映画レビュー1547 『グッドニュース』
前回同様に配信終了に特に良いものがなかったので、今回もネトフリオリジナル映画から気になった一本です。
グッドニュース

話は面白いんだけど。話は。
- 「よど号ハイジャック事件」を元にしたブラックコメディ
- 「事件解決の裏には無名のヒーローがいた」的な事件の裏側を描く
- 日韓両国の有名俳優多数出演でネトフリらしい豪華さ
- しかし演出面ではっきり好き嫌いが分かれそう
あらすじ
ベースとなる物語はすごく良かったんですが…演出がちょっとなぁ…惜しい。
1970年、日本航空の旅客機が9人の赤軍派メンバーによってハイジャックされ、犯人たちは亡命のため、北朝鮮の平壌へ行くように要求します。
事態の報告を受けた韓国KCIA(中央情報部)の長官パク・サンヒョン(リュ・スンボム)は“アムゲ”と呼ばれる男(ソル・ギョング)を使い、事態の収拾に動き出します。
アムゲは空軍中尉のソ・ゴミョン(ホン・ギョン)を硬軟織り交ぜ作戦に引き入れ、ハイジャックされた飛行機との通信を担当させますが、北朝鮮に行かせない方法はまだ決まらず。
そんな中、ゴミョンから「(ソウルにある)金浦空港を平壌空港と偽っては…?」と“妙案”が出され、それで行こうと偽装工作を開始しますが…あとはご覧ください。
コメディ感がもう少し軽ければ…
日本でも有名な「よど号ハイジャック事件」をベースにしたブラックコメディ。
大半が創作…と思われますが、しかしウソのような本当の話とはまさにこのことで「金浦空港を平壌空港に偽る」というのは実際に行われた話だそうです。
おっさんである僕もさすがによど号ハイジャック事件当時は生まれていないのでまったく知りませんでした。
なんとも奇抜な話ですが、そんな奇抜な話だからこそ創作とも相性がいいのかもしれません。
主人公であるソル・ギョング演じる“アムゲ”は韓国語で「誰かさん」の意味。日本語で言うなら(立場によって呼称が変わる感じで)「あの人」とか「あいつ」とか「兄貴」とかそんな感じで呼ばれるイメージですかね。みんな名前は言わない、でもなんか知られてるような人物。ヴォルデモートかよ、みたいな。
この人のポジションがすごく謎な上に妙に軽いクセのある人物で、風貌はその辺のおっさん故「組織から外れた人物」である感を如実に表しつつ、でもなぜか権力者(KCIA長官)にも臆せず軽い感じで接している、非常に怪しい人なんですよね。この人物像がかなり面白い。いかにも裏工作用の“困ったら使い捨てにされるだろうけど有用だから抱えられてる”、いわゆるワケありな感じの人で。
その人を軸に「決して歴史の表には出てこない人物が裏で奔走し、事態の収拾に動いていた」ストーリーを語る映画になります。
軽くニワカによる舞台背景を書いておくと、日本側はもはや遠すぎてまったく実感のない新左翼とか安保闘争とかが新聞紙面を賑わせていた頃のお話で、テロを起こした「赤軍派」は後にあの有名な「日本赤軍」になります。
完全に余談になりますが、僕は大体映画から興味を持って時代背景を学習していくタイプなので、この頃の日本社会を描いた映画はあまり観ていないため当時の事情はほとんど知りません。そもそも韓国と比べるとそうした社会派映画の絶対数が少ないのは間違いなさそうなので、僕の邦画摂取量の少なさを差し引いても「当時の社会情勢に興味を持つツール」が限られているのは残念なところです。(ただ日本と韓国で、その国におけるこの頃の時代の動き方の重要さに違いがあるのも理由の一つではあると思います)
一方韓国は朴正煕大統領による軍事政権真っ只中で、その終わりにあたる映画が「KCIA 南山の部長たち」になります。
この頃のKCIA部長(長官)と言えばおそらく朴正煕に次ぐNo.2のポジションになりますが、その人がリュ・スンボム演じるパク・サンヒョンです。ちょっと宮士郎みたいな風貌の。例えもまた古すぎますが。
つまり“アムゲ”は当時のNo.2に隠し玉的な感じで使われているので見ようによってはかなり高位の人物っぽいので、「飄々としてるけど一体何者なんだこのおっさんは…!」と彼の立ち位置への興味も物語への関心につながるよ、と。
そんな時代の中で、今だったら恐らくもっと正規の手順を踏んだ対応策が取られると思いますが、当時はまだ時代的にもそこまでしっかりしていなかっただろう…ということでこの物語のような創作が入り込む余地が生まれる、というそれも含めて非常に面白い話だと思います。
アムゲは何やら胡散臭いものの、実際にこういう形で事件解決に関わった人がいてもおかしくなさそうなぐらい、ブラックコメディの割にはリアルで生々しい。もちろん実際はもっときちんと対応していたと思いますが、でもギリギリありそうに見える作戦と人の使い方は絶妙だと思いますね。
ただ…演出がかなり(当社比)鼻につくんですよ。これがものすごくもったいなくて。
少し観た時点ですぐ思いましたが、おそらく監督はアダム・マッケイみたいな映画を作りたかったんだと思うんですよね。まさにあんな感じの、なんならちょっと悪ふざけに近いような演出のコメディ感が特に前半は顕著で。
「これが好き」って人もいるとは思うし、こういう演出だからこそ深刻な事件を「フィクションとして新たに作り直す」のに適しているとも思うんですが、そもそも個人的にもアダム・マッケイの映画はハマる映画(ドント・ルック・アップとか)とハマらなかった映画(マネー・ショートとか)がはっきり分かれるので、この演出手法はかなり諸刃の剣ではないかなと。
この手の振り切った、なんなら登場人物をバカにしたような演出はかなり上手くやらないと早い話が大半の人には「滑って」見えるものだと思います。そのリスクを冒してまでやるほどだったのかな、とちょっと疑問に感じました。
同時に、このコメディ感を強める演出をベースとして考えたとき、赤軍派の面々の演技がマジすぎるんですよね。そこもすごく違和感がありました。
彼らも軽い感じならまだ「そういう映画」として観られたんですが当然そういう感じでもなく、必死なんですよ。まあテロリストなので当然ではあるんですが…。
特に唯一の女性メンバーである山本奈衣瑠さんの演技が強すぎて、かなりの人が観ていて違和感を感じたんじゃないかと思います。うるさいし、一人だけ違う映画みたいな感じなんですよ。なんなら演出として「何マジになってんの?w」って他のキャストに言わせててもおかしくない感じ。
ただこれは彼女が悪いとも言い切れなくて、まさに「違う映画」、もっと真面目(?)によど号ハイジャック事件を描く映画であれば問題なかったんじゃないかなと思います。革命を起こそうと必死な人物として。
でもこの映画にはそぐわないんですよね。だってコメディだから。その分すごく浮いちゃう。
果たして監督から見て他国の役者さんだから遠慮したのか、はたまた日本(飛行機)パートの撮影監督は別だったのか、それとも彼女がこの方向性しか出来なかった(やる気がなかった)のか、もしくは単純に監督がこうしたかったのか…理由は定かでありませんが、正直この作風にこの演技はミスマッチでしかないしそれで評価される彼女もちょっとかわいそうだな、と思います。
一方で後半になってくると“悪ふざけ”っぽい演出はだいぶトーンダウンし、本来描きたかった内容になっていく印象がありました。
後半の作りは良かったと思います。それだけに前半が残念なんですが。
全字幕ありがたい
それと物語的に当然ではありますが、日本人の役者さんも結構なメンバーが出ていてそこは明らかに見どころです。
山田孝之はまあネトフリなので「またかよ」ってところですが、彼に同行する大臣は佐野史郎だし、テロリストのリーダーは笠松将だし、機長は椎名桔平だし。
ちょい役で橋爪功が出てきたり、ちょっと抜けた自衛官で音尾くんが出てきたりと観ていて楽しい。
あと日本とのやり取りが発生する上に時代背景的にも日本語を使える韓国人が珍しくないということもあって、韓国キャストの面々が結構日本語を話します。別にネイティブでもないんだろうとは思いますが、ソル・ギョングはすごく上手でしたね。
で、これは密かに大きなポイントなんですが「韓国語はもちろん、日本人が話す日本語も韓国人が話す日本語もすべて字幕が入る」のがすごく良い。これはネトフリあっぱれです。
こういう映画は大体日本語であれば話者関係なく字幕が入らず、よくわからなくて地味にストレスだったりするんですが、今作は全部字幕を入れてくれるのでそのストレスがないのがとても良かった。
なんなら邦画でも字幕がほしいときがあるぐらいだし、今後も選択できるようになったりするといいなと思います。
ということでもう少し毒っ気を控え目にしてくれれば傑作になり得たのになぁ…と惜しい気持ちを垂れ流しつつ終わりにしましょう。
ただ日韓の豪華な共演は観ていてテンションが上がったので、今後もこういう映画は作って欲しいなと思います。
つまりペ・ドゥナ出せってことです。
このシーンがイイ!
終盤の2人の会話のシーンはやっぱり良かった。あと機長の最後のシーンは面白かった。それかよ! っていう。
ココが○
「あの事件が解決した本当のところはこんな話だった」的な内容はすごく良かったんですよね。キャラも立ってたし、史実を元にした創作の良さを体現したシナリオだと思います。
ココが×
ただ、やっぱり上に書いたように演出が…。
話が強い分、もう少し控え目で良かったと思います。
MVA
日韓どちらの俳優さんもいい人いっぱい出ていましたが、まあさすが主役だけあるなということでこちらの方に。
ソル・ギョング(アムゲ役)
主人公の謎の人。何をしているのかもよくわからない。
こういうミステリアスな人って存在だけで面白いし、ましてやそんな人が主人公っていうのもなかなか強烈。
そして何と言っても胡散臭い。寝技が100%みたいな人物。
ソル・ギョングと言えば「ペパーミント・キャンディー」なので、あのイメージで観て違いすぎてびっくりしました。
でも本当にいそうな感じだし、やっぱり演技力は見事だなと。

