映画レビュー0531 『キングスマン』
遅ればせながら、大変盛り上がっているコチラの映画。最初はレンタルで…と思ってましたが、たまたま近くの映画館の金夜レイトショーでいい感じの時間にやっていたので、観に行って来ました。
あと前に書いたような気もするんですが、今年のNO MORE 映画泥棒。後半、ポップコーン男がポップコーンを食べようとするんだけど口がないから食べられない、あのシーンが一番の見所と申し上げておきましょう。ぜひ劇場へ行く方はチェックしてみてください。爆笑必至です。
キングスマン
爽快なブラックさに爆笑。こりゃー傑作だ!
何度となく予告編は観ていたので、印象としてはもっとコメディチックな、ちょっと他のスパイ映画を小馬鹿にしたシニカルなコメディスパイアクションなのかと思ってましたが、これが意外と(?)しっかりスパイ映画していて、でもやっぱり振り切った思い切りの良さもあって、大変楽しませて頂きました。これがダメ、って人はなかなかもったいない気がするレベルでスーパー娯楽映画に仕上がっていると思います。
ご存知だとは思いますがこの映画、「キック・アス」の原作・監督コンビの映画で、確かに見ようによってはスパイ映画というよりもヒーロー映画に近い感じもします。一部「シリアス路線のスパイ映画に対するアンチテーゼ」的に言われていますが、確かに最近流行りのこの手の映画に比べると、「キングスマン」の面々はあり得ないほどキレッキレで、相手が多数でも爽快なほどに皆殺し、とてつもない手練集団と言えるでしょう。
「イコライザー」を観た方には、あの映画でのデンゼル・ワシントンの強さに似ている、と言えばわかるでしょうか。とにかく動きもテクニックもキレッキレ、おまけにスローの使い方がうまいのでアクションの見せ方もバツグン、 なレベルです。
さて、物語は「キングスマン」の新人選考と同時に、サミュエル・L・ジャクソン扮する金持ち野郎の「とんでもない計画」を阻止するためのミッションが同時進行する内容になっています。この手の「スパイ新人選考」が面白いのは当たり前なんですが、それとミッションの絡み具合もひじょーにお上手で、最終的には綺麗にまとまっていくストーリー的なうまさも光ってました。
昨今の複雑化したストーリーからは少し距離を置き、「紳士」「新人選考」「人類滅亡の危機」と言ったわかりやすいアイコン化された要素が立っているので、誰にでも理解しやすい作りになっています。
とは言え、「人類滅亡の危機」とか安っぽい文言で語られつつも、その陰謀そのものはなかなか今の時代ありそうでなさそうな、いい感じのラインをたどるセンスもお見事で「ただのおバカ娯楽映画」ではないところもミソ。
思ったよりも真面目に、でもやっぱり破天荒に、勢い任せのようでいて実は緻密に計算されている非常にバランスの良い映画になっていると思います。小道具やら伏線やらの回収の仕方も見事で、酔っ払ってるようで強い、酔拳のような映画と言えましょう。
「キック・アス」が代表作(僕は「レイヤー・ケーキ」の方が好きですが)のマシュー・ヴォーン監督ということもあり、ややグロくて凄惨なシーンがあるのかな、と少し心配していたんですが、これがまた見事に笑いに転化して「どぎつくない」形にしているのが素晴らしい。個人的には「キック・アス」ではやや過激さでウケを狙うあざとさが見え隠れしていたように感じました(原作の違いのせいかもしれません)が、今作ではそういう雰囲気はまったくなく、振り切りつつも目を背けたくなるような描写がない、残酷だけど全然おっけー、みたいなさじ加減がまた嵯峨根。バツグン。
特に物語のピークである“花火”のシーンは、もう見せ方が見事すぎる上に話がブラックすぎて、比喩ではなく本当に劇場で大笑いしました。できればもっと声を出して笑いたかったぐらい。あれ笑わない人いないと思いますね。
それぐらい、素晴らしくブラックな展開、そして演出。
もっと言えば、観客が一番カタルシスを感じるタイミングで一番良いシーンを持ってくるうまさも光り、こりゃーとんでもない映画だ、傑作だ、と言わざるを得ません。
ほななして満点ちゃうねん、とエセ関西弁で突っ込まざるを得ないわけですが、やっぱり満点となると、相当な“お持ち帰り”案件(人生に影響を与えるという意味で)か、しばらく座席から立てないほどの衝撃を受けるか、それか「誰がなんと言おうと俺は好きだ!!!」と鼻息荒く語れるほどハートを鷲掴みされるか、その辺が無いとなかなか付けがたいものがあり、そこまでは行かなかったかな、というのが正直なところです。ただ、とんでもなく面白かったです。
本当に笑っちゃうし、本当にドキドキするし、本当にスカッとするし、ここまでやられたら降参ですよ。
ちょっとねー、他にも語りたいことは山ほどある映画なんですが、まとまらないのでこの辺でやめておくことにします。最後に一つだけ付け加えるならば、やっぱりこの映画の最大のポイントって「紳士」だと思うんですよね。紳士だからこそ、大量殺戮も嫌味にならないという。キャラが立っていて、ストーリーも理解しやすく、ブラックな味付けも効いている、そりゃ面白いはずだわ、と。
あ、それともう一点。
上に書いた通り、この映画は若干「シリアススパイ映画に対するアンチテーゼ」とか「古き良きスパイ映画の世界をもう一度」的な立ち位置に見られがちな気がしますが、実際はあんまりその辺は関係ないと思います。むしろこれはやっぱりヒーロー映画の一種で、設定として面白く、有効に使えるからこその「スパイ」であり「紳士」なのかな、と。
ちなみに僕は、当然ながらダニクレボンドのようなシリアス(に寄っていった)スパイ映画も、「裏切りのサーカス」のようなリアルスパイ映画も、この映画のような突き抜けたスパイ映画も好きです。どれも好き、それでいいじゃないか! 比べてどれかをこき下ろしなさい、って話じゃないんだよばーか!
…と、誰に言っているわけでもなく、なんとなく叫んでみただけです。とにかく必見、まだまだ劇場でもやっていると思うので、ぜひ。
このシーンがイイ!
これはもう花火のシーンしかないわけですが、あとやっぱり教会のシーンも笑っちゃいましたね。キレッキレで振り切ってて。同様に序盤のパブでの乱闘も然り。チンピラ相手にそこまでするか、と思いますが、それがまた許される振り切り方はキャラその他設定の勝利、といったところでしょうか。
アレはやっぱりシリアス系の映画としてやっちゃうと怒られちゃったり違和感が出ちゃったりするので、その辺の立ち位置込みでの見せ方のうまさ、っていうのもやっぱりいろいろ感じました。
ココが○
やっぱり50を過ぎたコリン・ファースが、スマートに、でも思いっきり人を殺していく振り切り方、ってすごいと思うんですよ。超カッコイイし、やってることは残酷でも凄惨ではないから楽しめちゃうという。「96時間」でも似た感覚を覚えましたが、“すごすぎて笑っちゃう”感じ、好きです。
ココが×
特にこれといって無いんですが、強いて言うならやっぱり完全娯楽映画なので、割と早い時期にスパっと内容を忘れそうな気もします。その分、2時間ちょっと、現実を忘れられるためのものとしてはこれほど優秀な映画も無いな、とも思います。
あ、あと王女がもっとかわいいと良かった。(好みの問題)
MVA
いやいや。役者陣も結構な面々で、ですね。
やっぱりイギリス人を中心に構成しているのがまた良いわけです。コリン・ファースはもちろん言うことなし。これほど「紳士なスパイ」が似合う人はいないでしょう。おまけにアクションも素晴らしく、100点満点のキャスティング。
これがほぼデビュー作らしいエグジー役のタロン・エジャトンは、ダメそうなヤンキーっぽい雰囲気もバッチリで、でも最後の方はちょっとあどけない雰囲気がかわいかったりして、なかなか面白い役者さんだな、と思いました。ちょっとジョゼフ・ゴードン=レヴィットと似てる気も。
今作のヒロインと言えるロキシー役のソフィ・クックソンは、「キック・アス」つながりで、ちょっとクロエ・グレース・モレッツっぽい雰囲気もあり、今後がなかなか楽しみな女優さん。
「アベンジャーズ」ではヒーローたちを束ねる長官だったサミュエル・L・ジャクソンは、こちらではしっかり悪役をやっているわけですが、これがまたお見事。すごくいそう。こういう人。リアル。この人のリアルさがだいぶ物語を固めていたと思います。
そして登場シーンは少ないものの、「イギリススパイ」としては外せないお馴染みマイケル・ケインも盛り上げて頂きまして。いやー、候補者だらけで困ったな、と思いつつも、でもやっぱり結局この人を選んでしまうという結論。
マーク・ストロング(マーリン役)
新人候補生の教官…なんですが、後半は結構キーマンの一人になってきます。
この人やっぱりいいんだよな~。重厚な雰囲気が似合う人ですが、割とこの映画のような軽めのタッチにも合ってたし、良かったです。悪役も多い方ですが、美味しい役どころで良かったね、と。