映画レビュー0549 『パレードへようこそ』
勝手に映画ブログの戦友と思っている「たまがわ」がついに(マイペースに)復活したということで、早速ご紹介されていた「これ絶対面白いやつだろ」という映画を借りてきました。
マイノリティが主役のイギリス映画、ってこれもう外しようがないパターンです。
パレードへようこそ
熱くて爽やかなイギリス映画。
レズビアンにゲイ、いわゆる性的マイノリティの皆さんが、同じく権力と戦う炭鉱労働者たちのストを支援しようと“勝手連”のようなものを作るも、今よりももっともっと偏見の強い時代に、さらに保守的な人たちの多い田舎町で、へこたれずに地道に頑張り、次第に仲間を増やしていった結果、はてさて世間は変わるのか、という物語。
まず最初に書いておきますが、多分この映画を評価する上でとても大きな意味のある“ある要素”について、本当は触れたいんですが触れないでおきます。というのも、僕もその事実を知ったのはエンディングでのことだったんですが、そのことからもわかる通り、おそらくこれはわざと最後に持ってきたような気がするんですよね。
いや、もしかしたらイギリスでは言わずもがななことで、あえて冒頭に言う必要もない…と思ったのかもしれませんが、僕はこれは逆に中身勝負で、真摯に作ろうとしたが故にアピールしなかったんじゃないかな、という気がして、それがすごく珍しいしかっこいいな、と思ったわけですが、ただ「それがなんなのか」を書かないと何を言ってるかさっぱり意味がわからないような気もするので、この話はやっぱりナシでお願いします。書いてるけど。
きっと観た後ならおぼろげにわかる人はわかると思います。(移転時にネタバレ項ご用意しました)
まあ、なんだ。あんまり事前情報入れないで観た方がいいよ、ということで。
さて、本題。
舞台はウェールズということで。ウェールズが舞台の映画ってもうそれだけでなんか名作な気がするんですよね。この前観た「ワン チャンス」しかり、「ウェールズの山」しかり。あとほら、あれとか。あと…あれとか。ちょっとタイトル出てこないけど。
いろいろあっただろ! ばか!!
失礼しました。で、炭鉱の町が舞台っていうのもまた名作臭がプンプンじゃないですか。「フル・モンティ」しかり、「リトル・ダンサー」しかり。あとほら、あ ※以下省略します
まあそんな、イギリス映画好きの方々にはどう考えたって良いに決まっている、という…もうチーズを乗っけて焼いた食べ物みたいなもんですよ。食べる前から美味いのわかってるわ、っていうアレ。こんな自信を持って借りられる映画も珍しいです。
しかも主演にイギリスの誇る名優、ビル・ナイとイメルダ・スタウントンですからね。あのティルダ・スウィントンとよく間違えるのでお馴染みの。こんなのつまらないわけがない。
で、結果的にやっぱり良かったよ、と。
ただなんとなくですが、イギリス映画愛好家としては、ガツンと来るような「イギリス映画です!!」という匂いが少し薄い気はしました。どこが、とか何が、とかはっきりしたものは無いんですが。
確かに“いかにも”な舞台で、“いかにも”なヒューマンドラマで、“いかにも”な優しさがあふれていて、“いかにも”な軽快さもあって、どこをとってもイギリス映画なんですが、少しだけ、不器用さが足りないというか。イギリス映画にしてはサラリとしすぎているような気がしました。
今までの印象で行けば、多分もっと泣かせに来るし、もっと細かく描く印象があります。何箇所か、肝になるような割と押すべきところで押しすぎない感じがして、そこにちょっともったいなさと肩透かし感を感じたのは確かです。
ただ、それが悪いというわけではなくて、あえて感情に寄せ過ぎないことで、物語上の事実をグッと引き立たせようとしたのかな、という気もするんですよね。うまくいかないところはうまくいかないし、すべてが気持ちよくスカッとするような話ではないし、多分もっと観客のカタルシスを呼びこもうとすればできたと思うんですが、それをあえてしなかったところに、この映画の真面目さと媚を売らない意志を感じて、それがまた良かったとも思うし、そういう真面目なところもそれはそれでやっぱりイギリスの映画だな、という気がするわけです。
やっぱり好きですね。一番好きです。イギリス映画。
この映画の中心メンバーである、いわゆるLGBTに含まれる方々は、今でこそ少しずつ市民権を得てきていると思いますが、それでもやっぱりカミングアウトできない人は多いだろうし、劇中に出てきたネトウヨ的なおばさんのように、周りがどう説得したところで差別的な考えを曲げない人は少なからず存在するので、反発の強弱こそあれど、1980年代が舞台でも“古くて新しい”物語と言えます。
今の時代でこんな閉鎖的な考え方で生きていけるかね? とも思いますが、まあ某首相をはじめとした現政権の面々やその支持母体が完全に“そういう人たち”なことからもわかる通り、やっぱり“わかり合えない人たちは永遠にわかり合えない”のも事実で、その辺りの厳しさも描かれつつ、でも世の中捨てたもんじゃないぜ的な物語は、王道ながら最終的にはやっぱり泣いてしまいました。
あまり丁寧に語られないので、「なんでそこまで」というような疑問を感じる面はありつつも、ある種自己陶酔に近い形で活動に入り込み、その熱で周りを巻き込んで、気付けば風景が変わっていた…というような成功体験を観客がともに追うストーリーは、やっぱり共感もしやすいし、その分グッと来る部分も多いわけで、本当にこの手の映画はいくらでも観られるな、というぐらい好きです。
適度にドラマや危機も描かれ、決して順風満帆ではない展開もリアルだし、子どもに「偏見や差別的な人間になって欲しくない」方にはぜひ親子でも観てみて欲しい映画です。若干大人向けの要素もありますが、気にならないレベルだと思います。
「チョコレートドーナツ」の時にも書きましたが、こういう映画を観る人が増えれば、確実に争いや差別って減ると思うんですけどね…。青臭い考え方ですが、本当にそう思いますね。
「説教臭くないけど説教になる」という面で、こういう映画はとても大きな意味があるでしょう。楽しみつつ多様な価値観を身につけられる、「道徳の時間を増やせばいい」なんて貧相な発想とは対極の、イギリスの文化的な豊かさを感じる映画でした。
オススメ!
このシーンがイイ!
最近このコーナーは結構困ることが多いんですが、この映画はまぁ~たくさんありましたね~。最初のダイのスピーチも早速グッと来たし、ベタながら握手のシーンもすごく良かったし、酔っ払ってキスするシーンもすごく好き。
でも一番は…食パンのシーンだな~。名優二人のやり取りが最高でした。あの空気感はさすが!
ココが○
ところどころすごくベタなんですが、やっぱり「ベタだからこそグッと来る」ってあるんですよね。ヘタに技術に走らないのがいいな、と。イギリス映画らしい愚直さというか。
あと、珍しく邦題が素敵です。これはさすがに原題のままだと弱い気がする。最後まで観ると「ああ、すごくいいタイトルだな」と思えると思います。
ココが×
歌のシーンは逆にちょっと狙いすぎてもったいないかな、という印象。
あとは、もう少し見せてもいいシーンがあったような気はします。ちょっとあっさりサクサク行き過ぎている部分が若干あって、そのせいで軽くなっている部分があるかな、と。
ただ、その軽さが見やすさにつながる良さでもあるので、なかなか難しいところでもあります。
MVA
一応トップに名前の来る“主役”はビル・ナイですが、でも今回この人はある意味客寄せパンダなのかな、と思います。役柄としてはちょっと地味。ただ、この人が出ているからこその安心感、説得力もあるので、別にダメだったというわけではありません。
踊りの上手いジョナサン役のドミニク・ウェストもいいなと後ろ髪を引かれつつ、今回はこちらの方にしましょう。
イメルダ・スタウントン(ヘフィナ・ヒードン役)
ご存知ティルダ・スウィントンじゃない方の人。
ハリー・ポッターで見せた嫌なBBAはどこへやら、頼りがいがあって信念のある、明るいおばちゃん。笑い声もパワフルなこと!
さすがイギリスでは超有名女優なだけあります。存在感バツグン。