るシーンでも期待させる感じはありましたからね。

結局そのどっちでもない中途半端な見せ方になったので、これはどういう意図なのかなーと気になってしまい…。なにせこの映画のラストを飾る大事なシーンなだけに、機会があったら監督の真意を知りたいところです。もしかしたらソフトで「もう一つのエンディング」的に入ってたりするのかなぁ。

このシーンがイイ!

2つありましたがどっちもネタバレになっちゃうのでボカして書きます。

1つ目は終盤のダンスシーン。期待通りの展開の上に他とつながる良展開。

2つ目は…やっぱりベタだけどあのシーン。もう誰もがココでしょ! っていうシーンなので具体的にどのシーンかは書きません。最後のセリフと表情、それがすべてを物語るいいシーンでした。

ココが○

上にツラツラと書きましたが、まあそんなところです。

総括するとやっぱりエリザベス王女のキャラクターなのかなー。いわゆる大半の観客が願う「誰もが愛したくなる王女様がお忍びで世間に」という設定を見事に体現した雰囲気とキャラクター。ご本人がここまでよく出来た方なのかはわかりませんが、おそらくイギリスでの人気も考えれば素直に違和感なく受け入れられるレベルでやっぱりご本人も愛されているんでしょうね。

これを観た後でもう一回「クイーン」を観るとまた印象が変わりそう。

ココが×

かなりの良作みたいなウワサを耳にしていたので余計にハードルが上がってしまい、実際のところは少し期待外れ感もありました。まあ比較元が「キンキーブーツ」ですからね…。事実かなりの良作ではあるんですが、もうちょっとだけ…グサッと刺さる何かが欲しかったかなぁ。

あとは好みの問題だとは思うんですが、ジャック役の役者さんがちょっとヤンチャ感強すぎるのが残念な気がしました。それこそこの前「ダンケルク」で気になったジャック・ロウデン辺りだとかなり印象が違う映画になりそうです。ジャックつながりなだけに。

MVA

もうひねりも何もないチョイスで申し訳ないところですが、やっぱりこちらの方でしょう。

サラ・ガドン(エリザベス王女役)

どう考えたってこの役なんだからイギリス人なんだろうなと思っていたんですが、鑑賞後に調べたところなんとカナダ人だとか。

監督もそこが不安ではあったそうですが、ブリティッシュ・イングリッシュも完璧だったようでその辺の違いを聞き取れないジャップ野郎が観ても完璧だったと思います。

何より立ち姿が美しいんですよ。姿勢の良さと顔の小ささと。最後の方はほんのり威厳も感じたような気もするぐらい、ぴったりハマっていました。最高です。

妹のマーガレット王女を演じたベル・パウリーも絶妙にかわいさが足りない感じが良かったですね。あれでかわいすぎるとエロスが出ちゃって違う期待が膨らんじゃうので、その辺りも絶妙なキャスティングだったと思います。

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