なんプロアワード2019

はいあけましたー。あけたこれは。これはあけた。

ということでね。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。恒例のなんプロアワードでございますよ。

毎年自分でも楽しみにしているコレ、毎年年が明けたら「さぁ〜書くぞ〜」とノリノリになるはずなんですが…今年は書くにもまったく筆が進まない状態が進んでおりまして、かと言ってあまり先延ばしにするとより状況が困難になるよなと思い、今無理矢理気持ちを高めて書き始めた次第です。

なんでそんな状況なのかと言うとですね、いきなり暗い話で申し訳ないんですが…実は去年の暮れも押し迫った30日、我が家の死ぬほど溺愛している愛犬ビビが数日間フラフラで様子がおかしかったために病院に連れて行ったところ、いわゆる末期ガンに近い状態で余命1か月保たないんじゃないか、と言われまして…。

彼は12月29日に満15歳になったので、そろそろそういう時期が来るかもしれないとは思ってはいたものの、いざ残り時間を提示されるとさすがにめっきり落ち込んでしまい、当日はひたすら涙しておりました。

お医者さん曰く、その連れて行った当日もひどく低糖状態で「朝起きて冷たくなっててもおかしくない」ような状況だったそうで、もう全体的に身体が弱ってきているんでしょう。

1年ぐらい前でしょうか…診断してもらったところ腎臓が悪いと言われ、療養食を与えていたんですが味が気に入らないのかほとんど食べず、元より食が細いこともあって段々と弱っていってしまったようです。

今はもう腎臓云々関係ないので好きなご飯をあげたところ、少し元気を取り戻してきたような状態ですが、果たして自分自身で死期を悟っているのかどうか…これほどまで言葉を交わせないもどかしさを感じたことはありません。

彼はうちで飼っていた両親(父親は他界、母親は健在)の元に生まれたんですが、母親が生んだ瞬間に自分が何をしたのかわかっていないようでキョトンとしてしまい、焦って当時のかかりつけの動物病院に電話して「匂いがつかないようにタオルのようなもの越しに袋を破ってあげて」と言われて急いで袋を破った子なんですよね。

文字通り「生まれた瞬間から一緒」で、両親と(4か月までは弟たちとも)ともに育ったからか今まで見たことがないぐらいに天真爛漫の素直な子に育ち、今でも吠えることはほぼなくご飯も遠慮がちに食べるような奥ゆかしい子になりました。

もうありとあらゆるところがかわいくて仕方がない存在なので、さすがにこの事態はかなり堪えてはいるんですが…しかしこれも仕方のないことなので、受け入れていくべく気持ちを切り替えていきたいと思います。

むしろ朝いきなり冷たくなってたりするよりも、事前に告知されていろいろ感謝やら愛してる気持ちやらを伝える時間を用意してもらえただけ良かったのかもしれないですね。

今ペットと一緒に過ごしている人たちは、ぜひ常日頃から気持ちを伝えてあげてください。いきなりいなくなったときに後悔しないように。

さて、長いこと映画とは無関係の話をしてしまいましたが気を取り直してなんプロアワード参りましょう。

書いてから消せばいいじゃん、とも思うんですがこれはこれで自分の中に残しておきたい出来事なので、まあ個人のブログだし大目に見てやってください。

一つ吐き出して残しておくと多少踏ん切りがつく面もありますからね。誰が見るわけでもなくても、やっぱり自分の想いを切り離すためにもこういうことって大事なんじゃないかなと思います。

ということで改めて本題でございますけども、その前にまずは恒例のご説明を一応置いておきます。

「なんプロアワード」とは
前年に初めて鑑賞した映画の中から選んだベスト10と、主演男優 or 女優賞を発表する、少しも珍しくない誰の目にもお馴染みな企画でございます。
[ルール]
  • エントリー基準は「その年初めて観た映画」
  • その中から勝手にベスト10を選定
  • そのため古い映画も入って来るという謎み
  • さらに生死関係なく、その年に観た映画に出ていた最も良かったと感じた役者さんに主演男優 or 女優賞進呈
〈2019年雑感〉

実はですね、当ブログは2009年の8月から開始しているので、昨年しれっと10周年を迎えました。

自分でも全然意識してなくて、「あっ、10年経ったわ」みたいな。

なかなかね、これだけ人も来ない個人の記録メインのブログで10年続くっていうのは我ながら大したもんだなと思いますよ。さして文章力も理解力も無いくせにようやってるわと。

おまけに未だに面倒で面倒で嫌で嫌でしょうがない手描きの絵も続行中ですからね。

考えれば当たり前の話なんですが、どんなに嫌なことでも「ずっと続けてるんだから続けないともったいない」みたいな自己圧力があると、どんなに自堕落な人間でも続けられるもんですね。これは結構な気付きでした。(ただ悪いことでも同じような理論で続けちゃうこともあるので良し悪しではあります)

前も書いた気がしますが…多分今「これから手描きでジャケ絵とレビューを書いていけ」って言われたらやらないと思うんですよね。そんな面倒なことやるんだったら別のことしたいわ、って。

その面倒くささをあまり理解していない状態で始めちゃった10年前の自分が偉いのか、はたまた今となっては迷惑なのか…。自分でもよくわかりませんが、ただやはり過去観た映画を振り返るとき、人にオススメする映画を探したいときなんかはとても役に立つので、続けてきてよかったよなぁとは思います。

ちなみに順調に行けば今年の前半には大台の1000本がやって来ます。まさかの。

1000本分も絵を描いて特にうまくもなっていないという衝撃の事実ですよ奥さん。

さすがに記念すべきタイミングなので、今から何を観るべきか悩んではいますが…。「TENET」が来ればそれにしたいけど、9月公開らしいのできっと1000本目よりもあとでしょうね。

そして順調に行けばもう来年のなんプロアワード1位は「TENET」です。間違いないです。今からその予感しかしません。

それとですね、昨年はなんとまさかのFF14復帰(というか再スタート)しまして、かなりあっちに時間を取られていたことは否めません。

かつてやっていた頃は今で言う「新生」部分(パッチ2.0まで)のストーリーのショボさにがっかりしてやめた記憶があるんですが、再開したところその後からググッと盛り上がってなかなかいいじゃないのと前回以上にハマってしまい、今も絶賛続行中と。

なので今年も鑑賞本数は減るかもしれません。きっとネトフリの配信終了という“枷”が無ければ余裕で2桁フィニッシュしていたことでしょう。

ということで去年の実績ですが、鑑賞本数は107本(うち再鑑賞7本)、劇場鑑賞は14本でした。

これも年始にダラダラ観てたミッション:インポッシブルシリーズの1・45を含めての数字なので、まあ本当にギリギリ3桁、ってところですね。本来であれば(ブログに書いてない)1の感想も書かないとなんですがやってないし。

ツイッターを眺めていると劇場鑑賞200本とか平気で見かけるので、まあ世の映画好きは頭おかしいんじゃないかと思いますね。マジで。暴論ですよ。暴論ですけど頭おかしいですよ。1本1000円で観られたとしても20万円ですよ。もうセレブじゃん。

僕は映画好きだとは思いますが、あくまで一般人の範疇に入る映画好きということで、とても付き合いやすい温厚な飼いやすいタイプの映画好きですよ。間違いなく。

年間200本も劇場に行くようなタイプはすぐ噛み付いてきますから。手とか。知らないけど。

世間一般と乖離しすぎていない映画ファンとしてですね、今後もあいも変わらず浅い視点で好き勝手書いていこうと意を新たにした次第です。

  • 2009年 21本(途中から開始)
  • 2010年 66本
  • 2011年 111本
  • 2012年 141本
  • 2013年 72本
  • 2014年 79本
  • 2015年 56本
  • 2016年 81本
  • 2017年 107本
  • 2018年 128本
  • 2019年 107本

リスト見て気が付きましたが、一昨年と一緒なんですね。

もう本当に周りを見てると100本程度じゃ映画好きを名乗るのも恥ずかしいレベルなので、生きづらい世の中になったぜと思いつつ、かと言って前々から書いている通り無闇矢鱈と数観ればいいものでもないと思うのでこのままで行きます。

多分ある程度個人個人でキャパが違ってると思うんですよ。映画って。

たくさん観られる人はそれだけ時間的にも金銭的にもいろいろ余裕がないと無理ですからね。

僕もゲームやらないでその分映画を観ればもっと数は増えますよ。

土日の昼過ぎに眠くならなければもっと数は増えますよ。

でもゲームだってやりたいし昼寝だってしたいじゃない。眠いんだから。

それにこうして浅かろうがレビューも書いてるし、絵も描かないといけないし。観っぱなしで良ければもっと本数増やせるとは思うんですけどー。

これはもう仕方のないことです。僕の能力ではおそらく150本ぐらいが限界ですよ。体力の限界ッ! ですよ。千代の富士ですよ。もう令和だっつーのに。

っていうか「令和最初のトップ10」とか言ってる人も見かけたけどさー、洋画好きに令和とか関係ないじゃん!?

「さすが令和になってから良い映画が〜」とか海外関係ないじゃん!?

と地味に憤りつつですね、だんだんエンジンがかかってきましたねこれは。自分で感じますよ。ええ。いい感じになってきました。

ちなみに昨年の年初にですね、「いい加減もう少し文章力を上げたい」と思って本を買って読んだりもしたんですが、結局なんも変わらねーなという結論でした。

まあここはキレの良い分析を語るブログじゃないですからね。

自分で振り返る用と、プラス別に映画好きでもない人が少し興味を持ってくれれば嬉しいな、と思って書いてる程度なので。

そんなことより少しでも小ネタを差し込んで細かい笑いを拾っていきたい所存です。

[総評]

去年の印象としては…やっぱり「エンドゲーム」が大きな出来事だったかなぁと思います。

なにせMCU1作目の「アイアンマン」が(去年から見て)11年前の作品なので、その間長きに渡るアレコレが終わりを迎える、ということでやっぱり映画史的にも大きな出来事だったのではないのかなと。

何度も書いているように僕もMCU作品は好きなんですが、ただ一部MCUガチ勢が過去の名作を「そんなタイトル知らねーしそんなので映画好きとか言ってんじゃねぇよwwww」とか煽ってるところを目撃したりしてですね、映画界でも分断が進んでいるのかなぁと少し悲しい気持ちにもなりました。

今の世の中のテーマはやっぱり「分断」なんでしょうかね。ありとあらゆるところで起こっている出来事だと思います。

そういう意味ではまたも「映画は時代を写す鏡」になっているんだなぁと改めて感心するわけですよ。奥さん。ねぇ?

作品そのものが時代を写す鏡であるのは間違いないところですが、その周辺環境にもそういう要素が垣間見えるものなんだなと思うと、やっぱりそれはそれでいろいろと思うところは出てきます。

融和を訴える映画が評価の部分で分断されていたりとか。

これもまた仕方のないことではあるんですが、しかしもう少し他人の感性に寛容でありたいと改めて思い直す2020年、と。

もう一つの大きな出来事としては、MCU以上に長きに渡って続いてきたスター・ウォーズの完結でしょうか。

ただこれは…あんまりこういう視点で言いたくはないんですが、やっぱり「ルーカスフィルムで完結を迎えた」のであればだいぶ違ったものになっただろうなと言う気持ちが強いです。

ディズニーが買っちゃったばっかりに余計なことをしちゃったんじゃないのかなぁと。

そもそもいわゆる“続三部作”が作られたのもディズニーがルーカスフィルムを買収したが故だと思うので、大げさな言い方をすれば「資本主義によって文化が被害を受けた」一つの事例になるのかもしれませんね。

もっとも「被害を受けた」のかどうかはこれまた人によって見方が変わるだろうと思うので一概には言えないんですが、僕は3作観た結果、場外乱闘の醜さ含めて余計なことをしてくれたなと思ってます。

さて、今回の10本ですが…もしかしたら今までで一番“良くない意味で”迷った10本だったかもしれません。

今現在の自分のメンタルも影響しているんだろうとは思いますが、これほどビシッと「この10本でどうだ!」と言えないなんプロアワードは初めてでした。

上位は大体鑑賞後に「これは入れないとだな!」と思った作品が多いんですが、下位はもしかしたら日によって変わるぐらいあやふやで悩ましいチョイスです。

それもいつもの「これもいいしこれも外したくないし…」みたいな良い迷いではなくて、「10本入れないといけないからなぁ」みたいなやや消極的な選び方になっちゃったような気がするんですよね。

もしかしたら自分の映画に対する姿勢が一歩引いてしまったのかもしれませんが、おそらくは今のメンタル故なんでしょう。

それでも「映画にしか無い喜び」を知っている以上、まだまだ映画は観続けていくと思います。

いつものことですが長くなりました。始めましょう。

なんプロアワードベスト10・2019年版

『ゾディアック』
ゾディアック

アメリカで実際に起き、最も有名な劇場型犯罪の一つ「ゾディアック事件」を元にしたサスペンス。本レビューはこちら

つい最近観たやつですが。

これねー。世の中の評価はいまいちなんですよねー。相変わらず自分のセンスの無さに愕然とするんですが…僕としては観ていて久しぶりにワクワクするサスペンスでした。

本レビューにも書きましたが、僕はここ数年「フィンチャーって言うほどじゃないんじゃね?」とずっと疑念を抱いていたんですよ。

確かに「セブン」とかすごく良かったけど、それ以外はなんとなくエログロの類で「エッジの効いた監督でっせ」感を演出してるだけで実は勢い任せなんじゃ…? って。

ただこれを観たらもうぐうの音も出なかったわけですよ。

2時間半を超える長尺で、観る前は割と「長いなぁ…一応観るけど気が乗らないなぁ…」と尻込みしていた面があるんですが、いざ蓋を開けてみるととにかくテンポが良い。切って切ってサクサク進め、詰めて詰めて次へ進む、その感覚がすごく気持ちよかったんです。

むしろ「フィンチャーだから2時間半程度で収まった」感じがありありと伺えて、もしもっと凡庸な監督が撮っていたらダラダラ1時間以上伸びたか、もしくはそこまで伸ばしたらさすがに興行的にきつい、ってことで端折りすぎて中身が薄くなったんじゃないかなと。かなりの確率で。

このまとめっぷりで人間ドラマを盛り込み、主役3人を手懐けて捌く猛獣使いっぷりはちょっと他の監督にはできない芸当だなと感じました。

んで改めてやっぱりすげー監督なんだな、と。

そのテンポの良さは向き不向きがあると思うので、ついていけない人がいてもおかしくはないと思います。

もしかしたらある程度社会に共通理解があるアメリカ国内向けの作りなのかもしれません。

でも基本的にこの手の「未解決の連続殺人事件」に好奇心をそそられる人であれば付いていくのは難しいことじゃないし、むしろこの詰めっぷりを観て余計に頭が回転していくんじゃないかと思うんですよ。

観客が映画に食らいついていこうとエンジンをかける感じというか。

その感覚がたまらなかったんですよね。「置いて行かれないようにしっかり観てろよ」って集中を強要される感じ。それが好きでした。

テーマの良さももちろん外せません。実話ベースの強さ。

なにせ世間的評価がそこまで高い映画ではないので、期待しすぎると肩透かしを食らうのかもしれませんが…監督のレベルの高さを思い知るにはとてもいい映画ではないかと思います。

『ジョーカー』
ジョーカー

ご存知バットマンの宿敵「ジョーカー」の誕生を描いた物語。本レビューはこちら

好きか嫌いかで言えばあまり好きな映画ではないので迷ったんですが、ただやっぱりこの映画は去年公開の映画の中では図抜けていたと思います。

これはもう僕のクセのようなものなんですが、やっぱり映画に「社会の投影」を見がちなんですよ。結びつけたがるって言ってもいいかもしれないんですが。

そういう視点で考えると、これほどまで現代社会の“写し鏡”になっている映画は他にあまり観た記憶がありません。

それはだいぶ劇的でもあるし、風刺が過ぎる面もあるとは思いますが、ただ「だからダメ」なんて言えないぐらいに今の社会がこの映画に近付いてきている怖さを感じるわけですよ。

そういう意味では「新聞記者」も良かったんですが、ただあそこには嫌でも直接的なイデオロギーの影が見えてしまう分、良し悪しより“色”が付きすぎて見えてしまう欠点があったと思います。

反面この映画は、あくまで創作でかつスーパーヒーロー映画の系列に属することを隠れ蓑にしながら、強烈に現代社会を風刺しているところに逆に背筋が寒くなるような生々しさを感じたんですよね。

見えてるエロより見えないエロ、みたいな。パンモロよりパンチラがいい、みたいな。

ネット上のレビューには、「同情するのが信じられない」と書いている人もいました。

その内容は、それはそれで納得できるものでもありました。確かにそうだよな、って。

ただ一歩俯瞰して見ると、「同情するのがおかしい」のと「自分がこうなるかもと感じるぐらいに怖い」両極端の意見が出てくるのもまた社会の投影のような気がしてならないんですよね。

まあこんなこと言ったらなんでもそうだろ、ではあるんですが。

ただとかく今の世の中は両極に振り分けられた意見が目に触れがちな世の中でもあるので、そういう意味で「どこにリアリティがあるんだよ」と思う人の意見が広まる・可視化されることすらこの映画の“策略”の一つに含まれてるんじゃないか…と思っちゃうような核の強さがあると思うんですよね。この映画には。

それがすごいし、怖いなと。

間違いなく10年前ならここまでの評価を得られなかった映画だと思うし、社会がそれだけ悪い方向に進んでいることを嫌でも認識させられるという意味で傑作だと思います。

だからオチがどうとかは正直言って些末な話でしかありません。っていうか監督が逃げ道を用意しておいただけでしかないと思う。

本当に価値がある部分はやっぱり本編の内容だと思うし、それを世に問うて「今の時代をどう捉えてどう生きていくか考えた方が良いんじゃないか?」と突き付けられた映画だったな、と思いますね。

だからあんまり好きではなくても選ばざるを得ない映画だな、と。

『灼熱の魂』
灼熱の魂

「兄と父を探しなさい」という母の遺言に従って調べ始めた双子の兄弟が、その過程で知る母の壮絶な人生、そして遺言の答え。本レビューはこちら

これねぇ…。

文字で書けば陳腐過ぎる「数奇な人生」という表現ですが、しかし最もその表現が相応しい壮絶な一人の人生を追体験し、真実を知ることの重みで押し潰されそうになる素晴らしい映画でしたね…。

所詮は創作と言ってしまえばそれまでですが、ただ現実にあってもおかしくないリアリティもあるし、それ故に感情移入もできるしで「これぞ映画」と言えるかなりハイレベルの傑作だと思います。

こういう物語を観ると…やっぱりなんだかんだ言っても平和な日本に生きている自分は平和ボケしているんだろうとちょっと我が身を反省してしまうぐらいにとにかく壮絶でですね…。生まれと育ちの環境の違いに愕然としました。ラストシーンのあと、しばらく動けなくなったのが忘れられません。

映画の作り、デキの良さで言えば相当なレベルであることは間違いなく、正直この位置では申し訳ないぐらいの傑作だと思うんですが、ただやっぱりどうにも重いし暗いんですよね。

もう一回観たいかと言われると微妙なところなんですよ。答えも知っている状態でこの重い映画をもう一度観て、同じようにズシーンと響いてくるものがあるのかどうか…。

そういう意味では、これこそネタバレ無しで集中して観る初見が大事なタイプの映画ではないかなと思います。

ただ映画が好きであれば、一度は観て欲しい映画であることは間違いありません。確実に自分の中になんらかの傷を残す映画ではないかと思いますね。

こうして再度思い出す機会を得ることで、果たして「知りたい真実」を知ることが良いことなのかどうか、そのことを改めて考えてしまうぐらいに重い、重い物語でした。

『メトロマニラ 世界で最も危険な街』
メトロマニラ 世界で最も危険な街

農業で食べていけなくなった一家が都会のマニラに移住するも搾取され、「マニラ一危険な仕事」に着いた父親がトラブルに巻き込まれるサスペンス。本レビューはこちら

監督はイギリス人とは言え、フィリピンの映画ですよ。完全に。ロケーションも出てる人たちも。

ただ東南アジアの映画でこれほどまで良質な映画があるのか…! と衝撃を受けるぐらいに傑作でしたね。これは。

約一年前に観たのでだいぶ忘れててもおかしくないんですが、しかしこの映画の衝撃はいまだに鮮明に覚えてます。

久しぶりにラストで「うわー! そういうことかー!」って声出ちゃった系ですよ。

あまり馴染みのない舞台で馴染みのない人たちが出演していることもあってか、どこかドキュメンタリーっぽいリアルな描写に気が滅入るようなつらさもあるんですが、それ故ラストの展開が秀逸で。

ただのビックリエンドじゃない、その裏に込められた想いをしっかり受け止めて感情移入できる作りなのもまたお見事でした。

自分と比べるとね…。自分にこんなことできるかなと思うと、ほぼ間違いなく無理なんですよ。そんな勇気がない。

かと言って物語に嘘くささを感じないすごさ。それはやっぱりマニラという環境の力であり、そこまで丁寧に積み上げた物語故なわけで、構成の巧みさに唸らざるを得ません。

ややマニアックな立ち位置の映画でもあると思うので、映画通ぶって人にオススメするにも良いチョイスだと思います。(言い方)

『手遅れの過去』
手遅れの過去

3年ぶりに連絡をもらった女子を助けに向かうと彼女はすでに死亡、捜査を開始するくたびれ探偵のお話。本レビューはこちら

これは本レビューにも書いた通りかなり特殊な映画で、長回しの数シーンのみで構成された映画です。ハードなボイルド系。

これまた本レビューに書いた通り、話としては特に目立って変わった内容でもなく、なんなら「普通に観たら面白くない」と言っちゃっても良いような内容なんですが、しかしその「長回し数シーン」という作りと、さらに時系列を前後させることで「ただ順番に追っただけ」の物語とは段違いに強烈な印象を残す映画でした。

結局「最終的に何を観客の印象に残したいのか」から逆算して作っていることがよくわかる構成になっていて、それ故にまた(話の上では)どうでもいいラストシーンに大きな価値を持たせる鮮烈さが気持ちのいい映画でしたね。

「うわこれはずるい!」みたいな。ラストにこれはずるい! って言う。その気持ちよさたるや、ね。

そのラストシーンを際立たせるフリもすごくしっかりと、さり気なく上手に散りばめられてるし、序盤こそよくわからないままシャレオツトークで目くらまし感があるものの、最後まで観れば「これは…良い映画だわ」と認めざるを得なくなるでしょう。きっと。

しかしねー。

現状まさかの鑑賞機会ゼロですよ。ネトフリ限定だった上にソフトがないので配信が終わってしまった今はもはや観る手立てがありません。

もったいなさすぎる…。こんな良い映画がDVDにすらなっていないとは…。

ソフトがあったら是が非でもゲットして手元に置いておきたいぐらいには好きな映画でした。

こういう出会いがあるからこそネトフリも映画鑑賞もやめらんねーなと思いますが、しかしそれが世に出回らない切なさたるや…。

なんとかして欲しい。切実に。

だから今さらオススメされてももう“手遅れ”みたいなね!

『日の名残り』
日の名残り

貴族に仕える執事長と、彼の下で働く女中頭の日々。本レビューはこちら

一応レビュー上は「ドラマ」に分類したんですが、これはかなり上質な恋愛映画でもありました。

イケメン vs 美女の安っぽい恋愛ではない、酸いも甘いも噛み分けてきた二人の物語だからこそ、ずっしりと重く、また心に残るものになったのではないかと思います。

やっぱり愛する人・愛せる人との出会いの大切さをしみじみ感じたし、同時にそれがどういう形で帰結するのかを“あとから知らされる”ことで沸き立つ感情の強さも思い出深いです。

あの時、確実に人生の分岐点だったことを観ている人間は知るんですが、当人は当然その意識はなく、後々になって気付くわけです。その描写の素晴らしさ、そして「過ぎたときは戻らない」当たり前の事実を改めて直視させられたとき、自分の過去の経験とリンクするんですよ。

そして自らも後悔に苛まれて涙するわけです。

完璧な人生を歩む人なんてほとんどいないでしょう。だからこそいろんな人に刺さる物語だし、過去を振り返る機会が増えれば増えるほど…つまり歳を取れば取るほど、胸に迫る物語ではないでしょうか。

日の名残り」というタイトルがまた素晴らしいですね。

もう昇ることのない“日”を思い出し、在りし日々の大切さを噛みしめる。

地味ですが、本当に素晴らしい映画でした。

『特捜部Q Pからのメッセージ』
特捜部Q Pからのメッセージ

ある日発見された手紙に記された過去の事件が現在進行中の誘拐事件と結びつき、長年行われてきた犯罪が浮かび上がる。「特捜部Q」シリーズ3作目。本レビューはこちら

一昨年の年末に観始めた「特捜部Q」シリーズですが、去年はこれを皮切りに3本ほど観ました。

「3本ほど観ました」っていうか残り全部さっさと観せろぐらいの勢いでもう我慢できずに観たんですよ。あまりにもよくて。

現状4作目まで作られているシリーズですが、振り返ると1作目の「檻の中の女」だけは少し深みが足りない気がするので除外するとしても、それ以外はもうどれも好みの問題でどれが一番好きでもおかしくないぐらいに素晴らしい、傑作ミステリーシリーズと言っていいでしょう。

正直に言うと、「キジ殺し」は10位に入れてもいいかなぐらい良かったし、「カルテ番号64」はこの「Pからのメッセージ」と甲乙つけがたいレベルで素晴らしかったので同じ位置ぐらいに入れてもいいかなと思うし、となるとなんプロアワード10本中3本が特捜部Qシリーズになっちゃうのでさすがにそれはよろしくない、ということで最も好きだったこれを泣く泣く一本選んだ次第ですよ。それぐらいどれも本当に素晴らしかった。

毎回このシリーズのレビューに書いていることではありますが、本当に普通の刑事がただ捜査するだけのお話ですよ。超人的な能力も驚異的なガジェットもまったく出てきません。誰が言ったか「北欧版相棒」ですからね。

それでこれだけ肌に刺さってくるような重厚さを持った映画ができあがるわけですから、それはもう制作陣の技量たるやって話です。最の高です。マジで。

そんな総じてレベルの高いシリーズの中で、なぜこの「Pからのメッセージ」を選んだのかと言うと、それはひとえに悪役の魅力、存在感です。

カルテ番号64」も「キジ殺し」も悪役は結構な胸糞野郎でしたが、“胸糞だけど魅力的にも見える”という意味で「Pからのメッセージ」が一つ抜けてたかな、と。

結構な優男のイケメンのくせに歪みすぎたクソ野郎なんですが、演者がその役をとても(映画として)魅力的に演じてくれてより完成度が高まった感がありました。

シリーズおなじみとも言える間一髪感もとても良かったし、ロケーションの美しさや列車を舞台にした緊張感も他のシリーズ作品より一歩上だったと僕は思います。

とにかくサスペンス・ミステリー系が好きな人は絶対に観るべきシリーズだと思うし、でもブルーレイ出てないしって言う。海外では出てるのに。

なんか最近日本のソフト事情は大丈夫なのかと心配になりますけども。まあソフト持つ時代でもないんでしょうね。

『エクス・マキナ』
エクス・マキナ

秘密裏に開発している女性型AIの開発支援のため、思考ロジックのテストに参加したプログラマーとAIとの交流を描くSF。本レビューはこちら

舞台はほぼ一つの建物内のみ、出てくる人物もほぼ4人だけ、構造的には明確に低予算映画なんですが、しかしその中身の濃さたるやどんな大作にも負けないレベルの傑作SFですね。

とにかく最近は「AI」という単語を耳にする機会が日に日に増えてきていると思うんですが、その今の時代に相応しい「AIと人間の思考性の違い」をわかりやすく、しかし強烈な結果を持って示唆する現代ならではの名作と言っていいでしょう。

この映画の特徴としては、AIが無機質な存在ではなく、より身近で感情移入できる相手として描かれている点が大きいのかなと思います。

その意味では「her」にも近い、「人間が望む形のAIを身近に置いたときに起こり得る出来事」を描いた映画でもあります。

この映画におけるAIは近い将来似たような形で実現する可能性があるし、なんなら今流行りのAIペットの延長線上にいるようなものなので、かなり観ていて生々しいリアリティがあるんですよね。

ドーナル・グリーソン演じる主人公のケイレブ君は観客の投影と思えるぐらいに心情がひしひしと伝わってくるし、それはつまり「自分とAIの付き合い方」を疑似体験することにつながるわけですが、となるとラストの展開に…まあネタバレになるので書きませんが…これまたいろいろ考えさせられるわけです。

ここまで完璧に「人間っぽい」AIが登場したとき、果たしてAIよりも人の方が優れている点はどこなのか?

それは感情、情緒的な部分なのでは?

とか思ってるとこれまた結末が…ああ…!

いやいや素晴らしい。この映画もまた、「ジョーカー」同様に現代だからこそ作られた、逆に言えば現代でしか身近なリアリティを感じられない傑作なのかもしれないですね。

文字通り「完璧なAI」が作られたらきっとこの話は成り立たないと思うので。

まだ完成形が見えていない技術の曖昧な部分をうまく取り込み、感情に訴える物語に仕立て上げた傑作、それが「エクス・マキナ」…!

すごいぜアレックス・ガーランド…!

『プリデスティネーション』
プリデスティネーション

“時空警察官”と出会った一人の人物が、自らの半生を語ったのち過去の後悔を「取り戻しに行こう」と誘われ過去に行くSF。本レビューはこちら

これまた登場人物も少なく、低予算系SFですね。いや実はものすごいお金かかってるかもしれないけどさ。知らないけどさ。でも多分低予算だと思われます。

「エクス・マキナ」といい「月に囚われた男」といい、僕はどうもデキの良い低予算SFに弱いらしいことが今年判明しました。

正直に言うと、ビジュアルの良さだったり完成度だったりで言えば「エクス・マキナ」の方が上かなぁとも思うんですが、終わったときの衝撃、やられた感はこっちが上だったので「エクス・マキナ」以上に強く印象に残った映画でした。

これは本当に新鮮な気持ちで観てほしいし、ちょっと内容に触れるとその楽しみを奪っちゃいそうでいつも以上に何も語れない映画ではあるんですが…しかしまあ最高でしたよ。

これぞSF、これぞ映画だなと。

リアリティの高さが評価につながった「エクス・マキナ」とは対照的に、この映画はリアリティという意味ではゼロです。なんなら。実際にはあり得ません。

ただそのあり得なさ故に自分の想像の上を行く展開があり、いつもアレコレ読みながら観ちゃう人間としてはすごく気持ちのいい経験ができたわけですよ。

マジか! そんな話なのか!! と。

その答えに気付いた瞬間の“頭を殴られた”感じは久々に味わうもので…ンマーたまりませんでしたね。これだよこれ! って。

中盤ぐらいまでは延々と“ある人物”の自分語りが続くので、「予想してた話と違う…」ってなっちゃってもおかしくないと思うんですが、しかしですよ。

その自分語り自体がとても大切な前フリとなって、最終的には完全にやられますから。頭殴られますから。

あの気持ちよさはぜひ味わって欲しいですね。SF好きであれば「エクス・マキナ」とセットでぜひ観て欲しい。

多分一回観たらこの映画は忘れないと思うし、いろんな人にも勧めたくなる驚きがこもっていると思います。

『スパイナル・タップ』
スパイナル・タップ

伝説のロックバンド「スパイナル・タップ」のツアーに同行し、一部始終を収めたモキュメンタリー。本レビューはこちら

いやもうね、本当に毎回1位は完全に好みですよ。申し訳ないぐらいに。

この映画を1位に選んだら他の作品に土下座しないといけないんじゃないかと思うぐらいにどうしようもないくだらない映画なんですが、ただもう無茶苦茶面白かったんでね…。

去年満点をつけたのはこの映画だけでした。

観終わった直後に興奮状態で速攻ブルーレイを買ったのもこの映画だけでした。

いかに僕がこの映画を一発で愛することになったのか、これだけでもおわかりいただけるんじゃないかと思います。

いわゆる「ロックバンドあるある」的なものをツアー同行ドキュメンタリーというテイで見せてくれる映画で、もうそれ以上でも以下でもないんですが…。ただどのネタもめっちゃ面白いし、バカバカしすぎてただ気楽に観るにはこれ以上無い一本でした。

っていうか本レビューにも書きましたが、むしろこれは映画というよりはコントに近いぐらいに笑いの比重が大きい。

だからこそこの映画を1位に持ってくるのはどうなんだと自分自身思う部分はあるんですが、でもそんなの関係ねぇと思っちゃうぐらいに振り切って好きすぎたのでこれはもう諦めてくださいとしか言えません。

人生への教訓なんてなにもないし、ただ笑って終わりの映画ですよ。

でもそれもまた映画じゃないですか。そういうのばっかりじゃ困るけど、たまにはそういうのを観たくなるじゃないですか。

そのジャンルで言えばもう他の追随を許さないレベルで最高に笑いましたよ。最初っから最後までニヤニヤしっぱなしでしたよ。

落ち込んだときに観ると良いよなんて陳腐なことは申しません。いつでも良いからとりあえず観てみろと。

この映画が好きな人とはすぐ仲良くなっちゃう自信がありますね。

これは「エクス・マキナ」の直後に観たんですが、あんな傑作SFを観た直後にこんなのに出会っちゃってゲラッゲラ笑ってストレス解消できちゃう、それもまた映画鑑賞の良さだなと改めて思いました。

全編台本なしのアドリブ、ってところもまたセンスの塊ですごいと思います。いや本当にこの映画好きだわー。

勝手に選出・AOY(Actor or Actress Of the Year)

さて、最後にAOY。

去年一年で最も(個人的に)活躍が目立った、気に入った俳優さんもしくは女優さんですが、今回はもう絶対この人だなと自分の中で満場一致でしたこちらの方に。

ジョン・ホークス

去年観た中ではこの2本だけ…なんですが、この2本がどっちも最高にかっこいいんですよ。イケオジ感が半端ない。

スモール・タウン・クライム」のときなんてもう60近いのに色気がすごい。

細身でくたびれ感を漂わせる色気たるやもう。自分とはまったく違うタイプなので、めちゃくちゃ羨ましいしダニエル・クレイグ以来の憧れを感じましたね。

一気にお気に入り俳優と化しました。「スモール・タウン・クライム」も小粒ながらかなり好きな映画だったし、また彼主演でこういう映画作って欲しいんですが…どっちも興行的には失敗っぽいし、日本じゃ観たくても観られない悲しさ…。

でもまた作って欲しいなぁ。ジョン・ホークス主演、って時点で劇場に行こうかなと思えるレベルには好きになっちゃいましたね。

ジョン・ホークス
スーツで決めて受賞に応えるジョン・ホークスさん

ということで今年のなんプロアワードはおしまいです。

長々とお付き合いありがとうございました。

生きていればいろいろありますが、その“いろいろ”との付き合い方のヒントにもなるし、もちろん気分転換にも使えるので、今年もまた程々にちょこちょこと映画を観ていこうと思います。

なんプロアワード2019” に対して2件のコメントがあります。

  1. そる より:

    久しぶりに訪問してみました。って10年ぶりぐらい?
    なんプロアワードが続いててうれしくてニヤニヤしながら読みましたよ。
    アワードをパクッていただいた元ネタの映画ブログは出産を挟んでとうの昔に放棄&映画館からも遠ざかっております。
    そんな状態ですが、私の2019年1位は「リザとキツネと恋する死者たち」。
    年末にMXで放送していたんですけども。
    劇中歌にすっかりやられまして、速攻でブルーレイを購入してしまいました。
    機会があればぜひ。

    1. しゅういち より:

      マジですか…!!
      まさかの訪問衝撃ですよ!!
      さすがに10年ともなるといろいろありますね…
      ご無沙汰してますにも程がありますが、お元気そうで何よりです。
      自分の何もなさが悲しすぎてつらい。ただ生きてはいますw

      そうですか、映画館も遠く…まあ子供生まれると難しいですよね。
      ただ僕の記憶では昔からあんまり映画館には行かず
      基本無料で映画観て感想言ってたような…!ww

      「リザとキツネと恋する死者たち」、タイトルも初めて聞きましたよ!
      せっかくのそるさんのオススメ、ネトフリにもなさそうなので
      今度借りて来ます!今年中には(ゆるい納期)

      極稀にこういう奇跡があるから
      長く続ける価値があるなと心底思います。
      また暇なときにでも遊びに来てくださいね。

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