映画レビュー0783 『GODZILLA ゴジラ』
「キングコング」を観た後に、この映画が「モンスターバースシリーズ」の前作にあたるということを知り、そういやBSでやってたのを録ってたよなと思い出したので観てみました。いわゆる「ハリウッド版ゴジラ」と呼ばれる作品です。
ただ「モンスターバースシリーズ1作目」っていうのは後付けな気がしないでもない。
GODZILLA ゴジラ
話古いし暗すぎてよくわからないんですけど。
- まだ(アメリカ的には)あまり世に知られていないゴジラのお披露目を兼ねたハリウッド版リブート的ゴジラ
- お決まりのアメリカンファミリー話に巻き込まれる感じの話がちょっとアレ
- バトルは暗すぎてよく見えない残念さ
- 主役夫婦は例のヒーロー姉弟でおなじみの二人だけど弟はもう無かったことにされてる感
「シン・ゴジラ」のときにも書いたように僕はゴジラ他怪獣映画にはまったく詳しくないので、過去の日本版ゴジラと比べてどうだとかもよくわからないんですが、一応僕が観た唯一の比較対象である「シン・ゴジラ」と比べると、あっちはゴジラ vs 日本社会という日本人らしいリアリティを娯楽に乗せた映画でありつつも、構図としては「怪獣 vs 人間」なので、やっぱり怪獣映画としてはやや異質な部類に入るお話なのかなーと思うわけですが、対してこちらの映画では人間は抵抗こそしますが基本的には無力な存在で、メインとなるのは怪獣同士のバトルになります。なのでそういう面ではゴジラ映画ではありますが「シン・ゴジラ」よりもモンスターバースシリーズにおける次作の扱いになる「キングコング: 髑髏島の巨神」に近いようなお話でした。
物語は本編の15年前、1999年からスタート。フィリピンで「どうやら何らかの怪獣的なものが誕生したらしいぞ」という痕跡をお披露目した後、舞台は日本の原子力発電所へ。名前は架空の地名になっていますが、どっからどう見ても立地的には浜岡原発がモデルっぽいです。富士山丸出しだったし。
ここで働く学者のジョーは、一緒に原発で働いている奥さんのサンドラと息子のフォードの3人で日本在住。とても幸せそうなんですが…冒頭で謎の地震によって発電所は倒壊、その事故が原因となってサンドラは命を落としてしまいます。
そして舞台は現在(2014年)へ。成長し、アメリカで海兵隊員になったフォードは結婚して息子も生まれ幸せいっぱい…のところに父が日本で立入禁止区域の自宅へ入ろうとしたために逮捕されたという一報を受け、彼を迎えに日本へ行くことに。
事故以来うまくいっていないっぽい親子ですが、とは言え険悪な仲でも無いようで、「なんとしてでも家に行って残っているデータを持ってくる」と頑固な父に根負けしたフォードは、一緒にかつての自宅へ行ったところ帰り途中に二人してまたも捕まってしまい、「稼働していない」はずの原発に連れて行かれ、そこでまたも事故に遭遇する…というオープニング。その後なんやかんやでゴジラ他怪獣がバトルを繰り広げることになりますよっと。
まず最初に結論から書いちゃうとですね、やっぱり無駄な人情話を廃したことで喝采を受けた「シン・ゴジラ」と比べちゃうのはよくないと思いつつ、しかし残念ながら直球ど真ん中の主人公であるフォードのお話が丸々いらないわけですよ。これがやっぱりツラいところでした。
フォードのお父さんのジョーは学者だし原発で働いてたし、事故で奥さんを亡くして“取り憑かれる”理由があるし個人で独自に事故の原因調査もやってるしでバックボーンには事欠かないので、彼がこの一連の物語に巻き込まれていくのはとても説得力があると思うんですが、残念ながら彼は早々に退場を余儀なくされてしまい、その代わりに担ぎ出されるのが“ただの”海兵隊員のフォードということで…はて彼がココにいる意味ってなんなの、と。
一応は「事故の原因(結果的に言えば怪獣)を調べていたお父さんが何か知っているんじゃないか」と探るためにフォードに情報交換を持ちかける、というような流れなんですが、とは言え彼はまったくの門外漢だしただお父さんを迎えに来ただけの人間なので、そこから主人公に据えて物語を動かしていくのはちょーっと無理矢理感があるんじゃないかなーと。
一応彼がアメリカに帰る途上でいろいろ話が動いていき、結果的に巻き込まれていく形で物事の中心に近付いていくことにはなるんですが、上に書いたようにお父さんみたいなバックボーンは無いし、かと言って両親を失った原因に対する憤りのようなものも見せないので大義を持っているようにも見えないんですよね。ただ流されてその場その場で「理想的アメリカ人青年」として行動していたらこうなりました、っていう…まあ早い話が一昔前のプロパガンダ戦争映画の舞台に怪獣を当てはめただけ、って感じがしちゃって。
もう絶対これお父さん主役で良かったと思うんだけどなぁ…。それこそ「シン・ゴジラ」があえて描かなかった、ベタ極まる「家族愛」を描くためだけに無理矢理息子に主人公を継がせてアメリカンなストーリーでイエーみたいな残念感がすごく強い物語でした。正直4年前の映画とは思えないぐらいにメインのストーリーが古くて陳腐です。
一応、もう一人の主人公として例の「モナーク」に所属する芹沢博士がいることはいるんですが、彼は彼で…なんというか主人公としては弱い。あくまで解説役というか、言ってみれば説明台詞を説明感が薄れるように提供するために設置されたキャラという感じで、事件解決にも米軍の方向性にもさして寄与せず、これまたいてもいなくてもあんまり変わらないんじゃないの感が強い。
まあしょうがないんですけどね。この映画は人間がゴジラを倒すお話ではないので。「○○が弱点だー!」とかヒーローになるポイントが無いですからね。解説役としているだけ、っていうのは残念ながら仕様です。
思うに、「キングコング」は調査に行ったらなんかやたらデカいゴリラがいて、その後無事脱出できるかという人間側にもそれなりにドラマが生まれる土壌があったから面白かったと思うんですが、こっちは人間側も多少怪獣に対してなんらかのアクションを起こそうとはするものの、基本的には蚊帳の外なので無理矢理ドラマを作り出すしか無い=いらない感強いフォードの家族愛で無理矢理ドラマを仕立て上げました感が強く出ちゃうのかな、と。見ず知らずの子どもを助けるぜとかもういいよマジで。
最もこの辺は突っ込むのもお門違いな部分はあるとも思います。日本人には(原作映画を観たことがない僕のような人間でも)おなじみなゴジラでも、アメリカ人としてはよくわからない、もしかしたら「怪獣」という概念自体よくわからない可能性もあるわけで、そういう人たちに向けてまず「ゴジラ(怪獣)とはこういうもの」を知らしめるための作品である(モンスターバースシリーズ1作目だし)ことを考えれば、その説明役として芹沢博士みたいな人物がいなきゃいけないのもわかるし、取っ掛かりとしてベタでもアメリカ人受けしやすい青年将校に引っ張ってもらう、っていうのは作りとしては間違ってないんでしょう。だから裏を返せば日本人にとっては二重で合わないとも言えるんですが…。
ただね、僕は途中でハッと気が付きましたよ。
フォードの奥さんが出てきた時に、「ああ、エリザベス・オルセンか。スカーレット・ウィッチじゃん」と思って観ていたわけです。そろそろインフィニティ・ウォーだし、って。※これを観たのは4月中旬の話
で、フォードはアーロン・テイラー=ジョンソンじゃないですか。「キック・アスの冴えない兄ちゃんだね」ってしばらく観ていたんですが、ある時急に失われた記憶が蘇ったんですよ…!
そう、アーロン・テイラー=ジョンソンって…MCUでも唯一と言っていい「いなかったこと」にされているっぽいクイックシルバーをやってたじゃないですか…!
クイックシルバーとスカーレット・ウィッチって双子の姉弟なんですよね。設定的には。って思い出したらやっぱり「なんでこの二人が夫婦なの?」って思っちゃいますよね。わざわざピンポイントでこの二人をキャスティングしなくても良いんじゃないの、もしかしたら本人もクイックシルバーは無かったことにしたいかもしれないじゃん、と。
おまけにキック・アスだって完全にクロエに食われちゃってるわけで、つくづくアーロン・テイラー=ジョンソンってツイて無いというか持ってないというか…そんな気がしてなりません。この映画無関係のお話なんですが。
まあそんなわけでストーリーもちょっと残念でありつつ、怪獣同士のバトルはやっぱりそれなりに迫力もあって…なんですが、ただこれがもう基本夜なのでとにかく暗くてよくわからない。
僕が観た環境も良くなかったのは間違いないので、これはあんまり文句を言うべきではないかもしれないんですが、それでも「え、どうなってるの?」っていうのはずーっと感じてストレスでした。午前中にカーテン開けて明るい部屋で観るべき映画ではないです。
3Dに文句を言うときも常に書いている気がしますが、バトルってやっぱり夜の方が締まるしかっこよく見えるから夜にする…のはわかるんですが、でも結局暗いとよくわかんないじゃん、っていうものすごく原始的な不満を生むと思うんですよね。
この映画は巨大な怪獣が戦うお話なだけに、もっと明るい場面でしっかり見せてくれて良かったと思うんですよ。「キングコング」だってそうだったわけだし。
暗い場面で戦わせるから大きさ故の迫力もイマイチ伝わらないしそもそも何やってるかよくわからないし、っていうことで肝心のバトルも結構なストレスでした。悔しいです。
ということであんまりよろしくない評価となってしまいましたが、とは言え決してつまらないわけでもなく、きっちり日本産ゴジラを無意味にいじくること無く現代の新シリーズの主軸に据えていくぞ、という意気込みが感じられる映画だと思います。怪獣モノが好きであればまた感じ方が違うかもしれません。
このシーンがイイ!
そこまで推したい場面も無かったんですが…やっぱり芹沢博士が劇中初めて名前を発表する時、日本の発言で「ゴジラ」って言ったのは良いですよね。「ガジィ〜ラ」じゃないっていうのが。「この映画はちゃんとゴジラを描いてるんだぞ」という意志を感じます。
あとゴジラのトドメのさしっぷりが好きでした。妙に人間臭い動きに見えて。
ココが○
散々文句タレてきましたが、ベタっていうのはまあ逆に言えばマニアックすぎないとも言えるので、やっぱり「ゴジラ入口」としては悪くないのかなと思います。
単体で観ると少し厳しいとは思うんですが、一応シリーズとして続くよって話なので、予備知識お勉強用に観ておくには良いんじゃないかなと。
ココが×
上に書いた通り。やっぱりフォードを主役にしたのが一番だと思う。いかにもステレオタイプなアメリカ人兵士なので面白味ゼロ。主人公はジョーで良いじゃんか…。
MVA
さり気なく本作でも脇を固める確かな仕事、サリー・ホーキンスは相変わらず良いです。でももうちょっと出てきて欲しかったかなー。
今回は正直消去法ですが、この人に。
ブライアン・クランストン(ジョー・ブロディ役)
フォードのお父さん。
かなり早めに退場させられてしまうので選ぶのも悩んだんですが、やっぱり演技的にはこの人が一番しっかりしてたと思うんですよね。さすがに。日本語はイマイチでしたが、演技はお見事です。
それ故になおさらこの人主役で良かったじゃねーか、と思います。アーロンさんには悪いんですけどね…。
あと久々で楽しみにしていたデヴィッド・ストラザーンはイマイチ見せ場もなく、これまた残念でした。