映画レビュー0719 『新しき世界』

最近ツイッターでちょこちょこ映画情報を拾っているんですが、ある日ネトフリ配信終了直前に「終わるから観ろ」的なツイートを発見し、ちょっと気になったので配信終了当日に観てみました。

トンマッコルへようこそ」以来の韓国映画ですね。

新しき世界

New World
監督
パク・フンジョン
脚本
パク・フンジョン
出演
イ・ジョンジェ
チェ・ミンシク
ファン・ジョンミン
パク・ソンウン
ソン・ジヒョ
音楽
チョ・ヨンウク
公開
2013年2月21日 韓国
上映時間
134分
製作国
韓国

新しき世界

韓国の裏社会で暗躍する巨大マフィア「ゴールドムーン」の会長が突如事故によって死亡。警察からゴールドムーンに送り込まれた潜入捜査官のイ・ジャソンは、兄貴分のチョン・チョンの右腕として後継者争いに巻き込まれるが、これを好機と見た警察上層部からゴールドムーンを牛耳るための作戦「新世界プロジェクト」を実行するよう言い渡される。

超しびれる潜入捜査・韓国ノワール。

9.5

古くは「フェイク」辺りも思い出されるマフィアへの潜入捜査官のお話。設定的にも物語的にも近いのは…やっぱり「インファナル・アフェア」(もしくは「ディパーテッド」)でしょう。

「インファナル・アフェア」+「ゴッドファーザー」と言っている人もいましたが、確かにそんなニュアンス。韓国では18禁でありながら恐ろしいヒットを飛ばしたらしく、すでにハリウッドでのリメイクも決定済みとのことです。こりゃーもうハードル上がっちゃいますね。

舞台となる企業「ゴールドムーン」は、要はマフィアの表の顔ってやつでしょうか。合法化された企業体で、韓国で(企業体の規模として)は中堅クラスと表現されていましたが、マフィアの規模としてはおそらく韓国最大という設定と思われます。そのゴールドムーンの会長が愛人宅に寄った帰りに事故死。陰謀じゃねーのと思いますが詳細は不明です。

で、予定外の会長の死ということで当然ながら後継者争いが勃発してしまうというパターン。

ゴールドムーンは元から韓国で勢力を伸ばしていたマフィアと、中国系中心のマフィアの主に2つの組によって構成されているようで、後継者争いはその二組のトップの一騎打ちの様相を呈しているぞ、と。

韓国側の後継者候補は組織内序列No.4のイ・ジュング。いかにもな恐怖政治で配下を従えるいかにもなマフィアという感じ。若干アリtoキリギリスの石井似です。中国側の後継者候補は組織内序列No.3のチョン・チョン。こちらはユーモアもあって部下への思いやりもある、いかにも慕われそうな良いボス。ただちょっと軽い感じはします。

で、主人公のイ・ジャソンはこのチョン・チョンの弟分として8年間活動しているらしく、組織内の序列は語られませんが一応は「理事」なのでそれなりに偉いご様子。バラエティ畑を歩んでこなかった大泉洋みたいなルックスです。

オープニングで別の理事を「警察とつながってんだろ!」と尋問した挙句、生コンクリートを流し込んで海に沈めてます。マフィアだぜ。が、実際警察とつながっているのはこのイ理事で、何を隠そう彼が潜入捜査官、本来の身分は警察官という例のアレなわけです。

彼の上司であるカン課長は「対ゴールドムーン」の現場指揮官という感じでしょうか。そのカン課長に対してもイ・ジャソンは「これが最後と言ったはず!!」とか「もう限界です!!」などなど、ひじょーに既視感のあるセリフを吐きます。

が、これはおそらくあえてやっているんでしょうね。やっぱり同じアジア映画で同じようなシチュエーションの傑作「インファナル・アフェア」と比べられるのは間違いないので、だったらもう最初から乗っかってやって違いを見せてやるぜ的な意気込みに見えました。漢だぜ。

さて、そんなわけで急遽2人の後継者争いが勃発した韓国最大のマフィアに対し、警察はこれが好機とばかりに介入し、ゴールドムーンを警察の手の届く組織にしようと画策します。その作戦名が「新世界プロジェクト」。その先兵として利用されるのが嫌々潜入捜査中のイ・ジャソンというわけです。ちなみにNo.2のおっさんは権力争いから脱落し、半隠居状態で相手にされていません。

そんなわけで、観客としては「どうインファナル・アフェアとの違いを出すのか」と思いながら観るわけですが、それはイコールエンディングのお話になってしまうので書けません。その他の部分で言えば…やっぱり「主人公が後継者候補の一人の弟分」というのが大きいですね。そこには当然ながらかなりの情が入ってくるはずで、弟をかわいがっているっぽい兄貴分に対し素っ気ない弟分、という構図も逆にその情の厚さを伺わせます。

そういう面で観れば、こっちの側面はやはり「フェイク」に近いニュアンスがあるし、その辺の“潜入捜査系マフィア映画”のいいとこ取りな映画のような気がしました。ただし、その情の部分についてはことさらに強調するようなこともなく、あくまで観客が想像しつつ心中を察するような内容になっているので、その想像力を求める作り方は、じっくり集中しながら観なさいよという意味で良いモチベーションにつながる作りだったと思います。

おまけにいわゆるノワール系としての画の重厚さ、じっくりと味合わせる“間”の妙が垣間見え、ずっしりしっかり2時間強、たっぷりと濃厚な映画を見せつけてくれます。素晴らしい。一応それなりに意味のあるポジションで二人ほど女性も出てきますが、中心はやっぱり男。いや漢。なのでこれまた非常に男臭い、ジリジリと部屋の空気を圧縮していくかのような重さがたまりませんでした。

しびれましたね。超しびれましたよ。

おそらくは男であれば間違いなく感化される何かを持った映画だと思います。渋すぎる。僕はタバコを吸いませんが、見終わった後に飲んだカプセル(サプリ)のくわえ方が完全にタバコのそれでしたからね。なりきってましたよ。もう。

絵作りや重厚さの印象としては「裏切りのサーカス」に近い気もします。それだけ映画自体の作りがしっかりしている、スタートの時点でレベルが高い雰囲気がバシバシ感じられる映画で、まあさすが最近世界中で評価されているだけあるな韓国映画、と。

前も書きましたが、韓国映画と言うとやや過激で凄惨な表現が多い印象のために避けていたんですが、この映画に関しては18禁ではあるものの洋画と比べて特にどぎつい描写があるわけでもなく、単純にものすごくレベルの高い映画だと思います。というかむしろ18禁なのが不思議なほど、そこまで過激な表現は無かったような。

何度も書いていますが、僕が凄惨な表現を嫌っているのは単純に観るのが嫌というのもそうなんですが、同時に「どうだこういうエグい表現すごいだろう」と感じられる「物珍しさを得点にしたがる」表現が嫌い、というのも大きいんですよね。今回この映画についてはそういう面がまったくなく、真っ向勝負でこれだけ重厚な物語を作り上げたというのは…いやはやすごいなと思います。

後継者としてマフィアのトップに君臨したい二人と、その争いに介入してマフィアを飼い馴らしたい警察、そしてその間で板挟みになりながらなんとか抜け出したい主人公、はてさて物語はどういう結末を迎えるのか…!

気になりますねぇ楽しみですねぇ否が応でも盛り上がりますねぇ。(淀川風)

もはや淀川長治が古すぎてわかる人もいなくなってきている気がしますが、細かいことは気にせずに観てもらえればと思います。

正直結末は読めたんですが、それでも面白かったし終わった後はグチーンと残るものがありました。ブルーレイ欲しい。超オススメです。

新しきネタバレ

一応お断りしておきますが別に新解釈とかじゃないですからね。ただのダジャレですから。

くどいようですがやっぱり「インファナル・アフェア」と比べながら観てしまうので、となるとどうしても「最終的にマフィアを選ぶ」っていう結末しか作りようがないと思うんですよね。ここはもう仕方がないのかなと。

ただ当然ながら作る側もそれはわかっているんでしょう、「決意してから」の展開の早さ、その登り詰めていく高揚感の表現はさすがにうまく、よく出来ているなぁと思います。

それにその「決意」が単純な野心や警察に対する不信感だけであればイマイチ納得が行かなかったような気もするんですが、そこに絶妙に説得力を持たせるための兄貴チョン・チョンの存在がよく出来ていて、その説得力のための兄貴の性格であり、腕時計であり、最後の会話であり、そしてラストシーンなのかなと。

要は「元から持つ正義感+自分を大事にしてくれない警察」と「罪悪感+死線をくぐり抜けた同志、兄弟への情」のせめぎ合いの結果、後者を取ったというお話なんでしょう。やっぱりチョン・チョンの最期の言葉がその道を選ばせたわけで、その説得力の元になるのがあの珍しい「昔の二人」のラストシーンという…この構成は素晴らしいなぁ。

話の筋を追えば「ふーん、まあインファナル・アフェアの亜種だよね」ぐらいに思われそうな映画ですが、その辺りの細かな目配せがしっかり出来ているからこその後味なのかなと思います。ストーリー以上に細かな描写がよく出来ているからこそ評価されたような気がする、奥深い映画でした。

このシーンがイイ!

単純に綺麗で絵面だけでもいいシーンが結構ありましたが、一つ挙げるとすれば…エレベーター近辺の一連のシークエンスでしょうか。それまではゆっくり間を取って流していたのが、急に早い展開で舞台を回す感じがすごく良かったですね。

あと一瞬ですが囲碁の先生の銃を構える表情がとても美人で惚れました。

でもなんだかんだ一番意味的にも良かったのは、劇中最後のシーンでしょうね…。あのシーンを一番最後に持ってくるのか、っていうのが…。すごく印象的なラストでした。

ココが○

やっぱりある程度ハンデがある試合というか、ものすごくヒットした前例があるベースを自分のものに昇華した物語っていうのは素晴らしいと思いますね。くどいようですが読めはするんですよ。前例ありきだけに。読めはするんですが、でもやっぱり深い味わいを残す重量感とその実力はすごいと思います。

ココが×

とは言えやはりそこがネックでもあり、どうしても観客は読んじゃうんですよね。その選択肢の狭さは少し観る側の心構えとしてはもったいない感じはします。

それでも良い映画であることには変わりがないので、小さい問題ではあるんですが。

あとはイイシーンとして挙げつつも、エレベーターのシークエンスは若干ファンタジー感があったのも一応指摘しておきましょう。

MVA

韓国映画界では主演の3人(イ・ジャソン役のイ・ジョンジェ、カン課長役のチェ・ミンシク、チョン・チョン役のファン・ジョンミン)が大スターらしいんですが、なるほど確かにこの3人が突出してよかったように思います。兄貴分の人間味あふれつつキレ味もある演技は捨てがたかったんですが、この人にしようかなぁ。

チェ・ミンシク(カン・ヒョンチョル役)

イ・ジャソンの上司、カン課長役。

マフィアにも物怖じせず、ふてぶてしいほど落ち着いた刑事。ほぼ相手の目を見ず、自分に有利に働くように策を巡らせる食えないおっさんなんですが、その食えなさっぷりがすごく良いんですよ。こういうおっさんが一人いると締まる締まる。

「インファナル・アフェア」ではアンソニー・ウォンのポジションですが、あれほどの良い上司感はまったく無く、その分スキもなく狡猾な雰囲気。その違いがまた物語の違いにもつながるわけですが…その辺も考えつつ楽しむとより面白いのではないかなと思います。

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