映画レビュー0979『フルメタル・ジャケット』
ご存知スタンリー・キューブリックの作品。お恥ずかしながら初鑑賞です。これまたネトフリで配信終了が来まして、さすがにこれは観ないとマズイだろうということで。
あとキューブリックの映画で言えばせめて「時計じかけのオレンジ」ぐらいは観ておきたいと思うんですがなかなか機会もなく…。
フルメタル・ジャケット
スタンリー・キューブリック
マイケル・ハー
グスタフ・ハスフォード
『ショート・タイマーズ』
グスタフ・ハスフォード
マシュー・モディーン
ヴィンセント・ドノフリオ
R・リー・アーメイ
アーリス・ハワード
アダム・ボールドウィン
ドリアン・ヘアウッド
アビゲール・ミード
1987年6月26日 アメリカ
116分
イギリス・アメリカ
Netflix(PS4・TV)
客観的な戦争を描きつつ、そこに込められた狂気を浮かび上がらせる。
- 大まかに訓練パートと実戦パートに分かれている戦争映画
- あまり善悪を押し出さず、リアリティのある戦争を実直に描く
- それぞれ象徴的な悲劇が語られることで戦争の狂気を浮き彫りに
- 字幕が史上最高に卑猥
あらすじ
もちろんタイトルは知っていたものの内容についてはまったく知らなかったので、思っていた以上に普通の戦争映画だったので驚きました。もうちょっとクセがある映画なのかなぁと勝手に想像していたので。
ちなみに「フルメタル・ジャケット」とは、劇中のセリフにもあるんですが直訳すると「完全被甲弾」、弾体の鉛を銅などで覆った弾丸のことだそうです。まあ要は殺傷能力の高い弾丸ってことでしょうか。よくわかってませんけども。
映画は大きく分けて2つのパートに分かれており、前半は海軍兵学校での訓練の話が中心で、この訓練を耐え抜いた者たちが晴れて海軍兵として前線に出ることができるぞと。
このパートでの中心人物は「ほほえみデブ」と呼ばれる落ちこぼれの訓練生、レナード(ヴィンセント・ドノフリオが演じます若ぇ)と、彼に「ほほえみデブ」と命名した鬼教官、ハートマン軍曹(R・リー・アーメイ)、そして班長としてレナードのサポートを命じられた訓練生、ジョーカー(マシュー・モディーン)の3名。
レナードは体型からしておよそ兵士とは思えない親近感の沸くスタイルなんですが、それもあってかあらゆる訓練項目をろくにこなすこともできず、そのおかげで他の訓練生全員が連帯責任を取らされたりとかなり厄介な存在。
鬼教官の「お前らは虫けら以下だ」という姿勢も相まって自ずと精神を病んでいくこととなるんですが、その辺の詳細は省きましょう。
後半はジョーカーを始めとした面々が無事兵役につくこととなり、ベトナム戦争に派遣されてからのお話になります。訓練の先に待ち受ける“現実”やいかに、ってなところでしょうか。
少々ざっくりとしたあらすじですが、こんな感じであとは観てくださいね。
この頃らしい実直な作り
全体としては、戦争映画にありがちな悲劇性を強く訴えるでもなく、割と淡々と戦争(及び訓練)で起こりそうな、現実にあったような出来事を流して見せる形を取っていて、エモーショナルな内容ではあるんですがあまり押し付けがましくない、観客の感受性に委ねるような作りだったのが印象的でした。
だからこそ描かれる出来事がシリアスに、よりリアルに感じられるし、いろいろと考えさせられる面があるのも確かなんですが、反面やはりあまり声高なメッセージが無い分パンチに欠ける部分もあったかなと。
総じて観やすいし、一昔前の映画らしい小手先に頼らない実直さみたいなものは存分に感じられてとても良かったんですが、ただ個人的な事情で申し訳ないんですがこの日は金曜日の仕事終わりだったこともあって疲れも溜まっていたのか、夜に観たのに珍しくウトウトする場面も結構あって(普段映画観ながらウトウトするのはほぼ確実にお昼ご飯後)、もう少し抑揚が欲しかったような気がしないでもない…ですがこれは体調のせいだと思うのであんまり気にしないでいいでしょう。っていうかこの日に観るべき映画ではなかったのかもしれません。(この日までだったから仕方ないんだけど)
ただなーんか…うまく言語化できないんですが、どこかで物足りなさがあったんですよね。それは道中の繋がりの希薄さ故かもしれないし、オチの付け方だったのかもしれない。
いずれしても、大きく「ここに向けて物語を盛り上げていく」ような作りではなく、小さい山をいくつか盛り込んだ物語を引いて観たときに「ああ、これが戦争なんだな」と実感するような、そんな作りの映画だったように感じます。
前半をもっと活かして欲しかった
あのキューブリックに物申すのもおこがましいことこの上ないんですが、ド素人の感想として一番大きかったのはですね、前半と後半の繋がりがイマイチ活かしきれてない感じがしたんですよ。
当然ネタバレになるのであまり書けませんが、前半の強烈さやキャラを後半にもっと引っ張って欲しかったんですが、結局は通しで出てきたのは主人公であるジョーカー+1人ぐらいなもので、訓練学校の物語がすごく印象的だっただけに惜しいなぁと。
もう全然別物になっちゃいますけど、例えばもう少し個々人にフォーカスして、エンディングで各人の“その後”を文字ベースで入れる(昔よくあった感じの)例のエンディングで「ああ…あいつ戦死しちゃったのか…」とかあったら良かったなーって完全に好みの話で書いてますが。そんな気がしました。
ジョーカーにしても一応通しで出てくるから主人公だなと誰もが感じるとは思うんですが、ただキャラとしては弱いし語り部としてもイマイチだしで…あまり魅力的に感じられなかったのもあり。
描かれるエピソードに関しては(戦争の狂気を感じさせるという意味で)とても良かったんですが、ただそこに至るまでのいろいろが無駄に消えて行っちゃったような気がして、でもそれが「色の付いていない事実を見せることで戦争とは何かを考えさせる」ようになっているのも確かだし、なかなかどっちが良いとも言いにくい難しさはありました。ただ好みとしては、もう少し個々人に触れて時間の流れを活かして欲しかったなという思いが強かったかなと。
戦争映画の基準を感じる
今年は少し配点を厳しくしようイヤーなので厳し目に7.5点としましたが、しかし映画としてとても良くできているのは間違いありません。好みとしてもっとこうであれば、と感じた面が大きかったのでこうなりましたが。
戦争映画を語る上で外せない映画の一つであることは間違いないと思います。具体的にどうとかはわかりませんが、なんとなく印象的にはこの後作られたいくつかの戦争映画に影響を与えていたようにも見えたし。この映画の公開以降は「戦争映画の基準」としてこの映画が横たわっているんじゃないかと感じるぐらいには至って真面目にきっちりと戦争を描いていたようにも思います。
やっぱり今になって初鑑賞となると、その後の戦争映画もいろいろと観ちゃっているだけに物足りなさを感じる、後から見る不利みたいな部分も多分にしてあったんでしょう。うどんで言えばかなり質の高い素うどんを食べたような感じ。美味しいんだけど、ちょっと物足りない。
もっとフラットに観る目があれば良いんですけどね。残念ながらポンコツなので「この素うどんうまいから天ぷら入れたい」って思っちゃうんですよね。そんな感じです。(どんな)
このシーンがイイ!
ほほえみデブが夜叫ぶシーンがね…なんというか来ましたよね。
あとは後半のピークとなるとあるエピソードも印象的でした。ただあそこからエンディングがまったくピンとこなかったけど。
ココが○
「戦争の狂気」を“狂気っぽく”描いていないのに感じさせる、その作りの良さはさすがだと思います。至って納得の行く展開でこうなっちゃうんだよね、っていう“場の特殊性”みたいなものが存分に感じられました。
ココが×
上に書いたように、もうちょっと前半を活かす形で後半に引っ張ってきて欲しかったですね。本当にさしてつながりのない前後半に感じられちゃって。
あとかつてないほどに字幕が下品だったので、女性及び鑑賞状況は注意が必要かもしれません。良い子は親と一緒に観ないでね。
字幕で女性器の名称を見たことも初めてでしたが、それが連呼されてましたからね。れんこ。マンコなだけに。
MVA
やっぱり強く印象に残ったのは前半の人たちなんですが…この人かなぁ。
R・リー・アーメイ(ハートマン軍曹役)
鬼の訓練教官。言葉遣いの汚さは過去一でした。
ご本人が軍人だったせいもあるんでしょうが、「ただ怒鳴って怖いだけの教官」とはちょっと違うリアリティがあったんですよね。怖い中にも少しユーモアが見えたりとか。「ああ、こういう教官いそう」っていう。
本当にクソ厳しかったらおそらくレナードはひどく痛めつけられたんじゃないかと思うんですが、割と遅れを許す雰囲気もあったりして、あくまで「軍人を育て上げる」仕事に注力していた感じがよく出ていてよかったなと。
一方そのレナードを演じたヴィンセント・ドノフリオも素晴らしかったんですが、ちょーっとだけ芝居がかって見えたのがマイナスかなと。
今はここまで大げさにやらないと思うんですけどね。まあリテイクの鬼で有名なキューブリックのことなので、彼がこういう演技を求めたんだろうとは思うんですが。
ってか本当の鬼教官はキューブリックじゃねぇか、みたいな。