なんプロアワード2024
今年一発目は不本意なお知らせで埋まり、まただいぶ遅れましたが、改めて皆さんあけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
わたくしも世間に違わずこの年末年始は奇跡の9連休だったので、「まあどっかで書けばいいか」とボヤボヤ過ごし、いざ今日辺りやるかな〜と思ったまさにその日に国内最後の雄のラッコ・リロくんの訃報が入ってきまして、おかげでなにもやる気が起きないまま休みを終えてしまい、今年も遅れてのなんプロアワードになりました。
まあでもこんなもんですよ。今後も。きっと。
リロくんはいつか会いに行こうと思っていたんですが…一度でもお目にかかりたかった…。
もう嫌と言うほど耳にすることではありますが、やはり「いつか」は待ってくれないものだなと改めて胸に撃ち込まれた気分です。
今年は多少の無理を押してでも鳥羽水族館に行かなければいけないと思っております。さすがにメイキラちゃんに一度も会わないのはラッコ好きの風上にも置けません。
とラッコの話ばかりしてしまいましたが、一応映画のブログなので映画の話をしましょう。
去年はGW前に突如オススメに現れた鳥羽水族館のラッコライブカメラに出会ったことでラッコにドハマリしてしまい、今や起きてる時間は基本3つのライブカメラ(鳥羽水族館、バンクーバー水族館、シアトル水族館)を眺めつつ、どれかが見られなくなったときの控えのポジションとしてモントレーベイ水族館のライブカメラを見る、というラッコ漬けの日々を送っております。
モントレーベイはね、ちょっと遠いんだよね。カメラが。
シアトルは狭くて見やすいし2頭ともすごいかわいいのに見てる人が自分含めて4人とかなのが人類最大の謎ですよ。
と書いてる間に今度はバンクーバー水族館のカメラが終了してしまい、トラブルっぽいんですが…戻ってきてくれないと困る…。
人類最大の謎と言えば、去年の夏にはバンクーバー水族館(通称バン水)で初めて短期間に2頭の雌の赤ちゃんラッコを保護したおかげで2頭同時にバブってる様を見られるボーナスタイムが発生しまして、おまけに姉妹どころかカップルじゃないかと思うぐらいにずっと一緒にイチャイチャバブバブしていて死ぬほどかわいいだけに世の中その話題一色だろうと自称Xを覗いたら全然話題になっていなくてマジで人間謎だなと思った次第です。トレンド支配してないとおかしいレベルでかわいいんですが。
ちなみに先に保護された姉的存在がトフィーノ、あとから保護された妹的存在がルナなんですが、トフィーちゃんの時点でかわいすぎて思わず寄付、里親証明書をいただいたんですがこれがまたQOL爆上がりで
映画の話なのを忘れてました。
まあいいでしょ。自分のブログなんだし。いつも言ってるけど。
自分を振り返るときの定点観測的にもこのなんプロアワード序文は重宝してるって噂ですからね。
とは言えいい加減始めないと先に進まないので、いつものご説明から始めましょう。
- エントリー基準は「その年初めて観た映画」
- その中から勝手にベスト10を選定
- そのため古い映画も入って来るという深まる謎
- さらに生死関係なく、その年に観た映画に出ていた最も良かったと感じた役者さんに主演俳優賞進呈
去年も例年通り、年初のモチベーションこそ高かったもののそれも続かず、総じて結構義務的に映画を観ているような印象の強い一年でした。よくない。
どうも最近思うんですが、配信で映画が観られる利便性のおかげで鑑賞に至るハードルは下がったものの、同時にどうしても選択肢が配信に限られるので「これ観たわ」か「(新しかったり配信元のオリジナルだったりで)これ知らないわ」の二択が多くなってしまい、結局あんまり「うおおおおおこれ観たかったんだよ!」が無い=モチベーションが下がる、みたいなループにハマっている気がします。
一番は劇場に行くべきなんでしょうが、行くのが面倒になったのもありますがそれ以上に「これはなんとしても劇場で!」と思えるような映画もあまり無く、やっぱり根本的に「これを観たい」と思えるような映画が減ってきているのではないかと思います。
それは自分自身の映画趣味の停滞というのもあるかもしれませんが、それ以上に最近の産業としての映画が「この辺でしょ」と上限が見えている作品が多い気がして、要は“ハリウッドのお決まりのパターン”みたいなものを散々見せられたせいで「どうせこれもあのパターンでしょ」と思って観たら実際そうで余計にモチベーションを削がれる、みたいな流れが本当に多く、それ故にあまり映画を観たいと思えなくなっている状況があるように思います。
この辺語りだすと長くなるので割愛しますが、結局配信で観られる映画は大体マス向けなのでそんな感じに想像できる展開のものが多く、観るたびに(観ている時間はそこそこ楽しめるものの)突出したものがないので心に残らず、「まあ及第点だね」ぐらいの映画ばっかり観ている気がしますね。70〜80点ぐらいの。
それはそれで決して悪くはないんですが、やっぱり震えるぐらい良い映画を観たいし、それらをまとめて残すためのアワードでもあるのでそのチョイスがあまり難しくなくなってきている最近はちょっと寂しいわけですよ。「くぅ〜これ選外か〜!」ってやりたいわけ。やっぱり。
そんなわけで去年も少々小粒だった気はしていて、選出した映画はどれも素晴らしいんですが、総じて昔よりも“濃さ”みたいなものは減ってきてしまったのかなと思います。
そういったこともあり、今年は配信よりももう少し別の、例えば去年「意外と今あえてアリだな」と思ったTSUTAYA DISCASのような摂取先も有効に活用していきたい所存です。配信ばっか観て楽してんじゃねーぞ、っていう。あとは映画の選び方、情報の取り方も考えたほうがいいのかもしれない。
で、そのメインの摂取先である配信についてですが、去年は少々動きがありまして、
- AppleTV+加入→退会→再加入→再退会
- JAIHO休止
- Netflix再加入
といった流れがありました。(アマプラは通年加入)
上記問題を考えればやっぱりJAIHOが一番優秀な選択肢であるのは間違いないんですが、しかしさすがに再配信が多すぎて新たに観たくなる映画が少なすぎるのがネック。一応情報も追ってはいるんですが(一回再開を迷うタイミングはあったものの)いまだに新しい選択肢が少ないので、コンセプトは良いもののサービスとしては依然厳しいように思います。ただ今ちょうど観たいものが来ているので近々少し戻るかもしれません。
AppleTV+についてはかなりレベルの高い映画も多く、映画の質という意味では他サービスの追随を許さないと思いますが、何分映画の本数自体が少なすぎる。舐めてんのか、って言いたくなるぐらい少ない。1か月で観終わっても全然おかしくないレベルです。ドキュメンタリー除けば20本無いんじゃないの、ってぐらい圧倒的に少ない。
ドラマがメインっぽいのでコンセプトの問題なんでしょうが、それにしてもあれだけ良質の映画を作れるんだからもうちょっとリソースを割いてもらいたいところ。
再加入したネトフリは良くも悪くも以前とさして変わらない印象で、数年空いている分オリジナル映画は増えているもののそこまで良い映画も多くなさそうでこれまたあまり惹かれないのがつらい。
っていうかネトフリは「配信は楽だけど良い映画が少ないな」とモチベーションが下がった自分の現状を招いた張本人みたいな存在なので、再加入したは良いもののやっぱり微妙だなと感じています。こっちもドラマは良いんでしょうが、同じぐらいの熱量を映画にも向けてほしい。
まあそんなことを考えるとやっぱり今は「映画よりドラマ」の時代なんでしょうね。制作費もドラマの方にものすごくかけてるみたいだし。
そんな流れを見ていると、もはや「映画鑑賞が趣味」自体時代遅れなんじゃないのか…と不安もよぎります。コスパ(タイパ)はいいと思うんだけどな…。
例によってえらい長くなっておりますが、ここで恒例の前年実績に移りましょう。
去年の鑑賞本数は103本(うち再鑑賞10本)、劇場鑑賞は2本でした。
年々高まる3桁行けばええやろ感。でも行ってるだけ偉い。今年は正直怪しい気がする…。
こちらも恒例となりました、再鑑賞作品もリスト化しておきましょう。
- ブルース・ブラザース
- アタック・オブ・ザ・キラートマト(ウォッチパーティ)
- テトリス
- 十二人の怒れる男
- 愛しい詐欺師
- 誰よりも狙われた男
- ザ・インタープリター
- ディープ・インパクト
- オール・ユー・ニード・イズ・キル
- スパイナル・タップ
ご存じの方も多いと思いますが、去年の3月いっぱいでウォッチパーティはサービスが終了となってしまったため、去年はほぼ1人で映画を観ました。それを考えるとまあ頑張った方なのかもしれない。
また去年「多分観ない」と言っていたブログ引っ越し時に唯一レビュー転載漏れとなった「ザ・インタープリター」をまさかの再鑑賞、再レビューしたのが我ながら偉い。抜けてる気持ち悪さが許せないタイプです。
そして「スパイナル・タップ」は今年なんと41年ぶりの続編が公開される予定だそうで、去年の最後にもう一度観ました。さすがに2は劇場で観たいですね。
心残りだったのはクリスマス映画を観なかったこと。何気に毎年「今年はどの映画でクリスマスの己を慰めようかな〜」と楽しみにしていたんですが、去年は(慰める必要性は変わらないのに)すっかり忘れていて普通の映画を観てました。良くない。
今年は忘れずに観たいと思います。
ということでこちらも恒例、実績に去年分を追加しましょう。
- 2009年 21本(途中から開始)
- 2010年 66本
- 2011年 111本
- 2012年 141本
- 2013年 72本
- 2014年 79本
- 2015年 56本
- 2016年 81本
- 2017年 107本
- 2018年 128本
- 2019年 107本
- 2020年 102本
- 2021年 151本
- 2022年 109本
- 2023年 103本
- 2024年 103本
一昨年と一緒でしたね。「3桁行くようにムーブ」が如実に現れています。
もはや2009年となると一昔前と言っても過言ではないぐらいですが、いまだに個人ブログを続けている自分に恐ろしさすら感じます。トータルの来場者数なんて4桁行ってればいいぐらいなのに。下手の横好きもここまで来ると迷惑な可能性があります。ゴミをアップしてんじゃねえ、みたいな。サーバーさんごめんなさい。
はっきり言ってこのブログはイラストはもちろん最近は文章も書くのがめんどくさくてしょうがないんですが、それでもここまで続けてきてるしサーバーも永久契約しちゃったしで意地でも続けていかなければと思っております。
まあなんだかんだやっぱり振り返るときに便利ですからね。残すものがないと自分がどれだけ映画を観てきたのかも把握できないし。多分もう記憶も新しく追加されるものより消えていくもののほうが多い歳だろうし。フィルマとかで点数だけつけておしまい、も寂しいので。
以前も書きましたが、観た当時に思ったこと、書いたことは(映画についても社会についても)今も同じように思っているものばかりではなく、今読み直すと「こいつ全然ダメだな」とか「わかってねーな」とか思う部分も相当にあるんですが、逆にそれを残しておくことで自らの成長…というほど大層なものではないですが、考え方の変遷もわかるし自分の変わった部分と変わっていない部分とがわかるのも結構面白いことだと思うので、やっぱりなんだかんだ続けていくんだろうと思います。
こればっかりは長年(と言えるかはわかりませんが)コツコツと私的なブログを続けてきているからこそ他人にはまったく価値がなくても自分にとっては価値のある財産として積み上げることができたと言ってもいいと思うので、やっぱり継続は力なりなんだな、と今年も改めて思った次第です。
イラストも文章もまったく成長してないのも笑っちゃうけど。もっと違う方面に時間を使ったほうが良かったような気もしますが、時すでに遅し。
去年の年末、毎年恒例で地元の友達と集まったんですが、なんならもう終活の話とか出てきましたからね。早すぎるとは思うけど気持ちもわかる、そのわかるところがしんどい。
やっとここまで来ました。公開が遅いのも納得ですね。ちなみにこのコーナーは「映画の総評」なのでようやく本題です。
去年は先に書いた通りJAIHOを休止した影響が大きく、如実にアメリカ映画へ回帰した印象です。ほとんどアメリカの映画ばっかり観てた気がする。
それは望んでそうしたわけではなく、これもまた先に書いたことと被るんですが結局「配信で観られるのは圧倒的にアメリカ映画が多い」せいです。配信で、っていうかもう「日本に入ってくるのが」かもしれませんが。
もちろん配信でも韓国映画とかそれなりに多いんですが、大体そこら辺に並べられるやつは観ているものも多いので、結局どうしてもアメリカ映画ばっかりになってしまうという。本当に改善したいこの状況。同じ西欧文化系でもイギリス映画になるとまただいぶ違うし、ヨーロッパ映画でも全然毛色が違うのでもっとそっちを観るようにしたいんですけどね…。
あとは「復讐は私にまかせて」みたいな東南アジアの映画とか。あれはいろんな意味ですごかったですね…。ランクインはしてないんだけど。いまだに忘れられません。謎の女。
ということでこちらも恒例になりました、国別のグラフを今回も作成しました。
去年のアワードを確認したところクリックしても小さいじゃん問題が発生していたため、今回は(スーパーめんどくせえなと思いつつ)本職を活かしてイラレで作りましたよ。デザインはサボったけど。
※でも結局小さいので設定の問題っぽいんですが面倒なのでそのまま

やっぱりアメリカ映画が多いですね。でも思ったほどでもないかも。
こちらはエリア別です。

国別とあんまり変わらない感じがするのはやっぱりそれだけアメリカ映画が多いということなんでしょう。
一昨年はアメリカ映画が1/3程度だったので、やっぱり割合的にはだいぶ変わってしまいました。アメリカ映画が1/3増えて他がその分減った感じです。
去年と一昨年で鑑賞本数がまるっきり一緒だっただけに、どれだけ摂取の仕方が変わったのかがよくわかります。これだからデータを付けておくのは面白いんですよね。
今年は多くてもアメリカ映画はせめて半分ぐらいにしたいところですが、どうなることやら…。
今の環境が劇的に変えられないとすれば、あとに残る選択肢は邦画ぐらいなんですが…今年は邦画強化やるか!?
最後に選出について。
上にも書いた通り、今回は例年にも増してあまり迷わなかった気がします。
「面白かった」のは当然ですが、やっぱりなんプロアワードに選ぶ映画は「ちょっと語りたいから聞いたってや」的な側面が強いので、「この映画はもう一度取り上げてオススメしたい!」意欲が強いものが選ばれる傾向にあります。
そう思える映画が去年は少なく、寂しかったかなと。
これもアメリカ映画の多さ故、なのかもしれません。もちろんアメリカの映画にも良い映画がたくさんあるのは言うまでもないことですが、やっぱり総数が多い分ハズレも多いのは自明の理です。逆に言えば入ってくる数が少ない国の映画はそれだけ“選ばれて”日本に来る分良い映画が多いとも言えます。この辺も毎年書いてる気がするけど。
とは言えなんだかんだと良い10本になったとは思います。
毎年恒例の長い前フリを終え、なんプロアワード開始だよ…!
なんプロアワードベスト10・2024年版

『アタック・オブ・ザ・キラートマト』

なぜかトマトが人間を襲い始めた…! 国の危機を救うべく、精鋭たちが集められる…!
本レビューはこちら。
マジでスミマセンと最初に謝っておきますが、まあ毎年10位は面白枠ということで…と思って去年の確認したら「最善の選択」でしたね。全然面白枠じゃない…!
謝っておいてなんですが、でもこの映画は本当によく出来てると思うんですよ。やっぱり。
あまりにもくだらなく、あまりにもZ級なので軽く見られがちですが、でもここまで「ふざけられる」映画ってそうそうないでしょう。少なくとも他ではあまり観た記憶はありません。
今ならまだわかるんですよ。バズ狙いでふざけた映画作っちゃおうぜ、みたいなノリ。それこそ「恐竜神父」とか「ゾンビーバー」とかさ。
でもこれ1978年の映画ですからね。時代を考えると相当進んだ映画ではないでしょうか。
もう最初から最後までふざけてるし、本当にツッコミが追いつかないぐらいにいろんな方向からボケてくるサービス精神が素晴らしい。マジで事故ったヘリの映像まで使ってるし。面白すぎますよ。
苦労して(?)観た続編のデキの悪さを見て、なおさらこの映画がいかによく出来ていたのかがわかりました。
とかく軽く見られがちなZ級映画ですが、やっぱりこれだけ面白いんだからこっち方面の天才もちゃんと評価してあげないとダメですよ。
余談ですがとあるゲーム配信を観ていたとき、会話の流れで「アタック・オブ・ザ・キラートマト観て」とコメントしたら別の視聴者に「クソ映画すすめんな」と言われ激怒して観に行かなくなりました。
「クソ映画すすめんなww」と草でも生えてれば全然良いんですが、マジトーンで言われると「てめえキラートマトの何わかってんだよゴミクズが観たこともねえだろ童貞野郎」と言いたくなりますよね。もちろん大人なので言いませんでしたが。そっ閉じです。
配信している人に責任はないんですが、ついてる客で他の客を逃がしてしまうこともあるんだなと自分のおかげで学習できた一幕でした。
とりあえずこの映画を「クソ映画」とけなして終わる人間には映画を語ってほしくない、それぐらいよくできていると声を大にして言いたい映画。それがキラートマト。

『ウルフズ』

大物検事の醜聞もみ消しのために呼ばれた掃除屋がバッティング、2人で処理に当たるが…。
本レビューはこちら。
これは世間的にも相当に微妙な評価の映画なので、はっきり言ってアワード選出はやり過ぎと言われても納得なんですが…でもやっぱり好きなんですよね。ブラピとジョージ・クルーニーのやり取りが。
話は二の次で、もう本当に2人の応酬を見てるだけで楽しくて仕方ありませんでした。コレコレこれが観たかったんだよ、っていう。ここまでキャストに依存して評価する映画は自分でも珍しいと思います。
好きだからこっちが勝手に判断している可能性も十分ありますが、やっぱりどこか(役のみならず)演技においてもツーカー感というか、底の方で通じ合っているために間やテンポがより自然かつ効果的に演じられている気がして、それ故にセリフの応酬だけで満足できてしまう感覚があるのかな、とか。ベテランコンビ芸人が急に振られたフリーのお題で漫才やれとかコントやれ、って言われて披露したときのいかにもプロだな、みたいな味というか。
まあでも結局オーシャンズから引っ張ってきたファン心理でしかないのも事実で、過剰評価も禁物だとは思います。個人的には超好きだけどね。
ちなみに本レビューに「続編が決定した」と書きましたが、相談もせず強引に劇場公開をやめたAppleに対する不信感から監督が制作費も返上してキャンセルしてしまったようで、残念なことに続編の話は立ち消えになってしまいました。
ただ監督はまた2人とやりたいとも言っているので、Appleとの契約にもよりますが別の資金源が現れたらやってくれる可能性もありそう。っていうか作りかけてたならなんとしても続編作って今度こそ劇場公開しておくれ…。

『アンダーグラウンド』

常に戦争がそばにある人生を歩む、3人の男女を中心に描く激動のユーゴスラビア。
本レビューはこちら。
去年最後にレビューした映画なので記憶的にもホットですが、この映画で一番印象的だったのは「物語の面白さとは関係のないエネルギー」を大量に浴びた感覚が強烈だったことですね。
事前の好評っぷりからかなりハードルが上がった状態で観たせいか、物語そのものにはそれほど惹かれなかったんですよね。めちゃくちゃ面白いな、すごいなって感じでもなくて。
ただ…僕の力量では言語化が非常に難しいんですが、その「面白さ」というベクトルとは関係なく「すごいなこの映画」とショックを受けたような。
それが何だったのかもよくわからないんですが、画面から受け取る表面上の情報からは見えてこないエネルギーを感じたような気がして、それに圧倒されました。なんかスピリチュアルな表現でどうなの、って感じですが。
中心となる3人にしてもその周りの人々にしてもそうですが、みんな別に特段いい人でも無ければ一つの方向を向いているわけでもない、その意味では至って普通の人々が登場人物のお話なので教訓めいたものがあるわけでもないんですが、その綺麗事ではない生き様に強烈な“生”を感じたのかもしれません。“人間”と言ってもいいかも。
この映画における戦争は、それが大義や制すべき事象ではなく、単なる…というと語弊がありますがある意味一つの“環境”でしかないんですよね。冬だから寒い、夏だから暑い、ぐらいの感じで「いつも戦時下だしその中で生きていくしかない」と、声高に覚悟を決めるでもなく順応してそこで自分の生き方を定めていく姿勢というか。
その描き方に、最も対照的と言える平和な日本で生きている人間としてある種のカルチャーショックを受けたわけですよ。こういう世界があるのか、と。
もちろんそれがすべてではないし、話からすればそこが中心ではないと思います。ただ中心ではないからこそ逆に感銘を受けた部分も間違いなくあったと思います。日本人からは想像もつかない「当たり前」の中で生活する人たちがどういう行動を取ってどういう人生を歩むのか、そしてそれを国の歴史の描写につなげるというのは平和に暮らしている人間からはひっくり返っても出てこないものだと思うので、ある意味「またこのパターンか」の対極に位置する映画だなと。
これはまたしばらく時間が経ってからもう一度観て、何を感じるか確かめたい映画ですね。

『侍タイムスリッパー』

突如現代に飛ばされた侍が時代劇の切られ役として生活していくうち、とある大きな仕事の話が…。
本レビューはこちら。
昨年最も話題になった邦画の一つではないでしょうか。っていうか他の話題になった邦画を知らないだけという噂もあります。
「カメ止めの再来」と言われているだけあり、超低予算のインディーズ映画が全国的に話題となってヒットするシンデレラストーリーはまさに「カメ止め」のあの頃の“熱”を彷彿とさせるものでした。
両方の映画に共通するように、口コミでジワジワ人気が広がって全国区になっていく映画の成長を見るのはなんとも言えない高揚感があり、言ってみれば(ちょっと先に観ただけで)「育ての親」的なドヤ顔とともに劇外で楽しめるのも美味しくてそれだけでも嬉しくなったんですが、それを置いといてもまず映画としてよく出来ているのが当然ですが素晴らしい。
「本物の侍が現代にやってきて切られ役になる」という説明文だけだと結構想像しやすい、わかりやすいコメディなのかなと思わされるんですが、その印象を逆手に取って終盤に向けて緊張感を高めていく作りは本当に見事。掛け値なしにいい映画だと思います。
どちらが優れているとかではないですが、コメディとしては「カメ止め」、感情を揺さぶる度合いで言えば「侍タイ」かなと。なんなら最後の方はちょっと涙ぐむぐらいじんわり来ましたからね。いい映画だな、って。
正直この手の「応援したくなる系インディーズ映画」は内容のレベル以上に優しい眼差しが勝ってしまって実際の評価としてはちょっと怪しい…みたいなケースも結構あると思うんですが、この映画は本当に物語そのものが良く出来ていて感服しました。
作り物なのに作り物として観られない緊張感を持たせる巧みさ。そう感じさせてくれた終盤のシーンは本当に名シーンだと思います。
去年末の段階で興収8億円超えとのことで、制作費2600万円からすればとんでもない大ヒットだと思いますが、カメ止めの31億円超と比べればまだまだ。
これからまだ伸びるかはわかりませんが、いずれにしても監督の次回作には期待したいところです。

『ドント・ルック・アップ』

地球に彗星が衝突するぞ! と訴えても取り合ってくれない大統領。
本レビューはこちら。
現代版「ディープ・インパクト」及び「アルマゲドン」。昔はいかに“タテマエ”が共通認識として機能していたのかを意識せずにはいられないブラックコメディ。
この映画で描かれる意思決定層のような、自己中心的で経済合理性に引っ張られる人は昔ももちろんいたと思うんですよ。ただそういう人が“決定”する立場にいなかったり、また社会がその利己的な考え方を許容しなかったりしていたんだと思うんです。嘘でも建前を言えよ、建前の前提で行動しろよと。
ですが今はご覧の通り、どんなに下品な“本音”でも「そうだ! よく言ってくれた!」と称賛する人たちが増えてしまい、結果「今地球滅亡の危機が訪れたとしたら」という仮説に対して露悪的な表現こそがリアルになってしまったというなんとも皮肉な現代風刺の映画です。
まさに今週例の大統領が二期目の就任を迎えましたが、露悪的だと思っていたこの映画も彼を引くまでもなく実は現実に最も近いのでは…と思わせる徹底的なブラックコメディっぷりが最高です。
ただ問題はアメリカに限らないんですよね。もう世界的にこの手の“本音”が横行しているので、「実際はもっと頑張るでしょ」と思いたいところですがどの国でも同じように自己中心的なプランによって身動きが取れなくなる可能性も決して低くない…のかもしれません。
監督の作風でもありますがある意味ではかなり趣味の悪い映画でありつつ、でも「本当にそうかも」と思えるぐらい、つまり趣味の悪さを現実の政治が超えてくる可能性を感じてしまうぐらいに社会の劣化が進んでいることを象徴的に感じさせる作品なので、その事実に暗い気持ちになりつつ乾いた笑いで一時の娯楽を楽しむ…みたいなすごく複雑な楽しみを味わった映画でした。

『マッシブ・タレント』

今や落ち目の大スター、ニック・ケイジを呼んでパーティーを開いた大ファンはカルテルのボスだった…?
本レビューはこちら。
ご承知の通り僕はこの手のふざけた映画に弱いことを自覚していますが、その自覚を踏まえても「ただ笑えるだけじゃない」一歩上の完成度を見せてくれた映画だと思います。よってまさかのランクイン。
もうね、本当に観る前はただのネタ映画だと思ってたんですよ。ニコラス・ケイジがネタ的に消費されてゲラゲラ笑っておしまい、みたいな。言わばネットミームの延長線上にある映画みたいなイメージで気楽に観たんですが、これが思いの外よく出来ていて逆の意味で裏切られました。
果たしてご本人がどういう意識で、どういう気持ちでこの仕事を受けてこなしたのかは知る由もありませんが、彼ご本人が知ってか知らずか、この作品には相当なニコラス・ケイジ愛があり、同時に映画愛もあるというある意味で非常に愛に溢れた映画ですよ。その辺の恋愛映画なんて目じゃないレベルでトゥルーラブ。
序盤のどうでもいいニコラス・ケイジ&ファン(ペドロ・パスカル)のバカっぷりと、そこで育まれた友情が花開く(?)後半の展開、中だるみ無くしっかり見せてくれて大満足でした。
後半の展開はどこかで観たような話でもあるし、そこだけ切り取れば「普通だね」かもしれませんが、その「どこかで観たような話をニコラス・ケイジがやる」時点でちょっと皮肉っぽさも加わって、まさに「かつて大スターだったニコラス・ケイジがあの頃にやってそうな物語を架空の本人として演じる」という二重構造にも見えてくるがなんともニクい。
そしてそれが愛に溢れているという。
これ、本当に大事なんですよ。
ネットミーム的にバカにしてないんです。ネタとして消費されている今のニコラス・ケイジを美味しく利用しつつ、でも全体にはニコラス・ケイジに対する尊敬の念が込められていて、「まだまだやれるだろ? ニック!」みたいな。
この愛ある眼差しを感じる作りが映画の面白さに最高のスパイスとなって昇華されたように思います。うるさい言い回しですね。
でも本当にそうなんですよ。ただ笑える、面白いだけだったらここには入って来ません。そこに愛情と尊敬があるからこそ「面白い」以上の「良い映画」になったんじゃないかなと思います。
意外と深いですよ。この映画は。多分だけど。

『切り裂き魔ゴーレム』

夫殺害容疑で女優が逮捕、その殺された夫は連続殺人事件の容疑者で…。
本レビューはこちら。
これねー。
本当にめちゃくちゃ好きでした。もう画作りだけで相当にレベルが高い上に主演はビル・ナイ。おまけにマリア・バルベルデ様まで拝める、と。
基本は連続殺人犯の捜査がメインであり、その事件を追うために夫殺害容疑で逮捕された女優の妻に情報提供を求める老刑事ビル・ナイ、という構図なんですが、その交錯する物語で観客の興味関心を引きつつ、全体的にゴシックホラーみの強い湿度の高い映像で只者ではない雰囲気も醸し出しているという、映像作品としての良さを存分に味わえる名作だと思います。
が、しかしネット上の評価は今ひとつ。
まあサンプル数1と数万では後者の方が信頼性が高いのは間違いないので、たまたま僕はズッポリハマったということなんでしょう。その意味ではあまり万人にオススメできる映画ではないかもしれません。
細かくどこがいいとかどうとかあんまり書けないんですが、レビューにも書いた通りやっぱり物語そのもの以上に見せ方の上手さ、雰囲気の良さがこの映画をワンランク押し上げたように思います。要は手を抜いてない。きっちり出来る限りの作品を作ろうと努力をしているように見える。そう思えるのがすごく大事なんですよね。特に僕の指標として。
最近のハリウッド映画の“そこそこ”を例えに出すまでもなく、手抜きの映画なんて山ほどありますよ。この映画はそうじゃない、真面目に作っている感じがよく伝わってきて、そこが好きだなと。イギリス映画だから、っていうのもあるんでしょうね。
特にゴシックホラーなんて半分ファンタジーにも近いし、手を抜いたらすぐわかってしまうぐらい難しいものだと思います。
それをきっちりと映像化して、画面の外にまでジメジメしたイギリスの夜の雰囲気を伝えてくれる映像は本当に見事でした。
おそらくそんなに制作費も高くないだろうと思うんですよね。でもそこに言い訳を置かない本気の作りはやっぱり好きになっちゃいますよ。
それにしてもネット上ではマリア様の美貌についてあまり言及されていないのも不思議。めっちゃ綺麗だしもっと活躍してもおかしくないと思うんだけどなぁ。

『工作 黒金星と呼ばれた男』

核開発の実態を探るべく、実業家に扮して北朝鮮に潜入する韓国スパイとそのカウンターパート。
本レビューはこちら。
実在したスパイとその作戦を基にした韓国映画。
まー本当に韓国のこの手の「実話を基にいい感じに娯楽化した」映画はめちゃくちゃ面白いですね。もう。めちゃくちゃ面白い。まず外さない気がします。(ユゴはイマイチだったけど)
「韓国から北朝鮮に潜入するスパイ」の時点でやっぱりご近所さん的に気になるのはもちろん、緊張感だってほっといても高まるわけですが、そこだけに留まらないのがさすがの一言。最後は意外な不意打ちを食らいました。
おまけに主演はファン・ジョンミン、これまた出ている映画は大抵面白いという化け物ですよ。マジで。アメリカ俳優で言うとディカプリオぐらいの外さなさ。
そのカウンターパートがイ・ソンミン。これまた名優です。この2人が対峙しているだけでも見応えがあります。
一応「実話を基にしたフィクション」なのでどこまで本当なのかは怪しいところですが、ただこの映画の基となった作戦「北風工作」の実際のところはそれなりにこの映画で描かれた要素があったはずで、となると日本もそれなりに同じような動きがあったのでは…と勘繰りたくなるような際どいラインの話も非常に興味深く、現実の政治とリンクする面白さも韓国映画らしい楽しみでした。
舞台は今から30年以上前の話ではありますが、日本で同じくその頃の話を映画化するにしてもここまで赤裸々で興味を惹けるものが作れるのかは正直あんまり期待できない気がして、韓国と日本の文化的力量の差を感じずにはいられません。
力量って言うとちょっと違うかもしれないですね。おそらく日本でも本気で作ろうとすれば作れるはずです。
ただ、上(権力)に対する反骨心が圧倒的に足りていないので、どうしても上の方の顔を見ては遠慮(忖度)してしまう国民性を考えると、こういった政治の内実を描きつつ娯楽としてしっかり楽しめる作りの映画を作るのは難しいように思います。
それができればまただいぶ国の雰囲気も変わるような気がするんですが…。
ただ今の韓国の政情を見るに、それはそれで一概にあちらが良いとも言えないのがまた難しいところですが。
とは言え日本でもこの手の映画を作るぞ、という気概とそれを“ちゃんと面白く”するセンスの両方が出てきてほしいと思います。
この「ちゃんと面白くする、できる」のがね。本当にすごいと思いますね。韓国映画は。

『トップガン マーヴェリック』

不可能ミッション訓練のため、かつて所属したトップガンに教官として舞い戻ったマーヴェリック。
本レビューはこちら。
散々ハリウッド映画を腐しておいてまさかの2位にドハリウッド映画ですよ。ド。これ以上ないハリウッド映画でクソダセェと思われそうですが面白かったんだから仕方がない。僕が文句を言っているのは「こんなもんでええやろ」的な“そこそこ”の濫造ハリウッド映画ですからね。そこんところよろしくですよ。
おそらくこの映画は今回のなんプロアワードにおいても一番観ている人が多い映画だと思うので、もう今さら僕のような雑魚があーだこーだ言うようなこともないんですが、まあとにかく本当にとんでもなく面白かったですよ。単純に。
この映画は言ってみれば今までの文脈の逆で、ハリウッドにしか作れない面白さの領域に達した映画だと思います。おそらく他の国にこの映画は作れないでしょう。
当然金もかかってれば、お決まりのパターンもしっかり盛り込んでいて、リアルさからはかけ離れた“英雄譚”のような映画。それを真正面から力技で作り切るパワーはやっぱりハリウッドにしかありません。
これを中途半端にやれば「またかよ」でイマイチになるのは間違いないんですが、ここまでやり切られるともう笑っちゃうしかない、みたいな。まさに横綱相撲。アメリカだけど。YOKOZUNA。
で、その上でやっぱり外せないのはトム・クルーズの存在。というかトム・クルーズがトム・クルーズでなかったら多分作れないし作られていないのは衆目の一致するところ、ってやつです。
レビューに散々書いたので繰り返しになってしまいますが、やっぱり前作「トップガン」で主役を演じ、スターとして羽ばたいたトム・クルーズが36年の時を経てもいまだに(なんなら当時以上の)大スターとして存在し、その上いまだにバリバリのアクションをこなしているからこそ“現役”としての説得力を演じる人間そのものが持っている、という相当稀有なケースを美味しく頂きました、みたいな映画ですからね。
同じぐらい時間が経ってもスターでいるケースはそれなりにあるとは思います。でもそこに同時に“現役感”を持っている人はもしかしたらトム・クルーズが史上初のケースじゃないかなと思うんですよ。
マーロン・ブランドだってスターだったけど太っちゃったから牛殺す教祖じみたおっさんが関の山じゃないですか。(言い方)
今調べたら「地獄の黙示録」の頃のマーロン・ブランドは55ですからね。一方トム・クルーズはこのとき60ですよ。還暦。赤いちゃんちゃんこ着ながら戦闘機乗ってかっこいいの、トム・クルーズだけでしょ。着てはいないけども。
これリアルタイムだから「そうだよね」ぐらいで済ませられますが、実際事細かに条件を見ていくと相当レアなケースで、こんなものをリアルタイムに観られるのはかなりラッキーなんじゃないでしょうか。大谷翔平みたいなもんです。
映画そのものも言うまでもなくもちろん面白いんですが、その物語外の…トム・クルーズというスターの持つ特異性が作品に大きな影響を与えているというのもなかなか他にないパターンで、その意味でも非常に興味深い映画だと思います。
よく「キムタクが演じるキャラ、みんなキムタク」と言いますが、それのより強烈なバージョンがトム・クルーズみたいな気がするんですよね。
トム・クルーズも(トロピック・サンダーみたいな特殊なものは除いて)主役だと大概「ああトム・クルーズだね」って感じの役が多いじゃないですか。トム・クルーズというかイーサン・ハントというか。あんな感じの。
でもそれが高次元で納得させられてるというか。「イーサン・ハントはトップガンの教官やってそう」みたいな。ハイレベルで全部同じ人間じゃね? みたいな良い意味での誤解を生じさせるキャラだと思うんですよね。
だからこそ還暦なのに恋愛もするし若手パイロット以上の腕前も披露しちゃう、こんな嘘くさいかっこいい人間を“説得力を持って”演じられるしその人物を物語に組み込めてしまうというのがものすごいことだなと。
ある意味でマンガのようなキャラクターを実写として違和感なく演じられるところにトム・クルーズの凄さがある、と思うわけです。
そして今年は「イーサン・ハント」として最後の一本ですからね。これもまためちゃくちゃ楽しみです。

『スワン・ソング』

余命幾ばくもない男、自分そっくりのクローンと入れ替わって家族を守ろうとするが…。
本レビューはこちら。
もう昨年はダントツでこの映画でした。観終わった瞬間に「ああもう今年はこれで決まりだな…」と思いましたからね。それぐらいに無茶苦茶良かったし無茶苦茶刺さりました。
究極の死生観を問う話ですが、おそらく感じ方は人それぞれなのでまったく共感できない人もいるだろうし、僕のようにグサグサ刺さっちゃう人もいるでしょう。
この映画は割と本レビューの方でダラダラと言いたいことを書いたので、改めてここで言うようなこともあんまりないんですが…思い返すと、やっぱりこの映画は「いかに主人公に感情移入できるか」が評価の鍵になるのかなと思います。
主人公がどう考えてどう決断して、その上でどう感じているのかを考えていくと、もう身動きが取れなくなるぐらいに感情が押し寄せてくる感覚がありました。
現状では起こり得ない究極の選択故、主人公がどのような決断をすれば正解なのか誰も判断できないぐらい難しい問題を描いたある意味で突拍子もない話なんですが、一方で近未来においてはもしかしたらあり得るかもしれない話でもあるし、「突拍子もない話でありつつリアリティもある」というSFの美味しいところをしっかり抑えつつ、誰もが直面せざるを得ない“死”に対する考えを露出させていくような生々しさもあり、これは本当に考えれば考えるほど深い映画だと思います。
「自分が主人公だったらどうする」と考えるのはもちろんですが、同時に「自分の大切な人が同じように決断したらどう思うのか」、つまり家族側の視点でもまた同じぐらい考えさせられるし、それぞれで決断が変わったり印象が変わったりもする非常に繊細で微妙な物語なのもすごい。だからこそ正解がわからない話なんですけどね。
究極のエゴとも言えるし、究極の他者愛とも言える…なかなかこのテーマは他にないですよ。本当に深いし、もう考え始めたらずっとその思考にハマるぐらい答えが出ない。
もうこれぐらい自分の思考に影響を与える映画って10年とまでは言いませんが5年に1本出るか出ないかぐらいだと思うので、自ずと1位だよねというお話です。
加えて、他のAppleTV+の映画同様に映像がとんでもなく素晴らしい。本当に質が高い。
特にこの映画はSFでもある分、近未来を感じさせるガジェット描写も素晴らしくて、そのおかげで余計に物語に入り込めた側面は間違いなくあったと思います。特に序盤において興味を惹かれる仕掛けの一つになっていたというか。
昨年はAppleTV+の映画を数本観ましたが、9位の「ウルフズ」にしてもその他の「オン・ザ・ロック」にしても、もう一見して映像の質が全然違うんですよ。機材の違いなのか編集の違いなのか詳しいところはわからないんですが、おそらく大抵の人は(それなりに大きいデバイスで観れば)いかに他の映画と違うかは一目で理解できると思います。
特にこの映画は近未来描写に加えて人里離れたロケーションの映像もあるので、映像の質の高さがより際立つ映画だったように感じるし、その上物語が深いのでそりゃあ良いに決まってるよねと。
それと最後にもう一つ、タイトル自体(スワン・ソング)が良すぎる。天才的なタイトル。
あえて意味は書きません。もし今後この作品を観る機会があれば、同時に調べてもらって唸ってほしいですね。
勝手に選出・AOY(Actor Of the Year)
最後になりましたが恒例のAOY選出です。
ということで長い長い本編が終わり、最後にもう一つ、恒例のAOY選出です。
毎年AOYは結構悩むんですが、去年はもう途中から「この人しかいなくね?」と決めていました。逆に今まで選ばなかったのが不思議なぐらいです。
サム・ロックウェル
去年観た映画で彼が出演していたのはこの4本ですが、まあもう説明不要の名優と言っていいでしょう。
単純に彼が出ている作品は面白いものが多い(カウボーイ & エイリアンのことはもう忘れた)こともありますが、どの映画でも印象的な役が多く、主演だろうが脇役だろうが「さすがだな」と感じさせる印象的な演技をしてくれるところが素晴らしいですね。
去年観たものはどれも割と似た役柄だったような気もしますが、どの映画を観ても「マジでこういう人なんじゃね?」感がすごいんですよね。サム・ロックウェルって。
去年観た作品の影響でマジで人殺しの腕すごいんじゃね? と思うし、「スリー・ビルボード」観たあとはマジで愚鈍なんじゃね? って思うし。そのカメレオンっぷりは超低人気ブログの誉れ低いAOYに相応しいと言えるでしょう。

以上、今年のなんプロアワードでした。
長いだけあって書くのも時間がかかるので、正月休み中に片付けないとこれだけ遅れちゃうのねと今更ながら学んだ17年目、今年もよろしくお願いします。