映画レビュー0743 『パディントン2』
さぁいよいよ今年最初の我らがおヒュー映画でございますよ! この映画のためにわざわざ前作を観て用意していたわけで、それはもう勇みに勇んで公開後初の週末となる先週末に行ってまいりました。
ちなみにこの日はたまたま別件も兼ねて都内に出張って初めて行く劇場で字幕版を鑑賞したんですが、どうも世間では字幕版の上映劇場がかなり少ないようで、僕の主戦場である近隣の劇場ではどこも軒並み吹替版のみ。これは悲しい!
おヒューは声の良さもポイントなので、ぜひ1日1回だけでもいいから字幕版に差し替えて上映していただきたいと切にお願い申し上げたい所存でございまして候。そんな簡単な話じゃないんだろうけどさ。
パディントン2
「誰にでもオススメできる」映画の決定版。超がつく大傑作におヒュー劇場も合わさってまさかの落涙!
前作は「面白いし優しい映画だし誰が観ても嫌味がないしファミリー向けとしてはバカにできないよくできた映画」ぐらいの印象だったんですが、これがね。もうね。軽く超えてきたというか…「ファミリー向けとしては」とか枕言葉がいらないレベルの大傑作でしたね。マジで。もう大興奮でした。うおおおおおおっ…!! って。カイジかよ、みたいな。
前作で“暗黒の地ペルー”からやってきた喋るクマのパディントンも、ブラウン家の一員として地域にも馴染み、もう「クマが喋るの!?」なんてリアクションはまったく登場しない程度に普通の地域住民として人々に愛される存在になっております。
相変わらず丁寧に帽子を取っては挨拶をし、軽い日常会話もかわして人に優しく、その上あの愛くるしさなのでそりゃー誰でも好きになっちゃうよねと。ご近所さんのカリーさんだけは相変わらず敵視しているようですが、それも別にパディントン本人はさして気にしてもいないようで、まあとにかく順調な暮らしぶりです。
そんな彼の育ての親であるペルーの老グマホームに住むルーシーおばさんが100歳の誕生日を迎えるぞめでたいぞということで、何かプレゼントを…とジム・ブロードベント(ブリジット・ジョーンズのお父さん役でおなじみ)演じるサミュエルさんのアンティークショップで物色していたパディントン、目に留まった古めかしい絵本に惹かれます。ロンドンの名所を飛び出す絵本化したその本をルーシーおばさんにプレゼントして、見たがっていたロンドンの雰囲気を伝えたい! と思ったのはいいもののこれがなかなかのアンティークでお値段もそれなりにしますよクマさん、ということで一念発起してアルバイトを始めよう! というところから物語が始まります。
相変わらずいろいろちょっとしたトラブルを巻き起こしながらもがんばっていた矢先、サミュエルさんのアンティークショップに強盗らしき人物が…! 何してるんじゃいと追いかけるパディントン、しかし犯人は絵本を盗んで煙のように消え、残ったパディントンが容疑者として逮捕されてしまってさあどうなる…! クマも裁判やるのかイギリス!! ってなお話です。
全体的なテイストは当然ながら前作と同様、コメディタッチのファンタジー。なんせ入り口が「喋るクマ」なので、そのファンタジー的な世界観を存分に活かして細かい部分は目を瞑り、良い意味でリアリティを避けるような物語にしているためにご都合主義的展開も許せるストーリーになっているのが相変わらず上手い。
不思議なもので、これがリアリティにこだわったお話だったら多分あちこち違和感出ちゃうと思うんですよ。ただもうクマが喋るわそれでも有名にもなってないわ初めて見た人も驚かないわで、いろいろすっ飛ばしちゃってるもんだから細かいツッコミどころが逆にノリとして消化できちゃうというのが本当にこのシリーズの面白いところだと思います。矛盾を引っかかるポイントではなく笑えるポイントに変換する作りのうまさというか。
そんなファンタジーとしての割り切りをうまく世界全体に落とし込みながら、もう徹頭徹尾細かい前フリもしっかり回収するサービス精神で最初から最後まで楽しませてくれるスキのなさがもう素晴らしく良かったですね。
普通に言うのであれば「尻尾まであんこが詰まった」的な感じですが、この映画にならっていうのであれば「パンの端までマーマレードを塗りたくった」美味しさの詰まった映画と言えばいいでしょうか。とにかく観ている人を楽しませるぞ、笑いも涙もたくさん詰め込んだ上にアクションもサスペンスも盛り込んでハラハラドキドキさせちゃうぞ、というサービス精神の塊っぷりがもうある意味。
流れとしてはオーソドックスと言っていいと思いますが、エピソードの描き方がどれも綺麗で嫌味がなくテクニックに優れていて、映像にもとても力があるというのもかなり大きい。殺風景な刑務所が一気にカラフルでかわいい世界に変わっていくシーン辺りでもこの監督の巧みさが伝わってきます。
一部ウェス・アンダーソンっぽい演出が見られたりもして、とかくパディントンのかわいさやストーリーの良さに隠れがちな「見せ方の巧みさ」もかなりレベルが高いということも声を大にして言っておきたい!
ブラウン家全員にもそれぞれ活躍の場が与えられ、さながら「ファミリー版ミッション:インポッシブル」的面白さもありつつ「みんなでがんばる」物語になっているのもすごく良かった。これこそファミリー映画としてまったく文句のつけようがない作りだし、子供と一緒に観たらこれほどまで良い映画なんて無いでしょう。僕の映画原体験である「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」と同じような興奮が今の子たちに与えられてるんじゃないか…と思うとこれまた胸熱です。
さて、そんなわけでもう前作含めて絶対観ろよな! オラとの約束だぞ! と悟空も言っているという噂も特にないこの映画ですが、語ろうじゃないですか我らがおヒューですよ。今作の悪役、フェニックス・ブキャナン氏を演じておられます。
役どころとしては「かつて大スターだったものの今は落ちぶれ、ドッグフードのCMで食いつないでいながらプライドが高く自己愛の強い俳優」というもの。いやもうピッタリじゃないですか。なんか。いかにもダメそうだし、絶妙に嫌なやつ感がおヒューっぽい。
よくぞこんな役を…と思ったらそれも当然、監督兼脚本家であるポール・キングと共同脚本のサイモン・ファーナビー(前作で女装したブラウンパパにアプローチする警備員をやっていた人)が最初からおヒューを想定して書いていた、いわゆる当て書きの脚本だとか。その上、最初の段階の役名がなんだと思いますか皆さん。
「ヒュー・グラント」ですよ。
爆笑。まんまやないか!!
文字通りおヒューのために書かれた役をおヒューが演じ、当然ながらビタッとハマってファン感涙、と。。
このブキャナンさん、表面上はいい人そうでありながら常に自己愛があふれる様をお届けしてしまうというなかなか鼻につくお人なんですが、これがまたこのファンタジックな世界とおヒューの演技によってとても「愛すべき悪役」になっているのが素晴らしい。この映画に合ったやや大げさな演技もバッチリだったし、何度か観たことがあるおヒュー的な動きがまたおヒュー感を増していてたまらない。
イケメン俳優としてラブコメ界を席巻していた昔の映画ではなく、まさに現在進行系のおヒューの演技を劇場で観て「ああ、俺は今リアルタイムでおヒューを観てるんだ…!」という喜びに打ち震えました。もちろん厳密に言えばリアルタイムじゃないんだけど。細かいことはいいだろ!!
悪役ながら憎めないキャラクターをイキイキと演じ、その「憎めない」感をうまく味付けに利用した彼の顛末もまた素晴らしく、前回出演作「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」の時と同様、今後の活躍にさらなる期待が膨らむ最高のおヒューが観られました。
彼がインタビューで「僕の最高傑作になった」と言っていたのを読んでどうせリップサービスでしょとファンのくせに冷めた目で見ていたわけですが、実際にこの映画を観るとそれもあながち言い過ぎじゃないなと思えるぐらいにとにかくよくできた映画で、そしてそれにかなり重要な役としておヒューが出ているというもうウォーズマン理論的な勢いで喜びが加速していくたまらない映画だったことは間違いありません。嬉しすぎる。こんな傑作におヒューが今後の展開を期待させる役で出てるなんて。
ということでとにかくおヒューファンもそうでない人も必見の大傑作と言っておきましょう。これだけの傑作で評価も高い以上、3作目が作られることもほぼ間違いないだろうし、これまた(おヒューは出てこないでしょうが)とても期待したくなるという楽しみ膨らみまくりの最高の映画でした。
1を超える2というのはなかなか珍しくもあるし、1を観て「それなりに楽しめた」のであればもう自信を持ってオススメします。っていうかこの映画がダメって人はひねくれすぎだバーロー!(暴言)
ちなみに劇中に「親切な人に世の中は優しい」というセリフが出てくるんですが、これを観たときにふと思ったわけですよ。同じファンタジーってことで実はこの映画は現代版「素晴らしき哉、人生!」なんじゃないか、と。
それぐらい、普遍的な価値のあるとてもとても良い映画だと思います。
このシーンがイイ!
まず書いておきたいのがオープニングタイトルの入れ方。超かわいいし超おしゃれ。何度か書いてますが僕はオープニングの入れ方で期待値が上がるタイプなので、もうあの時点で「これはキタで!!」とエセ関西弁も飛び出る良さ。
エンドロールもまた最高です。読ませる気ゼロっていう。ファンサービスが過ぎますぞ。
あと赤い靴下のシーンも最高だったなぁ。
ココが○
誰にでもオススメできる万人向けの良作というのはある意味で毒にも薬にもならない面があると思いますが、この映画(シリーズ)はやっぱりパディントンのその特殊な生い立ちから移民問題等現在の世の中に置き換えられる教訓のようなものが垣間見えるのが秀逸ですよね。
前に似たようなことも書きましたが、社会が不安定化してきているからこそパディントンの良さやメッセージが際立つわけで、これも差し障りのない映画のようでいて実は今の時代だからこそ生まれた世界なのかもしれません。
もちろん原作は古い本ですが、そこに書かれているメッセージが今の時代だからこそより強い意味を帯びてくるという面で「時代が生んだ傑作」なのかなと思います。「ただのファミリー映画」として片付けられない力強さが根底にあるからこその傑作だぞと。もっと平和な時代に公開されていたらここまで多層的に味わいのある映画として受け入れられなかった…かもしれません。
もちろん単純にCGの技術的な向上もかなり貢献しているわけで、原作本から時代を経て見事に世界中へ飛び立ったパディントンというキャラクターはある意味で今が旬なのかもしれないですね。ぬいぐるみ欲しい。
ココが×
なし!
「どんな刑務所だよ」とか突っ込むだけ野暮! ボーヤーだぜ!!
MVA
そりゃあもちろんおヒューにしたいところですが、前々から書いている通りおヒューは当ブログ唯一の殿堂入り神棚祀り系俳優なのでMVA候補外、ということでこちらの方にしたいと思います。
サリー・ホーキンス(メアリー・ブラウン)
前作から引き続き登場のブラウン家ママ。
サリー・ホーキンスってこんなかわいかったっけかなーと思わせるようなキュートで朗らかなママっぷりがとても良かった。雰囲気がものすごくこの映画に合っていると思います。優しくてちょっと外れたファンタジーっぽいママ感。
彼女は今年のアカデミー賞で話題の「シェイプ・オブ・ウォーター」の主演でもあり、この映画を観ているとまた味が増す、とかの小島監督もおっしゃっていましたが、となるとなおさらこっちの映画も気になるぞということで。そのうち観ます。
あともちろんですがブレンダン・グリーソンも良かったですね。まだまだ息子には負けんぞ、と。