映画レビュー0875 『屋根裏部屋のマリアたち』
またネトフリに戻ります。
[お知らせ]
なんとこの3連休暇じゃん、ってことで全記事に予告編挿入を終えました。
一部無いものに関しては本編映像だったりしてますが、一応全作動画を入れられたので満足です。もしリンク切れや間違いを見つけたら指摘してもらえると助かります。
屋根裏部屋のマリアたち
フィリップ・ル・ゲイ
フィリップ・ル・ゲイ
ジェローム・トネール
ファブリス・ルキーニ
ナタリア・ベルベケ
サンドリーヌ・キベルラン
カルメン・マウラ
ロラ・ドゥエニャス
ベルタ・オヘア
ヌリア・ソレ
コンチャ・ガラン
ホルヘ・アリアガータ
2011年2月16日 フランス
106分
フランス
Netflix(PS3・TV)

程よいコメディ感とゆるい資産家による優しい世界でほっこり。
- あまり外との関わりに興味がなかった資産家がメイドを通して人々と触れ合う物語
- 終始ゆるく力が入ってない雰囲気がとても良い
- 主人公の資産家おじさんに嫌味がなくてかわいいのもポイント
- フランスらしいエスプリの効いたコメディ感も◎
あらすじ
毎度のことながら「エスプリの効いた」とか書いといてよくわかってないっていうね。ゲロっちゃいますけども。
まあアレですよ。「笑わせまっせー!」って感じじゃない、会話の妙とかで笑わせるうまさがあるというか。フランス映画らしいなぁと嬉しくなるような程よいコメディ感が感じられる映画でした。
舞台は1962年、パリ。主人公のジャン=ルイは祖父の代から続く証券会社の社長で、まあいかにもなお金持ちですよ。メイドさんを雇って、この時代ながらエレベーターもあり、家はマンションっぽい構造ですが貴族的内装で悪魔的金持ち、みたいな。トネガワ的な。
そこではジャン=ルイのお母さんの時代から仕えていたベテランメイド・ジェルメーヌさんがいたんですが、彼女はジャン=ルイの奥さんと折り合いが悪く、ある日ついに決定的な物別れを経て退職という憂き目に。
そのジェルメーヌさん含め、近くでメイドさんとして働く女性たちはまとめてジャン=ルイの住む家の上層階、(多分)5〜6階の粗末な部屋で暮らしているんですが、そこにジェルメーヌさんと入れ違うかのようにやってきたのが、同6階に住むコンセプシオンの姪でスペイン人のマリアです。
彼女は早速メイド不在となったジャン=ルイ家にメイドとして採用され、ジャン=ルイがこだわる毎朝の卵の茹で具合も完璧、奥様にも気に入られてパリでの生活にも慣れていきます。
ある日、ちょっとした用事で“久しぶりに”6階に行ったジャン=ルイは、そこで長い間詰まったままのトイレの惨状を目の当たりにし、早急に修理を手配。それをきっかけに6階住人たちと少しずつ交流の機会が増えていった彼は、いろいろと彼女たちの世話を買って出るようになるんですが…あとはご覧くださいませ。
先の読めないゆるい映画
日常を描いている話なので別に先読みするような話でもないんですが、なかなか「この話どうやって“それっぽい”終わりを迎えるんだろう?」とわからない程度には先が読めないお話でもあり、最後の最後まで飽きずに楽しませてもらいました。いやーこの映画かなり好きだな。
正直好みとしては「そういう話に行って欲しくない」方向に行ったりもしたんですが、それでも最後まで観ると大満足でにっこりほっこり、改めてフランス産コメディの良さを感じましたね。
調べたら脚本家さんは「ぼくの大切なともだち」も手がけているようで、なるほどなんか納得。あんな感じのコメディ&ドラマ感。
かわいいおじさん主人公が素敵
まず何より主人公のジャン=ルイが単純に「良い人」っていうのがすごく良いんですよ。
どうしてもお金持ちだと鼻持ちならないタイプなんじゃないかと(実際奥さんはそういうタイプ)身構えるんですが、しかし彼は全然そういうタイプではなく、いわゆる“使用人”たちとも分け隔てなく接するし、奥さんの理不尽な怒りも受け入れてひょうひょうと自分のメリットにつなげちゃうしで、意外と人生の達人っぽいのが良いなと。
なんならちょっとこの考え方は真似するべきじゃないか、ってぐらいにその場その場での対応がしなやかで、一言で言うなら「我が強くない」人物像、これがとても素敵でした。
そんな人なので、おじさんなんだけどどこかかわいい。なんなんでしょうね。不思議な魅力のある人物でした。どことなく達観しているようでもあるし、でも子供のように喜ぶ場面もあるしで、なんかかわいい。
演じるファブリス・ルキーニは、以前観た「危険なプロット」で教授を演じていたんですが、当然ながらまったく違う印象の人物だったのでスゴイなぁとただただ感心。
なんとなく勝手なイメージ的には元フジテレビアナウンサーの福井さんっぽい。見た目も挙動も。適当な感想だけど。
使用人たちとの窓口、マリア
一方もう一人の主人公、メイドのマリアは若くてかわいく、仕事はきっちりやって立場もわきまえていながら、言うべきことはきっちり言うし、「使用人なので」みたいな一歩引いた部分が良い意味で無いので、それ故普通のメイドさんよりも「人間対人間」的な付き合いを作りやすい面があるんでしょう。
彼女は近くの家で同じくメイドとして働く叔母のコンセプシオンを頼ってパリにやってきたわけですが、このマリアの性格+叔母とつながっている立ち位置のおかげで彼女がコンセプシオン他メイドたちとの窓口のような形になり、ジャン=ルイが徐々に交流を深めていくのは無理がないし、一人の人間との出会いで人生が変わっていく示唆にもなっていてそこがまたとても良かったですね。
スペイン人メイドたちも快活で個性豊か
どうやらこの頃のフランス(の上流階級?)では若干のスペイン人差別的な価値観があったようで、早い話が「資産家がスペイン人の使用人たちと仲良くするのは品がない」みたいな世間の目があったような描写があります。
その辺をまったく意に介さないジャン=ルイの良さもありつつ、同時に彼女たちの飾らない快活な性格がまたとても魅力的。そりゃ一緒にいたら楽しいし世界も広がるよね、って説得力がスゴイ。
彼女たちのキャラクターもそれぞれ程よく描かれ、「裕福ではないけど楽しく生きている」感じがこれまた人生の達人感を漂わせていて、彼女たちも彼女たちでまたちょっと羨ましい輝きがあって良いんですよ。見習いたい逞しさのようなものもあるし。
良い人たちのところに良い人が混ざる、それを観ているだけでもそりゃハッピーじゃん、という単純なお話。
嫌味なく観やすい素敵な映画
終盤を牽引する要素についてはあえて書きませんが、全体的にゆるくハッピーな雰囲気でちょっとした笑いも挟まり、とても観やすい良い映画だと思います。
なんてこと無い日常話なんですが、それでも飽きさせずに最後まで見せきる仕立ての良さはなかなかのもの。アメリカ映画ばっかり観ているところにたまにこういう映画を挟むと、劇伴を始めとしたフランス映画らしさや笑いの入れ方が新鮮に感じられるし、そこがまた心地よかったです。
自分は登場人物どの人とも近くないんですが、でもみんな好きになっちゃうし心構えの部分で今後の人生に活かせそうな人物像もあるしで、軽い映画のようでなかなか味のある映画だと思います。オススメ!
このシーンがイイ!
ラストシーンは言うまでもないので置いといて、もう一つはヴィンテージもののワインを出すシーンですね。普通に声出して笑いました。ジャン=ルイの冗談のセンスが良すぎる。
ココが○
ジャン=ルイが流されすぎない、劇的に変わってないのが良いような気がします。元から良い人だったんだろうな、ってリアルさというか。最初すごく嫌な男で…とかだとちょっとあざとくなっちゃいそうな気がする。
まったく逆のことを「しあわせはどこにある」で書いたような気がしますが、それはそれ、これはこれ。
ココが×
ある意味ではフツーの話なので、退屈な人は退屈なのかもしれません。
僕はこういうちょっと軽めのドラマが大好物なので余計ハマった面はあったと思います。
MVA
主演の二人と奥さん、みなさんそれっぽくてとても良かったですね。あといつもタバコ吸ってる6階住人のカルメンも印象的でした。
で、結局主演の二人どっちにしようかってところなんですが…どっちも甲乙つけがたいものの、選んでこちらの方に。
ファブリス・ルキーニ(ジャン=ルイ・ルベール役)
主人公の資産家。
マリアのかわいさと凛としたメイド感も捨てがたかったんですが、やっぱりこの人の愛せる感じ、かわいさがこの映画のキモだと思うんですよね。
この手の映画は主人公を愛せれば勝ちみたいな面も少なからずあると思うので、そのキャラの作り方とそれに即した演技は見事だと思います。すごく良かったです。