映画レビュー0568 『消されたヘッドライン』
前回も書いた通り、社会派サスペンスというのは結構地味なジャンルなので意外と目にする機会が少ない気がするんですが、たまたま2回続けてこのジャンルになりました。こういう映画好きなのでもっと観たいんですけどね。
消されたヘッドライン
終盤がつくづくもったいない。
ラッセル・クロウ主演の社会派サスペンス。
ちなみに元はイギリスで作られたテレビドラマで、そのリメイク版という位置付けらしいです。ただ、社会派サスペンスとは言え、“殺人”に“陰謀論”という割とサスペンス的におなじみの要素が中心なので、前回の「フィクサー」よりは一般的に興味を持ちやすい、観やすい内容なのではないかと思います。
大手新聞社の記者が主人公で、その同僚と上司との関わり、そしてスキャンダルに見舞われる友人の議員と、その友人が糾弾している民間軍事会社の陰謀が主軸のサスペンス。
新聞記者が主人公というだけあって、僕の大好物であるいわゆる「ジャーナリズムとはなんぞや」的な要素も無いわけではないんですが、割とその辺は序盤のオードブルにしか過ぎない感が強く、終盤に向かうに連れて「事件の真相を追う」だけの話になっていくので、正直「これって刑事でも良かったんじゃないの」感が無いわけではありませんでした。
個人的にはもっとジャーナリズムを前面に押し出して葛藤する内容を観たかったんですが、まあそれは個人的嗜好なので他の方は気にしなくていいでしょう。なお、「この邦題ってアノ映画みたくタイトルだけでネタバレしてんじゃねーの?」と思いましたが、実際は思わせぶりなこの邦題に大した意味は無かった、という安心仕様なのでその辺は心配いりません。
物語は、個別の2つの事件を調べるうちにそのつながりが見え、そこから陰謀を引きずり出す、というサスペンスとしてはおなじみの展開。上に書いた通り、主人公が新聞記者ではあるものの、経験不足な同僚も特にその経験不足で何かをやらかすわけでもなく、上司は上司で経営方針云々かんぬんで多少いざこざはあるものの決定的な対立をするわけでもなく、あまり新聞記者であることの意味が強くなかったのが僕としては残念でしたが、ただそれだけに「普通のサスペンス」として観やすい面があるのも事実でしょう。
それよりも、2つの事件の片方の被害者である女性と関係を持ち、すべての陰謀の中心と目される民間軍事会社「ポイントコープ」を糾弾する立場であり、かつ主人公・コルの友人でもあるコリンズ国会議員(上院か下院か忘れた)が物語の中心にいるのは間違いないわけで、つくづくジャーナリズム云々の意味合いが薄いのが残念。
さらにそのコリンズ議員の奥さんはコルとも旧知の仲で、かつ不倫関係にもあるため、結局はこの3人+コリンズと不倫していた被害者の女性の痴話に陰謀がぶら下がっている感が強く、「ジャーナリズム vs 軍事産業の闇」みたいな個人的よだれモノのテーマとは少し遠いものでした。
また、これも新聞記者モノとしては定番のポジションですが、現場記者といがみ合う上司のヘレン・ミレン、相棒として事件を追う新米(でもない?)記者のレイチェル・マクアダムスという2人の存在がとても良かっただけに、新聞社の存在感、意味合いが薄かったのは本当にもったいない気がします。
ただ、一応感想としては面白かったんですよね。特に終盤に向けては、そういうジャーナリズム的な期待感どうこうよりも単純に引き締まったサスペンスとしてかなりイイ線行っていたと思うし、結末が良ければ「こまけぇこたぁいいんだよ」で終わった可能性が大。
ただ…そう、結末がよろしくない。
ネタバレになるので詳しくは書きませんが、結果的にすごくすごく矮小化したエンディングになってしまい、この結末では「社会派サスペンス」と言うにはちょっと弱い気がしました。その上、ラスト30分ぐらいの展開がかなり凝縮されていて丁寧さに欠けたため、「え、いきなりその結論に飛ぶの?」感があり、同じ結末にしても前半同様もう少し地道で丁寧な展開にして欲しかったところ。
“ネタバレ”してからのスピード感を出したかったんでしょうが急ぎすぎて失敗した感じ。事件の背後関係にしてももっといくらでも膨らませられる美味しい素材だっただけに…これが本当にもったいないし、惜しいと言うにはあまりにも残念な収束の仕方でしたね…。
…と、書きっぷりはかなり評価が低い感じになってしまいましたが、鑑賞中はとても集中して楽しめたし、損をしたとは思っていません。くどいようですが、一言で言うなら「もっと面白くなったのにもったいない」。
コリンズ議員の後ろ盾であるファーガス議員のところに行った辺りまでは最高だったんですけどね…。ちなみにこのファーガス議員を演じるのはジェフ・ダニエルズ、この前観た「オデッセイ」で小役人っぷりを存分に発揮していたNASA長官役だった人で、ンマーこれまた今回の役もよくお似合いでした。
ついでにキャスティングに関して言えば、元々はラッセル・クロウが演じていた主人公・カル役はブラッド・ピット、ベン・アフレックが演じていたカルの友人であるコリンズ議員役にはエドワード・ノートンが予定されていたらしいですが、撮影直前に2人とも降板したとのことです。
ただ、正直ブラピだと綺麗すぎてラッセル・クロウのような男臭い記者の良さは出なかったと思うし、エドワード・ノートンだともう裏が見えすぎて映画的にいろいろ問題がある(いわゆる“ケヴィン・スペイシーがやる役は何でも怪しく見える問題”)気がするので、 なベン・アフレックの方が適役だったのは間違いないと思います。
他にも上に挙げたヘレン・ミレンにレイチェル・マクアダムス、さらにコリンズ議員の奥さんにロビン・ライトとなかなかいいキャスティングだっただけに、なおさらストーリーが惜しく感じたわけですが。
ちなみに原作にあたるイギリス版テレビドラマの方にはビル・ナイが出ているらしく、それだけで原作も観たいぞ、と思ったわけです。まる。
さて、中身の無いまま妙に長いレビューとなってしまいましたが、結論としては面白かったので観て損はないと思います。が、結末については思うところアリな人が多いんじゃないかな、というまとめで終了でございます。
このシーンがイイ!
上に書きましたが、カルがファーガス議員と会話するシーンはサスペンス的にたまらないシーンでしたねぇ。あそこまでは満点に近かったんですが…。
それと“ペンのネックレス”のシーンもベタですが結構好き。
ココが○
結末に影響しない話なので若干ネタバレ気味でも書きますが、主人公・カルとレイチェル・マクアダムス演じるデラがくっついたらマジクソだな、と思って観ていましたが、そういう終わり方は無かったのでそれだけは手放しで褒めてあげたいところ。
これねー、ほんとにこういうのやって台無しにしちゃう映画ってありますからねー。余計な色恋を織り交ぜなかったのはグッド。
ココが×
これはもうラストでしょうね。もうちょっと自国(アメリカ)を批判するような落とし所に持って行って欲しかった。
MVA
そんなわけでキャスティングはとても良かったです。
ラッセル・クロウは(おそらく)役作りで恰幅良く、さらにロン毛でちょっと不潔そうではあったものの、少しだけ「L.A.コンフィデンシャル」を思い出させるような役柄はハマってましたね。「俺が脅す」ってセリフを見て「ああ脅し得意だもんね(震)」とL.A.コンフィデンシャルを思い出したのも楽しい経験でした。
一人だけ、チョイ役のジェイソン・ベイトマンが合ってなかった気はしましたが、他は概ねベストキャストと言っていいでしょう。そんな中、一人選ぶならこの人かなと。
レイチェル・マクアダムス(デラ・フライ役)
元々はWeb版ゴシップ担当の契約記者、的な感じでしょうか。
新米ではないんでしょうが、現場を追う調査報道はやっていない感じ。「誰よりも狙われた男」でも思いましたが、この人意外と社会派映画にも合うんですよね。少しだけ「インソムニア」でのヒラリー・スワンクを思い出させるような、初々しさを熱意で包んだような存在感が良かったです。
あとはもう単純にかわいかったので負けました。かわいい女性に弱いのは男の特権です。許せ。