映画レビュー1307 『大統領の執事の涙』
今回の映画は、某関西在住おもしろドゲザ人妻に2年ぐらい前に「観て感想聞かせて欲しい」と言われていたもので、配信で来たら観ようと思っていたんですが最近チェックしたらアマプラにあったのでいよいよ観るぞ、ということで観ました。遅くなってスマヌ。
大統領の執事の涙
リー・ダニエルズ
ダニー・ストロング
『A Butler Well Served by This Election』
ウィル・ハイグッド
フォレスト・ウィテカー
オプラ・ウィンフリー
ジョン・キューザック
ジェーン・フォンダ
キューバ・グッディング・ジュニア
テレンス・ハワード
レニー・クラヴィッツ
ジェームズ・マースデン
デヴィッド・オイェロウォ
ヴァネッサ・レッドグレイヴ
アラン・リックマン
リーヴ・シュレイバー
ロビン・ウィリアムズ
ロドリーゴ・レアン
2013年8月16日 アメリカ
132分
アメリカ
Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)
2つの前線で差別と戦う親子から眺めるアメリカの歴史。
- 奴隷からホワイトハウス勤務にまで成り上がった男を通して見るアメリカの歴史
- 息子は活動家として公民権運動に傾倒していくも父親とはわかりあえず
- 例によって同時期を描いた他の映画と相乗効果で理解が深まる
- ややプロパガンダ臭もあるが観ておくべき一本
あらすじ
ちょっとハードルが上がりすぎていた面はあったので、かなり泣くかなと構えていたんですがちょっとウルっときた程度でそこまで泣きませんでした。それでも良い映画であることは間違いありません。
農園の奴隷の息子として育てられ、白人の雇い主に目の前で父親を殺されたセシル(フォレスト・ウィテカー)は、青年になるとあてもなく農園を出ますが職はもちろん住む場所も食料もなく、限界に達した彼は偶然目に入ったお店のガラスを破って侵入した挙げ句ディスプレイに飾られていたケーキ的なものをモサモサと食い荒らし、おまけにやってきた黒人店主に働かせてくれと頼み、結果なんと職を得ます。
農園で“ハウスニガー”として働いていた過去を活かし、真面目に働くことで他者からの覚えもめでたく、なんやかんやあってホワイトハウスの執事として職を得るまでに。
一方彼の長男のルイス(デヴィッド・オイェロウォ)は大学生となって家を出て、公民権運動に傾倒していくことで度々収監され、父親を悩ませます。
セシルがホワイトハウスに職を得たのはアイゼンハワー大統領(ロビン・ウィリアムズ)時代。そこから歴代の大統領に仕えながら、黒人に対する国の変遷を見ていくことになります。
あらゆる政治的アメリカ映画がつながる
上記あらすじでセシル役にフォレスト・ウィテカーと入れていますが実際にフォレスト・ウィテカーが出てくるのはホテル勤務時代からなので、最初は違う役者さんです。
フォレスト・ウィテカーになったときは「急に変わったなおい!」とびっくりしましたがそこの辺はあまり突っ込まないのがお約束です。よろしくどうぞ。
一応「実話を元にした」映画のようですが、どこまで実話ベースなのかは不明です。いわゆるインスパイア系だと思われます。二郎的な。
ざっくりと「奴隷からホワイトハウスの執事になった黒人がモデル」ぐらいの感じではないかなと予想しますがあくまで予想です。
正直タイトルだけ耳にしていた段階では、「黒人なのに今までよく頑張ってきたな」とか「大統領の一つの決断で感激した」とかその程度の安易な“涙”なのかと思ってあんまり興味が無かったんですが、その実「黒人から観たアメリカの歴史」を描いた映画、という印象で、想像以上に政治的で社会的な映画になっていて、そこがまず良かったです。
全体的に一番近いかなと思ったのは「フォレスト・ガンプ」でしょうか。一人の人物を通してアメリカの歴史を観ていく感覚が似ています。同じフォレストだし。ウィテカーかガンプか、みたいな。(名前が似ているという浅い判定基準)
一方で長男のルイスを通して観ていくのは「黒人の権利獲得の歴史」であり、その意味では例に挙げきれないほどの映画と通じている内容でもありました。
この映画の裏には「デトロイト」があり、「13th」も関係しているし、「グリーンブック」の物語も紡がれていたわけです。
オープニングの綿花畑からは嫌でも「ゲット・アウト」を想像しちゃうし、ブラックパンサー党と聞けば「シカゴ7裁判」も思い出します。
同時期のアメリカを舞台にしているという意味では「アイリッシュマン」もそうだし、名前の出てくる「マルコムX」だってそうでしょう。
大統領関係なら当然ケネディ暗殺に関わる「JFK」に「パークランド」もあれば、ジョンソン大統領の「LBJ」、ニクソン絡みの「大統領の陰謀」「ペンタゴン・ペーパーズ」も想像されます。
モロに劇中のセリフに出てくる「夜の大捜査線」も「招かれざる客」も重要だし、さらに次男のチャーリーが従軍することになるベトナム戦争まで広げれば「ディア・ハンター」、そして「グッドモーニング, ベトナム」を思い出すよ、と。
そう、「グッドモーニング, ベトナム」ですよ。フォレスト・ウィテカーと言えば。
そして彼が最初に仕えるアイゼンハワー大統領を演じるのがあの時相棒を演じたロビン・ウィリアムズ…というだけでもう泣けました。ロビン・ウィリアムズだけで泣けるんですが、時を経てあの二人がここで共演するだけでもうたまらないものがありましたね…。
そんなわけで僕が今思いつくだけでも相当な数の映画がこの時代のアメリカを描いていて、その一つ一つのつながりが理解を助け、広がりを作っているのはアメリカの(引いては映画を観てきた自分の)財産なんだなと妙に感慨深かったですね。
この頃の裏にはこんな物語がありました、とピックアップしていくだけで2時間作れそうな、まさにアメリカの壮大な歴史を振り返る映画でもあり、そこに密接に関わってきた「黒人差別」と「公民権運動」の両面を親子の姿から描いていくことでかなりメッセージ性の強い映画になっていると思います。
さて、肝心の物語について。
主人公のセシルは「白人に(好かれるようにして)仕える黒人」であり、序盤でまさに彼の師匠が言っていたように「本来の自分と白人に好かれる自分」の2つの顔を持った、「裏表のある黒人」です。
それはそのまま長男のルイスが「気に入らない」と言っていた「夜の大捜査線」≒白人ウケのする“知的な黒人”であって、そこに父親と長男の不和が生じるわけですが、一方で息子が見えていない父親の実像は、「権威(≒白人)に近い場所で“評価できる人材”としての黒人像」を見せることで抵抗感を無くしていく戦いに身を投じている存在なんですよね。
そこに気付くおれさすがだぜ…と思って観ていたら直後に劇中のキング牧師が同じようなことを言ってて草、みたいな。言われちゃったね、っていう。
まあそういうテーマが内包されているわけですよ。
言ってみれば「イメージ戦略」の父親と、「実力行使」の息子という違い。
やり方は違えど、目指すものは一緒です。黒人の立場の向上、引いては権利の獲得。
しかし本人たちにはそれがわかってないがために不和を引き起こしてしまう悲しさ。
この「親子で同じ未来を見ていながら違う道を歩んでいるすれ違い」は、そのまま視点の違い(権力側と抵抗側)として映画を作り、それによって両面からアメリカ(黒人)の歴史を観ていくことになる…という形は非常に秀逸で、ただ片方を描いたり双方を描いたりよりも効果的だし「家族の物語」を描くこと自体に意味が生じるのはなかなか上手なやり方だなと感じました。
一方でどうしても「アメリカはこうして差別に向き合ってきたんだ」的なプロパガンダ臭も少なからずあり、手放しで絶賛とはいかないのが惜しいところ。
まあテーマがテーマなのでどうやってもプロパガンダとは表裏一体になってしまうのも事実だし、あんまりそこを突っつきすぎるのも良くないのかなとも思いますが…。
そういう前提がありつつも、やはり「ブラック・クランズマン」みたいな“戦う”映画とは違い、差し障りのないところでまとめようとする小綺麗さが際立っていたようにも感じるし、まー良くも悪くも「いい話に落とし込まないと(広く)受け入れられない」みたいな側面もあるんだろうと思います。
そしてそれはつまりそのまま主人公の姿と重なるんですよね。
「良い黒人物語」によって黒人の立場を底上げする、まだその領域で戦う必要がある社会の裏返しなのではないかなと。
ちなみにこの映画の配給は、まだ例の事件が表沙汰になる前の悪名高きワインスタイン・カンパニーです。
セクハラによる度を越した性犯罪で権威が失墜した白人が経営する会社から配給された映画が「綺麗にまとめる黒人物語だった」というのは…ちょっと穿った見方すぎるのかもしれませんが、構造自体にこの映画と重なるものを感じて、そこもまたいろいろ考えてしまうなぁと思いましたね…。
キャスティングも見どころ
またこの映画はかなりキャスティングが贅沢なのも書いておきたいところ。こういう社会派要素のある映画にしてはかなり珍しいと思います。
特に歴代大統領は皆さん一線級である上に(物語の性質上)少ししか出てこないので、まあ本当に贅沢ですよ。
それとオプラ・ウィンフリーがちょい役ではなく(主人公の奥さん役で)ガッツリ出ていたのも結構びっくりしました。どうしても司会者のイメージが強いので。立ち位置的には勝手に黒柳徹子と近い印象です。
あとは鑑賞後に知ったこととして本当にちょい役ですが主人公の母親役でマライア・キャリーが出ていたり、まーいろいろびっくり。ヴァネッサ・レッドグレイヴもちょい役だし。ジェーン・フォンダも出てるし。
筋金入りのリベラル(らしい)ジョン・キューザックがニクソンを演じているのも面白い。仕事とは言え相当嫌だったのでは…。
余談としてもう一つ思ったのが、この手の戦いは(大量の死者が出たりとかの)歴史に残るという意味で大きなものは黒人の戦いほどではないかもしれませんが、きっと「女性の戦い」としても同様にあるはずなので、いつかこういった歴史を振り返る女性バージョンみたいな映画も観てみたいなと思いますね。
もっともっと長い歴史を描いた「未来を花束にして」みたいなイメージ。
それこそワインスタインの事件が映画化されたりもしましたが、そういう単品ではなく過去から連綿と続く性差をテーマに歴史を扱った映画は、今の時代こそ出てきてもおかしくないような気がします。
いろいろ書いてきましたが、上記の通りアメリカの歴史を描いているだけにその他のいろんな映画も観て、背景をより知ることで旨味が増す映画だと思うので、ここからいろいろ手を出していくのもアリではないかなと思います。
正直ここまでいろんな映画がつながってくる経験はあまり記憶にないぐらいだったので、物語そのものの良さに加えてそっちの楽しみもあったのがより良かったですね。
それだけ、アメリカにとって「黒人差別」がいかに大きなものなのか、ということなんでしょう。まだたかだか100年も経っていないことが驚きですよ…。
このシーンがイイ!
終盤はちょいちょい泣いちゃいましたが、やっぱり個人的にはロビン・ウィリアムズとの共演シーンですね…。
さすがに「グッドモーニング, ベトナム」から一切会ってないことはないんじゃないか…と思いますが、とは言え会ったときに「久しぶりだね」的な会話はあっただろうと思うし、それを考えるだけで泣けます。
ココが○
いろいろ観ていればいろいろつながるし、観ていなくても一本でいろいろ学べるしでお得な映画だと思います。
まあアメリカの歴史について知る必要があるのか否かは人によるとは思いますが、ただ社会の動きとしてどれぐらいのスパンで物事が変わってきたのかを知ることは国関係なく意味があることだと思うので、その一例として2時間ちょっとで学べるのは価値があるでしょう。
ここを発端に深堀りすればよりいろいろ知ることができるし、取っ掛かりとしても悪くないと思います。
ココが×
どうしても「綺麗にまとまる」おなじみ感はあるので、そこをどう捉えるかでしょうか。
結局「ハリウッド映画らしい映画」であることも事実なので、慣れてしまうと突き抜けたものは感じられない面はあります。
MVA
まーいろんな人が出ていて面白かったんですが、そこそこの時間出ていた人は限られてきます。
もちろんフォレスト・ウィテカーは良かったんですが、いつも通りの感じもあるので今回はこちらの方に。
オプラ・ウィンフリー(グロリア・ゲインズ役)
セシルの妻。
初登場からおばちゃんやなと思ってましたがそれはまあフォレスト・ウィテカーもそうなので良いとして。
上にも書きましたが、正直この人は役者の印象が無かったのでまずびっくりしたのと、演技そのものもいい感じにくたびれてて良かったんですよね。二度びっくり。
まーいい夫婦でしたよこの二人は。本当にこんな夫婦は羨ましいなと。
わー!ありがとうございます!!!
密かに楽しみにしておりました。
確かにフォレスト・ガンプみありますねぇ。納得です。
私は一人の人間のある程度長い人生軸を捉えた作品が好きなのかもとこのレビューを読んでふと思いました。
他にうまい例えが出ないんですが…幼少期から往年にかけてを描く作品に惹かれるという新たな発見ができました。
そして話は変わりますが前に教えてもらった小悪魔はなぜモテる?!を観ました!
主人公どう見ても可愛すぎてモテんわけないやろ!とは思いましたが面白かったです。
あと曲がめっちゃいいですね!映画に合ってて良きでした。
イカさんがレビューに書いてたタイトルで損してるはほんまその通りでした(笑)
まとまらず長々すみません、これからも楽しみにしております(*’▽’)
コメントありがとう俺も密かにリアクション楽しみにしてました!(ง ˙⍢˙)
半生を描くものは結構いろいろあるような気はするけど
そういうのは実話系が多いかも🤔
何かオススメ思い出したら送っときます(◜ᴗ◝ )
今度「アンドリューNDR114」って映画のレビューも載せるんだけど
それもそんなような感じでオススメです(ただアマプラ有料)
「小悪魔はなぜモテる?!」もいいよね!(ง ˙⍢˙)
ああいうラブコメは大体曲にすごく力入ってて
サントラ欲しくなるような映画が多いよ😌
またいつでもお越しくださいませ!