映画レビュー1018 『オーソン・ウェルズ IN ストレンジャー』
今日は珍しくBSより古い映画を…と思っただろ騙されたな!
これもまた、ネトフリ終了間際シリーズなのです。こういう古い映画を配信してくれるのは本当にありがたいと思うんですが、しかし残念ながら何事にも終わりがあるんだよ、と。
ちなみにすでにパブリックドメインとなっているせいか、下に貼ったリンクは予告編のフリして全編観られます。ただし字幕はありません。
オーソン・ウェルズ IN ストレンジャー
オーソン・ウェルズ
アンソニー・ヴェイラー
ジョン・ヒューストン
ヴィクター・トリヴァス
ヴィクター・トリヴァス
デクラ・ダニング
エドワード・G・ロビンソン
オーソン・ウェルズ
ロレッタ・ヤング
フィリップ・メリヴェイル
リチャード・ロング
バイロン・キース
ビリー・ハウス
1946年7月2日 アメリカ
95分
アメリカ
Netflix(PS4・TV)
観やすいものの物足りなさもあるサスペンス。
- 過去を消し、一般人として田舎町で暮らす元ナチス将校を追ってやってきた捜査官
- 嘘が嘘を呼び、逃れられない宿命となる因果応報なお話
- 緻密さにはやや欠ける印象
- 主演二人の対照的な味わいが良い
あらすじ
以前も書いた気がしますが、僕ぐらいの年代の人間にとって、オーソン・ウェルズ=イングリッシュ・アドベンチャーなんですよ。映画より先にイングリッシュ・アドベンチャーで知った世代なんです。
そもそもイングリッシュ・アドベンチャー自体がなんなのかすらよくわからないまま「なんかヒゲのおっさんのドヤ顔写真が載った広告」ぐらいの印象だったんですが、しかし後年彼が映画史に残る異才であったことを知るわけです。というか正確には「映画史に残る異才であったと聞く」ことですごい人だったんだなと知った形で、実際にはまだ僕の中でオーソン・ウェルズという人がすごい人である認識というのはあまりないわけですが。
そんなオーソン・ウェルズ演じる主人公のフランツ・キンドラという男ですが、彼は元ナチス将校でユダヤ人大量虐殺計画を発案した張本人という極悪人(設定であって実際には存在していないと思われます)で、現在はアメリカの小さな町に逃げた後、チャールズ・ランキンと名を変え高校の教師として地元民からも慕われる好人物として暮らしています。
おまけに街の判事の娘を嫁に取るということで間もなく結婚式が執り行われるような状況。何せ判事と言えば権威そのもののようなものなので、隠れ蓑としてこれ以上無い結婚になるわけです。おまけに奥さんは美人っていうフザケンナ案件ですよ。
ところが彼の過去の悪行を知る、連合国戦犯聴聞委員会の捜査官であるウィルソン(エドワード・G・ロビンソン)は、収監していた元強制収容所所長のマイネクという男を“泳がす”ために釈放し、彼を追跡することでキンドラを捕らえようと画策します。
マイネクは彼の期待通りにキンドラの元へ向かいますが、尾行に気付いたマイネクはウィルソンを撃退した後にキンドラと再会。しかしマイネクが“現在の自分と過去の自分を結びつける唯一の存在”であることを懸念したキンドラは彼を殺害します。
こうして難を逃れたかのように見えたキンドラですが、この殺人を機に彼の偽装工作も徐々にほころびが出始め…果たしてこの勝負、勝つのはキンドラか、はたまたウィルソンか…!
少しサクサク進みすぎな気も
ちなみに上に書いていないこととしては、「過去を消して別人として生きている」キンドラですが、彼は特にナチス時代に対する贖罪の意識は持ち合わせていないようで、今も再度戦争を仕掛けてドイツに栄光をもたらそうという理念を持った人物のようです。つまり悪人のまま。
これが逆に贖罪の意識に苛まれている人物であれば多少は彼に同情するような意識が出てきそうな気もするんですが、そうではないので割とわかりやすい勧善懲悪的な内容になっておりますね。
もう片方の主人公であるウィルソンは「捜査官」とはなっていますが、その身分は(町の人たちには)終盤まで隠していることもあり、どことなく探偵っぽい雰囲気。エドワード・G・ロビンソンがいぶし銀に演じております。
物語としてはこの二人が表面上は無関係を装いつつ対峙しながら、証拠隠滅を繰り返していくことで尻尾を出していくキンドラと、その尻尾を掴もうと捜査を進めるウィルソンという構図のわかりやすいサスペンスになっていて、尺の短さも手伝って比較的観やすい部類に入る古い映画ではないかなと思います。ちなみにモノクロです。
ただ短い分、ウィルソンによる捜査の部分がサクサクしすぎな気もして、サスペンス的な意味での物足りなさはありました。ひらめきが早すぎるような印象。まあでもあんまり引っ張られると眠くなっちゃうしいいか、みたいな。
嫌な奴が多いオーソン・ウェルズ
あとはまあ特に言うこともなくですね。相変わらずうっすい内容でお送りしておりますけれども。全然本筋と関係ないところで言えば、主要舞台の一つである「すべてセルフサービス」のお店、あそこが儲かってる意味がわからないっていう。
やっぱりモノクロ映画ということもあって、陰影が印象的な映像だったことも書いておきたいと思います。この辺はオーソン・ウェルズの才能を感じさせる面なんでしょう。きっと。
しかしこの映画に加え、僕が観た数少ない彼の出演作である「第三の男」でも「黒い罠」でもそうですが、彼はよっぽど悪役が好きなんでしょうか。悪役は演じて楽しいとはよく聞きますが…。
監督としてはもちろん現在は確固たる評価を受けているオーソン・ウェルズですが、役者としてもなかなかおもしろい人だなぁと改めて思いましたね。また嫌な奴やってんな、って。
このシーンがイイ!
終盤の時計台のシーンかなぁ。終始時計台は舞台としてかなり重要なポジションでしたね。
ココが○
短くてわかりやすい内容。これ、第二次世界大戦終戦翌年に公開されてるんですよね。その事実がもうすごい。
ココが×
基本的にキンドラが下手を打って詰められていく話なので、もう少し狡猾さみたいなものが出てくると面白かったかなと思います。二重の仕掛けもなく、全体的に素直に進みすぎかなと。
MVA
そんなわけでオーソン・ウェルズにあげたいところですが、こちらの方に。
エドワード・G・ロビンソン(ウィルソン役)
オーソン・ウェルズを追う捜査官。
この前観た「深夜の告白」でも「ソイレント・グリーン」でも良かったし、今さらになって期待値が上がる俳優さんとして認識しました。
まーいぶし銀でね。派手さもイケメンさも皆無なんですが、味があってとても良かったです。