映画レビュー0687 『ザ・ウォーター・ウォー(雨さえも)』
相変わらずネトフリ公開終了前映画とBS録画を行き来しております。本日はネトフリの方。
タイトルも知らないスペイン映画でしたが、一部評判が良いようなのでちょっと観てみることにしてみました。そしてスペイン映画的にはまたもおなじみ、ガエル・ガルシア・ベルナル主演でございます。
ザ・ウォーター・ウォー(雨さえも)
現実と劇中劇が交錯する緊張感溢れる社会派ドラマ。
もはやすっかり「スペイン語圏の社会派映画はお任せ」的なポジションに収まりました、ガエル・ガルシア・ベルナル主演の社会派ドラマ。GGB。「天国の口、終りの楽園。」で共演した、子どもの頃から友人だというディエゴ・ルナは着々とハリウッドの娯楽大作(直近は「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」)でポジションを確立していっているという違いがまた面白いですね。
今作のGGBの役どころは映画監督。コロンブスによるスペイン植民地支配を批判的に描く映画を撮影しようと、プロデューサーのコスタ他撮影クルーを連れて南米にやってきます。その中でも人件費が安いから、という理由でボリビアに拠点を構え、早速現地でエキストラや圧政に抵抗する先住民役のメンバーをオーディション。
撮影も快調に進む中、現地では「水道事業の民営化」により欧米企業が進出、水の料金が上がってしまうために貧しい現地の人々は「民営化反対」の活動を始めます。その活動の中心メンバーには、監督GGBが自ら惚れ込んだ部族長役の男・ダニエルもいて、「せめて撮影終了までは活動を控えてくれ」と打診しますが、ダニエルは聞く耳を持たずに活動を続けます。次第に深刻化してくる政府と抵抗活動の対立の中、果たして映画は無事完成するのか、そしてボリビアの行方は…!
という映画なんですが、これがねー。さして期待しないで観始めたこともあってか、予想以上にものすごく良い映画でした。いやー、まいったまいった。全然こんなスゴイ映画だと思っておらず。なんなら最終的には目頭が熱くなるぐらいの入り込みようで、しみじみと「いやぁ良い映画だなぁこれ…」と独り言を吐き出す中年の図がありましたよ。そこには。
ちなみにGGB主体にあらすじを書いていますが、主役はどちらかと言うと映画プロデューサーのコスタの方で、GGBは準主役と言った役割。情熱と正義感がありつつも現実的な考えも持ち合わせたバランスの良い青年監督と言う感じでしょうか。
対する主役のコスタは、途中まで観てて「バカだなー」と言っちゃうほどなんというか…脇の甘いオッサンで。「どうせこいつら英語わかんねーしワハハハハー」と調子乗って現地人ディスってたら理解されててワオ、みたいな。少々残念な人物像なんですが、その彼が終盤に向けて次第に本来の人柄を取り戻し始め、俗っぽく言えば「映画業界に染まった考えを溶かして一人の人間としてその場に立つ」ようになる、という人格形成的な部分もあり、丁寧な人間ドラマとして大変良くできていたように思います。
序盤はコロンブスに搾取される現地人を“劇中劇”で描きながら、現実でも欧米企業に搾取されているボリビアの現状と結びつかせて「結局お前らもやってること一緒じゃねーか系の話なのねフフフーン」なんて余裕ぶっこいて観ていたんですが、ところがどっこいそんな底の浅い話でもなくてですね。
根っこの部分では確かにそういう劇中劇と現実の交錯っていうのはテーマとしてあるんですが、その上に「今生きている人間同士」の絡みがしっかり描かれているので、そういうテーマほどお説教臭くない、っていうのが素晴らしいですね。
もうめっちゃ良い映画でしたよ。まじで。社会派映画でありつつも、その人間関係を巧妙に利用しつつエンディングへ導くというドラマとしての物語の閉じ方が完璧で。超胸熱。
おまけにその「劇中劇と現実の交錯」が次第に境界を曖昧にしていくことで醸成される緊張感がもう…!
醸成される、とか我ながらうるせーなと思いますがそうなんですよ。ほんとに。これは現実なのか、それとも映画の1シーンなのか…そういうギリギリの環境を描くのが抜群にうまくて。
また主役陣のみならず、劇中劇に役者として参加している脇役陣が抗議活動に不安を覚え、それぞれの思いで行動を選ぶところも物語に奥行きを与えていて、地味ながら大事な役割を担っていたと思います。監督とプロデューサー、そしてダニエル家族だけだったらこんなに味わい深い映画になっていなかったでしょう。
一応、この映画は実際にあった「コチャバンバ水紛争」を元にしている作品とのことで、その辺りのリアリティもまた作品に貢献しているんでしょうね。
以前、日本の大きな利点の一つに「水資源が豊富な点」がある、という話を聞いてハッとしたことがあるんですが、確かに日本からするとこういう水紛争というのは想像しにくいものがある反面、その距離感のおかげでより深刻に捉えられるテーマのような気がしました。世界ではこういうことが起こっているという、当たり前の事実をまざまざと見せつけられる社会性が胸に染みます。
また、ただ単に「水がなくて死者が増えています」みたいなステレオタイプな水不足話よりも、「欧米企業の進出で水の値段が上がって困窮する」という話の方が身近でリアルに感じられる分、よりこの映画のドラマに入り込める面もあったように思います。
そんなわけで、いろいろと試合巧者ぶりが感じられる名作と言って良いと思います。地味な社会派映画故に人を選ぶ部分はあるでしょうが、こういう映画が好きな方は一度観てみることをオススメします。
ただスペイン映画は若干マニアックなだけに、なかなか気軽にレンタルできないのも残念なところ。もう配信は終わっちゃいましたが、Netflixでこういう映画が観られたのは嬉しい誤算でした。
このシーンがイイ!
ラスト10分ぐらいは超が付くほど胸熱でした。めっちゃ良かった。
あと陰影際立つ夜のシーンがとても良かったです。コロンブス役のおっちゃんがプロデューサーと本読みするシーンとか。
ココが○
上に書いたように、ライティングがすごく良くてですね。詳しくない人間が言うのもアレですが、撮影技術的にもかなり洗練されていたのではないかと思います。ちょっとゴッドファーザーを彷彿とさせるような。重みのある陰影が素晴らしかったですね。
ココが×
映画そのものに関しては特に無いです。104分と若干短めながらこれだけの味わいを作りだすのも素晴らしい。
ただ僕の評価とは別に、この映画についてはボリビア映画の「鳥の歌」の盗作ではないかという説があるらしく、確かに概要を見るとかなり似ているので、真偽の程はわかりませんがそうそう手放しで褒められる映画でもないのかもしれません。
それとコチャバンバ水紛争の描写自体にもいろいろと批判的な意見があるようで、現地の人たちからすると納得がいかないものなのかもしれません。最もその点に関しては、こうして多数の人たちの目に触れる形で論争を起こしている時点で「何もしないよりはマシ」だと思うんですけどね。僕は。
それとまたかよ的な苦言ではありますが、邦題がちょっと…。アクション映画じゃないんだからさ…。元々は原題直訳の「雨さえも」というタイトルだったようですが、DVD化の時点で「ザ・ウォーター・ウォー」になったそうです。
「雨さえも」でよくね…。
※結局タイトルに括弧書きで加えました。
MVA
GGBは相変わらずイイですね。さすがメキシコ人俳優のエース。激太眉毛のプロデューサー役、ルイス・トサールも見事でしたが、存在感的にこの人かなと。
カラ・エレハルデ(アントン役)
劇中劇におけるコロンブス役のおハゲ。
劇中では大俳優的な存在のようで、高慢で高圧的なアル中なんですが、ただ芯のある言動がズルいかっこよさという。良いですね。良いおハゲでした。